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第146話 奥の手!インウィデアの秘策!

前回のお話

 ユキト達はインウィデアに遭遇。ファウナの活躍もあり、インウィデアを圧倒していた。

 

「この好機、逃しませぬぞ」


 ファウナの踵落としで床に叩きつけられたインウィデア。それをチャンスと捉えたセバスチャンは、放射状に走った亀裂の中心に向けて、斬撃を放つ。

 その斬撃とタイミングを合わせるかのようにフローラの魔法も完成した。


至高火球陣(アルティマ・ファイアボール)!」


 白く輝く火球がフローラの指が指す方向へと飛翔する。防熱陣で包まれていなければ、全てを消滅させ兼ねない、1兆度を誇る火球だ。


 ザンッ!!


 そのフローラの魔法より一足早くインウィデアに直撃したセバスチャンの斬撃は、ローブごとインウィデアを斬り裂いた。ローブを纏った青い腕が、同じ色の血液を撒き散らしながら空中へ舞う。


「ぐがぁぁああああ!!! おのれぇーーー!」


 ファウナの攻撃で頭部を半壊させつつ、インウィデアが叫びとともに顔を上げた。そこにフローラの至高火球陣(アルティマ・ファイアボール)が迫る。インウィデアの双眸が、球形の防熱陣に包まれた白く輝く火球を捉えた。


(な、なんだ! この非常識なエネルギーは!? あのエルフ娘が最も危険だと思っていたが、銀髪の娘もこれか! この魔法、世界を焼き尽くすつもりか!?)


 フローラの魔法を目にしたインウィデアはそこに内包されるエネルギーに驚愕した。

 そもそも、この世界(ディオネイア)では1兆度という概念そのものがない。温度については、高温や低温という程度のアバウトな認識だ。

 地球における温度計の発明は1600年以降であるし、温度目盛りの登場は1700年代になってからであることを考えれば当然である。


 だが、この火球が世界滅亡レベルのエネルギーを秘めていることは、それなりの者が見れば一目瞭然だ。


(こいつらの加護はいったい何なのだ!?

 我とてかつては加護を管理していた身。神力の加護、竜化の加護、剣王の加護……強力と言われる加護をいくつも見てきたが、こやつ等の加護は次元が違うぞ!?

 異世界由来の加護だったはずだが、この男の来た世界はどうなっているのだ!)


 そんなことを考えている間にも、火球が迫ってくる。

 これが普通の炎であれば、インウィデアは何も恐れる必要はない。何度も述べるように、有機生命体よりも法則生命体に近い存在であるインウィデアは、有機生命体に比べると炎熱への耐性も段違いに高いのだ。

 だが、1兆度という温度は炎ですらない。宇宙発生初期段階の高温であり、法則を捻じ曲げるレベルだ。素粒子であるクォークが単独で存在できるようになる閾値が約1兆度である。


「化け物どもめ!」


 インウィデアはそう吐き捨てると、眼前に迫る火球を避けるべく、空間を捻じ曲げる。これは、空間渡りーーいわゆる瞬間移動を為す技であるが、アウリティアとイーラの張った結界内であるため、瞬間移動できる距離は微々たるものである。それに、エネルギーの消費も激しい。

 だが、この火球を回避するためには仕方がない。インウィデアの周囲の空間がグニャリと歪み、そのままインウィデアの身体が空間に溶け込む。


「消えた!?」


 ファウナの強烈な踵落としによって、半ば床に埋まっている状態であったインウィデアの姿が掻き消えたことで、ユキトが驚きの声を上げる。それと同時に他のメンバーは視線をサッと周囲に巡らせ、広間の反対側に出現した影を捕捉した。


「くそッ、やはりヤツらの結界内では空間を渡るのはこの程度が限界か……しかも、受けたダメージが思ったよりも深刻か」


 インウィデアとて、ユキト達が非常に強いという情報は得ていたが、ここまでの化け物揃いとは考えていなかった。特に金髪のエルフに至っては、1対1で戦っても勝てない公算が高い。更に銀髪の娘も危険極まりないことが判明した。


「だが、このままでは済まさぬ!」


 インウィデアが無理を押して空間を渡ったのは、フローラの魔法を回避することに加えて、ユキト達に一矢報いるためであった。

 この位置はユキト達よりも広間の出入口に近い。つまりは、ユキト達に邪魔されずにストレィを狙うことができる位置だ。


「ククク、死ね!」


 インウィデアの声に従って、虚空から滲み出すように無数の漆黒の槍が出現する。出現した槍は、ゆっくりと浮揚してストレィに狙いを定めると、射られた矢のように高速で射出された。


「ストレィ様、私めにお任せを」


 その攻撃を受けて、アルマが一歩だけ前へ出る。


「ほう……あのゴーレム、何をするつもりだ?」


 インウィデアも、彼女の横に立つアルマが巨大な鋼鉄の騎士へと変身することができることは、以前に目撃したために知っている。だが、今のメイドの姿ならば、この攻撃を完全に防ぐことはできないと判断していた。


 だが、その予測はあっさりと覆された。


「敵の攻撃を確認。バリアを展開します」


 アルマがそう告げると、アルマとストレィの周囲が淡く光る膜で覆われる。その一瞬の後、無数の槍が到達し、アルマのバリアと衝突した。


 カカッカンッカカカッ!!!


 インウィデアの操る漆黒の槍の正体は、物質レベルまで圧縮した魔力の塊である。普通の物質であれば、容易に貫くことができる代物だ。だが、その槍が全てアルマのバリアで弾かれてしまう。

 弾かれた漆黒の槍は、地面に落下すると同時に霧のように消えていく。


「ありがと、アルマ。おかげで助かったわぁ」


 アルマの力を信頼していたのだろう。ストレィは特に動じた様子もなく、腕を組んで立ったまま、アルマに向かって礼を述べた。アルマは無表情のまま、軽く頭を下げる。

 アルマイガーGに変身せずとも、アルマはスーパーロボットの力を得ているのだ。バリアを張る程度は朝飯前であった。


「ぬぬぬ、ゴーレムまでもが、このような力を……」


「もう観念したら?」


 インウィデアのすぐ背後からファウナの声が響いた。一瞬のうちに距離を詰めたのだろう。空間を渡ることに制限がかけられているこの状況下では、エルフの娘と速度勝負をしても、インウィデアは勝てる気はしなかった。


「ぐぬぬぬ、人間ごときが!」


 思わず悪態を吐くインウィデアであるが、状況はかなり悪い。インウィデアの右腕はローブごと斬り落とされており、頭部はその1/3程度が破損していた。車輪状の頭部全体に亀裂が走っており、その側面に着いている仮面の残りも3つだ。


(前にインウィデアが持っていた加護を奪う力を秘めた宝石は失われたままみたいだな……)


 満身創痍のインウィデアの様子を確認しつつ、ユキトとは内心で安堵する。


 以前の戦闘時にインウィデアが所持しており、イーラが砕いた碧い宝石。加護の力を封じる力を秘めたその石は、残ったどの仮面にも装着されていなかった。加護封じの宝石を復活させるほどには、インウィデアの力も回復していなかったのだろう。

 ユキトとしては、もしも宝石が復活しているようならば、真っ先に破壊する必要があると考えていたので、その手間が省けたというものだ。ならば、後は決着を着けるのみである。


「さ、年貢の納め時ってやつだ、インウィデア。こっちの世界でもそんな諺があるのか知らないけどな」


「ふむ。『酒場のツケの払い時』という言い回しがございますな」


 背後のファウナに加えて、セバスチャンとユキト、そしてフローラもインウィデアの包囲を狭めてゆく。

 空間を渡ることで包囲から逃れることはできるだろうが、結界内では移動距離も僅かだ。かなりのエネルギーを消費して実行したとしても、時間稼ぎにしかならないことは明白である。


 己が追い詰められつつあることを知り、インウィデアは怒りを込めた声をユキトに向かって投げかける。


「この世界の支配権を我が手に収めることが、どれだけ高尚なことか貴様には理解できぬのか。

 異世界から来た『まろうど』ごときが、何故に邪魔をする。人の身で我を滅ぼすことが許されると考えているのか」


「おいおい、お前が俺の命を狙ったのが先だろうが」


 まるでユキトから攻めてきたと言わんばかりの口調に、ユキトが思わず反論する。尤も、国すらも手駒程度にしか考えていないインウィデアにとっては、『まろうど』一人の命など顧みる価値はないのだろう。つまりは「なぜ、大人しく殺されないのだ?」と言っているに過ぎない。

 もちろん、ユキトとしてもそんな戯言に耳を傾けるつもりはない。


「フローラ、俺の剣にもセバスさんと同じものを頼む」


 インウィデアにトドメを刺すべく、ユキトはフローラに剣に破邪の力を付与する魔法を依頼した。自分自身の手でインウィデアを倒すべきと判断したようだ。


「………クククク」


 だが、そんなユキトの決心を前にして、インウィデアは静かに笑い声を上げた。


「……?」


 ユキトはその様子を訝しみ、眉を寄せてインウィデアを見る。追い詰められた悪役が、このような笑いを漏らすシーン。それが、何を意味するかをユキトは前の世界で何度も目にしていた。もちろん、映画や漫画の中での話だが。


「貴様たちは確かに強い……認めよう。正直、七極(セプテム)に匹敵……いや、それ以上の実力だろう」


 ユキトを見るインウィデアの仮面は、縦横に亀裂が入り、今にも砕けそうである。だが、その目の奥に宿った禍々しい赤い光は、いまだに衰えていない。


「だが、それも加護の力があってこそであろう……今こそ我は門を動かさん!!」


 インウィデアがそう宣言し、ユキトがその意味を尋ねようと口を開いた瞬間、広間の玉座の背後から地響きのような音が轟いた。


 ゴゴゴゴゴゴ!!!


 見れば、玉座の背後にある巨大な岩壁が中央から左右に分かれ、その隙間がゆっくりと広がっていく。まるで両開きの扉がゆっくりと開いていくかのようだ。


 ゴゴゴ………


 だが、その岩の扉は2~3メタほどの隙間を開けただけで停止してしまった。そのまま全開にすれば、横幅は20メタ以上はありそうなので、僅かに扉が開いた程度だ。


「何をするつもりか知らないが、急いでトドメを刺した方が良さそうだな」


 何もインウィデアの行動を待つ必要はない。ユキトは剣を構えて、インウィデアに走り寄る。そんなユキトの背に向かってフローラも魔法の詠唱を始めた。


「まぁ、そう焦るな……神界の風を味わえるのは1000年ぶりだぞ?」


 インウィデアがそう告げると、岩の扉の隙間を起点として、広間に風が吹き抜けた。

 いや、それを風と呼んで良いのか分からない。その風は淡く発光していたのだ。まるでアニメ中の表現のように、空気が薄っすらと黄光に輝いていた。


「なによ、この風!?」


 ファウナが扉の方を向いて叫ぶ。風自体には悪い感じはしない。むしろ心地よく、気力が漲るようにすら感じる。


「これは神の世界より吹く風だ。地獄への手土産にするが良い。

 本当ならば、もっと門を開いてやりたいところだが、これ以上開くと我の存在を神々に気付かれる恐れがあるのでな。これで我慢してもらおう。

 だが、私が管理者としての権限を使うには、これで十分……」


 そう述べたインウィデアの身体は薄っすらと青く発光していた。以前に、ユキトが加護を封じられた際に使われた宝石が放っていた光と同じ色である。


「まさか……」


 ユキトの背中に嫌な汗が流れる。ユキト達の力は加護に起因するところが大きい。いや、ほぼ全てと言って良い。もし、それが失われるようなことになれば……


「貴様らに付与(エンチャント)されている加護を……剥奪する!!」


 インウィデアがそう宣言するとともに、黒い粒子がインウィデアの身体から放射状に放たれ、広間全体を透過していく。それと同時にユキト達に付与(エンチャント)されていた加護が全ての効果を失ったのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブクマや評価、感謝です。励みになります。


面白かった点、誤字脱字、改めた方が良い点などありましたら、是非とも感想までお寄せください。参考にさせて頂きます。

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