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第175話 番外?暇の冒険(その1)

前回のお話

ユキトの領都のサブシアはアウリティアが代理で管理中。イーラもいるよ。

 

「んーと? ここは……どこだぁ」


 (いとま)が目を開くと、そこは石造りの部屋の中だった。石造りと言っても陰鬱な地下室などではなく、白く磨きあげられた壁面と青空が覗く窓を持った明るい大広間だ。だが、白い床にびっしりと書き記された魔法陣らしき文様と、その上に倒れている十数人の男女が、この場所が単なる広間でないことを物語っていた。


(あ、これは集団転移に巻き込まれたパターンか。このパターンは久々だな)


 (いとま)が見たところ、十数人の男女はいずれも高校生であると思われた。彼ら彼女らの着用しているブレザーの制服がそれを示している。恐らく、教室にいたところを何らかの理由……恐らくはこの世界の召喚術によって強制的に転移させられたのだろう。異界漂流(ドリフト)の能力を使って時空間を彷徨っていた(いとま)は、その召喚に紛れ込んでしまったわけだ。


 完全に気絶していたわけではないようで、倒れていた男女もすぐに起き上がり始めた。彼ら彼女らは目を細めつつ、周囲を見回している。


「なんだ?」

「ここ、どこだよ……学校は」

「ハァ? どういうこと?」


 異世界初心者(ビギナー)の反応を隠そうともしない高校生ら。(いとま)は彼らから2メートル程度だけ離れた位置で床に伏したまま、その様子を観察していた。


 当たり前の話だが、ほとんどの生徒は突然の状況変化に驚き、混乱しているようだ。教室にいたと思ったら、知らない部屋にいるのだから無理もない。だが、生徒達の極一部には、いち早く混乱から脱し冷静に周囲をチェックし始める者もいた。ラノベを通して、このような状況に対する予習ができているのだろうか。


(あの見た目が大人しそうな男子は、注意深そうに周囲を観察しているね。彼がこのラノベの主人公かな? あ、こちらに気付いた)


 制服の彼ら彼女らと違い、(いとま)だけは前の世界で手に入れた木綿の服とパンツを身に纏っている。当然、制服の集団の中では(いとま)だけが目立つ格好であり、その男子生徒は(いとま)を凝視していた。この部屋の中で唯一の生徒ではない存在ということで、この召喚を行った術師か何かではないかと疑っているのだろう。


 だが、彼の疑念はすぐに解消された。


 バァーーーン!!!


 大きな音を立てて、広間の扉が開いたのだ。扉が開くと同時に、白銀の甲冑に身を包んだ兵士達が機械のような正確な動きで部屋に入ってくる。カシャカシャと軽快な金属音が広間に響く。やがて、扉を潜った兵士達は左右に展開し、扉の前に壁となるように一列に並んだ。(いとま)も、いつまでも床に伏しているわけにもいかず、ノロノロと身を起こす。


「な……なに?」

「ひぃ……本物?」


 高校生達は突然現れた兵士達に怯えている様子だ。生徒達にも、兵士が纏っている具足の質感が、玩具ではないことが分かるのだろう。


 やがて、兵士達の壁がサッと中央で分かれ、その間からシルクで仕立てられたと思われる煌びやかな服を纏った中年の男性が姿を現した。髪と瞳の色は日本人の一般的なそれではなく、かなり明るい茶色だ。その背にはビロードのマントを翻しており、中世の王族あるいは大貴族に見える。


「ようこそ、我がウィーブリー王国へ。我々は選ばれし勇者の諸君を歓迎する」


 王と思われる男性が、大きな声で高校生らに呼び掛ける。このシチュエーションで我が王国と称しているのであるから、この国のトップであると判断して間違いないだろう。歓迎すると言っていることから、この場で全員が処刑されるような展開にはならないで済みそうだ。


「勇者?」

「え?何、撮影?」

「ガイジンさん? ってか王国って何!」


 しかし、王による呼び掛けも高校生らの混乱を収めるには不十分だった。むしろ、ザワザワと騒ぎは大きくなり始めている。


「ふむ……まぁ、混乱しておるか。無理もない」


 王は形ばかりのため息をついて、彼ら彼女らを見渡した。言葉だけを捉えれば、高校生らを思いやっているように聞こえるが、その瞳の奥に温かい感情を感じることは出来ない。尤も、異世界経験も人生経験も不足している高校生達はそのことに気づいていなかったが。


「まず、貴殿らは我が国の秘術によって、異なる世界よりこの世界へと運ばれたのだ。もちろん、貴殿らの迷惑であることは承知しておる。だが、我が国も手段を選んではおれぬ事情があってな」


 王がここまで述べると、新たに別の人間が広間へと入ってきた。それなりに上等な服装ではあるが、明らかに王よりは格下であることを示す意匠だ。恐らくは国の役人か何かだろう。彼は王の視線を受け、そのまま説明を引き継ぐ。


「私はウィーブリー王国の官吏のスコットと申します。勇者の皆様方。どうか、落ち着いて私めの話を聞いて下さいませ。

 ウィーブリー王国は平和を愛する国でありますが、大陸の支配を狙う悪逆な隣国の野心を挫くべく、戦争をしているところなのでございます。ですが、戦況は思わしくなく、国家存亡の危機となっております。そこで最後の望みとして、皆さまを勇者としてこの世界にお招きした次第。何卒、力を貸して頂きたく存じます。隣国に勝利して平和を取り戻した暁には、元の世界へ送り還すことを約束します」


 高校生らは、その説明を受けて動作を停止していた。混乱がピークに達したのだろう。一方で、異世界転移の達人でもある(いとま)は、余裕の表情である。


(ということは、生徒の皆に何か能力が与えられているはずだね……さて、彼らの能力はどんなものかな?)


「勇者」と称して戦争への協力を願い出ているくらいなのだから、召喚された高校生には何らかの能力が付与されていると考えるべきだろう。そうでなければ、この国もわざわざ平和ボケしている国の若造達などを召喚したりはしないはずである。

 モンスターの一種とされている「ダンジョン」がその内部に宝物を生成するように、その上位種たる「異世界」も迷い込んだ人間に対して特殊能力を付与することが多いのだ。


 (いとま)は、鑑定能力を生成して自身に付与すると、その能力を用いて高校生達をスキャンした。


(……彼は剣王の職業(ジョブ)……あっちの娘は魔法力限界突破……あの男子が対物絶対防御……へぇ、彼女は嘘を見抜く能力か。色々な能力があるね)


 (いとま)の考えた通り、高校生らには様々な能力が発現しているようだった。国としては、その様々な能力が目当てなのだろう。


 更に言えば、(いとま)はこの召喚のイベントがもう何度も行われてきたものだと判断していた。初めてにしては王国側の対応が手馴れすぎている。


(きっと、嘘を見抜く能力を持った生徒がいる可能性は、あの王様も想定しているんだろうな。だから、途中から役人に喋らせた。逆に言えば、あの役人は本当のことを知らされていないってことだな)


 (いとま)の推理では、この国は平和を愛するどころか侵略側だ。窓の外の景色を眺めた範囲では、この国の都市は大いに栄えているように見える。決して、侵略国家に攻め込まれて困窮しているようには見えない。

 更には、勇者として召喚した生徒たちを使い捨てる気も満々であろう。実際、この召喚が何度目かの召喚であるとすれば、先に召喚された「勇者」らはどうなったのか。もし、存命であるならば、先の説明に出てきても良いはずである。まさか、戦争の最中に元の世界に還したということもないだろう。


(王がそのまま言葉を喋ると、嘘を見抜かれる可能性があるから、嘘の内容を事実と信じている役人に喋らせた……ってところか)


 もちろん、(いとま)の推理が間違っている可能性も大いにある。(いとま)もその点は自覚している。ラノベの中では、だいたい主人公の推理通りに展開するものだが、大抵は穴だらけの仮説の一つに過ぎない。


 だが、完全に他人事である(いとま)は、推理ごっこを含めて楽しんでいた。彼がその気になれば、自身の内に渦巻く深淵の力を流用して、王の心の中を読むことくらいは簡単にできる。


(でも、それじゃあ、つまらないからね)


 (いとま)は唇の端を持ち上げて、小さく笑った。これは単なる気紛れだ。だが、それが重要だと(いとま)は思っている。何しろ、彼は深淵と共に遊んでいるのだから。



「――と言うわけで、勇者の皆さまには不思議な力が宿っております。まずは、自身の状態へと意識を向けながら『ステータス』と声を出して下さい」


 (いとま)が色々と考えている間に、勇者たちへのオリエンテーションが進んでいた。あまりにもベタなステータスコマンドに、(いとま)からは思わず笑いがこぼれる。B級映画を見ていて、お約束な展開となったときに出てくる笑いと同種のものである。


 だが、自身に宿った不思議な力と聞いてテンションが上がっている高校生らは、(いとま)の笑いを気にかけている暇はない。あちこちから「ステータス」という声が響き、その声を発した者の目前に黒い画面のようなものが出現していく。


(さて、どうするかな)


 もちろん、(いとま)に対しても特殊能力は付与されている。彼が自身を鑑定した際には「竜騎兵の職業(ジョブ)」を保有していると出ていた。だが、これを素直に表示させるのも面白くない。


 そう考えた(いとま)は、自身に付与された能力を改変した。深淵に起因する強力無比な力で、自身に与えられた能力を「唐揚げを無限に出せる能力」へと書き換えたのだ。


「んじゃ、いってみよう。ステータス!」


 (いとま)が一際大きな声でそう唱えると、他の生徒たちと同様に黒い画面が空中へと出現する。だが、その内容は生徒達とは大きく乖離していた。


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 虚井 暇


 HP:55530

 MP:37564


 力:16400

 魔力:8900

 頑強さ:15600

 素早さ:7560


 保有能力:異界漂流(ドラフト)・異界の主神の呪い・鑑定Lv99・唐揚げを無限に出せる能力・深淵の加護

 称号:【深淵の友】【虚無と遊ぶ者】【禍人】【滅界者】【不滅者】

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 もちろん、この異常に高いステータスは深淵の力を身体能力へ転用しているための数値である。例えば、元々の(いとま)の力は100程度のオーダーであり、それなりの冒険者という程度の数字だ。だが、その身に『深淵』を宿したことにより、(いとま)の身体能力もその絶大な力の恩恵を得ている。その気になれば、まだまだステータスを上げることも可能だ。


(でも、これが見つかって大騒ぎになるのは避けたいなぁ)


 現に、すぐ隣に立っていた女子生徒は(いとま)のステータスを唖然とした表情で眺めていた。彼女のステータスはほとんどが1ケタ台なのだから無理もない。彼女の表情につられて、他の生徒達も――という面倒な事態を、(いとま)は歴史ごと改竄した。少なくとも、(いとま)の表示ステータスは、以下の通りである。


 ---------------------------------

 虚井 暇


 HP:12

 MP:3


 力:11

 魔力:2

 頑強さ:5

 素早さ:4


 保有能力:唐揚げを無限に出せる能力

 称号:【高校の近くを歩いていたら巻き込まれた一般人】

 ---------------------------------


 隣の女子生徒もチラリと一瞥しただけで、気にしていない様子だ。(いとま)の服装を、Tシャツとデニムにしたことも違和感を大きく減じていた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


この時期はそんなに多忙な時期ではないはずなのですが、いくつか予定が重なって、更新の間隔が長めになっております。時間ができれば、頻度を上げていきたいところです。

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