第173話 バグ扱い?英雄パーティの武勇伝
前回のお話
菌の魔物に侵されていた世界樹。ユキト達は元気な枝を切り取り、それ以外を焼き尽くすことで解決する。無茶苦茶である。
菌の魔物に侵されていた世界樹。これを小一時間程度で復活させたユキト達は、その後も南大陸を回って、数々の武勇伝を打ち立てて行った。
ひとつ。悪意ある宗教団体が復活させた『開闢の神獣』と呼ばれる大型の魔物の討伐。ドラゴンをも上回る強大な古の魔物であった。
ひとつ。史上最悪の盗賊団と悪評高い『死翼の座』の壊滅。冒険者ランクとしては全員がBランク以上の実力を持ち、いくつもの村を皆殺しにした盗賊団であった。
ひとつ。ゴローネ王国で発生したクーデターの鎮圧……などなど。
ユキトの運命が異世界主人公のソレとなっている効果は絶大であり、行く先々で何らかの名を売るのに都合が良いトラブルが発生していた。それらのトラブルを、ユキト達の持つ圧倒的な武力・火力・科学力で解決していくのが基本的な流れとなっている。
「ねぇ、ユキト。伝説の魔獣も開闢の神獣も最初の一発だけで終わっちゃったんだけど……」
馬車での移動中、ファウナがそんな愚痴をこぼした。戦闘が呆気なさすぎるのがご不満のようである。
「ファウナが本気で殴るからだろ。もっと丁寧に優しく殴るとか……」
「いや、手加減してるわよ? 手加減してこれじゃ、体術の技巧を活かす機会がないわ」
ファウナの長い耳がピコピコと動き、不満を示している。思わず触りたくなったユキトだが、開闢の神獣を一発で屠るほどの反撃は受けたくない。グッと我慢する。
「ユキト様ぁ〜、私も手加減はしているんですけど、討伐部位ごと魔物が消滅してしまいます」
フローラも眉をへの字にして、頰を膨らませる。
「フローラもか……1兆度から1000分の1まで温度を下げても、まだ10億度。その温度だと炎ですらないからな」
「ファウナちゃんも、フローラちゃんもこの世界では完全にオーバースペックかぁ。この世界を創るときには、野菜的な名称の宇宙人とか宇宙恐竜の存在は想定してなかったからね〜」
2人の不満げな様子を受けて、クレアも両肩をすくめてみせた。ファンタジー世界の中に、完全に異なる世界の住人が混じり込んでいる構図である。
少なくともユキトのイメージでは、エルフは素手で山を殴り消したりしないし、魔道士の魔法が惑星を消滅させることもない。
「でも、クレアも星を破壊するくらいの闘気の弾とか、1兆度に達する火球とか出せるんじゃないのか? この世界でも一番偉い神様なわけだろ?」
ちょうど良い機会だと、ユキトは気になっていたことを尋ねてみた。この世界のトップならば、ファウナとフローラと同等の攻撃も可能なのではないだろうかと考えたのだ。
「う〜ん、世界の法則システムを一から組み直さないと流石にそのレベルの攻撃は無理かな。この世界の設定の範囲外って言うか……」
「設定の範囲外? でも、俺の加護もこの世界の仕組みで動いているんだろ?」
「それはそうなんだけど、地球の神話ならともかく、エンタメのフィクション設定を参照するのって、いわばシステムの欠陥をついたバグというか……」
「バグかよ」
どうやら、ファウナ達の力はバグ判定のようである。それを聞いたユキトは、バグの力で殴り倒されている魔物達に同情した。
「ん〜、わたしは活動写真機とかぁ録音装置とか使って、貴族の悪巧みを暴くのは楽しかったわよぉ〜?」
一方のストレィは、相変わらずの鼻にかかった声で満足げな感想を述べる。
「あぁ、前の街で指紋の説明をしてやった時のあいつの顔は傑作だったな。密談の証拠動画を見せてやったのも面白かったし」
完全にオーバーキルとなるファウナやフローラと違って、自作の魔道具を活用できているストレィは満足しているようだ。
「汚染された水源に浄化装置を組んだのも、とても喜ばれたわねぇ。
普通の魔道具って戦闘に使われたりぃ、貴族の道楽に使われる程度だからぁ、自身の魔道具が世の中に役に立っているってだけで、製作者としては嬉しい限りよぉ」
ストレィはニッコリと笑みを浮かべた。ユキトもつられて笑みを返す。パーティメンバーが満足していることは、リーダーとして歓迎すべき事態である。だが、すぐに彼女の眼がスッと細められた。
「でもぉ、行く先々でユキトくんが、女の人と縁を結ぶのはどうにかならないかしらぁ〜?」
「そうね、それは思ったわ」
「全くです。ユキト様、少しは自重できないんですか?」
ストレィがズラした話題に、ファウナとフローラが乗っかってくる。
「いや、ちょっと待て。俺も好きでそうなっているわけじゃないぞ!」
「ははは。ハルシオムの諺でも『英雄に妻多し』と言いますからな」
慌てて弁解するユキト。そこに馬車の御者席にいるセバスチャンが、油を投入する。
「「「ユキト!」様!」くん!」
油はよく燃えた。
だが、これも運命のせいである。ユキトが主人公であるおかげで、街の裏通りなどで助けた人間が国王の娘だったり、権力者の妹だったりと、その国の権力者と縁のある人物とコネを作るイベントが頻繁に発生するのだ。
「だって仕方ないだろ。何故か、そういう人物の性別が偏ってるんだよ……。たまに男かと思ったら、実は女性だったり、妹がいたりするし」
「異世界モノのお約束だからね」
異世界モノのお約束を知らないファウナ達と違って、クレアは諦め顔だ。
南大陸の各国において、ユキトは名誉公爵だったり、伯爵予約権、共和国最高騎士勲などを受け取っている。
最初はどの国も自国に引き入れようとするので、アスファール王国の冒険爵を頂いている身であると説明し、名誉的なものだけを受け取るに留めていた。
「それに、いまさら王様クラスにコネが出来ても……」
ユキトはそう言いながら、メイド姿のクレアに目を向ける。
南大陸における宗教は、複数の宗派に別れているものの、祀っている神々はアスファール王国と同一である。神様によっては、司っている範囲に差があったりするのだが、最高神は創造の女神様という点は変わりない。
その真偽判定も非常に簡単だ。彼女が神威を発すれば、この世界に生を受けた者ならば無条件で彼女が創造の女神であることを確信できるシステムとなっている。
「まぁ、私って偉いから〜」
クレアは冗談めかした言葉を吐いているが、王権神授説を採用しているこの世界では、紛うことなき世界の最高権力者であった。
もちろん教会権力に対しては、王権以上に強く出ることが出来る。例えば、先の国では国教の教義に対して、クレアが異議を申し立てた。
「はぁ!?
『創造の女神は、世の女性に台所を守るように望んだ』って……ちょっとこの教義は見逃せないんだけど!
創造の女神はそんなこと言ってません〜」
「我が国の聖典に異議を唱えようと言うのか!? 貴様、異端審問会にかけられたいのだな?」
「異端審問〜!? かけてもらおうじゃない!」
ユキト達はそのやり取りを苦笑いして眺めるしかない。相手が相手なので、有罪の心配をする必要もないだろう。むしろ、真実を知った教会関係者が自責の念にかられて自害でもしないかと心配する場面だ。
(神様を異端審問にかけたら、信仰者が全員異端になるんじゃないか? いや、異端の方が正統になるだけか)
この時は国の守護神という存在が大慌てで顕現して、異端審問官を叱り飛ばして、聖典を書き換えさせることを約束したことで、落ち着いた。
国の守護神の顕現という例のない事態に、教会関係者はひたすらに平伏していたが、守護神としても冷や汗ものだったらしい。
「担当している国の民が、上司の上司にあたる存在を異端審問にかけようとしていたら誰でもそうなります!」
世界樹の精霊も似たような反応だったが、神様というのも存外に大変そうだな……ユキトはそんなことを思った。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
ブクマや評価も大変励みになります!