第168話 さよなら!?アルマの決断
前回のお話
地球の歴史を改竄することでユキト達の加護を無力化する暇。
次々と仲間が倒れていき、ユキトも絶体絶命の状況に陥る。
その時、何者かが暇を背後から抱き締めたのだった。
メイド服の袖口から伸びた白い腕が、暇を背後から抱き締めていた。もちろん、これは愛の表現というわけではない。ユキトにとどめを刺さんとする暇の動きを封じるため、アルマのとった行動の結果である。
「ん? お嬢さん、自爆でもするつもりかい? やめておいた方がいいよ。キミの持つ全てのエネルギーを爆発力に変えたところで、ボクは死なない。
それに今のキミは加護もない状態だし、大したエネルギーは出せないでしょ」
そのように言われたアルマは相変わらず無表情のままだ。
そもそも、戦闘で折られた右足でどのように移動したのかと見れば、折れていた彼女の右足は切り離され、代わりに堅い材木が刺し込まれていた。どうやら、この材木を脚の代わりとして移動したようだ。戦闘で破壊された家の一部だろう。人造人間だからと無茶をするものだ。
「メンバーの一人が自爆することで強敵を倒すのは、アナタの世界では良くあるストーリーだと聞いています。ですが、その前に……アナタにお尋ねしたいことがあります」
「尋ねたいこと? ボクが独身か否かってことなら、間違いなく今は独身だよ」
ユキトにトドメを刺そうと両手に集めていたオーラを霧散させながら、明るい口調で暇は会話に応じた。ユキトが「自爆!?」と慌てているが、アルマは気にせずに話を進めるつもりのようだ。
「いえ、婚姻の状態を確認したいわけではありません。
ウツロイ イトマ、アナタは故郷である世界に戻らないのですか?」
「ああ、そういう話? そうだね。確かにシジョウ君の加護の参照を辿ることで元の世界のある方向は把握できたし、深淵の力もあるから、帰ろうと思えば帰れるねぇ。ま、帰る気はないんだけど」
「逆を言えば、今までは帰ろうと思ったとしても帰れなかったのですね?」
「まぁ、ボクにはランダムで異世界に飛ぶ『異界漂流』の能力があるから、無限回の試行で帰れたと思うけど、時間はかかっただろうね……ところで、これってキミの加護が修復されるまでの時間稼ぎだったりする?」
「いいえ。
しかし、深淵の力だけでは元の世界へと帰れないのですか? それだけの力があれば、自由自在かと思いますが」
アルマは時間稼ぎかという暇からの指摘を否定すると、そのまま問いを重ねる。暇も特に気にする風もなく、回答を続けるようだ。アルマの加護が復活したところで、特に困らないという意志表示なのかもしれない。
「うーん、深淵の力は確かに強い力なんだけど……世界の移動に関して例えるならば、海の真っ只中の孤島にいる状態で、超高性能のボートを手に入れたようなもんだね。元の世界にあたる島がどっちにあるか分からないままで移動しても、辿り着くのには莫大な時間が必要になるってことさ。
まぁ、ボクが今よりもっと深淵の力を引き出せれば、好きな世界を探知することもできるんだろうけどねぇ」
「承知しました。ご回答、ありがとうございます」
「あれ? もう良いの? ボクはもっとキミの好きなたべも――」
「マスター、時間を稼ぎます。後のことはよろしくお願い致します」
自爆という単語を聞いて慌てているユキトの顔を見据えて、アルマはそんなセリフを吐いた。アルマはいつも通りの無表情ではあるが、その瞳の奥には悲壮な決意が感じられる。
「おい!? アルマ、やめろ!!」
思わずユキトが叫ぶ。
「えー、自爆でボクをバラバラにしてもあっという間に戻っちゃうよ? 時間稼ぎになるかなぁ……でも、せっかくの自爆だから『ふぅ……おどかしやがって……!』くらいは言ってあげるね」
暇は焦点が定かでない瞳で真っ直ぐ正面を見据えたまま、余裕を持った口調で背後のアルマに語りかけている。
「お好きにどうぞ。私が少しでも時間を稼ぐことができれば……マスターは必ず対策を見つけるはずですから」
「おい、アルマ、やめろ! 命令だっ!」
アルマの宣言に、ユキトが大声で撤回を命じる。だが、アルマはぎこちない笑みをユキトに返すことで、自身の意志を主人へと伝えた。
「クレア、後のマスターのお世話についてはお願いします。そして、皆さまによろしくお伝えください。
マスター……お元気で。お部屋の掃除はこまめにお願いします。朝も早起きをして下さい。他にもありますが、このくらいにしましょう。
……ではクレアール様」
タイミングを計っていたのだろう。アルマの合図とともに彼女の加護が修復された。どうやらクレアールとは、打ち合わせ済みだったようだ。スーパーロボットをモチーフにした加護により、強大なエネルギーがアルマの小さな身体に漲っている。
ズバゥゥゥゥゥン!!!!
加護が修復されると同時にアルマは脚部を切り離し、下半身から強力なジェットを噴射して空へと飛び上がる。もちろん、暇を抱き締めたままだ。
「アルマ!!!!」
ユキトは狼狽した表情を隠すことなく、アルマが飛ぶ空を見上げた。
ゴオオオオオオオ!!!!
轟音とともにグングンと速度を上げるアルマ。真っ直ぐに真上へと飛んでいく。
「おおっ! 二人きりで旅行とは大胆だねぇ」
相変わらずの様子で暇が茶化してくるが、アルマは無言のまま加速する。そのまま速度が上がっていき、遂には衝撃波が発生するに至った。音速を超えたのである。
「今から私が行う行動は……他の世界に与える影響を考えれば、きっと許されることではないのでしょう……それでも、私はマスターに生き延びて欲しい……そのためならば、他の世界も私の存在も犠牲にできます」
音速を超える飛行である。アルマの声は暇には聞こえていないはずだ。
だが、暇も状況が何かおかしいことに気が付き始めていた。彼は、アルマが空へと飛翔したのは、ユキト達が自爆の巻き添えになることを避けるためだと思っていたのだが、それにしては高度が高すぎる。先程の謎めいた質問のこともある。
そんな現状を分析して、暇はアルマの意図に辿り着いた。
「あ、やられたね……狙いは自爆なんかじゃないな。
全く……人間様に嘘をつくなんて、ロボット三原則を知らないのかい? いや、三原則で嘘は禁じられてないけど」
確かに、地球で知られているロボット工学三原則には嘘を禁じる項目はない。もちろん、電子辞書経由でアルマも知識としては知っているだろうが、そもそもアルマは敵であれば人間であっても攻撃するので、第一条から守っていないことになる。
そうこうしているうちに、アルマのジェット噴射の威力が更に強化される。
「なるほどね、自身のエネルギーを暴走させて、その力でボクを違う世界に飛ばしてしまおうって腹積もりか。 ボクがこの世界に帰って来られないように……ちっ、指標魔法!!」
今回の一連の戦闘において、初めて苦々しげな表情を見せた暇は、その指先から黒い棘のようなものを幾つも射出した。座標を知らせるための指示魔法の一種のようだ。異世界に飛ばされても、この世界に戻ってくるための目印であろう。
だが、地上へ落ちていく棘に向かって、天空から白い光が幾筋も照射されたかと思うと、その棘を次々と分解していく。黒い棘は空中で塵へと化し、地上へ達するものはない。
「なるほど、女神様もグルってことか。何が何でも、ボクを所払の刑……ならぬ、異界払の刑に処すつもりってことだね。仕方ない……シジョウ君には少し時間を与えることにするか」
暇はフッと笑うと、そのまま抵抗を止めた。アルマの自身を犠牲にする行動の結果を受け入れることにしたらしい。無限の時間を有する不滅不死の男は諦めも早いのだ。程なくして、アルマの速度が時空を突破するのに必要な速度へと達した。
「私の宝珠の全てをエネルギーに変えてッ……アルマイガー次元跳躍!!!!」
アルマが叫ぶと同時に、アルマの体内の宝珠が砕け、莫大なエネルギーが放出された。その荒れ狂うエネルギーの奔流によって、2人は七色の光に包まれ、そのまま一筋の光と化す。やがて、その光は蒼い空に吸い込まれるように消えていった。
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