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第17話 潜れ!鬼退治!

 

「ダンジョンってのはどういう存在なんだ?」


 ユキトの疑問に対して、フローラが詳細に解説してくれた。


 なんでも、ダンジョンが自然の洞穴などと異なる点は、ダンジョンコアの存在にあるらしい。


 まず、生まれたばかりのダンジョンにはコアのみが存在し、最初に付近の魔物などを呼び込む。呼びこまれた魔物はコアと同化し、ダンジョンはその同化した魔物の性質を反映して成長していく。そういう意味ではダンジョンは生き物であり、魔物の一種ではないかと言われているとのことだ。


 なお、コアと同化した魔物は、そのままコアと同化したままでダンジョンマスターと呼ばれるケースと、ある程度ダンジョンが成長したところで分離してガーディアンとなるケースとがあるらしい。


「そういうわけで、獲物を誘い込むのがダンジョンの特徴ですの。私たちがここに迷い込む原因となったトラップもダンジョンから生成されたものでしょう」


「で、脱出魔法の効果が出ないのは、ダンジョンが生きてて、獲物を逃がさないように魔力的な干渉をしているからってこと?」


「そうですわ、ユキト様。ですので、ダンジョンコアを破壊し、ただの洞窟にしてしまえば、脱出できるかと思いますわ」


 ダンジョンコアを破壊するか、出口を探すか。ユキト達に出来ることはその2択。

 ユキトとしては脱出できれば問題はないのだが、どうやら近辺の村で目撃されていたオルグゥの供給地点はこのダンジョンのようだ。


 目立つ魔物であるはずのオルグゥが、いざ探すとなかなか見つからなかったりしたのは、このダンジョンを出入りしていたためだろう。このダンジョンはオルグゥの巣であり、供給地でもあるのだ。危険極まりない。


「ここに出現する魔物を考えますと、ほぼ間違いなくダンジョンマスターはオルグゥですわね」


 フローラの推測はユキトとしても同意できるものだ。


「まだギルドにも報告されていないダンジョンなので、生成されてからさほど時間は経過していないと思われますが、それにしては広いです。ダンジョンの成長の速度はオルグゥの生命力譲りなのかもしれません」


 セバスチャンも同じ考えのようである。それにしてもファイアボールしか使えなかったフローラを護衛しながら、オルグゥを倒していたとすると、セバスチャンはかなり強いということになる。戦う執事なのか。


「セバスさんは、その剣で戦うのか?」


 ユキトはセバスチャンに尋ねてみる。セバスチャンの格好は執事服っぽいのだが、腰には細身の剣を帯びている。


「はい、さようでございます。これでも若い時分には名を知られていたものです」


 やはり、彼は戦う執事のようだった。


「ただ……」


 少し困ったような顔でセバスチャンが続ける。


「ここに出没するオルグゥの中には、カウムオルグゥもいたので、少し剣が痛んできております」


 カウムオルグゥは、オルグゥの一種であるが、洞穴の中に棲み、身体の一部が鉱石化しているオルグゥである。当然、その部分は硬い。


 ユキトが斬った中にも2匹混じっていたのだが、ユキトは気付いていない。暗かったのと、チート能力の前には、普通のオルグゥもカウムオルグゥも同じなのだ。


「剣か……」


 相手が剣となると、ユキトとしても有効な手を思いつけない。まさか鍛冶になって、ここで打ちなおすわけにもいかないだろう。そもそも、鍛冶ができる加護を思いつけそうにない。


(待てよ……武器に加護って付与できないのかな?)


 確か、管理者の言葉では、加護は任意の対象に付与できるはずだ。当然、物品にも付与できると思われた。試す価値はある。


「セバスさん、その剣って特に思い入れとかは?」


 ユキトとしても、物質に加護を付与するのは初めてだ。剣が変質してしまう可能性もあったので、先に尋ねてみる。


「1年ほど愛用しておりますので、全く愛着が無いわけではありませんが、逆に言いますとその程度でございます。特に高価な品でもございません」


「(なら大丈夫か)じゃあ、ちょっと借りていいか? どうにかできるかもしれない」


「どうぞ」


 先ほど、フローラへ加護を与えたこともあり、セバスチャンからも信用してもらえているようだ。セバスチャンは鞘ごと剣を引き抜くと、ユキトへと手渡す。


 ユキトが鞘から剣を引き抜くと、なるほど、僅かではあるが刃に欠損している箇所もあり、万全とはいえないコンディションである。


 ユキトは受け取った剣を手に、加護について考えを巡らせる。


(出てくるのがオルグゥばっかりだし、この昔話でやってみるかな)


 ユキトは、鬼とそっくりのオルグゥならば、この伝承でいけるのではないかと推測し、日本人ならば誰もが知るあの昔話をイメージする。果実から生誕し、鬼族を打倒し、金品を強奪した英雄を。


 +鬼殺しの加護:オルグゥ族、アヌブ族、ギガス族に特攻 及び 動物への「馴致」を得る

   攻撃力 +300%(特攻時)


 ユキトの能力により、無事に桃太郎をモチーフにした加護がセバスの剣に付与された。オーガキラーならぬオルグゥキラーである。他にも有効な種族がいるようだが、恐らく鬼に近しい姿や生態をした魔物なのであろう。動物を従える能力がついているのはおまけだ。


「これは……」


 加護を与えたことにより、ただの剣からオルグゥキラーとなった剣は、研いでもいないのに、その鋭さを取り戻していた。どのような作用があったのかはわからないが、これも加護によるものであろう。


「どうやら、ユキト様はとてつもない能力をお持ちのようですが、詮索は致しません」


 セバスチャンはユキトの能力がとんでもないものであると見抜いたようである。だが、当然ながら普通はそんな能力は秘匿するものであり、詳しく尋ねるべきでないと判断したようであった。

 一方で、隣のフローラは詮索しないという言葉に「えー」とでも言い出しそうな不満げな表情をしていたので、遅かれ早かれ詮索されるような気もする。


「しかし、これでフローラ様を無事に地上にお連れする算段も立ちました。ありがとうございます」


 そう言うとセバスチャンは頭を下げる。ユキトは慌ててそれを止め、まずはここを出ることが重要だと告げた。ユキトの能力は確かにチートだが、この世界の知識が不足している。ユキトとしても単独よりは複数で行動した方がありがたいのだ。



 一時的にパーティとなった3人は結界内で休息をとることにした。ダンジョンの捜索において、魔物の襲撃を気にせずに休める時間というのは重要だ。結界魔法の使い手は、この世界にも多くない。

 安全地帯(セーフティゾーン)のあるダンジョンもあるが、そうでない場合は、先ほどセバスチャンが言っていたように、小部屋に入って、交代で出入り口を常に見張っておき、残りのメンバーが休憩する形を取る。これも敵襲があれば、即座に戦う必要があるので、慣れないうちは安心して休めるものでもない。


 ちなみにフローラもユキトも休憩中は変身状態を解除している。ユキトの変身と同じく、フローラも変身した姿だと少しずつ魔力を消費するらしかった。



 ――さて」


 1~2時間程度は過ぎただろうか。半日近くダンジョンを彷徨っていた現代人(ユキト)としては、2日くらいは寝ないと疲れは取れない気分だったが、この世界の冒険者であるフローラとセバスチャンにとっては充分だったようだ。


「皆様、そろそろよろしいでしょうか?」


 セバスチャンの合図で、にわかパーティは再びダンジョンへと向かうことにする。ユキトもフローラも移動中は変身しないつもりのようだ。魔力を節約するためである。


「当然、向かうは深層だよな?」


 ユキトは半ば答えを予想しつつ、フローラに尋ねる。


「もちろんです、ユキト様。ダンジョンコアを破壊しなければ、いつまでも近辺にオルグゥが居座ることになりますわ」


 ユキトの予想に沿った内容を、真剣な表情で返答するフローラ。ユキトとしても仕方ないかという気分である。上に向かうより、早いかもしれない。


 休息した部屋には複数の出入り口が存在していた。ユキトが来た通路でも、フローラ達が入って来た通路でもない出入口を選び、3人は再びダンジョンへと潜って行く。仄暗い通路を3人で警戒しながら進む。


「早速、出ましたな」


 セバスチャンの声で通路の奥を凝視すると、もはや見慣れた巨大な影が見える。オルグゥだ。変身しようとするユキトだったが、それを軽くセバスチャンが制する。


「ここは私めが」


 そう言うと、セバスチャンは疾風のように駆け、オルグゥに近づくと剣を一閃させた。速い。浅くない傷を負ったオルグゥも、セバスチャンに向かって拳を振るうが、あっさりと回避され、カウンター気味に肩口からバッサリと斬りつけられた。


 ズズン……


 重低音を響かせて、オルグゥはあっけなく地に伏す。分かっていたことだが、この執事はかなり強い。


「いや、この剣はすばらしいですな。オルグゥを斬るのに、全く抵抗を感じない」


 戻ってきたセバスチャンは、剣の血をぬぐいながらユキトに剣の感想を述べた。


「セバスさんの腕があってのことさ。それに、他の種族にはそこまでの切れ味はでないから気をつけてくれ」


「承知してございます」


 鬼殺しの加護により、鬼のような種族の魔物には効果が高いが、それ以外の魔物には普通の剣である。セバスチャン程の腕の者なら、その差で戸惑うこともないだろうが、未熟な者であれば、切れ味の変化についていけず、不覚をとる可能性もある。


「さて、とっとと深層にあるダンジョンコアを目指そうか」


 ユキトが歩きだしたその時だった。


 ズン……


「…ォォォ」


 地響きのような揺れと、低いうめき声が通路の風に乗って響いてきた。声の方はオルグゥのうめき声のようだが、揺れの方は何だろうか。


「ダンジョンのボスか?」


「分かりかねますが、戦闘をしているような響きに感じます」


「ユキト様、様子を見に行きましょう」


 もし音源にボスがいるのであれば、倒すべき相手だ。そうでなくても、何か異常が起きている様子である。3人は音の響いてきた方向へと向かう。


 ***********************


 5分くらい通路を移動しただろうか。オルグゥのうめき声も、あれからすぐに聞こえなくなった。

 戦闘だったとしてもすぐに決着がついたのだろう。

 そんなことを考えながら3人が歩いていると……


 バゴォーーーン!!!


 ユキト達が歩いている通路、その20メートルほど先の曲がり角の影から、1体のオルグゥが吹き飛ばされてきて轟音とともに壁に激突した。そのまま壁にめり込んだオルグゥは動く気配がない。曲がり角の先に何かがいて、オルグゥを壁に叩きつけたのだ。


「気をつけろ! 何かいる!」


 3人に緊張が走る。オルグゥの巨体を壁に叩きつけ絶命させる。どんな化け物の芸当だろうか。先ほどの揺れとオルグゥのうめき声はコイツの仕業であったのだ。


 やがて、曲がり角の先から足音がして、人影がその姿を見せる。ゴクリ……と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。人影はゆっくり3人に近づいてきて――


「ユキト!!」


「え? ファウナか?」


 なんと、声をかけてきた人影はファウナだった。なるほど、ファウナであればオルグゥを壁にめり込ませることも容易いだろう。いずれは山を消し飛ばすかもしれない逸材であるのだ。


「ユキトーーーーッ!!!」


 感極まったのかファウナが涙目になりながら走り寄ってくる。どうやら心配をかけてしまったらしい。そのままファウナに抱きつかれるユキト。


「おいおい、ファウナ……って!? あががががが 締まる!締まってる!!!」


 抱きついてきたファウナの髪の匂いを堪能する間もなく、抱きつかれたユキトの身体がミシミシときしむ。ファウナの力で抱きしめられると死の危険があるようだ。


「ちょ、ギブ! ギブギブギブ!! ギブアーープッ!!!!」


 ユキトの悲鳴がダンジョン内に響きわたった。




「で、ファウナはどうしてここに?」


「どうしてもこうしてもなかよ!? ユキトがおらんかったけん、探しよったとよ!!」


 ファウナは興奮しているようだ。口調で丸わかりである。ユキトも再度締められるのは勘弁してもらいたかったので、まずは落ち着かせることにする。そもそも勝手に動いたのはユキトが悪い。


「分かった。悪かった。俺の落ち度だ。ごめんなさい。」


「……コホン。オルグゥを仕留めて、元の場所に戻ったらユキトがいなかった。驚いて、周囲を探してたら、洞穴を見つけたの。入口にユキトらしき足跡もあったから、中を探してみることにしたってわけ」


 ファウナの口調も戻った。ようやく落ち着いてきたようだ。


「あぁ、あの剣が台座に刺さってた?」


「そうそう。いかにもなトラップで誰がひっかかるんだって感じだったわね」


「……」


 ここで、俺ですとは言えないユキト。


「あ、落とし穴はなかったか?」


「ええ、入ってすぐのところでしょ? 典型的なトラップよね」


「……」


 ここでも、俺が引っかかりましたとは言えないユキト。


 ちなみに、ダンジョンは生きていると言われるだけあって、誰かが引っかかったトラップをすぐに復旧させる性質がある。


 ユキトが落ちた穴についても、ファウナが来た際には既に覆われていたようだ。もちろんファウナはすぐに気付いたわけであるが。


「あれ? あの小部屋って行き止まりじゃなかったのか?」


「奥の方の目立たないところに階段があったわよ? あれ?ユキトもそこから降りたんじゃないの?」


「あ、いや。俺は別の手段で降りたから……」


 落とし穴を手段と呼んでいいのかは疑問である。ファウナもジト目でユキトを見ている。バレているようだ。


「ふーん? で、こちらの2人は?」


 ここでようやくフローラとセバスチャンの方へと話題が移るのであった。




 ――そんなわけで御一緒することになりましたフローラです」


「セバスとお呼びください」


 ファウナも冒険者ギルドの一件で、証言をしてくれたフローラとセバスチャンを覚えていた。


「あの時はありがとう」


 ファウナはフローラに御礼を述べる。ファウナを含めて4人。どうやら仲良くやれそうだ。


 しかも、ファウナとフローラが並んでいると非常に絵になる。両者ともタイプは異なるが、美女なのである。そして、執事っぽいセバスチャンが傍らに立つ。これもまた統一感を崩すことがない。映画のワンシーンのような構図である。そんな中、ユキトだけがどうにも違和感がある。そんな新生パーティの誕生であった。


 **********************


 さらに2時間程経過した。


「だいぶ、下層まで来たわね」


「はい、ファウナ様のおかげで随分と楽に来れましたわ」


「ファウナでいいわよ、フローラ」


「では、ファウナさんで」


 会話こそ女の子同士の華のある会話なのだが、2人の前には事切れたオルグゥの死骸が壁にめり込んでいる。あまり女子トークに向いているシチュエーションではない。


 しかも、めり込んだオルグゥの死骸の横には巨大な扉が姿を見せていた。恐らくは鉄と思われる金属製で僅かに錆も浮いている。


「この扉はやっぱり?」


「はい。このダンジョンのボスがガーディアンなのかダンジョンマスターなのかわかりませんが、十中八九ボス部屋でしょう」


 ユキトの問いにセバスチャンが答える。ダンジョンコアと魔物が融合したままであればダンジョンマスター。分離していたらガーディアンらしい。


「さて、行きますか」


「そうね。どんなボスかしら」


 そこで赤い顔したフローラがユキトの袖をひっぱる。


「……あの……ユキト様、私も変身した方がよいでしょうか?」


「そうだな。何があるか分からないし」


 どうやらフローラとしては人前での変身が恥ずかしいようである。なお、ファウナも既に仲間として認識されており、第3者としては扱われることはない。


「わ、わかりました……ちょっと変身してきます」


 フローラはまるで水着に着替えるかのように物陰に走っていく。

 ユキトとしても、ダンジョンだからあまり離れるのは良くないんだがなぁと思うが、オルグゥは身体も巨大であり、不意打ちとは無縁の存在感がある魔物だ。まぁ、大丈夫だろう。ユキトがそんなことを考えていると、通路の影からピンク色の光が漏れ出てきた。


「お、お待たせしました」


 フリル付きの衣装となったフローラが戻ってきた。予め、魔法少女になっている間は、防護魔法(プロテクション)分析魔法(アナライズ)が使えることを確かめてある。

 頼りになる魔法少女も揃い、いよいよボス戦だ。ユキトも変身を済ませ、準備は万全である。


 今、巨大な扉がゆっくりと音を立てて開かr……ファウナが一撃で蹴り飛ばしたのであった。


閲覧ありがとうございます。


ブクマ、感想、評価などを頂戴できれば励みになります。よろしくお願いします。


8/27 文字数調整のため、いくつかの話を分割したため話数がずれました。(ストーリーには影響ありません)

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