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第176話 番外?暇の冒険(その2)

(先週更新できなかったので、明日か明後日にもう1話更新予定)


前回のお話


典型的な教室ごとの異世界転移に紛れ込んだ(いとま)

彼は異世界転移初心者である高校生らを微笑ましく眺めていたが……。

 ---------------------------------

 虚井 暇


 HP:12

 MP:3


 力:11

 魔力:2

 頑強さ:5

 素早さ:4


 保有能力:唐揚げを無限に出せる能力

 称号:【高校の近くを歩いていたら巻き込まれた一般人】

 ---------------------------------


(このくらい控え目なステータスなら、目立たなくて済むかな。

 さてボクの考えだと、そろそろこの国の連中が能力の確認に回ってくるはずなんだけど。

 ……さっきの数値を見せても面白かったかもなぁ)


 偽装した自身のステータス画面を前にして、(いとま)は満足そうに頷く。深淵から流れ込んでくる力を自らの身体能力へと転換することで、(いとま)のステータスは常人のそれを遥かに超える領域まで高められているが、今回はそれを見せないことを選択したようだ。


「深淵」とは本質的には絶対的な虚無であり、そこからエネルギーが生まれることはない。(いとま)が使っている深淵の力とは、世界に遍在するあらゆる滅びにより失われていく力、深淵に落ちていく世界から取り出した力、それを流用したものだ。


 尤も、普段の(いとま)はその深淵の力の極々一部を使っている過ぎない。いくら(いとま)が異世界の主神の呪いによって不死不滅の存在になっているとは言え、深淵の力の出力を間違えれば、簡単に呪いごと消し飛ぶだろう。



「さて、君達の力を確認させてもらおうか」


 (いとま)が深淵について考えを向けていると、予想通りに役人と思われる5名程が新たに広間へと入ってきた。


 揃いの制服のようなものを身に纏っている彼らは、生徒達のステータスを確認しながら、一言二言ばかり声をかけて回っている。


「ほぅ! アナタは中々珍しい能力を授かったみたいですな」


「ふむ……この能力を持つ者は英雄になれると言われている」


 彼らが口にするのは、基本的には生徒達の自尊心をくすぐり、王国への協力を引き出すための言葉である。言葉を唱えるだけで目の前にステータス画面が生じたことで、生徒らのテンションも上がっている。そこに珍しいだの英雄だのと褒め言葉を投げかけられることで、生徒達は一種の興奮状態に導かれていた。


 だが、例外もいる。


「すてーたす。  すてーたす。 あれ? 俺は画面がでないな」


 先程、冷静に周囲を観察していた男子生徒だ。彼もステータスを呼んでいるようだが、ステータス画面が出現していない。何度も「ステータス」と発言しているにも関わらずだ。


 だが、それは彼がステータス画面を開く能力がないためではなかった。彼は意図的にステータスを出さないようにしているのだ。


(やはり、「ステータス」じゃなくて「酢てー足す」って意識して発音すると出ないみたいだな。

 どうもこの国は信用がならない。ヤツらの言うとおりに行動して、ステータスを知られるよりは、俺が力を得ることに失敗したって認識させた方が動きやすいはず……)


 ラノベによる予習によるものか、異世界初心者達の中で、彼は周囲とは違う行動を取ろうとしていた。その手始めに、ステータス画面を出現させないことを選んだようだ。確かにステータス画面も出せないようであれば、能力など持っていないと判別される可能性は高い。


 自身の状態に意識を向けつつ、「ステータス」と唱える。それが、王国側が教示したステータス画面の出し方である。それゆえに、あえて自身の状態とは無関係なことを思考しつつ、発声時にも「ステータス」ではなく「酢てー足す」と唱えているのだと意識することで、彼は意図的にこの世界の魔法の発動条件から外れたのである。


「ステータスが出ない? おかしいね。もう一度やってみてもらえるか? ……うーん、やっぱり出ないか。これは……力が得られていないのか?」


 (いとま)は、その様子を微笑ましい様子で眺めていた。彼の経験上、異世界に召喚によって転移させられた際、召喚主の言に従うか否かというのは、大きな分岐点である。召喚主が何を考えているのかが不明である以上、その際に手札を隠蔽したくなるのも道理だ。


(でも、それも善し悪しなんだよね。あんなふうに力を隠して、失敗作と認識させて自由を得ようって作戦は、成功率が5割くらいってところか)


 (いとま)の体感では、転移時に無能を装うことで自由を得ようとしても、上手くいく確率は半々くらいだ。特に集団転移のケースでは、被召喚者が「自分には能力がないようなので、他の皆のようにお役に立てません」とでも言えば、召喚主もその場では「仕方がない。力がなければ英雄にはなれない。国内で好きに暮らすが良い」とでも返すだろう。

 だが、それは他の転移者がその場にいるからの返事であって、召喚の詳細を知っている人間を自由にさせることの危険性は、呼び出した側も理解しているはずだ。ゆえに後でこっそりと始末されることも多い。特に、異世界から喚び出した人間を「道具」としてしか見做していないような場合には、消される可能性が高いと言えよう。


 ここで運良く殺されなかった者だけが、ラノベの主人公のように活躍できるのである。逆を言えば、ここで消されれば、その話はそこで終わりで誰にも知られることはない。


「さて、この世界はどうだろうね」


 (いとま)は小さな声で呟いた。実際、今回の王もステータス画面を出せないでいる男子生徒を冷ややかな目で見ている。男子生徒が自由を求めても、城の門から生きて出られない可能性は高い。


 だが、彼のストーリーは全く別の展開を見せた。


「巻き込まれた一般人? 唐揚げを無限に出せる能力? なんだこれは?」


 各生徒の能力を確認していた役人が、(いとま)の能力に目を留めた。


「学校の近くを歩いていたら、突然に目の前の風景が切り替わってね。びっくりしたよ。

 で、唐揚げってこの世界にはないの? 美味しいよ。 鶏肉を油で揚げた料理だけど。 はい、これ」


 怪訝な表情の役人に対して、(いとま)はフレンドリーな説明を返すと、その能力を行使し、その掌の上に唐揚げを数個生成した。どうやら揚げたてのようで、その表面から湯気が上がっている。(いとま)はその1つをひょいと摘まむと、そのまま口に運ぶ。表面に歯を立てるとサクッとした感覚が伝わり、すぐにジュワッと汁が口内に溢れる。なかなか美味しい唐揚げだ。


「これ、ひとつどう?」


 (いとま)は、そう言うと役人の目前に数個の唐揚げが乗った掌を差し出した。


 だが、この世界では存在しない料理であり、しかも能力により生成された食物ということもあって役人はその表情を引き攣らせる。どうやら、あまり食べたいと思わないらしい。これも文化の違いであろう。


「あれ、いらないの? じゃあ、そっちの王様はどう?」


 役人が手を伸ばさない様子を見て、彼はあっさりと試食を勧める相手をウィーブリー王へと変更した。スタスタと王へ向かって歩いていく。


「……」


 当然、その接近が警戒されないわけがない。王の近くにいた重武装の兵士がサッと王の前に進み、無礼者から王をガードする。王も眉をへの字にしながら、口を開く。


「ふむ。悪いが、我々は鶏の肉など食べぬ。だが……戦場で一般兵に食わせるには有用であろうな。遠征時の兵站の問題を解決する有能な能力であろうぞ」


 王侯貴族であるプライドからなのか、単純に下賤な料理への忌避感なのか、王は唐揚げの試食を拒絶した。その一方で、無限に食糧を出せるという説明に対して、兵站の問題に結び付けるあたりは、流石に執政者である。


 ただし、王国の戦争は他国の侵略からの防衛戦争という話であったのに、籠城戦ではなく、遠征時の兵站の話をしている時点で、その本当の目的が透けて見える。


「えー、美味しいから食べてみなよ」


 そんな王の言葉に気が付いているのかいないのか。(いとま)は気楽な調子で、王に迫っていく。まるで、友人に対するような態度であり、王侯貴族へのそれではない。その様子に、王をガードする2名の兵士が、その手にある槍で×印を作って、彼の進路を塞いだ。


「下がれ。それ以上、陛下に近づくな」


 兵士としては当然の職務を果たしている。だが、(いとま)の空気の読めない行動は、まだ続く。


「いいじゃん、一般の兵が食べる予定のものを味見しておくのも、王様として大事な事だと思うよ」


 彼の両肩に交差された槍の柄がコツンと当たり、それ以上王に近づくことを妨げる。いや、妨げるはずであった。



 *************************************



「何が起こっているんだ?」


 坂上高校2年の薬袋(みない) (いさむ)は、その光景を唖然とした表情で見つめていた。


 先程の説明で、自分がクラスメイトらと共に、高校の教室から中世欧州風の世界へと転移させられたということは理解した。その召喚側である王国の魂胆に信用できないものを感じ、彼は自身のステータスの表示を回避したわけだが、そんな工夫などどうでも良くなる状況だった。


 問題は召喚に巻き込まれたという男だ。


「やめ……ぐえっ……や……げぼっげぼっ!!」


 王と思われる人物を押し倒した男が、その手を王の口に押し当てて、無理矢理に唐揚げを食わせている。彼は無限に唐揚げを出せる能力を身につけていたが、その能力を行使しているのだろう。

 哀れな王は男を振りほどこうと必至で暴れているが、どういう仕組みなのか、その非力そうな男を引き剥がすことは出来ていない。


 男の手の隙間からは王の吐瀉物が溢れ出て、一部には血も混じっていた。無理矢理に胃へと押し込まれる唐揚げにより、消化器官が傷つけられているのだろう。唐揚げ地獄である。


「「「貴様っ!!! 王より離れろ!!!」」」


 もちろん護衛の兵士達が必死で男を王から引き離そうと試みるが、男の周囲に不可視の障壁でも展開されているのか、近づくことすらできていない。男に向かって突き立てられる槍も同様だった。まるで男から強力な斥力が生じているかのようだ。兵士達は一方的に王の権威が蹂躙される光景を眺めていることしかできない。


「げぼっ! がぼっ あが……ぐぼっ」


「ほら、単なる唐揚げを出すだけの能力でも、こんなふうに工夫次第で敵を倒せるってことさ」


 男はそんなことを口走っている、何だか意表を突いた能力の使い方をして、相手を出し抜いたかのような発言であるが、これは完全にそんな頭脳戦の結果ではない。唐揚げの能力はほぼ関係なく、その不可視の障壁や、行く手を阻んだ兵士を簡単に投げ飛ばした膂力によるものだ。すなわち、男の持つ何か別の力だ。


(何つまらない能力でも頭を使えば、有効みたいな発言してんだ! お前のやってることは全然違うからな!)


 勇は、内心でツッコミを入れつつも、その拷問のような惨劇から目を離せないでいた。圧倒的な力がそこにあることは明白だ。やがて、王は白目を剥き、手足を痙攣させたかと思うと、そのまま動かなくなる。


「おそまつさま。

 いやぁ、キミが唐揚げを馬鹿にしたのが悪いんだよ……って、聞こえてないか」


 王がピクリとも動かなくなったことを確認すると、その男はゆっくりと立ちあがった。場を一瞬の静寂が支配する。ゴクリと唾を飲む音が聞こえたような気がしたが、それは自分が発した音だったろうか。

 生徒たちの側に背を向けているので、男の表情は見えないのだが、勇にはその男が微笑みを浮かべている確信があった。


 周囲で冷や汗を流しつつ、槍を構えている兵士達。男は彼らをゆっくりと見渡すと、こう言った。


「……飽きたな。次に行くか」


 そして、男はゆらりと虚空へと消えていった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブクマや評価についても感謝です。励みになります。


季節外れの忙しさが一服したので、明日明後日くらいにもう1話更新予定です。

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