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第178話 目指せ!優勝メダルはミスリルの色

前回のお話

 クレア提案の(いとま)対策として、名声を高めるために南大陸を回るユキト達。運の悪い盗賊団の生き残りが狙ったのは、よりによって世界の創造神であった。

 

 ユキトは戦っていた。


 ユキトが大きく真横に剣を薙ぐ。対する男はその身を屈め、文字通りに紙一重の距離でユキトの攻撃を回避すると、その低くした姿勢からすくい上げるような剣撃を放つ。


 空を裂く音が遅れて聞こえるほどの剣閃。


 通常であれば、相手に攻撃を避けられ、いまだ体勢が不十分であるユキトがその一撃を回避するのは難しい。だが、男の剣がユキトを捉える寸前に、その姿がサッと掻き消える。


「!!」


 次の瞬間、短距離瞬間移動(ショートワープ)によって男の背後に出現したユキトが、男のさほど広くない背中に向かって斬りつける。


 だが、男はまるで背後に目があるかのように、ユキトの剣が己に届く直前、大きく跳躍した。そのままユキトの頭上で一回転し、重力を感じさせない流麗な動作でユキトの後方へと着地する。


 ユキトも男を追って振り返りつつ、着地する男への追撃を仕掛けた。


 キィィィン!!!


 両者の剣がぶつかり、甲高い音が響く。


 *************************


 なぜ、ユキトが戦っているのか。時は少しばかり遡る。


 ユキト達の南大陸での活動は問題なく進んでいた。


 ユキトとその仲間達の名声を広めるという目的のため、東に強大な魔物がいると知れば駆けつけて退治し、西に前人未到のダンジョンがあると聞けば1日で踏破し、南に凶悪な盗賊団を発見すれば瞬時に壊滅させる。


 まさに常人離れした活躍であった。強さのレベルというか世界観が違うのである。


 しかも、ユキトのパーティが誇るものは戦闘力だけではない。水不足で悩む村には空中から水を生成する魔道具を授け、疫病が流行している地域では医神や薬神を呼びつけて人々の病を完治させるなど、その力はあらゆるトラブルに対応していた。


 圧倒的物理のファウナ。


 非常識な火力のフローラ。


 神具級の魔道具師ストレィ。


 剣神の域にあるセバスチャン。


 それらの力を付与した張本人であるユキト。


 そして創造神が受肉した姿であるクレア。


 この面子で対応できないトラブルなど、虚無の力を得た凶人くらいのものだろう。

 とはいえ、クレアが医神や薬神を呼び出した際には、その姿を目の当たりにした村人は3時間くらい平伏して動かなかった。何事にも限度というものがあるのだ。


 そんな若干のやり過ぎ集団であるユキト達は、南大陸の中でも最大の都市のひとつであるハイプスバーグを訪れていた。


「ここがヘイプスバーグか。噂に聞いた通り、でっかい街だな。アスファール王国の王都よりも大きいんじゃないか?」


「こっちじゃ最大の街の1つって言われているみたいね。文武探究を都是とする独立都市へイブスバーグ。もうすぐ数年に1度の競技大会って話だけど……」


「確かに、通りを歩く人々に武芸者の雰囲気を纏った方がたくさん混じっています。皆さん、競技大会に出る方なのでしょうか」


 ユキトが他の街で聞いた話では、ヘイプスバーグでは4年に1度のタイミングで、武芸や魔法、更には魔道具理論に至るまで、様々な分野ごとにその腕を競い合う大会が開かれるらしい。数百年の歴史を持つこの大会には、大陸中から名のある武芸者や魔道士達が集まってくるという。

 それぞれの部で優勝した際の賞金額はそこまで高額ではないのだが、その栄誉は広く知れ渡っている。例えば、剣の腕を競う部で優勝した者が仕官を望めば、国から高録を持って召抱えられるのは間違いないとのことだ。逆に、近隣の国々からも、その国威を示すべく、軍に所属する猛者達が参加している。


「オリンピックみたいなもんだな」


「まぁ、オリンピックと違って、身体を動かす系以外にも学術系の発表……っていうか討論もあるから、オリンピックよりも幅広いけどねー」


 ユキトの異世界人(まろうど)ならではの呟きを受けて、同郷であるクレアが補足する。


 文武がきっちりと分かれる傾向にある地球と違い、この世界には魔法がある。知識や理論がそのまま武力になるということもあって、異世界(ディオネイア)では文武の境目が曖昧なのだ。それゆえに、この街の競技大会では、魔法理論や魔道具理論も競い合う対象に含まれていた。


「どちらにせよ、この大会で俺達が幾つか優勝をかっさらえば良い宣伝になるよな。思ったよりも細分化されてるみたいだから、全競技ってわけには行かないけど、格闘系はファウナが出れば負けることはないだろうし、魔法ならフローラ、剣技はセバスさんがいるし」


 街のあちこちに張り出されている大会の日程表を見ながら、ユキトがこの街へやってきた目的を口にする。ユキト達の力を広く知らしめるには、この競技大会は最適の催しなのだ。


「そうね。拳術の部ってのがあるみたいだから、私はそこに出場しようかな」


「じゃあ、私は炎魔法の部にしますね」


「ふぅん……じゃあ、私はぁ魔法理論と魔道具理論の2つに出場してみるわねぇ。時間が被らなければだけどぉ。上手くいけば、優勝メダルを2つもらえるから、そしたら1つユキトくんにあげるわぁ」


「え……あ、ありがとう。

 いや、ストレィにしては珍しくやる気があるな。あ、別に皮肉じゃなくて、純粋に驚いただけだ」


 普段であればファウナやフローラに任せてしまうストレィが、珍しく2つもエントリーするつもりだという。しかも、両方とも優勝できれば、優勝メダルの1つをユキトに渡すつもりらしい。その発言にユキトは若干照れながら笑みを見せた。


「お礼はキスでいいわよぉ。フフフ」


 妖艶な冗談を返すストレィ。だが、それはストレィの作戦だったのかもしれない。


「ちょっと!ストレィ!!冗談でもユキトが困っているでしょ! 

 でも、わ、私は早駆けと無差別格闘にも出ようかな」


「わ、私も防御陣魔法の部と回復魔法の部と魔法戦の部に!!」


 何故か、他の部にも出場しようとするファウナとフローラ。そんなふたりの様子を見て、ストレィは悪戯が成功した笑みを浮かべながら、火に油を注ぐことにする。


「魔法薬の部にも出ようかしらぁ。ユキトくぅん、アナタのパーティーメンバーとして、たくさぁん優勝してあげるわねぇ」


「「!!」」


 かくして、パーティの女性陣は優勝メダルの数を競い合うという別の競技を開始してしまったようだ。


「え、いやそこまでしなくてもいいんだけど……おーい! って、行っちまった……」


 早速とばかりにエントリーに向かう女性陣の背中に向けて、ユキトは弱々しく声をかけるが、その声は大会を前にして賑わう通りの喧噪に掻き消された。


「いやぁ、お嬢様もストレィ様にすっかりと乗せられてしまいましたな。されど、これではユキト様も何か1つくらいは優勝されないと格好がつかないのでは?」


「うんうん。女の子がユキトに優勝をプレゼントするって言ってるのに、ユキトが見てるだけだとちょっとね」


 セバスチャンとクレアの言うことも尤もである。


「えー……流石に加護付与(エンチャント)の部なんてないよな……」


 いくらヘイプスバーグの競技大会でも、そのような部はない。もちろん、巨人化の部も。

 だが、ユキトの戦闘力はファウナやフローラと比較すれば微々たるものだが、この世界基準では充分過ぎるほどに高い。


「ふむ。では剣技の部が『軽装の部』と『重装の部』に分かれているようですから、重装の部に出場されては? 私めは軽装の部に出場を致しますので」


 セバスチャンの述べる軽装の部と重装の部との違いは、鎧の有無である。騎士のように防御力に優れた重い鎧を装着した上で戦うのが、重装の部。鎧なし、もしくは防御力の低い軽い鎧で戦うのが軽装の部である。


 白銀のメタルスーツを纏う宇宙警察へと変身できるユキトにとっては、確かに重装の部の方が適していると言えるだろう。


「そうするか……忍術と超能力の加護もあるし、負ける心配はしてないけど、面倒だよなぁ」


 ユキトは溜息をつきながら、大会の登録会場へと向かうのだった。


 ****************************


 数日後


「……あっさりと勝ってしまった」


 ユキトはあっさりと「重装の部」で優勝した。


 重装の部では、首元など指定部位に剣を突き付けるか、相手の武器を弾き飛ばすなどして失わせた時点で勝敗が決する。指定部位は、鎧を着込んでも弱点となる場所が指定されていた。


 ユキトはテレパシーで相手の攻撃が読めるし、相手の死角へと瞬間移動もできる。負ける要素がないのだ。これに加えて、宇宙警察の身体能力も相当なものだ。

 流石に使用する武器は、大会運営側が用意していた競技用の剣である。武器の性能を競う大会ではないので、当然だ。仮にユキトの持つビームサーベルを模した剣で戦っていれば、相手の武器をバターのように斬り飛ばしてしまっただろう。魔剣やオリハルコン製の剣でなければ相手にならないのだ。


「思えば、七極(セプテム)とか人間離れしたヤツらとばかり戦っていたからなぁ……大会の出場者がそんなに強いわけないか」


 盗賊団などをカウントしなければ、ユキトが戦った相手には、イーラやインウィデアのような人間を遥かに超えた存在が多い。サブシアを強襲した(いとま)も、虚無の力を使って身体能力を向上させており、既に人間の範疇ではなかった。


 もちろん剣技だけに限定すれば、相当な実力者も混じっていたのだが、ユキトの実力も向上しているし、何より相手の意図が読めるテレパシーがある。ユキトとしては思ったよりも簡単に勝ち抜くことができたようで、拍子抜けしてた。この様子では軽装の部でもセバスチャンが優勝しているのは間違いないだろう。


「流石は英雄……ほとんどの試合で瞬殺だったな。殺してないけど」

「すげぇな。この位置から観てても動きが見えなかったことがあったぞ。至近距離で戦っていた相手からしたら消えたように感じただろうな」

「前回優勝のバルゾイが手も足も出なかったもんなぁ。お、メダルの授与が始まるぜ」


 観客達にも「どうやらあの選手は巷で噂の英雄ユキトその人である」と広まっているようで、興奮しきりだ。


「では、優勝者のシジョウ ユキト卿に優勝メダルを授与致します」


「謹んで頂戴します。

 ……へぇ、金メダルってわけじゃないんだな。あ、青みがかっているってことは、ミスリルが含まれてるのかな」


 観客達がいまだに歓声を上げている中、優勝したユキトはメダルを授与された。

 優勝メダルは金属製であり、表面は青白い光沢がある。金メダルではないが、元の世界で様々な合金を目にした経験があるユキトから見ても、中々に高級感がある逸品であった。


「でも、これでファウナやフローラ、ストレィに面目が立つな。アイツらが幾つメダル持ってくるかわからないけど、俺がゼロってのもカッコ悪いし」


 ちなみに、ユキトが重装の部に出ると聞いたファウナとフローラは、自分が出場する部門を欠場してでも応援に行くと言い張っていたが、ユキトが強硬に固辞したという経緯がある。応援を断っておいて「負けました」では格好がつかないので、ひとまずは安心だ。


 だが、ユキトの戦いはこれで終わったわけではなかった。


「では、優勝者のユキト様。明日には軽装の部の優勝者と剣王の称号をかけた試合がありますので、それまでは身体を休めるか、他の競技を見るなどしてお過ごし下さい」


「は?」


負けましたでは格好がつかないのだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや評価もどうぞよろしくお願いします。励みになります。


(数日前に更新できていたはずでしたが、自宅のネット環境が急死あそばされまして……)

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