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第158話 コンタクト!教会のお偉いさん

年末の多忙な時期で、しばらく更新が出来ない状態でした。ようやく一息ついたので、更新を再開していきたく存じます。


前回のお話

 (いとま)に支配されたジコビラ連合の中核国。

 だが、その国に何らかの異変が起こっていた。

 

「えー……遠路遥々ようこそサブシアへ」


 応接室の中。ユキトはそう述べたが、言葉とは裏腹に、その表情にはさほど歓迎した様子は見えない。そんな彼の前には、王都からやってきた総教会のお偉方が並んでいる。


 とはいえ、別にユキトも彼らの来訪を拒否したいというわけではない。先触れもない、急な来訪に訝しんでいるだけだ。


 来訪者の1人であるザンブルク司教とは、ユキトも面識がある。ゴツい顔をしているおっさんだが、基本的には善人だというのがユキトの認識だ。


 しかし、そのおっさんの隣に並ぶ2名の顔については、ユキトの記憶にはない。

 ユキトのそんな視線に気づいたのか、ザンブルク司教が2人を紹介する。


「急な訪問にも関わらず、応接を頂き感謝する。こちらは総教会のカエサル大司教。隣がハフストン司教だ」


 ザンブルクの紹介を受けて、両名が目礼をする。


 ハフストンと呼ばれた男は神経質そうな表情をした細身の人物だ。ユキトの記憶が確かならば、ザンブルク司教のライバルのような立ち位置の司教だったはずである。


 一方のカエサル大司教は、いかにも人の良さそうな白ひげを蓄えた老人だ。ただし、その眼の奥には、只者ではなさそうな光が宿っている。ただの好々爺ではなさそうだ。


「お目にかかれて光栄です。サブシアを預かっておりますシジョウ ユキトと申します。

 それにしても、この様な辺境に王都の総教会のお偉方が何の御用でしょう?」


 丁寧な挨拶を投げかけつつも、ユキトも何となく彼らの要件については察しがついている。創造の女神クレアールが関連しているのは、ほぼ間違いないはずだ。


 創造神兼ユキトの友人であるクレアールは、今は人間の姿を得て、サブシアでメイドとして働きつつ、人間の暮らしを楽しんでいる。それがバレたのかも知れない。


(これは王様が総教会に相談したってことか?)


 ユキトは内心でそんなことを考えた。クレアールのことを知っているのは、ユキトのパーティーメンバーを除けば、ユキトが報告を上げたアスファール王くらいのものだ。


 だが、ザンブルク司教から発せられた言葉はユキトの予想から少し外れたものだった。


「このサブシアに、神が降りられたという噂がある」


 噂。ザンブルク司教は真相を知りながら、あえてこのような表現を使ったわけではなさそうだ。

 ユキトの持つテレパシー能力も、ザンブルク司教からそのような思考を読み取ることは出来ない。ザンブルク司教は純粋にその噂の真偽を確かめに来たようだ。


 そうなると、王様が情報を漏らしたわけではなさそうだ。仮にアスファール王が総教会に相談したということであれば、王から聞いたと言えば済む話だ。


「噂とは……?」


 余計な情報を与えないように、ユキトは慎重に問いかける。この問いに、ハフストン司教が身を乗り出して答える。


「教会関係者の間で、このサブシアの街中で強力な神威を感じたという話が出回ったのだ。

 神威を発することができるのは神だけ。つまり、この地に神が降りられたという証拠になる」


 ハフストン司教の説明を受け、ユキトは内心で焦った。その話に対しては、完全に心当たりがある。クレアールをサブシアに連れてきたときに、クレアールが神威を発したことがあった。

 その時は、周囲の人間が一斉にクレアールを崇め、拝み出したわけだが、たまたま街に滞在していた王都の教会関係者がそれに巻き込まれたのだろう。そして、その体験を周囲に話したわけだ。


「そ、そうなんですかー……」


 ユキトが完全な棒読みで返事をしたとき、部屋のドアがノックされた。


「お茶でございます」


 ユキトから見れば、面倒の塊に見えるが、彼らは一応は教会のお偉方である。それなりの応接が必要だろう。ザンブルク司教達の前に、紅茶で満たされたカップが置かれていく。


「ブフッ!!」


 ユキトが噴いたのも無理はない。よりによって、彼らにお茶を供しているメイドがクレアだったのだ。

 神を探しにきた教会のお偉方に対して、創造神様がお茶を供するという構図である。大変にお茶目な創造神様だ。


「教会の司教様方は、もしかしてサブシアに神様を探しにいらしたのですか?」


 しかも、お茶を置くだけでは足りなかったのか、クレアはハフストン司教に自分から話しかけた。


「ん? 女、お前は何か知っているのか!? 素直に喋るのだ。やはり、このサブシアにやはり神が降りておられるのか!?」


 ハフストンも、突然メイドに話しかけられて困惑したようだったが、彼女の発した神様という単語から、クレアが何かを知っていると判断したようだ。偉そうな口調でクレアを問い詰める。


(いや、ハフストン司教……そいつが創造神様だってば!)


「ええ、少し前に街中で急に神々しい雰囲気というのか、ありがたい感覚を覚えたことがあって、皆があれは神様がいらっしゃったに違いないと……」


(って、お前の仕業だろうが)


 クレアの回答に内心でツッコミを入れつつ、ユキトは事態の推移を見守る。クレアールが自分で対応するつもりなら、任せてもいいだろう。

 尤も、正体がバレたりしようものなら、クレアールを「女」と呼んでしまったハフストン司教の精神が心配ではあるが。


「その感覚こそが神威を感じた証左だ! で、それを放っていた存在はどうした!!」


「それは……」


 興奮して前のめりになるハフストンに対して、クレアが少し引き気味で何か答えようとしたその時だった。


 あたりを薄い光が包み込み、応接室に神聖な雰囲気が充満する。その感覚に、大司教達に緊張が走る。


「……!?」

「こ、これは……この感覚は……」

「まさしく神威じゃ。やはりこの地には神が…!」


 応接室を満たした空気を受けて、ユキトは慌ててクレアを見る。

 だが、彼女の様子に変化は見られず、今回の神威の発生元は彼女ではなさそうだ。クレアはユキトと視線を合わせると、小さくペロッと舌を出した。


 やがて、どこからともなく声が響く。少し低音の男性の声だ。


「……人の子よ……我は伝令の神ヘルマンス……この地の神より、お前達に伝令がある」


「ひぇ! 伝令の神……ヘルマンス……様」

「上位24神の……」


 どうやらヘルマンスという神様は、この世界で伝令を司る神様っぽいが、それなりに上位の神として知られているらしかった。

 カエサル大司教をはじめとして、ザンブルク司教もハフストン司教も平伏して、ひたすらに恐れ入っている。


「この地に降りておられる神は、人の子からの干渉を求めておられない。良いな。信仰からの行動であろうが、この地で神を探ることは避けよ」


「ははっ、心得ました」

「仰せのままに……」

「御心に従いまする」


「うむ。神はいつでも人の子らを見守っておるぞ」


 司教達の返事を受けて、ヘルマンスのものと思われるありがたい雰囲気が室内から霧消した。同時に、司教達の緊張が一気に解ける。


「だ、大司教……伝令の神であるヘルマンス様を通して意思を伝えてくるということは……」


「うむ……この地に降りられた神はヘルマンス様以上に上位の神ということだ……その神が探るなと仰るのだから、我らもそれに従うほかなかろうて」


「だが、毎日この街の方角に向かって礼拝するくらいは大丈夫でしょう」

「いや、この街の土を持ち帰り、聖土として……」


 司教達は、神とのコンタクトに対して興奮冷めやらぬという状態だ。

 だが、取り敢えずは司教達の人探しならぬ神探しは中止されたようである。ユキトはホッと息をつく。


 だか……


「シジョウ卿! この地に降りられたと思しき神を特定することは御心にそぐわぬようだ。だが、この近辺に降りておられるのは間違いない。くれぐれも失礼のないようにな!」


「そうですぞ! この降神の地を治めているシジョウ卿には、教会に伝わる儀礼を一通り学んでおいて頂かねば……」


「え、いや、俺にその必要は……」


 ユキトの苦難は続く。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


今年も遅筆ながら書き進められたのは、皆様のおかげです。どうぞ、来年もよろしくお願い申し上げます。



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