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第138話 準備万端!迷宮群落へ出発!

前回のお話

 サブシアの経済状況は全く問題なしの黒字である。

 

 迷宮群落(ダンジョンコロニー)へ向かうため、サブシアでの準備を整えるのに数週間。

 その間に特筆すべきことは3点ほどだ。


 1点目は、アウリティアの治めるエルフの『リティス』との交流のため、双方を繋ぐ転移ゲートが設置されたこと。転移ゲートは1日に5~6人程度がリティスへと転移、即ちテレポートできる施設だ。もちろん、リティス側からサブシアへ来ることもできる。


 そんなゲート施設がサブシアの領主館の敷地内に設置された。


「これでいつでもカレーが食べられる……」

「そこかよ」


 アウリティアの感想に思わずツッコミを入れるユキト。アウリティアの長年の研究と努力により、豚骨ラーメンはこちらで再現が出来たようだが、こちらの世界に存在していないスパイスを必要とするカレーは再現が難しかったのだろう。すっかりカレーにハマっている。


 ちなみにこの転移ゲートの作成は、アウリティアの魔道具にユキトが加護を与える形で行われていた。

 元となった魔道具は、屋敷内の異なるドア同士を接続してしまうという魔道具である。1階のドアを抜けると2階のドアに出る等の面白い使い方ができるアイテムなのだが、それなりに魔力を消費するとともに、有効範囲が非常に短く、遠距離どころか隣の建物へ接続することもできなかったものだ。そこにユキトが加護を付与(エンチャント)し、アウリティアが様々な魔法的な調整を行って完成した。


「まぁ、俺達の世界ではこの手の瞬間移動用の道具ってのはポピュラーだったからなぁ」

「いや待てユキト。地球でも瞬間移動は空想の産物だからな。アニメやマンガでは……と言うべきだ」


 幸いにしてユキトの世界には、この手の遠距離を一瞬で移動できるアイテムはたくさん出てくるし、多くの人に認知されている。ユキトの能力で加護を付与(エンチャント)するには十分だった。


「それにしても、この形……特定の道具の影響が出ているような気がする」

「ピンクの片開きドア……どこでも行けそうだな。数百年ぶりに見たけど、覚えてるもんだな」


 日本における瞬間移動用アイテムのイメージが、某有名アニメの特定の道具に偏っていたのが原因だろう。リティスとサブシアを繋ぐ転移ゲートは、どこかで見たような外見をしていた。


「まぁ、外見はこんなだが、ちゃんと動作はする。問題はない」


 もちろん、ユキトもアウリティアも単にお互いの里と街の交流だけを目的に設置したわけではない。迷宮群落(ダンジョンコロニー)へ向かうための準備でもあるのだ。この大陸の北端近くにあるという迷宮群落(ダンジョンコロニー)へ向かうのに、まず北部のエルム山地に存在するエルフの里へと瞬間移動できれば、旅路は大幅に短くなる。


「これでアウリティアの里からエルム山地を北に抜ければ、目的地ってわけだな」


 ユキトとしても無駄に長い旅をしたいとは思っていない。

 百九年蝉のセミルトに迷宮群落(ダンジョンコロニー)の目前までピストン輸送してもらう案もあったのだが、エルム山地の上空には空を飛ぶ魔物も多いらしく、危険があるとのことだ。

 地上を進む場合は森の中を移動するわけだが、ユキト達のパーティの実力であれば、少なくとも魔物に苦戦することはないだろう。


「そうそう。エルム山地と言えば……エルフの里の近くで殺人事件があってな」


 アウリティアが声のトーンを変えて、ユキトに話しかける。この事件の報告が2点目だ。


「殺人事件?」


「正確には、殺エルフ事件なんだが、『タニアス』付近の森でエルフが1人殺された」


「タニアスってと、お前の奥さんのティターニアさんが治めている里だよな。俺達がグリ・グラトと戦った時に瞬間移動で行ったところ」


 ユキトはグリ・グラトを倒すために向かったエルフの里のことを思い出す。エルフ族のイメージに違わぬ美しい里だった。


「ああ、そうだ。エルフ族にとっての首都だな。

 その里の住人で、狩りのために森に入った男が死体で見つかった。衣服が全て剥ぎ取られていて、全裸だったそうだ。死因としては、眼孔に木の杭が突き刺され、それが脳まで達したことらしい」


「ロートゥみたいな獣人系の魔物の仕業ではないのか?」


 ユキトはそんな疑問を述べる。獣人系であれば、木の杭などを武器にし、興味があれば敵の衣服を剥ぎ取ったりするかもしれないという判断だ。


「あの森にいる獣人系はもっと凶悪なヤツらでな。木の杭なんて自分の爪より弱い武器は使わないな。それにエルフの男もそれなりに魔法が使える。更には、その男が攻撃魔法を撃った形跡もあってな。それが命中したのか、敵のものと思われる大量の血痕も確認されたが、死体はなかったらしい」


「となると……(いとま)か」


 アウリティアの説明を受けて、ユキトは一人の男の名を呟いた。ユキトとしては、虚井暇(うつろい いとま)はグリ・グラトとともに消滅したと思っていたのだが、仮に生きていたとすれば、服を奪う為だけにエルフを殺すくらいのことはやってのける気がする。


「そいつは例の不死の男だな」

「可能性は高いと思う。グリ・グラトを消滅させた一撃でも死ななかったとすれば……だが」


 エルフの魔法を受けて、倒れたところに近づいてきたエルフを不意打ちで殺したのだろう。そのエルフも殺した者が復活するとは思わないはずだ。例えば、魔法で頭部を爆散させれば、まさか相手が生き返るとは思わない。


「問題は服を手に入れた後、どこへ行ったかだな……聞いた話の範囲では、(いとま)の攻撃力はそんなに高くないみたいだから、俺達のパーティの邪魔にはならないと思うが」


 (いとま)の脅威はその不死性にある。身体を粉微塵としても、燃やし尽くしても、酸で溶かしても復活するが、ファウナやフローラのような馬鹿げた攻撃力があるわけではない。上位の冒険者程度だろう。


 かつてのニューマン伯爵邸での惨劇のように、狭い部屋で数人単位の人間を相手にし続けるのには滅法強い特性だが、大軍勢を一度に相手にしたり、物理攻撃が効かない魔物を相手にするのには向いていない特性と言えた。


「もしかして、そいつも迷宮群落(ダンジョンコロニー)に向かったってことはないか?」


 アウリティアが特に根拠のない思いつきを口にする。


(いとま)がそこに向かう理由もないと思うが……アイツは何を考えているか分からないからな」


 ユキトは、死なない男の特徴の薄い顔を思い浮かべる。直接は剣を交えたことはないが、いずれ自分の前に敵として現れる予感がする。ファウナ、フローラを始めとしたパーティメンバーの火力を考えると、倒せないとしても遥かかなたに吹き飛ばすなどして追い払うことはできそうだが、油断はできない。


 そんな心配をするユキトの背後から気楽な感じの声がかけられた。


(わらわ)も同行するのじゃ。不死者の1人や2人、心配はなかろうて」


 そう、3点目は迷宮群落(ダンジョンコロニー)へイーラの同行を取り付けたことだ。イーラとしてもインウィデアに復讐する機会ということで、特にゴネることもなく話に乗ってきた。


 尤も、彼女の機嫌が良いのは、先日試作したソフトクリームを食べているからかもしれない。


 その日、ユキトはいつものように電子辞書の知識を流用し、サブシアで売り出すためのデザートとして『アイスクリーム』を作っていた。その際、魔法による攪拌と冷凍を行えば『ソフトクリーム』もできるのではないかと、通りかかった氷結の魔女に頼んでみたのが原因である。


 すっかりこの甘味を気に入った氷結の魔女ことイーラは、材料をせびっては魔法でソフトクリームを自作して食べている。当初は複数の魔法を組み合わせて、攪拌と冷凍を行っていたのだが、すっかりハマった今では専用の作成魔法まで編み出していた。


「流石に冷気系の魔法は俺よりも上手く操るねぇ」


 アウリティアも感心しているが、その才能の向いている先がソフトクリームというのは七極(セプテム)としてはどうなのだろうか。いや、そのように自由に振る舞える強者こそが七極(セプテム)というものなのかもしれない。


迷宮群落(ダンジョンコロニー)を探索する間は食べられないんだから、今のうちに食べておいてくれ」


 呆れながらユキトが述べると、イーラが驚いたような表情を返す。


「何を言っておる! 材料は持って行くぞえ。(わらわ)が自分で運ぶのであれば問題はなかろう。探索中もこの『そふとくりぃむ』なる甘味を楽しむのじゃ」


 材料はユキト持ちであるが、それで七極(セプテム)を雇えると考えれば安いものだ。


(まぁ、現状ではバニラが採れるのは俺の領地(サブシア)だけだから、当分はイーラもサブシアで暮らしそうだなぁ)


 ソフトクリームを美味そうに食べる妙齢の美女を眺めながら、ユキトはそんなことを考える。先日まで幼女姿だったイーラだが、ある程度魔力が回復したことで、外見の年齢が上がっている。ソフトクリームを食べるのならば、以前の幼女姿の方が似合っていたかもしれないが。


 とそこに、ファウナとフローラが姿を見せた。


「あ、イーラさん! 私もソフトクリーム食べたいー」

「あ、あの私にも頂けませんでしょうか」


 ファウナとフローラもソフトクリームファンである。だが自分では作れないので、イーラがソフトクリームを食べているところを見かけると、このようにねだって作ってもらう。イーラも自分の好物を求められて悪い気はしないのか、気前良く2人に作り与えている。

 一方、ストレィはソフトクリームも嫌いではないようだが、それよりはアイスクリームを好んでいた。果汁などを加えることで様々な味が楽しめるのが好きらしい。と言うことは、いちご味やチョコ味のソフトクリームが開発されれば、ソフト派に乗り換えるかもしれない。


「甘くて冷たい~」

「イーラさん、前より美味しくなってませんか!?」


「お!気付いたか! 攪拌の速度を調整してのぅ……更に――」


 キャッキャッと女子トークが盛り上がるのを横目に、ユキトは呆れたように息を吐く。


迷宮群落(ダンジョンコロニー)でも、こんな調子で行くのかなぁ」

「ま、殺伐としているよりは良いだろ」


 そのようなわけで、メンバー達の緊張感は高まらないのだが、遠征の準備は着実に進んでいた。もう食糧と道具類はほぼ揃ったはずだ。セバスチャンの収納魔法だけではスペースが足りないので、アウリティアも食糧を運んでくれる手筈だ。


「そろそろ食糧や道具類も揃う。冬になる前には終わらせておきたいな」


 それから3日後。全ての準備を終えて、ユキト達は迷宮群落(ダンジョンコロニー)へと旅立ったのだった。目指す敵はインウィデアである。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブクマや評価も大変感謝です。励みとなりますので、どうぞよろしくお願い致します。

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