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第171話 噂の英雄!その名はユキト!

前回のお話

クレアールの提案で南大陸へ渡ったユキト達。

圧倒的な戦闘力で、船旅中のトラブルは問題なく解決されたのだった。

 クレアールの案に従い、海を越えて、南大陸へ渡ったユキト達。その南大陸においても、ユキト達の名声を獲得する活動は、問題なく成果を上げていた。

 既に、大陸北部の冒険者でシジョウ ユキトの名を知らぬ者はほぼいないだろう。


「シジョウ ユキトという神の力を付与(エンチャント)する付与師がいた」

「本人もそうだが、仲間達にも非常に強大な加護を与えていた。パーティーメンバー全員がとんでもない化け物だ」

「アイツらは強いとか、そういうレベルじゃねぇ」


 だが、意外な事に、ユキト達がそういった名声を得る過程は思った以上に単調な作業であった。ユキト達は、船が到着した街をはじめとして、大陸北部の大きめの街を4つほど回ったが、どの街においても似たような展開が待っていたのである。


 まず、ユキト達が街の冒険者ギルドに行くと、お約束のようにガラの悪い連中が絡んでくる。


「見ねえ顔だな。メイドなんぞ連れやがって、金持ちの道楽か? 冒険者ってのはな、そんな甘ぇ考えじゃあ務まらねぇぜ?

 そうだ、俺達を雇うといい。安くしといてやる。 その代わり、そっちのエルフの女は特別手当ってことで俺達によこせや」


 どの街においても、絡んできた連中は似たようなセリフを吐いた。違いがあるとすれば、要求する特別手当の対象がフローラになったり、ストレィになったりしたくらいだ。何故か対象から外れたクレアのご機嫌が悪かったが、メイドという点がマイナスに働いたのだろう。一方で、特別手当の対象にされた女性陣もご機嫌が良いはずはない。


「……ユキト、こいつらどうする?」

「ユキト様、燃やしますか?」


 もちろん、フローラの火球(いっちょうど)は言うに及ばず、ファウナがデコピンでもすれば即死するような連中である。であるのだが、やはり殺してしまうと色々と問題だ。いや、法律的な問題や倫理的な問題は、クレアが「問題ない」と言ってしまえば解決するので、残るはユキトの良心の問題ではあるのだが、流石にこの程度で殺していては目覚めが悪い。

 なので、どの街においてもセバスチャンが斬撃でもって丸裸にしてやることで対処した。ガラの悪い連中は、太刀筋すら見えない技量で服や鎧をバラバラに斬られることで力量差を知り、慌てて逃げていく。その後、周囲で見物していた冒険者達から拍手が上がるまでがお約束である。


「あのぉ、今の騒動を拝見しておりました。そちらのパーティーの剣士様は相当の実力のある方とお見受けして、相談なのですが……」


 続いて、ユキト達……というかセバスチャンの実力を見込んだ冒険者ギルドの職員から『最近になって街の近辺に巨大な魔獣が現れた』などの情報が、もたらされることになる。このイベントについては、ファウナがひとっ飛びして、殴り殺してくれば解決だ。


「丘の向こうの森に巨大な単眼象(サイクロファント)が現れたようで、その調査の依頼を――」


「丘の向こうの森ね? ユキト、ちょっと行ってくる」


 ―5分後


「という特徴のある魔物なので、我がギルドでも討伐のために準備を」


「ユキト、終わったよー。はい、これが討伐部位ね」


「は…?  はぁぁぁああああ!!?」


 これも街によって、沖合のクラーケンだったり、単眼象(サイクロファント)であったり、山岳竜(ベルクドラク)だったりしたのだが、ファウナにとっては同じようなものだ。今のファウナが本気で闘気弾を撃てば、天体レベルの破壊が可能だろう。少しばかり大きいだけの魔物が相手になるはずがない。むしろ、巨体であったので探す手間が省けたくらいのものだ。


 さて、このように魔物討伐の依頼を片付けると、冒険者ギルドからの評価と信頼度が上昇する。そして最後に、その地域で発生している異変の原因を調べて欲しいという依頼が出てくることになる。


「実は、西の砂漠で魔物が死にはじめ、それだけならば良かったのですが、夜になると砂漠が妖しく光を放つようになったのです……」


 この手の依頼は、冒険者ギルド側もその危険性を明確に把握できていないため、低ランクの冒険者には回すことはできない。異変の原因を調査すると強大な魔物が原因だったり、敵国の工作だったり、単なる自然現象であったりと、予測がつかないのだ。


 なにより原因が不明なので、ファウナやフローラの圧倒的な戦闘力も解決に結びつかない。異変が発生しているという地域を丸ごと吹き飛ばせば、異変はなくなるだろうが、それは求められている解決方法ではないだろう。

 だが、この手の依頼に対しても、ユキト達は解決のためのチートな手段を持っている。異変の原因と解決方法を、パーティーメンバーの中にいるメイド兼最高神であるクレアに尋ねれば良いのだ。世界外の力が干渉していない限りは、自然現象であれ、敵国の工作であれ、クレアールの目を誤魔化すことはできない。


「クレア、西の砂漠が夜になると光を放つようになったらしいんだが?」


「あー、それは2ヶ月前の地震が原因。その地震で砂漠の地下に広がる古代遺跡に保存されていたアンプルが割れて、中に封じられていたヒカリカビが地表で繁殖してるの。街の子供達に咳が多くなっているのも、それが飛ばす胞子のせいだから、砂漠の表面をフローラちゃんに燃やしてもらえば解決するはずよ。念のため、ストレィさんの作った空気清浄機の効果がある魔道具を、子供のいる家庭に配ってあげて」


「了解」


 街1つにつき、だいたいこのくらいの依頼を達成すると、ユキト達のことが街中で噂になる。あとは「これも全てユキトが付与した加護の力のおかげだ」と噂が好きそうな住民に吹聴すれば、神の力を付与(エンチャント)することができる英雄の出来上がりだ。


 もちろん、行く街、行く街において同じようなテンプレなイベントが発生するのには理由がある。それはユキトの持つ『運命』によるところが大きい。


 地球にもあったのかは分からないが、この世界(ディオネイア)には運命というものが実在している。これは創造の女神が「より公平な世界を作りたい」と設定した項目らしい。


「『公正世界仮説』って言葉、知ってる? 世界では、正しいことは報われて、悪いことは罰せられるはずって考えのこと。地球では必ずしも実現していなかったし、逆に『事故に遭ったのは自分が悪いんだ』って自罰的な考えにつながることもあったけど、私はこの世界(ディオネイア)をある程度は『公正な世界』にしたいと思って」


「公正世界仮説? 安藤にしては難しい言葉知ってんな」


「まぁ、地球にいるときに紺スケに聞いた言葉だから。

 でも、運命を管理する役目の『運命の神』まで作っておいたのに、神界と人間界とが隔たれていたせいで、管理がちゃんとできていなかったみたいね」


 本来であれば、善人が報われ、悪人が報いを受ける世界になるように、運命による調整がなされるはずであった。しかし、インウィデアによって神界と人間界を繋ぐ門が閉じられてしまったため、運命を管理する神が人間界に介入できず、運命による調整が充分に機能していない。地球と同じく、悪人は必ずしも罰せられず、善人が報われるとは限らないのが世界(ディオネイア)の現状である。


 だが、そんな中で、ユキトは自身の運命に対して、無意識のうちに異世界モノの主人公の加護を与えていたことが判明している。そのおかげで、ユキトの周囲では様々な事件が発生し、その事件が都合よく解決されてきたわけだ。そして、それは現在も有効である。


「俺の『主人公の運命』のせいで、どの街に行っても冒険者ギルドでガラの悪いベテラン冒険者に絡まれ、街の周囲に100年に1度だけ目覚めるという魔物がタイミング良く現れ、さらに周辺地域では謎の異変が発生していると……」


「はい、そういうことになります」


 うんざりしたようなユキトの言葉に、クレアはメイドモードに切り替えて返答する。クレアは、この異世界テンプレを楽しんでいる様子だ。自身の世界で、テンプレ通りのラノベ展開が発生していくのが面白いのだろう。


 尤も、テンプレ展開がユキトの名声を上げるために都合が良いのは確かだが、同じパターンの繰り返しでは、飽きが来るというものだ。本来であればユキト達が頭を悩ませることになるはずの異変解決イベントが、クレアールの力で瞬殺されていることも大きい。


「クレアがいなかったら、謎の異変については解決に時間も手間もかかるはずなんだけどな」


 もちろん、クレアールの力を借りなくとも、ユキトのテレパシーや瞬間移動、フローラの魔法、ストレィの開発した特殊な魔道具を組み合わせれば、大抵の異変は解決できる。その意味ではクレアールというチートも、時間短縮くらいの意味しかないのだ。


 ユキトも改めて自分達の力が、この世界(ディオネイア)の常識の枠外にあることを思い知らされたのであった。


**************************


「さて、北側はだいたい回ったな。次は大陸の中央部に向かうか」


 ユキトはメンバーを前に移動を宣言する。すっかり英雄になってしまったので、街を歩きにくくなってしまった。すれ違う美女に視線を向けただけで噂されるとなると、おちおち道も歩けない。


「中央部って言えばぁ、冒険者ギルドのひとが世界樹がどうのって言ってたわねぇ」


「世界樹?」


 ストレィが発言した死人を生き返らせる効果でもありそうな名前にユキトが反応した。ファンタジー世界で世界樹と言えば、大きめのイベントが発生するのが普通だ。


「なんでもぉ、大陸の中央にある世界樹が、闇の力に侵されつつあるとかぁ」


「ってことは、ここから世界樹編が始まっちまうのかな。でかいイベントになりそうな……」


 そう言って、進行予定の方向を見つめるユキトの視線の先には、淡い大樹の影が遥か天まで聳え立っていた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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