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第148話 覚醒!創造の女神クレアール!

前回のお話

 加護の力を封じられたユキトは、女神クレアールを目覚めさせるべくその名を呼んだ!

 「復活の呪文が違います」


 

「クックック……クーカカカカッ!!!!」


 ユキトが大声で発した女神への呼び掛け。その声に振り返ったインウィデアは、大きな声で笑い始めた。ユキトの呼び掛けに対して、愉快で堪らないといった様子だ。


「なるほど、貴様は女神を呼び覚まそうとしたのか? ククククク……残念だが、それは無駄な足掻きと言うものなのだ。ひとつ我が説明してやろう」


 インウィデアは頼まれてもいないのに、ユキトに向かって解説を始める。ユキトの最後の希望が、いかに無駄なことであるかを突きつけたいのだろう。


「確かに、創造の女神は永い眠りにつくにあたって、聖域にて自身の真名が呼ばれた時に目を覚ますと言い残したと聞く。

 そしてお前の察した通り、この広間こそが1000年前までは『聖域』と呼ばれていた場所だ。

 だが、1000年前にこの聖域が閉ざされる前には、幾度となくこの地にて女神の名が呼ばれているのだよ。

 人間達どころか下級神までも含めて、クレアールの名を呼ぶ儀式が繰り返されたが、女神様はお目覚めになっていない。分かったか? 今更、お前が女神の名を呼んでも全くの無駄なのだ」


 インウィデアは得意気に聖域で繰り返されてきた儀式について語った。

 インウィデアが神界への門を閉ざす前の時代には、ユキトと同じように女神の名を呼んだ者が大勢いたのだという。ひょっとすると、その儀式を模したものが、大聖堂に持ち込まれて、クレアール祭へと変化したのかもしれない。


 だが、そうなると今更ユキトがクレアールの名を呼んだところで、意味はないことになる。ユキトの最後の希望が潰える瞬間を目の当たりにして、インウィデアは愉快そうに肩を震わせた。


「クククク、どんな気分だ? 最後の希望が虚しく散ったのは」


 だが、ユキトは特に表情を変えることなく、インウィデアの話を聞いていた。


「早とちりするなよ、インウィデア……さっきクレアールの名を呼んだのは念のためだ。ひょっとしたら、名前を改名したのかもしれないと思ってな」


 ユキトは自信をもって言葉を紡ぐ。そこにはショックを受けた様子は微塵もない。その瞳には何かに対する確信が浮かんでいた。


「……なんだと?」


「この世界……俺達の世界から見れば異世界だが、この『異世界』って存在は『ダンジョン』と同じようなものらしいな。

 だとすると、ダンジョンにはダンジョンコアがあるように、この異世界にもワールドコアがあるんじゃないか?」


 ユキトは一つの仮説を述べていく。それは、この世界(ディオネイア)の根幹に関わる仮説だった。アウリティアと2人、迷い込んだこの世界について話し合って、検討を重ね、ようやく辿り着いた仮説。


「ダンジョンに最初に入って来た生き物が、ダンジョンコアと同化することで、ダンジョンマスターが生まれる。そしてダンジョンマスターとなった生物の生態や特性を反映して、ダンジョンは成長し、大きくなっていく。冒険者にも良く知られた話だ。

 だとすれば、ダンジョンの上位種である、この異世界にも『コア』と融合した存在がいてもおかしくないはずだ。そしてダンジョンと同様に、この世界も『コア』と融合した存在の知識を反映して成長するのだとしたら?」


 ユキトはこの世界に来た当初から不思議に思っていた。なぜ、ユキトはこの世界の言葉が分かるのか。この異世界に来たばかりの頃は、ラノベでも良くある自動翻訳だと考えていた。だが、ひらがなと思しき文字を見たり、全く違う世界から来た『まろうど』にはこの世界の言葉が通じないという事実を聞いて、一つの結論に辿り着いた。この世界の言葉は日本語なのだ。


 では、なぜこんな異世界で日本語が使われているのか。偶然ということはあるまい。


 もし、この世界が発生した当初――まだ、『コア』のみしか存在していない世界に、最初に招かれたのが日本人だったとしたら? その日本人がコアと同化し、ダンジョンマスターならぬワールドマスターとなって、この異世界を創っていったのだとしたら? 


 仮にユキトがワールドマスターとなり、世界を創ったならば、その世界の言葉は日本語をベースとしたものとなるだろう。コアが勝手に言語を設定したのだとしても、マスターの持つ知識を反映させるのならば、その世界で用いられる言語は日本語だ。そう考えると、この世界の創造神は日本人なのではないか?


 だが、これだけではパズルは完成しない。(いとま)の例もあり、日本から迷い込んだ『まろうど』はユキト達だけとは限らないからだ。


 次のピースは、ユキトがこの世界へ迷い込んだ時の状況だ。ユキトは都内の路上において、空中に浮かぶ亀裂に不用意に触れ、その中に吸い込まれたのだ。亀裂がガッパリと縦に開いた光景は、ユキトの脳内に明瞭に残っている。まるでハエトリグサを思わせる光景だった。

 そして、ユキトはこの世界(ディオネイア)で、何気なくハエトリグサを電子辞書で検索して、その学名を知った。「ディオネア」である。どこかで聞いたことのある名前だった。


 最後のピースは、オフ会仲間のバイト先だ。ユキトと同じようにこの世界に迷い込んだであろう紺スケと安藤。そのうちの1人、安藤は花屋でバイトするくらいに、植物が好きだったし、知識もある。ハエトリグサの学名くらいは知っているだろう。その安藤は紺スケよりも早くこの世界に降り立ったと思われ、出会うことはできていない。


 ばらばらだったピースがゆっくりと1つにまとまっていく。アウリティアの観測では、ユキト達の世界からこの世界(ディオネイア)に引きこまれた人間はそう多くない。その中で「ディオネア」という学名を知っている人間が何人もいるだろうか。


 最初にこの異世界を訪れ、異世界のコアに触れて、創造神(ワールドマスター)となった者。恐らくは日本人で、この世界に「ディオネイア」という名を付けた者。

 その一方で、紺スケよりも早くこの世界に降り立ったと思われる植物に詳しいオフ会仲間。


 パズルは完成している。そしてユキトの運命には異世界の主人公たる加護がある。この後の展開について、ユキトは何も心配していない。


 ユキトは静かに、そして力強く呼び掛けた。


「安藤! いや、木安 藤華(きやす ふじか)! 朝だぞ、起きろ!! 

 ……あと貸してた5000円、そろそろ返せよ」




 少しの静寂があった。ユキト達には一瞬のようでもあり、非常に長い時間のようにも感じた。


 そして……どこからともなく声が響く。


「ふぁ~~……ええと、どのくらい経った?」


 間延びした寝起きの女性の声だ。

 その声にユキトは聞き覚えがあった。恐らくは紺スケにも。


「さて……と」


 ズズズ……ズゴゴゴゴッ!!


 女性の声とともに、僅かな隙間が開いているだけであった岩の扉が勢いよく開く。その奥からは眩いばかりの光が洪水のように溢れて来た。広間に黄金色の輝きが満ちる。


「こ、これは……まさか……」


 インウィデアの声が上擦る。場には圧倒的な神性が満ちていた。


「あ、やっぱりユキトが起こしてくれたか。久しぶり。 ……あれ? 紺スケは一緒じゃないの?」


 その声が発せれらた方を皆が見ると、玉座の上方の空中に、神々しいまでに輝く女性の姿が浮かんでいた。

 白く輝く絹を思わせる衣を纏い、黒く長い髪には蔓草を編んだ冠が載せられている。まさに女神のイメージを体現するかのような姿だ。その背後からは強い後光が射しており、残念ながら顔の様子は伺い知ることができない。


「ああ、紺スケもいるけど、ちょっと離れたところで別の仕事中だ」


 ユキトは、創造の女神と思しき存在、そしてかつてのオフ会仲間と思われる存在に向かって、そう返答する。久しぶりの再会にしてはあっさりとしたものだ。


 木安(きやす) 藤華(ふじか)。オンライン上の名前は『安藤』。苗字の後ろ半分の『安』の字と、名前の前半分の『藤』の字を合わせた名前(ハンドルネーム)だ。名前をそのまま使ったユキト、苗字の前半と名前の後半を使った紺スケに比べれば、少しだけ捻っている。


 ユキトの推理通り、ユキトや紺スケと同様に異世界へと飲まれた安藤は、時空の歪みの悪戯によって、最初にこの異世界(ディオネイア)へと足を踏み入れた人物となっていた。

 当時のディオネイアは、生まれた直後であり、中心にコアが浮かぶだけの空間だったという。そこで彼女はコアに触れることで、コアをその体内に取り込み、ダンジョンマスターならぬワールドマスター……すなわち、創造神となったのだ。

 創造神となった安藤は、まず自身を飲み込んだ世界に名前を付けた。ハエトリソウを思わせる空間の亀裂の記憶から、皮肉を込めてディオネイアと。




「ば、馬鹿な! 女神クレアール様……だと」


 インウィデアは目の前の光景に狼狽していた。彼が管理者としてこの世界に生まれた時には、既に創造の女神クレアールは永い眠りについていたのだ。まさか、ユキトがその女神を覚醒させるとはインウィデアが考えてもいなかった展開である。


「飲み会の最中ってわけでもなさそうだけど、どんな状況?」


 クレアールは気さくな口調で、ユキトに尋ねる。

 同時に、眩しかった後光がようやく薄れ、女神様の表情も目視できるようになった。広間の中の状況に、女神様は少し困惑しているようだ。何しろ久しぶりに再会したユキトは酷く負傷しているのである。


「戦闘中。大ピンチだ。悪いけど、助けてくれね?」


 対するユキトは端的に状況を説明した。創造神様に対する口の利き方ではないが。


「ふうん」


 クレアールは軽く返事をすると、軽く目を閉じる。神の力でも行使しているのだろうか。時々、ふむふむと頷いている。


「なるほど……だいたい把握した」


 クレアールはそう述べるとゆっくりと目を開き、インウィデアを一瞥する。


「インウィデアって言った? アナタ、私の世界で随分と好き勝手やってくれたっぽいね。悪いけど、私はユキトの方に手を貸すから」


「そ……それは! ……ぬぐぐぐ」


 インウィデアが慌てて弁明しようとするが、神々に弓を引いた立場では何も言えることはない。この瞬間にインウィデアの野望は潰えたと言って良いだろう。


パチン!


 クレアールが指を弾いた。女神様にしては少々品がない行動だ。

 だが、その音とともに、ユキト達の身体は眩い光に包まれ、失われていた加護の力が回復するのを感じた。同時に身体中の傷もみるみるうちに回復していく。流石は創造の女神様だ。


「この方が……創造の女神様……」

「クレアール様……感謝いたします」


 ファウナもフローラも、突然の女神様の登場に感激を隠せない。ストレィに至っては、教会の正式な作法でもって印を結び、深々と頭を下げ、祈りを捧げていた。忘れられがちだが、ストレィはこれでも王国総教会の司祭なのだ。


 ユキトはそんなメンバーを見て、ふぅと息をつく。ピンチは完全に脱したと思っていいだろう。何しろこちらには創造神様がついているのだ。


「さて、インウィデア……続きと行こうか」


 ユキトの言葉に、インウィデアはただ唸るしかなかった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブクマや評価も大変感謝です。


さて、ようやく木安さんの登場回です。

この異世界の仕組みが明らかになった回でした。


なお、以前の幕間劇で出てきた安藤ゆかりさんは、ミスリード用の単なる運が悪かった人で、木安さんとは無関係です。運だけじゃなくて、性格も悪かったですが。

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