第167話 パーティ全滅!?最大の危機!
前回のお話
サブシアに乗り込んできた暇。
彼は地球の歴史に干渉し、ユキトの加護の元となるアニメや漫画の記憶を塗り潰すことで、ユキトの加護の無力化を図った!
ゴッ!
「がはっ!!」
暇の蹴りを腹に受け、ユキトは苦悶の表情とともに後方へと転がった。
この世界から見れば、異世界にあたる地球。その地球の歴史を改竄することで、ユキト達の加護の無効化を図る暇の前に、ユキト達は劣勢を強いられていた。正直に言えば退却したいユキトだが、戦場となっているのがサブシアであることを考えると、そういう訳にもいかないだろう。ユキト達が逃げれば、恐らく次は領民が被害に遭うことは想像に難くない。暇という男はそういう男だ。
「裸を隠すのには、やっぱりこういうオーラみたいなものがいいよねぇ。フルヌードは規制の対象さ。でも、やっぱりブルーレイ版ではオーラはなくなっちゃうのかなぁ」
そんなことを嘯く暇の身体からは、黒いモヤが尽きることなく立ち昇っており、その黒いモヤが全裸である彼の服代わりとなっている。クレアールによれば、そのモヤに見えるオーラが地球の歴史から、ユキトの加護の参照元となっているアニメや漫画を消し去っているらしい。
「あの大ヒット作がなかったら、社会はどう変わるんだろうね」
暇はそう言って、クックックと笑う。アリスに出てくるチェシャ猫を思わせる笑い方だ。
本来、何らかの必要があって神々が歴史を修正する場合には、その修正が世界に影響を与え過ぎないよう、慎重に行われるものだ。だが、目の前の男はただ無造作に世界の記憶を塗り潰しているだけであり、世界に与える負荷は計り知れない。負荷をかけ過ぎれば、世界が崩壊することもあり得る。
(……ファウナちゃんの加護の修復完了! 次はユキトの加護を修復するから!)
そんな中、クレアールは故郷の世界を崩壊させないためにも、必死に暇が改竄した過去を修復していた。もちろん地球は管轄外ではあるが、これでも創造神なのである。修復は可能だ。
「クレアール様、ありがとっ!! とりゃああああ!!!!」
ボグッゥゥゥ!!!!
クレアールにより加護を修復されたファウナは直ぐさま暇に向かって走り、彼を全力で殴り飛ばした。その強力な加護の力もあり、殴られた暇は勢い良く地表を転がっていく。だが、この加護もいつまで有効かは不明だ。ゆっくりと立ちあがる暇の身体からは、いまだ黒いモヤが止めどなく発せられている。
「痛てててて、もうお転婆エルフに戻っちゃったか。ボクはもう少しお淑やかな方が好みなんだけど。まぁ、すぐにまた加護は消えるからね。ほら、こんなふうに」
(あぁ、もう! またセバスさんの加護が消された!)
クレアールの愚痴がユキト達の脳内に響く。
現状は、暇がユキト達の加護を無効化していき、クレアールがそれを解除するという構図である。しかしながら、無効化に比べると解除の方が時間を要するため、戦況としては徐々にユキト達が押されていた。
「クレアールのおかげで、加護が消されているのを認識できるだけでもありがたいさ。さっきファウナの加護を消された時、俺の中に何らかの違和感はあったけど、自分達じゃ何が変なのか、気が付けなかったからな。
……ってか、過去を改竄なんて、神様が味方にいないとどうにもならない無理ゲーじゃないか?」
倒れていたユキトが、口元の血を拭いながら立ち上がる。宇宙警察を模した白銀の鎧が復活しているので、ユキトの加護が修復されたようだ。
(この世界の記憶は固定化しておいたからね……皆の認識くらいなら修復するのは簡単なんだけど、ユキトが付与する加護は地球上の記憶を参照しているから……って、あああああ! さっき修復したファウナちゃんの加護がまた!!)
この世界を対象とした干渉であれば、クレアールの権限で防ぐことも可能であるのだが、暇が狙ったのは加護の参照先である地球だ。管轄外の世界では、神の力も十全に発揮できない。
「加護が消えた時に受けたダメージは残る。そろそろ体力がキツくなってきた頃じゃない?」
ふっ飛ばされた自身の身体によって抉られた地表を、暇がテクテクと歩いて戻ってくる。確かに彼の言う通り、死なない存在を相手に、ジリ貧の持久戦を続けるのは分が悪い。ユキトは奥歯を噛みしめた。
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――数時間後。
「……くそっ」
既にファウナもフローラも地に伏し、アルマは右足を圧し折られている。ユキトを庇って暇の攻撃を受けた結果だ。その肝心のユキトも既に満身創痍の状態だった。
先程、加護が回復したセバスチャンが暇へと斬りかかったが、首を飛ばしても死なない男が相手では、時間稼ぎにしかならないだろう。
だが、その僅かな時間も貴重だ。イーラはユキトに回復魔法を施し、非戦闘員のストレィは回復薬を持って、倒れたファウナとフローラの元に走る。
「妾は、回復魔法は得意ではないのじゃがのぅ」
そう述べながら、イーラはユキトの傷を青い癒光で塞いでいく。
「サンキュー、イーラ。でも、特別顧問だからって、イーラにサブシアを守る義理はないだろうから、勝手に逃げていいんだぞ」
「ふん、妾とて尻尾を巻いて逃げるのは気に入らぬ。
しかし、アヤツ……力の扱いに慣れてきたのか、実力を隠していたのか、徐々に強化されておるようじゃ。このまま放置しておけば、この世界全体に仇なすことは間違いなかろう」
イーラは目を細めて、セバスチャンによって膾切りにされている暇を睨みつける。ユキトもその視線を追いながら、ゆっくりと立ちあがった。
「くそっ……何かアイツに有効な手段はないのか」
(私がそこに降臨して戦うという手もあるんだけど、アイツが地球に干渉しているのに対処するには、神界からがベストなの。それにアイツ、地球への干渉だけじゃなくて、隙あらばサブシアの住民に性質の悪い呪いをかけようとしているから、それも防がないと……)
クレアールはそう言って、降臨して戦えないことをユキトに詫びる。どうやら、ユキトの知らないところでも、暇とクレアールの攻防がなされていたらしい。
なお、呪いの内容は、住民をムカデ人間にするものであったり、親が子に対して抗えないほどの情欲を抱くものであったり、糞便が鼻から噴出して止まらなくなるものであったりと、いずれも碌でもないものばかりである。
「……いや、クレアールの補助がなければ、俺達はもっと早くに崩されていた。クレアールはアイツの搦め手をそこで防いでおいてくれ」
クレアールがこの場で戦闘に参加してくれたとしても、そのせいで加護の修復が遅くなるのであれば、結果は似たようなものだろう。更には、暇が再びサブシアの住民に牙をむいたとき、その行動への対応が遅れてしまうことは避けたい。
「とは言え、手がなくなってきたな」
既にファウナの拳は何度も暇の全身の骨を砕いている。フローラの魔法は3度も彼の細胞を焼き尽くした。加えて、イーラによって4度は凍結粉砕され、セバスチャンによって5回は両断されている。アルマイガーGのハルバードも暇に直撃した。
だが、暇は死なない。別世界の主神が自身の滅びの際にかけた不滅不死の呪い。それに深淵の力を混合させた世にも禍々しい力が、決して彼に死を許さないのだ。
(深淵の力が加わってなければ、いくらでも手はあったのに……)
クレアールが悔しがる。それほどに深淵の力というものは、強力で危険な代物なのだ。
「ぐぐぐ……無念……」
ドサッ……
加護が消えたのか、体力が尽きたのか。セバスチャンが暇の前に倒れた。セバスチャンとは対照的に、身体中に斬撃を受けているはずの暇は元気いっぱいだ。
暇はニコリと笑みを浮かべて、セバスチャンに近づくと、その手中に黒いモヤを集めて球形に凝縮した。トドメを刺す気のようだ。
「まずは一匹かな。サヨナラ♪」
暇はそう言って、黒い球体をセバスチャンの頭に向かって投げ降ろす。
「っぶね!!!」
間一髪、回復が間に合ったユキトが横から飛び込み、セバスチャンの身体を抱えたまま、大地を転がる。
「ありゃ、シジョウ君ってまだそんなに動けるの……なんてね!」
「…しまった!!」
暇の言葉を受けて、彼の方へと視線を戻したユキトは自身が嵌められたことを悟った。暇がセバスチャンの頭部めがけて投げつけたと思った黒い球体が、そのまま暇の手の中に納まっていたからだ。投げる動作はユキトを引き寄せるための演技だったということになる。
「ていっ!!」
ボフンッッ!!!
今度こそ暇の手を離れた黒い球体が、セバスチャンを助けたことで体勢を崩したままのユキトに命中した。白銀の鎧が砕け、あたりに破片が飛び散る。
「ああああああ!!!!」
咄嗟に身体を捻ることで頭部を庇ったユキトだったが、右肩に直撃を受けてしまったようだ。その衝撃でユキトは数メタほど転がり、あたりに赤いものが撒き散らされた。白銀の鎧がなければ、即死だっただろうが、決して小さいダメージではない。
「まぁ、まずは敵の大将を潰すのが鉄則だよね」
暇はそう述べると、痛みに呻くユキトの方へと歩み寄ってくる。
(ユキト!!)
「おっと、女神様による回復かな? それとも退却? どちらにせよ、邪魔はさせないぴょーん」
恐らくはクレアールの力であろう。天からユキトに光が照射されるが、暇はそれを身体から発する黒いオーラで遮った。
「さて、ゲームオーバーかな。こういうあっけない結末の異世界ラノベがあってもいいと思わない? 次週からは新番組『がんばれ!イトマくん』が始まるよ~」
そう言うと、暇は先程とは一変して禍々しい笑顔を浮かべ、その両手に黒いオーラを凝集する。
だが――
ヒシッ
「……ん?」
突然、暇が背後から何者に抱き締められた。
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