第139話 商魂! 迷宮とバザール!
先週はまるっと家を空けていたので更新が遅くなりました。申し訳ないです。
出先から更新出来るかと思ったのですが、時間がとれませんで。
「ここが……迷宮群落か」
「世界で最も高難易度で知られるダンジョンなのね……でも」
「「思っていたのと違う!」」
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先日、迷宮群落へと出発したユキト達は、転移ゲートを潜って、一旦アウリティアが治める里『リティア』へと移動した。そこから、迷宮群落へと向かう方が、距離的にも相当に短縮できるからだ。
転移ゲートで一度に転移可能な人数には上限があるが、2日に分けて移動すれば問題ない。そこに1日を費やしても、まだまだお釣りがくる計算だ。
とは言え、リティアの里からエルム山地に広がる広大な森を抜けて、迷宮群落へ至るには、旅慣れた冒険者でも難儀する。途中から植生が変わるほどに広範囲にわたる森は、魔物も多く棲息しており、視界も足元も悪い。
事実、一攫千金を狙って迷宮群落へと向かう冒険者の多くは、ハルシオム皇国側から海沿いを北東へ進むルートを選ぶらしい。ユーラシア大陸のイメージで言えば、ヨーロッパ側からロシア北部を目指すルートだ。このルートの方が、エルム山地を縦断するよりもパーティの消耗が少ないと判断されていた。
だが、それは普通の冒険者達に限った話だ。ユキト達にはチート的な力を持つメンバーがたくさんいるのである。
「しかし、フローラに馬車が通れる道を作ってもらうってのは、やり過ぎだったんじゃないか?」
「エルム山地の樹木は成長も早いから、2~3年で道は消えるさ。いや、地面の一部がガラス化してるからもう少しかかるかな……」
「私はお役に立てて嬉しいですわ」
アウリティアの発案で実行されたのは、フローラに森を縦断する道を作ってもらうことだった。フローラの一兆度の火球を利用した至高火球陣。これを使えば、防熱陣の範囲内の樹木や地面を綺麗に蒸発……否、プラズマ化することができる。完全に消滅するので、延焼が広がって山火事になるようなこともない。
尤も、エルム山地の樹木は一般の森林と比べても、圧倒的に強靭な樹木が多いので、普通の火炎では、火をつけることすら難しい。
そんな森の中を、まるで雨どいのパイプを地面に埋め込んだかのように、精密な半円状のヘコミが一直線に貫いていた。リティアで借りだした馬車を走らせるにも快適な道である。
道の問題はそのように解決したのだが、一方で魔物の襲撃という問題もある。エルム山地で気をつけるべき魔物としては『オオグチ』、『テヅルワーム』、『闇怪精』だ。
『オオグチ』。その身体は人間の子供のような姿をしているが、その顔の大部分を口が占めている。鼻と目は申し訳ない程度に口の横にへばり付いており、機能しているのかも不明だ。奇怪さとユーモラスさが同居した外見をしている魔物だが、その巨大な口の咬合力はとてつもなく強く、鉄製の鎧など難無く食い千切ってしまう。群れで行動することが多く、危険な魔物だ。
次の『テヅルワーム』はワームに属すると考えられているが、普通のワームのように蛇型ではない。その身体は、中心から放射状に広がっており、何十本も枝分かれしている。それらの触手にも似た身体の先端部にはヤツメウナギのような口がついており、絡め捕った獲物を貪り喰らう。半径10メタ程度のサイズだが、森の中に潜まれると発見は難しく、気がついた時にはパーティ全員がテヅルワームに絡め取られていたというケースも少なくない。
最後の『闇怪精』は、闇の力を持つ妖精と言われる。出現するのは決まって夜のみ。人間にその姿を見せることはなく、森の奥に妖しく光る眼が見えるだけだ。魔法を使って攻撃してくる他、旅人を道に迷わせもする。
今回、ユキト一行が森を抜けるにあたっては、後者の2種とは遭遇していない。テヅルワームは待ち伏せ型の魔物なので、開けた道の上には姿を現さなかった。そもそも、森に道を作る際に、進路上にいたテヅルワームは焼かれたのだろう。
また、闇怪精は相手の魔力を視ることができるらしく、ユキト一行に極魔道士たるアウリティアがいる時点で敵対してこなかった。というより、七極相手には近づいてすらこないらしい。
その中で、唯一ユキトが遭遇した魔物がオオグチである。ユキト達の進行を妨げるようにわらわらと道に群れていたのだ。ただし、この戦闘はユキト達の一方的な勝利だったので詳細は省略する。端的に言えば、ファウナがいれば普通の魔物は瞬殺なのだ。
そのようなわけで、迷宮群落までの道中は比較的平穏であった。だが、迷宮群落に到着したユキト達は少なからず、驚くことになった。
まず迷宮群落の外観である。遺跡だの街だの森だの山だのをくっつけて団子にしたような巨大な塊。そんな塊が平原の真ん中に鎮座していたのだ。その大きさは山と呼んで差し支えないものだ。下側は地面に埋もれているので地下にも続いているのだろう。
「元の世界にこんなゲームあった気がするなぁ……」
建築物や車などを巻き込んで塊を大きくしていくゲームを思い出したユキトだったが、今回ユキト達が驚いたのはその点がメインではない。
「活気があるな」
「意外な光景だわ」
迷宮群落の周囲に広がっているのは、活気のあるバザールであった。遊牧民の使うような大きな円形の布製テントが幾つも建っている。道には冒険者と思われる人々が歩いている。
そもそも高ランクの冒険者達が迷宮群落に挑む際には、当然ながら資金を惜しまずに準備を整えるものだ。さらには死の危険も大きいということで、娼婦を呼ぶ者も多い。そんなわけで、冒険者を相手にする商売人達が少しずつ集まり、いつの間にか大きな市場が形成されたのだ。
「俺らが迷宮群落に挑んだときにはなかったんだけどなぁ」
予想外の発展に対して、アウリティアもそんな感想を口にする。このバザールの発展は、どうやらアウリティア達が迷宮に挑んだ時期よりも後に起こった現象らしい。
その一方で、イーラは旅の途中で立ち寄ったこともあるようだ。顔見知りらしい商人達に声をかけ、丁重に挨拶をされていたりする。
「イーラ様、お久しぶりで」
「今回はダンジョンへ御用で?」
声を掛けられた商人達としては、内心でイーラの外見が随分と若くなっていることに驚いていたのだが、年齢に関する指摘などしたらば命を失いかねないと、おくびにも出さない。逆に言えば、商人としての勘が告げている危険性が、彼女がイーラ本人であることを証明していた。
「このシジョウ卿に同行する予定でのぅ。共にダンジョンには潜るつもりじゃ。しかし、アイテムの不足はない。そち達から品を買うつもりはないぞ」
「へい、承知しました」
商売に命を賭けている商人達と言えども、流石に七極のイーラに無理強いできるわけもなく残念そうに引き下がった。だが、その中の1名がさらにイーラに話しかける。いや、正確にはイーラの後方に立っていたユキト達にも話しかけているのだろう。
「では、イーラ様。最新のダンジョン情報はいかがでしょうか。イーラ様ですのでお安くしておきますが……」
「ふむ。情報屋かえ。 ……シジョウ卿、どうする?」
情報屋の売り込みに対して、イーラは判断をユキトに丸投げした。イーラとしてはインウィデアに利用された借りを返せさえすれば、それで良いのだ。
「まあ、金には困っていないから払っておくか。アウリティアも全部知っているわけじゃないしな」
この間まで現代人であったユキトだが、ダンジョン攻略における情報の価値について、多少は想像がつくつもりだ。異世界の話でなくとも、ゲームの攻略サイトをイメージすれば良い。初見殺しのトラップなどは知っているか否かが全てを決める。
「んじゃ、これでいいか」
チャリチャリと銀貨の音が響く。王国内の冒険者ギルドを基準にすると、暴利とも思える金額設定であったが、情報の収集にも命がけと考えれば、仕方のないことだ。円グラフ等の使用料収入もあるユキトにとっては、大した額ではない。情報料を支払い、男から聞いた内容をメモしていく。
それによると、迷宮群落の入口の数は現在までに26か所確認されており、これまでに探索に用いられたのは10ヶ所のみ。そのうち、3か所の入り口については内部で繋がっていることが確認されている。
魔物の情報もあった。人の声を真似する魔物やダンジョンの壁や床に擬態する魔物などは注意が必要だろう。尤もアウリティアによると、奥の方にはそんな子供騙しがどうでも良くなるほどヤバいのがゴロゴロしているらしい。
他に気をつけるべきは罠だ。特に落とし穴と転移罠には注意が必要らしい。パーティから切り離され、逃げ場のない場所で単独で魔物に襲われるというのは、冒険者が見る悪夢の中でも特に嫌なものだ。
落とし穴であれば、まだ助けに向かうことも可能だが、転移罠だとほぼ絶望的だ。実際に情報屋の統計によれば、迷宮群落における落とし穴からの生還率は8%、転移罠に至っては0%らしい。
「転移罠を踏んだら死と思った方がいいのか。怖えな」
「ユキトは最初のダンジョンで落とし穴にかかったんだから、気をつけてよね」
ファウナが昔のことを持ち出して、ユキトをからかう。事実ではあるので、ユキトも苦笑いを返すしかない。
「ま、俺が探査の魔法を使いながら進めば罠は回避余裕だけどな」
その点、経験者でもあるアウリティアの言葉が頼もしい限りだ。この探査魔法を使えば、ある程度は迷宮地図も作れるらしい。しかも罠の場所も記載された地図である。情報屋に売れば、相当な高値がつくことだろう。
「とは言っても、気をつけないとね」
「そうですわね。アウリティアさんにばかり頼っても良くないですわ」
ファウナとフローラがそんな会話を交わすが、2人が転移罠で飛ばされたとすると、転移先で待ちかまえている魔物達の方が絶望しそうである。まさか魔物達も転移罠で超エルフ人が転移してくるとは思わないだろう。彼女にとって、硬いはずのダンジョン壁などは豆腐に等しい。
「で、現在までに探索に成功したパーティは7組のみ……ボスの情報は皆無と」
情報屋の男はユキトの確認に頷くと、更に付け加える。
「ええ、旦那。迷宮群落の探索成功はSクラスの魔道具を持って生還することを指しますんで、ボスについてはそもそも目的にないです。ちなみにAクラス程度の魔道具なら18組程度が成功してます。帰って来なかったパーティはそれよりもはるかに多いですけどね」
「じゃあ、今も冒険者は迷宮に入っているのか?」
ユキトは情報屋にそんな質問を投げかける。
「えーと、少なくとも3日前に1組入りましたね。1ヵ月帰って来ないパーティを除いても、3組ほどが入っています」
情報屋の男の言葉に、ユキトは少し残念そうな表情を見せる。そもそも帰ってきていないパーティも死んでいるとは限らないわけだ。
「そうか。冒険者が迷宮に入っているとなるとフローラのアレで迷宮群落ごと消し飛ばすってのは無理そうだな」
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9/25 イーラさんの姿が若返っていることに対する商人の反応を少し加筆しました。