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第16話 遭遇!迷子ご一行様!

 

「ほとんど手ごたえなく斬れたな」


 ユキトとしては今回の戦闘によって、自身の変身後のチートっぷりを改めて自覚することになった。


 まずスーツの防御力である。硬いだけでなく、衝撃等もかなりの割合で軽減されるようだ。

 オルグゥに吹き飛ばされて壁に激突した際も、多少は振動が伝わったが、内部のユキトはあまりダメージを受けていない。生身なら即死であったろう。

 そして剣の攻撃力。オルグゥの首を斬り飛ばしたわけだが、軽い手ごたえしかなかった。片手で3メートル級の魔物の首を斬り飛ばすのは、恐らく簡単なことではない。


 もはやユキトには読む術がないが、故郷で出版された設定本の一例としては、宇宙警察のスーツは鋼鉄の数百倍の硬度と衝撃吸収装置を持ち、ブレードは鉄すらも簡単に斬り裂くことになっている。この手の設定に有りがちな無茶な設定である。

 それが元設定(もとネタ)に忠実たらんとするチートな能力のおかげで、かなりの割合で加護に反映されているのであるから、この結果もむべなるかなというものである。オルグゥは実に不運であった。


「オルグゥも倒せたし、前に進むか」


 ダンジョンという存在がこの世界にあるのかはユキトには分からない。だが、ここに魔物が出没することが分かった以上は慎重に進まねばならないだろう。

 先ほどのオルグゥには勝てたが、油断するわけにはいかない。


「魔力を補給しておこう」


 ユキトは頭部の変身のみを解除すると、カバンから(アンブロシア)を1粒取りだして、口に放り込む。戦闘の最中に魔力が切れて変身が解除されたりすると危険である。こまめな補給が重要だ。

 ついでにペットボトルに入れていた水で水分も補給する。宿から持ってき飲料水だ。


「よし、行くか」


 ユキトは自身に気合を入れて、通路を奥へ進んでいった。もちろん、頭部を再度武装してからである。


 ************************


 ドドゥ……


 砂埃を巻き上げ、地響きを立ててオルグゥが倒れる。既にユキトは5体のオルグゥを倒していた。もちろん変身しているからこそ出来る芸当である。


 例の落とし穴にひっかかってから、数時間が経過しただろうか。

 最初こそ一本道だった通路も、すぐに幾つもの分岐に出くわすようになり、広い空間やら宝箱のある小部屋やらとダンジョンらしき要素も増えてきた。なお、トラップが恐ろしいため、ユキトは宝箱を全てスルーしている。


「ここって出口あるんだろうな?」


 ユキトは昇り階段を見つけたら迷わず昇っているのだが、まだ2階分ほど昇っただけである。通路自体も水平のみでなく、斜面になっていたりもするため、「階」という表現がどこまで通じるかは不明だ。

 ユキトが最初に落ちてきた部屋よりは上層にいると信じたいが、確信はない。ユキトとしては不安になりながらも進むしかない。


「ん?」


 通路を進んでいたユキトが、何者かの話し声を耳にしたのは、3つ目の階段を見つけたときだった。目の前の階段は上に向かっているのだが、階段の横にある通路の奥から、人間の会話と思しき声が聞こえてくる。

 だが内容を聞き取るには、その声は小さすぎた。


 ユキトは会話の内容を聞き取ろうと、頭部だけ変身を解除してみる。だが、ボソボソとしたノイズ程度にしか聞こえない。


「ヘルメットのままの方が聞こえが良かった気もするな……補助装置でもついてるのかも」


 ユキトは、そのまま声の発する元へ向かって慎重に通路を進んでいくと、少しずつ声が大きくなってくる。どうやら、声の主は1人が女性で、もう1人は男性のようだ。


「こんな奥深くで……妖怪か、魔物か……」


 ユキトが縁起でも無いことを呟きながら通路を進んでいると、先が急に開けて、大きく開けたホールのようになっている空間に出た。

 高い天井には、かなり大きめの灯鉱石が露出しており、洞窟内にしてはそれなりに明るい。


「え?」


 その空間に踏み込んだユキトは、ホールの中央付近にいた存在に目を奪われていた。


 ホールの真ん中には、場違いなロココ調を思わせる丸みを帯びた装飾の椅子とテーブルのセットが配置されていた。テーブルは直径60センチ程度のサイズで、備わっている椅子は2脚である。

 テーブルの脚も椅子の脚も優雅な曲線を描いており、草花の彫刻のような飾りがふんだんに誂えられていた。

 そのうち1脚の椅子には銀色の長い髪を持った女性が座っている。テーブルの傍には、白髪の混じった初老の男性が執事のように控えており、ちょうどテーブルの上のポットからカップへと紅茶を注いでいるところだった。場違いもいいところである。


「あら?」


「ええ、お客様のようです」


 優雅なティーパーティーの用意をしていた2人はユキトに気付いたようだ。

 一方のユキトも気付いた。この2人は、ファウナとユキトが冒険者ギルド前で男達に絡まれて返り討ちにした際に、男達の非を証言してくれた2人であると。


「え、えと、こんにちは」


 間の抜けた挨拶を投げかけるユキト。

 一応は、世話になった相手であるので、友好的に接するべきだと判断しての行動だが、どこか残念さが滲む。


「こんにちは。前に冒険者ギルドでお会いした方ですわね?」


 頭部の武装を解除していたおかげで、ユキトはすんなりと女性に認識されたようだ。

 顔を隠した状態であったなら、攻撃を受けていたかもしれない。


「その節はどうも。助かったよ」


 ユキトは改めて礼を述べる。その言葉に女性はにっこり微笑んで言葉を返す。


「いえいえ。無法者を成敗されたのですから、素晴らしいですわ」


「フローラ様、お客様にも紅茶を差し上げますかな?」


「ええ、そうして差し上げて、セバス」


 フローラと呼ばれた女性は、どうやらユキトをお茶に誘ってくれるらしい。


「申し遅れました。(わたくし)はフローラと申します。こちらは供のセバスチャンです」


「どうぞセバスとお呼びください」


 どうやら、女性はフローラ、執事然とした男性はセバスチャンというらしい。ユキトの故郷でもセバスチャンと言えば執事であり、執事と言えばセバスチャンである。その名に異論はなかった。

 故郷(ちきゅう)では、その略称にはバスチャンとかバズとか色々な呼び名があったようだが、この彼はセバスで良いようだ。


「俺はシジョウ ユキト。ユキトって呼んでくれ」


 相手が名乗っているのであるから、ユキトも名乗る。そんな礼儀がこの世界(ディオネイア)にもあるのか分からなかったが、ユキトに敵意がないことはフローラに伝わるだろう。


「ユキト様ですね。どうぞ、おすわりになって下さい」


 洞窟内には似合わない笑顔でフローラはテーブルの対面の椅子を勧めてきた。セバスはテーブルの横で姿勢を正して立ったままなのだが、執事とはそういうものなのだろう。

 ユキトは空いていた椅子に腰を下ろす。


 セバスチャンはテーブルから一歩下がり、足元に置いていたトランクケースのような革張りのカバンの留め金をはずし、丁寧にふたを開いた。

 その中から、カップを一客取りだすと、テーブルの上に置く。ユキトの分のカップなのだろう。


 セバスチャンがポットを傾けると、そのカップにほんのりと湯気をあげる紅いお茶が満たされた。


「ユキト様、どうぞ」


「ありがとう、いただくよ。   って熱ッ」


 定番のリアクションを見せつつ、ユキトは熱い紅茶で喉を潤す。

 ユキトのペットボトルにはまだ少しだけ水が残っていたが、節約していたこともあり、ちょうど喉は乾いていたところだ。

 ユキトには紅茶の味の良し悪しの区別はつかないが、とても美味しく感じる。




「では、なぜ私たちがこのような場所にいるのかからお話しますわね」


 ユキトが一息ついたタイミングで、フローラがそう切り出してきた。もちろん、ユキトとしても聞きたかったことだ。


「ボンデ村というネロルの衛星村の1つがあるのですが、私たちはその近辺にオルグゥが出没するという話を聞いて、討伐しようと向かったのです」


 衛星村とは、大きな都市の周囲に点在している村のことである。大部分の村人はネロルに食料を供給することで生活を成り立たせている農民である。


「そして、オルグゥの姿が頻繁に目撃されている周辺を捜索していたところ、洞穴を見つけました」


 どこかで聞いたような話である。


「オルグゥが潜んでいないかを確認しようと中に入ったのですけれども……」


「そこで罠が作動してしまいまして、入口が崩れて埋まってしまいまして」


 セバスチャンが説明を引き継ぐ。


「入口が埋まると、奥に進む道しかありませんでした。オルグゥを討伐しつつ、進んでおりましたら、このような広い場所に出たので、半日ぶりに休憩していたというわけでございます」


 どうやらユキトの事情と大差はなさそうだ。


「あの時、セバスはちゃんとトラップを警戒したのに、私が無理を言って進んでしまったのです」


 フローラが悲しそうな表情で付け加える。


「なるほど、事情はわかった」


 ユキトは大仰に頷くと、そのまま頭を下げて手を合わせる。


「俺も同行させてくれないか」


 この言葉にフローラとセバスチャンが顔を見合わせる。数秒の間があったが、これは考慮している時間というよりは、どちらが口を開くかを調節する時間のようであった。


「それはもちろんありがたいお申し出ですわ」


 結局、同行を許可する返事はフローラから返ってきた。


「ただ、問題もございます。食料はあまり充分とは申せません」


 セバスチャンはそう言うと、トランクケースの中からパンや干し肉などをいくつか取りだして見せる。しかし、先ほどのカップも含めて、トランクケースの見た目よりも、出てくるものが多いような気がする。恐らくはポットも仕舞われていたと考えればなおさらだ。


「ええ、セバスは簡単な収納魔法(ストレージ)が使えます。テーブルも椅子もトランクにしまっていたものですわ」


 ユキトの視線から、考えを読みとったのか、フローラが解説してくれる。


 収納魔法(ストレージ)。いきなり出てきた単語であるが、ユキトもだいたい想像がつく。限りある空間にその体積以上のものを詰め込める魔法だ。上限や重さなどはどうなるのか不明であるが、テーブルや椅子分の重量を運びながら洞窟探検をしていたとは思えないので、重さも無視できると考えて良いだろう。


「食料なら俺も少し持ってきてる」


 ユキトはカバンの中から宿の食堂で購入したパンを取りだして見せた。(アンブロシア)については、今の段階では秘匿することにする。


「あと、この空間は広いのですが、出入り口が複数あるので休息には向きません。そろそろフローラ様を休息させて差し上げたく、安全地帯(セーフティゾーン)もしくは出入り口が一か所のみの小部屋などありませんでしたか?」


 セバスチャンが心配そうにフローラを見ながら、ユキトに尋ねる。

 安全地帯(セーフティゾーン)というのはダンジョンに見られる魔物が侵入してこない部屋のことである。

 また、安全地帯でなくとも、部屋の出入り口が一か所であれば、交代で見張ることで、残りのメンバーは休息が取れる。


 ここに来るまでに、宝箱が置いてあった小部屋があった気がするが、ユキトとしても正直なところ道を覚えていない。

 いっそのこと、この部屋を安全地帯にはできないものだろうか。


「ここに結界みたいなものを貼れないもんかな? そんな魔法はないの?」


 ユキトはダメ元でフローラに尋ねてみる。フローラの得物はロッドのような形状であり、見た目で判断すれば魔法使いであろう。

 もし魔力切れで結界が張れないだけであるなら、(アンブロシア)を一粒試してもらっても良い。魔力の保有量が成長しきった者にも魔力回復の効果があるのかは不明だが。


「結界魔法は難易度も高くて、私にはとても……」


 フローラが悲しげな表情で答える。


「それに……魔法の勉強はしているのですが、私はファイアボールしか……その……使えなくて……」


 なんでも、フローラは簡単な魔力感知などの本当に基礎的な魔法は別にして、実戦向きの魔法としてはファイアボールしか使えないそうだ。魔力そのものには問題がないが、相性の問題なのか、必死で勉強しても他の魔法が修得できないらしい。


「そうか」


 冒険者ギルドでユキト達が絡まれたときに様子を見に来てくれたことや、今回のオルグゥ討伐に向かった話から、フローラは正義感も強く、人のために動くことにためらいがなさそうなイメージがある。そんな彼女が魔法の才能に恵まれないというのは、なんともやるせない。

 何か良い加護を渡せないかとユキトは考える。


(結界を張ったり、食事を出したり……魔法少女だと出来そうだよなぁ)


 ユキトの頭の中では、魔法少女がバリアのようなもので敵の攻撃を防いだり、食べ物を生成したりするシーンが再生されていた。

 比較的、万能な魔法使いのイメージがある。ユキトの世界では非常に一般的な設定なので、加護のモチーフにもしても問題ないだろう。


(ちょっと無断で試してみるか……変なのがついたら消せばいいし)


 付与した加護が削除可能ということを確認しているので、ユキトもちょっと大胆になっている。

 対象をフローラに定め、こっそりと魔法少女をイメージして加護の付与を試みた。


(魔法少女をモチーフにして……加護を……付与!)


 その結果、比較的簡単に魔法少女モチーフは承認されたらしく、フローラに加護が付与される。


 ステータスの魔法で他人のステータスは見ることはできないのだが、自身が付与した加護については、ユキトも確認できる。


 +魔法師の加護:第三者が見ていない場合に、魔法に長けた魔法少女へと変身できる


 どうも変身する系の加護が多いなと思うユキトだが、モチーフにしているアニメや特撮の定番ということだろう。

 今回は、第三者に見られていると変身できないという定番の制限がついているようだ。


「え? 何か身体が……」


 一方、無断で加護を付与されたフローラは、急に自身に不思議な力が流れ込んできたことに戸惑っていた。慌ててユキトが説明する。


「あー、勝手にやって悪かったけど、フローラに加護を付与してみた」


 フローラとセバスチャンが驚きの表情でユキトに目を向ける。


「もちろん、必要がなければ消すこともできる。ただ、魔法の才がつくと思ってもらえればいい。ここを抜けだす役には立つと思う。」


 *******************


 ピンクやらイエローやらの派手な光が洞窟の一角に溢れた。


 第三者とはどこまでを指すのかは不明だが、どうやらこの場にいたユキトとセバスチャンは含まれないと判断されたようだ。無事にフローラは「変身」に成功していた。


「あ、あの、変身するときの掛け声は何とかならないのでしょうか……」


「あー、あの『フローラ・メイクアップ!』ってやつ?」


「く、口に出さないでください!!」


 フローラは恥ずかしがっているが、加護を受けた本人の脳裏に浮かんだ変身方法なので、どうしようもないだろう。

 一方で、フリルのたくさんついた魔法少女の服装については、「かわいい……」と呟いていたので、満足らしい。


「じゃあ、結界魔法ってやつを試そうぜ」


 ユキトは魔法少女の力がどの程度か確認することにする。ユキトとしては、バリアを張るなど、人を守る系統の魔法は、魔法少女の得意とするところだと思っている。女の子向けの番組なのである。


 フローラは目を閉じると、魔力を紡ぐ。今までは、すぐに(ほど)けていた魔力が、驚くほど強固に紡ぎ出されていくのが感じられる。


退魔結界陣(プロテクションシェルター)


 明確な声に従い、紡がれた魔力が壁となり、この空間に固定される。これにより、この空間はしばらくの間は魔物の侵入を許さない。仮に強力な魔物に侵入を試みても、大きな音を生じる仕組みだ。この魔法の内部であれば、安心して眠ることが可能となる。


「おお、フローラ様!!」


 セバスチャンがハンカチで自身の目から溢れる涙をぬぐっている。よほどフローラの魔法が成功したのが嬉しいらしい。


 なお、脱出魔法は使えないかと尋ねてみたが、こちらは成功しなかった。どうやらダンジョンには、迷い込んだ獲物を逃がさない意志があるらしい。


閲覧ありがとうございます。

感想、ブクマなどよろしくお願いします。


8/27 文字数調整のため、いくつかの話を分割したため話数がずれました。(ストーリーには影響ありません)

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