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第169話 再出発!新たなる旅路!

3月末から4月頭にかけて引っ越しがあったもので、更新が遅れました。

ようやく環境が整ったので、随時更新していきます。


前回のお話

アルマがその身を犠牲にして(いとま)を別世界に追放した。


 

――そして2年が経過した。


「で、ここから南の大陸に渡るんだな」


 潮風に吹かれ、遥かな水平線に視線を向ける黒髪の青年がそう呟いた。


「ちょっとユキト。この船代って高すぎない?」


「エルフのお嬢さん、この船は南大海を越えて進むんですぜ? それを考えたら激安でさぁ」


 青年に向かって船代の不満を投げかけるのは金髪のエルフ娘だ。そして、彼女の文句を耳にしたひげもじゃの船員が反論している。


「そもそも、ファウナさんは飛んで行った方が早いんじゃあ……」


「私も一緒に船旅を楽しみたいの! それを言ったら、フローラだって飛べるじゃない!」


「私は魔力が尽きたら落ちてしまいますから」


 長い銀髪を持つ娘が、エルフ娘と船員の会話を引き継ぐ。船員も出向間際で忙しいのだろう。「飛べる?」と首を傾げながらも、作業をするために離れて行った。その様子を見ていた黒髪の青年の腕を、豊満な胸を持つ女性がぐいっと引っ張る。


「二人ともぉ、先に乗っちゃうわよぉ。 さ、ユキトくぅん 行きましょぉ」


「「あ、ストレィ! ずるい!!」」


 慌てて後を追う金髪娘と銀髪娘。さらにその後ろをメイドと老剣士の2名が続く。


 ********************


 2年前、ユキト達はサブシアの地において、アルマの自己犠牲によって虚井 暇(うつろい いとま)を異世界へと追い払うことに成功した。結局、アルマは戻ってきていない。(いとま)を他の世界に飛ばすために、アルマの(コア)となっていた宝珠を爆散させるレベルで暴走させたはずだというのは、創造の女神たるクレアールの言葉だ。


 そんなアルマのことは、ユキトの心の中に大きな棘として残っていた。異世界生活はゲームではない。ゆえに仲間を永遠に失うこともあり得る。ユキトも頭では分かっていたことだが、実際にそれを体験すると、胸の奥がグッと締め付けられるような、失恋にも似た喪失感が滲み出てくる。


 尤も、アルマがいなくなった直後は、破壊されたサブシアの街を復興させるための仕事が忙しく、ユキトもアルマの喪失を強く意識する暇がなかった。いや、あえて意識しないように仕事に没頭していたのだろう。

 (いとま)が破壊したのはサブシアでも旧市街に位置する場所だったし、クレアールがとっさに住民を避難させてくれたおかげで人的被害はでなかったのも幸いであった。幸いと言えば、最新の技術・製品、高品質の作物を擁するサブシアは、復興資金も潤沢である。ユキトは新たな都市計画についての図面を引きまくることで、アルマのことを意識的に頭から追い出していた。


 それはファウナ達も同じだったようで、ファウナは毎日のように大量の土砂を運び、長距離の用水路を掘り、壊れかけの建物を解体していた。一方のフローラも魔法で大量の石材を加工したり、オオゲツヒメの加護の力を使って地球産の作物を産み出したりと、新たな街づくりに大きく貢献している。


 その意味で、ユキト達がアルマを失ったことに向きあったのは、サブシア再建の仕事が一区切りついた後だったと言えよう。




「アルマと同じ存在を産み出すことはできるけど……どうする? 記憶も、(いとま)が襲来する直前くらいの段階のものをコピーできるはず」


 サブシアの再建がほぼ軌道に乗った頃、クレアールはユキトにそう尋ねた。創造の女神の力を使えば、アルマとほぼ同じ存在を再び創ることができるらしい。だが、「ほぼ同じ」であって「同じ」ではない。(いとま)を別の世界に追放するために犠牲となったアルマが戻ってくるわけではない。


「いや、それじゃ意味がないんだ……」


 ユキトは唇を噛みながら、クレアールの申し出を断った。


「……そうだよね。そう言うと思った」


 クレアールもそう答え、2人の間にはしばしの静寂が流れる。


「……」

「……」


「……なぁ」


 その沈黙を破ったのは、ユキトの方だった。


(いとま)はこの世界(ディオネイア)に戻ってくると思うか?」


(いとま)ってヤツは気紛れな性格みたいだから、絶対とは言えない。でも、その可能性は高いと思う。アイツが深淵の力をどこまで使いこなせるようになるかにもよるけど」


「じゃあ、アルマの残してくれた時間を有効に使わないとな。また、同じように(いとま)に負けたら、アイツに合わせる顔がない」


「だね」


 クレアールは目を細めながら、ユキトの言葉を肯定する。ユキトはハァと息を吐くと、そのまま言葉を続けた。


「安藤は、アルマのやろうとしたこと……知っていたんだよな」


「彼女が行動を起こす直前に相談されたから……。ユキトには悪いけど、あの時は彼女にああしてもらうことでしか、事態を打開する方法はなかったと思ってる。アイツは私の動きには警戒していたから、私が直接何かしようというのは難しかったの」


「いや、分かってる。安藤を責めているわけじゃないんだ。それにしても、俺の命令は絶対だ……みたいな顔してて、最後の最後に命令拒否なんだもんなぁ」


 ユキトの脳裏に、あの時の決意に溢れたアルマの目が浮かぶ。「やめろ」というユキトの命令を、アルマは自分の意志で拒否したのだ。決意した者の瞳があんなにも美しいものだなんて、ユキトは知らなかった。


「……で、(いとま)対策はどうするの?」


 話が本筋に戻るように、クレアールはあえて現実を突き付けた。


「地球の歴史をいじられて俺が付与した加護を消されるとなると、完全にお手上げのような気もするんだが、そうも言ってられないしなぁ」


 ユキトは頭を掻きながら、口をヘの字にして考え込んだ。何か強力な加護を用意するという解決策だけでは、(いとま)の攻撃方法に対抗できない気がする。


「なら、私に一つ案があるんだけど……」


 *****************


 そこから、2年が経過した。


 ユキト達はクレアールの案に従って、世界を回る旅に出ている。そして今向かっているのが、アスファール王国やハルシオム皇国がある大陸から、海を南へ渡った先にある別の大陸というわけだ。


 ユキトも南大陸が存在すると言う話は聞いたことがあった。だが、二つの大陸を隔てている南大海が広大なため、両大陸間の交流は盛んではなく、ほぼ忘れかけていたのが実状だ。


 南大海は嵐も来れば、強大な海の魔物も出現する。航海リスクが高いため、両大陸の国々がお互いに攻め込むような事態も成立しにくくなっている。海の向こうの国を攻めるために大軍を送っても、海を渡る前に全滅してしまうと、同じ大陸内の他国に付け入られる隙となってしまうためだ。それに、仮に無事に軍隊が上陸できても、戦況に応じて援軍を送るのも難しい。


「まぁ、俺達が遭難することはないだろうけどな」


 ユキトはそう言うと、お付きのメイドに視線を向けた。正体が創造の女神であるクレアがいれば、船の遭難などとは無縁のはずだ。そもそも、魔物程度ならファウナが瞬殺であるし、嵐はフローラが消し飛ばす。世界最強と言って間違いないパーティーなのだ。


「んだば、船を出すぞぉ~」


 日焼けした船員が大きな声を張り上げた。船のマストが大きく膨らみ、帆が風を捕まえる。大きな船が、ゆっくりと岸を離れていき、少しずつ速度を上げて海へと進み出ていくのだった。


「さて、準備に行きますか」


 ユキトはアルマの消えていった空を見上げ、そう呟いた。


 *****************************



「正体を現したな……漆黒の魔王、いや清水 雄介!」


 俺はかつてのクラスメートの名を叫んだ。碧空の魔王、赤熱の魔王、深緑の魔王を倒し、この世界に平和が戻るかと思えば、裏で糸を引いていた漆黒の魔王が登場するとは。しかも、その漆黒の魔王の正体が清水だったとは思わなかった。


「くくく、久しぶり」


 清水はニタリと笑うと俺達を見渡した。そうだ、こいつはこんな下卑た笑いを浮かべるやつだった。


「ようやく、復讐を果たせるよ……俺がどんな気分でお前たちを見ていたか分かるか? ん?」


 粘着質な声で、清水が俺達に語りかけて来る。正直言って、こいつが加藤達にいじめられていたのは知っていた。だが、コイツ自身も充分に陰湿で性格が悪く、俺がそのことで清水に同情したことはない。


「加藤達は死んだんだ。そもそも、俺達はお前に恨まれる筋合いはないぞ」


「黙れ……クラスの皆が同罪だ。加藤達が死んだ? そうだろうな。あれは俺がやったんだからな。あっさり殺し過ぎて後悔しているんだよ。キミらは楽には死なせてやるもんか。

 でも、特別に井上だけは俺の奴隷として生かしておいてあげようかな」


 そう言うと、清水は好色な眼を井上に向け、再びニタリと笑った。ああ、ダメだ。やはり、こいつはここで潰す必要がある。俺は元クラスメートを殺す覚悟を決めると、聖剣バリアングスを正面に構えた。


「清水…お前は


「はい、お取り込み中 失礼しまーーーっす!!」


 明るい声が聞こえたのはその時だった。清水の援軍でも来たのかと焦ったが、見れば清水も随分と驚いている。そりゃ、この迷宮の深層に俺達以外の第三者が存在するとは思わない。いったい、何者だ?


「!?」


 清水の動きを警戒しつつも、声の発生源を確認した俺は再度驚かされた。そこには全裸の男が立っていたのだ。いや、正確には全裸ではなかった。その股間には女性の頭部がくくりつけられ、それによってイチモツが辛うじて隠されている。一瞬、女性の生首かと思ったが、あの質感は人形の頭だろう。どちらにしても悪趣味極まりない。


「お前……なんなんだ?」


 清水にしても予想外の展開のようだ。困惑した様子で、突然出現した男に問いかけている。確かに、なんなんだ。


「ふふふ、魔王を倒しても第2、第3の魔王が……ってアレ? まだ、魔王が死んでないのか。ちょっと出るのが早すぎたね」


 股間だけを隠した男は、そんな意味不明なことを口にした。だが、その外見はこの世界には滅多に見ることのない黒い髪に加えて瞳も黒色でもあるし、彼が口にした内容も元の世界のゲームのそれに近い。やはり、日本人だろうか。


「お前は清水の仲間ってわけじゃなさそうだな。とはいえ、俺達の味方とも限らないが」


 聖剣を清水に向けたまま、俺は全裸マンへと話しかける。日本人男性らしき人物が、急にこんなところに現れるということは、ただ事ではないはずだ。清水とは知り合いではないようだが、俺の敵となる可能性も充分にある。まずはこいつの目的を探るべきだろう。


 しかし、清水はせっかくの復讐を邪魔されたことが不満だったようで、勝手にその怒りを爆発させていた。


「誰だか知らないが、俺の神聖な時間を邪魔するんじゃないッ!!」


 唾を飛ばしながら叫ぶ清水の手から、黒い球体が放たれる。当然、ターゲットは謎の男だ。その球体に込められた破壊のエネルギーは、離れた場所に立つ俺にもビンビンに伝わってくる。これは危険な攻撃だ。流石は漆黒の魔王と言うだけのことはある。


 あの男を助けるべきか、見捨てるべきか。一瞬迷ったが、清水を前にして隙を見せるわけにもいかない。ここで俺が倒れれば、この世界も井上もアイツの好きにされてしまうのだ。謎の変態よ!スマン!


 俺がそんなふうに心の中で、謎の男に謝ったと同時に、清水の攻撃が男に命中した。


 シュパッン!!


 空気を振るわせる高い音とともに、男の上半身は消し飛んだ。文字通りに上半身を失い、ドサリと腰から下が地に倒れる。


「くくく! さて、おかしな邪魔が入ったが、これでようやく本来の復讐が進められる」


 そう言って、清水がこちらに向き直った。俺も気持ちを切り替え、剣を握る手に力を込める。もちろん、さっきから剣先は清水に向けたままだ。


「そんな逆恨み、こっちは大迷惑なんだがな!」


「清水くん……世界はアナタのものじゃないわ」


 井上もその手のロッドを清水に向けた。非力な井上だが、竜の群れをも屠る魔術を操る卓越した魔術師だ。だが、それだけの魔力を得るまでに積んできた経験は並大抵のものではない。ここにたどり着くまでに、親友の友香を亡くしたり、自身も何度も死にかけたりと、それなりに地獄を見てきている。


 だが、それを知らない清水は、この世界において自分だけが虐げられてたと信じていた。恐らくは前の世界でもだ。


「ぬかせ……恵まれた環境にいたお前らに、俺の気持ちが分かるはずもない! 長かったんだ。俺の屈辱が……やっとやっとや ッ!?」


 狂気めいた清水の言葉はそこで途切れた。


「え? な……なんで?」


 驚愕する清水の胸からは、人間の左腕が突き出していた。清水が背後から貫かれたのだと気付いたのは、その貫いた手がピースサインを作ってからだ。


「こういう展開ってベタだから、ちょっと弄りたくなっちゃうよね」


 そう言って、清水の背後から顔を覗かせたのは、さきほど清水に殺されたはずの男だった。消し飛んだ上半身は何事もなかったかのように復活している。


「き、貴様……!」


 清水が後ろを振り返りながら、物凄い形相で男を睨みつけた。


「人間は絶望を乗り越えられない。だから、物語に、虚構に、エンタメに逃げるんだ」


 何の話をしているのか分からないが、にっこりと場違いな笑顔で男は語る。


「そして、物語は、虚構は、エンタメは安心できるものでなければならない。お約束が尊ばれるのはそのためだよ。深淵の恐怖から目を背けるために、安心が必要なんだ」


「ぐあああっ!!」


 胸を貫かれた清水は苦しそうな表情のまま、裏拳を放った。振り抜いた拳が背後の男を殴りつける。


 ボグッ!!!


 顔面を殴られた男はそのままゴロゴロと転がった。だが、男は地に倒れた姿勢のままで、その語りを続ける。


「でも、現実はお約束通りにはいかない。なぜなら現実だから。正直爺さんは報われない。誠実なだけの男はモテない」


 そこまで喋って、むくりと音を立てるかのように、男が立ち上がる。その表情はやはり笑顔だ。意味が分からない。隣を見ると、井上もロッドを持つ手が震えている。怖いのだ、その男が。ひたすらに不気味なのだ。


「君たちの現実(ものがたり)は運が悪かった。でも現実では良くあることなんだ。そう、運が悪かった。君たちはボクと出会ってしまった。とても残念だ。可哀そうに」


 男はそう言うと、その場で手をパンと合わせる。まるで無邪気な子供がするように。だが、その音とともにグシャと清水が潰れた。


「え?」


 井上が呆けた声を出す。俺も目の前の光景が信じられなかった。清水があっけなく、叩かれた蚊のように潰れたのだ。漆黒の魔王が持つはずの耐物防御も、耐呪防御も、不死に近い再生力も、何ら意味を成さずに潰れたのだ。潰れた清水は――


「ま、そういうことで」


 パン! パン!


 男は2回、手を叩いた。俺達の現実(ものがたり)はここで終わった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

新章というほどでもありませんが、ここから数話は最終決戦への準備期間となる予定です。

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