第14話 出現!超巨大ゴーレム!?
「変身!」
少しばかり照れの入ったユキトの掛け声とともに、眩い光がユキトの身体を包み込んだ。ユキトの視界も光に飲み込まれ、白一色となる。
だが、次の瞬間にユキトの視点ははるか高所に位置していた。ユキトが宙に浮かんだわけではない。巨大化したのである。その身長はおよそ40メートルまで伸び、身体は銀色をベースに黄色のラインが入ったメタリックなものに変化していた。
ただ、イメージしていたシュッとした細身の体というよりは、もう少しずんぐりしており、足も太くてどことなくゴーレムっぽさがある。異世界用にアレンジされている姿なのだろう。
「体型が思ってたのと違う……変なとこでオリジナリティを出すんだな」
自身の姿を確認しつつ、モチーフ元との違いが気になるユキト。色についてもオリジナルの配色とはちょっと違うようである。
あくまでもモチーフにしているだけで、加護そのものは異世界の産物であるのだから、ここは仕方ないと割り切るしかない。
そんな感想を持ったユキトだったが、すぐに時間が3分もないことを思い出した。変身している間に試すことがある。
「この姿になったからには出しておかないとな……光線!」
そう、ユキトの世界では、この種の巨人は手から光線を放ち、巨大な怪獣を爆死させることを生業としていたのである。
当然、テンプレの中にはその光線も組み込まれていると考えられ、加護もそれを引き継いでいる可能性が高い。ならば是非撃っておきたいのが、男のロマンというものだ。
「手をクロスさせるのかな?それとも額に?」
光線を発するには、両手を決められた特定の位置関係にする必要があることをユキトは知っている。
巨人と化したユキトは、光線を出そうと両腕を様々な角度で組み合わせてみる。肘を曲げたり、伸ばしたり、手首を合わせたり、離したり。傍から見ると懐かしきパラパラでも踊っているかのようだ。パラパラとはユキトの世界で30年近く前に流行したダンスである。
そんなどこか真面目さに欠ける動きを繰り返していたユキトであったが、偶然にも左右の手首を合わせて胸の前でXの字を作るようにすると急速に両手が接している箇所に何らかのエネルギーが集まるのを感じた。
「おっ、見つけたっぽいぞ」
ユキトはいったん体勢を整え、周囲を見渡して光線を放っても被害が出ないであろうことを確認する。
森を焼き払いたいわけではないし、基本的には空に向かって撃つつもりだが、それでも光線の発射方向に大したものがないことは確認しておくべきだろう。
光線と思って撃ったら、謎の光弾が放物線を描いて飛び、着弾して街を消し飛ばした……などとなったら大惨事もいいところだ。こういうことは慎重に慎重を重ねるべきなのである。
だが、その時、ユキトの耳に誰かが叫ぶ声が聞こえた。
「ヤバイぞ! 逃げろ!」
その声がユキトの耳に届いたのは、巨人に変身したことによって、ユキトの聴力をもが上昇していたからであろう。
声がした方向を見ると、かなり離れた街道に馬車が止まっており、御者らしき男が慌てて馬車を方向転換しているようだった。
どうやら、40メートル級の巨人となったユキトを目撃して、逃げるところらしい。銀色ベースにして黄色のラインが入った巨体はそれなりに目立ったようである。
「驚かせちまったか」
魔物が存在しているこの世界で、40メートルの巨人の姿を見たならば、即座に逃げるのが正しい行動であろうことはユキトにも容易に想像がつく。
しかも体表は銀色であり、人間離れしている。逃げない者がいるとしたら、よほど高レベルの勇者か自殺志願者だろう。
ユキトがそんなことを考えながら、馬車が走り去るのを眺めていると、急に視界が白くなり、気がつくと視点の位置が地表近くに戻っていた。
時間切れで変身が解けてしまったのだ。これで光線の試射はお預けである。
「あーあ。しかも、魔力も切れちまったみたいだな……」
変身が解除されたユキトは、またも能力が発動しなくなっていることに気付いた。
やはり40メートルの巨人は燃費が相当に悪いようだ。使いどころは難しそうである。とはいえ、3分あれば目の前の敵くらいなら簡単に対処できるだろう。
ユキトは、この加護を奥の手として覚えておくことにする。
(再び使えるまでに必要な時間は……5日くらいか)
リロードタイムも現実的な範囲内のようだ。
魔力が切れたユキトであったが、いつ魔物に襲われるか分からない世界である。豆を齧ってひとまず回復させておく。
今日の能力確認はこの辺りで切り上げるにしても、魔力がないと変身もできないのだ。
それにしても、この数時間で能力を何度も使うことで魔力を大盤振る舞いしており、そのたびに豆が消費されている。
ユキトとしても、この貴重らしい豆は計画的に使うべきだとは思うが、まずは自身の能力を熟知する方を優先すべきと判断した結果だ。
それまでは豆の消費は特別会計として計上するつもりである。
さて、ユキトが巨大化なんぞしていた頃、ファウナはロートゥの巣の壊滅とオルグゥの討伐を目的として、森の中に踏み込んでいた。昨日、森の中でロートゥの巣を捜索していたファウナは、遠目にオルグゥらしき姿を見かけたのだが、既に日暮れだったために討伐は断念してネロルの街へ戻ったのだ。
討伐依頼のクエストが出ていたのはロートゥのみだが、オルグゥは危険な魔物であり、討伐に対しては常時報奨金が出る仕組みとなっていた。
この近辺には小さな村も存在しているため、オルグゥの存在は驚異だ。
(今の力ならオルグゥも簡単に倒せそうね)
ファウナは加護の力に慣れてきた今ならばオルグゥを恐れる必要はないと判断している。
確かにオルグゥはロートゥ単体よりも危険な魔物ではあるが、D級冒険者のパーティであっても、うまく連携して討伐することもある。ロートゥの群れのほうが討伐しにくいという冒険者もいるくらいだ。
(さて、確かこの辺りにロートゥの巣が……あった)
森の中のロートゥの巣は昨日のうちに見つけておいたものだ。木々の間に枯れ枝などを組み合わせて作ったと思われる非常に粗末なあばら家のような巣がいくつか集まっている。
ユキトの世界の小学生がつくる秘密基地程度のクオリティであるが、気配から察して10匹前後のロートゥが潜んでいると思われる。
「さて、討伐させてもらいましょうか」
ファウナはそう呟くと、手近な巣を外から蹴り倒す。小学生ならば涙目の所業である。
枯れ枝を組んだだけのものなので簡単に崩れたが、崩れた枝の山の中から3匹のロートゥが飛び出してきた。それを合図として他の巣の中からもロートゥが飛び出してくる。
「9匹ね」
ファウナがそう呟いた次の瞬間には、一体のロートゥが蹴り飛ばされ、森の木に叩きつけられた。そのまま崩れ落ちたロートゥはもう動く気配はない。
それを見た他のロートゥ達が焦ったようにファウナに目を向けるが、すでにその位置にファウナの姿はなかった。
結果を言えば、加護を得たファウナを相手に9匹程度のロートゥでは全く相手にならなかった。
ものの数分後には、全てのロートゥが地に倒されていた。ロートゥ達の攻撃はファウナにかすりもせず、逆にファウナの拳の一撃で地に伏せることとなったのだ。
ファウナは昨日の反省を活かして、返り血が出ないように加減して仕留めたようだ。
「さて、他に巣がないか探しつつ、オルグゥも探してみないとね」
ファウナはまだ息のあるロートゥに対してはとどめを刺しつつ、討伐を証明する部位となる耳を切り取った。
まさかロートゥの死体をいくつも抱えていくわけにはいかないので、魔物ごとに予め定められている部位をギルドに提出することで、討伐したと見做されるのである。9匹分の耳を集めると、ファウナは森の奥へと進んでいった。
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「よし! また見つけたっと」
本日の能力の確認についてはひとまず休止にしたユキトは、続いて薬草探しにシフトしていた。
その成果として、センゼンカズラ5株とハウリ草2株、さらにエンセポテラ1株を発見していた。エンセポテラは毒草でもあるが、錬金術に用いる素材となるらしい。グリングリンと茎も葉も渦を描いており、一見して怪しげな草だ。
ギルドの貸与資料によると、エンセポテラは銅貨6~8枚程度の報酬が追加されるらしい。悪くない収穫だ。
太陽が沈むまでもう少しあるが、ユキトの腰から限界を知らせる信号が脳へと送られている。メキメキと音を立てそうだ。
それに加えて、満足できる成果を得たことで、ユキトは今日のクエストはここまでと決めた。
夕方になり、風が涼しくなってきたことだし、少し早いが街へ戻ることにする。
上機嫌でユキトが街の近くまで歩いてくると、門の方からファウナが走ってきた。
だが、お出迎えにしては表情が違うような気がする。走り寄ってきたファウナの表情は、あまり明るいものではない。
何かあったのかとユキトも少し心配になる。
「ユキト! 無事だったのね!?」
「え。俺が? ああ、無事だけど?」
「ユキトのいた薬草の自生地のある方角に巨大な魔物が発見されたの!! ユキトは襲われなかった?」
「きょ、巨大な魔物!? よかった、俺は出くわしてないぞ」
「私も早めに戻ってきて、先にギルドにクエスト完了の報告に寄ったんだけど、そんな目撃証言があがっていて……それでびっくりして」
どうやら何か危険な事態がすぐ傍で起こっていたらしいと聞かされ、ユキトも危ないところだったと肝を冷やした。
しかし、巨大な魔物に興味はある。
「巨大な魔物ってどんな魔物なんだ? ドラゴンとかか?」
「うーん、ゴーレムみたいだったらしいわね」
「ゴーレム?」
「ええ、銀色の見上げるような巨大なゴーレムだったって」
「……」
ユキトは急に無表情になる。
「遠目だから正確なところは不明だけど30メタ以上あったらしいわよ」
「……」
「それだけ大きいと……ん? ユキト? どうしたの?」
「イヤ、ナンデモナイヨ」
「じゃあ、なんで目をそらすの?」
「イエ、ベツニ……」
「まさか……」
ユキトの不審な態度と既知である加護の情報を元にファウナはゴーレムの正体に見当がついたようであった。
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「こんなことになってるなんて……」
冒険者ギルドの中は大騒動になっていた。街の近辺に巨大なゴーレムが出現したことで、冒険者ギルドには街の守備隊と合同の対策本部が設置されていたのだ。
30メタ以上のゴーレムが街の近辺に出現したという知らせをもたらしたのは商人の馬車の護衛をしていたC級の冒険者だった。
しかも、街の冒険者の中ではかなりの信頼されている人物だったため、その報告は事実として扱われた。当然、護衛対象だった商人も、馬車の御者も目撃している。
彼らの報告によると街の北側5キロの位置で目撃したとのことだ。となると、すぐに対策をとらなくては危険である。
その結果がユキトの目の前の騒動である。
「動けるやつを近隣から呼び集めろ」
「まずはゴーレムの居場所を特定しないと!」
「街に近づいたらどうやって防衛するんだ?」
「逃げた方が賢いんじゃないか?」
今更、ユキトが変身した姿ですとは言えない雰囲気だ。すでに壁に貼られたクエストの中に巨大ゴーレム絡みのものが混じっている。
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巨大ゴーレムの確認:銀貨10枚 街の近辺に確認されたゴーレムの居場所確認 (難易度B)
巨大ゴーレムの調査:銀貨25枚 街の近辺に確認されたゴーレムの詳細調査 (難易度A)
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「あ、ユキト様。御無事でなによりです」
ギルド職員のキリュがユキトの姿を確認して声をかけてきた。
「ああ、俺は大丈夫だったんだけど……すごい騒ぎだな」
「巨大なゴーレムだそうですから。街を襲われたら壊滅は避けられません」
「えーと、そんなに危険なのかな? ひょっとしたら無害なやつかもしれないし……」
「4~5メタ程度のゴーレムに壊滅された村の事例は数多くあります」
「……さようで」
「ユキト様は目撃されていないのですか?」
「も、目撃!? 目撃は……うん、目撃はしてないな」
自分自身を目撃したと表現するかどうかは微妙なところだ。
「そうですか。目撃報告によると、位置的には薬草の自生地に近かったはずです。危険ですからしばらくは薬草の自生地には行かないようにした方が良いですよ」
「き、ききき気をつけるよ」
ユキトとキリュが会話している間に、ファウナは別のギルド職員にロートゥ討伐の報告を行い、報酬として銀貨12枚を受け取っていた。
元々ロートゥの討伐のクエストは銀貨7枚の報酬のはずだったが、ファウナが提出した討伐数を示す耳片の数が多く、追加報酬が払われたようだ。良い稼ぎになったと嬉しそうなファウナ。
そんな彼女とは対照的に、キリュと会話してすっかり挙動不審になったユキトは、ファウナを引っ張って、逃げるように冒険者ギルドを後にした。
ユキト達が出ていく時もギルド内では冒険者たちが今後の作戦を話し合っていた。
「で、ユキトはどうするの?」
「うーん、しばらく目撃証言がなければ落ち着くんじゃないか?」
「それまで街の人は生きた心地しないでしょうけどねー。それに街の周囲の村も警戒態勢を続けることになるわね」
責めるようなジト目をしながらファウナがなじる。
「経済損失が大きそうだな……」
「これに懲りたら無茶な加護は使わないことね」
ユキトとしては、実は俺が巨人になれるんですよーエヘヘと名乗り出たいところだが、そんなことをすると大事になることは明白だ。
偉い人に説明を求められるだろうし、加護のことが知られたら、国家に拘束されるかもしれない。いかにファウナになじられても、ここは反省するしかなかった。
「それにしても、最初にギルドに一人で寄った時にクエストの報酬受け取らなかったのか?」
先ほどギルドで報酬を受け取っていたファウナを思い出し、ユキトが尋ねる。
「巨大な魔物が出たって聞いたから、慌ててユキトのところに向かったんでしょ!」
ユキトの問いにファウナは頬を膨らませてしまった。だが、頬を膨らませた女子なんてなかなか見られるものではない。
その愛らしさにユキトはファウナの頬を指でつつきたくなったが、相手がとんでもない戦闘力を保有していることに気付いて諦める。
そのまま宿に戻ったユキトとファウナは宿の食堂で夕食をとった。
薄い塩味のスープと硬めの黒パン、焼いた肉とつぶしたじゃがいもで銅貨2枚だ。
ファウナは昼食をどうしているのかとユキトが尋ねたところ、朝のうちにこの食堂で購入できるパンを持って行っているらしい。
いつも宿の前で待ち合わせていたため、ファウナが食堂でパンが買っていることを知らなかったユキトだが、アンブロシアである豆にも飽きてきており、ありがたい情報であった。
「でも、明日はどうするの? 薬草の自生地には行けないでしょ?」
「やっぱりダメだろうな。ファウナはどうするんだ?」
「本来ならゴーレム探しに加わってもいいんだけど、意味がないものね。明日もオルグゥを叩きにいくわ」
「じゃあ、それの見学ってことで」
ユキトはファウナと一緒に出かけるのも悪くないだろうと考える。
「まぁ、あの甲冑姿ならそんなに危険はないと思うけど……」
「よし、決まりな。ちなみに今日はオルグゥは見つからなかったのか?」
「森の中で足跡は見つけたんだけどね」
そう言って肩をすくめるファウナ。どうやらオルグゥと遭遇するには至らなかったようだ。足跡は途中で小川に入ってしまい後を追えなくなったらしい。
「そんなに広い森じゃないからすぐに見つかると思ったんだけどなぁ」
オルグゥはその巨体ゆえに森の中を移動する時には茂みを踏み荒らし、枝をへし折りつつ進む。当然、音もするので比較的見つけるのはたやすい。
だが、ファウナの捜索で発見できていない事を考えると、どこかに留まって隠れているのかもしれない。
ただ、オルグゥがそんなことをしている理由が分からない。この辺りの魔物としては強者であるオルグゥにとっては、森の中で隠れる必要性はないはずだ。
そんな疑問を抱くファウナであったが、この時のファウナにはその理由を知る由もなかった。
モチーフの特撮率が上がった…でも、これをしない男の子なんていない!
なお、モチーフが神話ではなく、アニメやら特撮となると、加護がより異世界ばなれした内容になります。これは人々のイメージが明瞭だからです。我々は天照大神がどんな能力あるかよく知りませんが、ウルトラマンがなにをできるかについては、明確にイメージできますからね。それがそのまま反映された結果です。
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8/23 前書き、後書きを修正
8/27 文字数調整のため、いくつかの話を分割したため話数がずれました。(ストーリーには影響ありません)