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第133話 18禁!? エロ系加護と眠りの神

前回のお話

 夜のユキトの部屋にストレィの気配!?

 ファウナとフローラが押し入るも、ストレィの姿はなし。果たして、本当に寝言だったのか。

 

 翌日、ユキトはストレィとアルマを連れ、皇都の北側に伸びる街道を進んでいた。先日ユキトが目撃したスロウと思われる人影が去っていった方角である。


 ユキトが総教会で古文書を調べた範囲では、眠神(ねむりがみ)スロウには数十年ごとに寝床を移動させる習性がある。更に文献に記載されていた神域の場所を追っていくと、1回の移動距離はそこまで離れていないと推測できた。


「過去の記録を見た感じ、お引越しの際には近隣の森に移動しているっぽいんだよな。今回もそんなに遠くに移動してないはずだ」


「でもぉ、眠神(ねむりがみ)が神域にする場所ってば、それなりに深い森に限るんでしょう?」


「ああ。少なくとも記録の中には小さな森に潜んだ例はなかったな」


 ストレィの指摘通り、スロウの神域と思しき領域が確認されたのは、記録上はそれなりに大きな森に限られている。今回に限って小さい森へ移動したとは考えにくい。


「皇国から借りてきた地図によると、皇都の南西に大きめの森が広がっている。この方面には村や町もないし、恐らくは、この間までスロウが潜んでいたのがこの森だろう。そして、先日ここを離れて皇都の北側へとお引っ越しをしたんだろうな」


 ユキトが地図の上を指でなぞりながら、スロウの動きを予想する。指でなぞった先には、いくつかの森の名が記されていた。このどこかにスロウが潜んでいるはずだ。


「マスター。北側の森で可能性が高いのは、このアシュルペルトの森とシュートレアリングの森と推測します。それ以外の森は少し規模が小さいように思います」


 3人は地図を見ながら、眠神(ねむりがみ)が潜んでいそうな森を絞り込んでいく。


「じゃあ、まずアシュルペルトの森を当たってみるか。アルマ、例のやつで頼む」


「承知しました」


「えぇ、あれで移動するのぉ!?」



 **********************



 ズズズゥン……!!


 巨大な質量が接地したことによる振動が、静かな森に響き渡った。驚いた鳥たちが鳴き喚き、一斉に飛び立っていく。


「マスター、到着しました」


 アルマの無感情な声が到着を告げる。目前には、深緑にさらに黒を混ぜたような色の陰鬱とした森林が広がっていた。木々の合間からユキト達を見つめる眼は、魔物のものだろうか。


「ここがアシュペルトの森か」


「……なにもぉ、アルマイガーGで移動しなくてもいいと思うわ」


 ユキト達はアルマが変形した巨大ロボット、アルマイガーGの掌から地面へと降り立った。徒歩で移動できない距離ではなかったが、ここが『当たり』とは限らないのだから、効率良く回る必要があるという判断だ。そのための移動手段=巨大ロボという選択である。


「早く着くんだからいいだろ」


「はい。効率的な移動です。マスター」


 ロボでの移動で少しテンションが上がったユキトに比べると、ストレィは若干冷ややかな目をしている。この辺りは男女の機微の差というものかもしれない。


「まぁ、いいけどぉ」


 ストレィはそう述べると、改めて目の前の森へと目を向けた。皇都からそう離れていないが、開発が進んでいる方角とは外れており、人が滅多に踏み入ることのない森である。


「魔物もいるみたいだけどぉ……流石に襲ってこないわねぇ」


 ストレィはちらりと背後の巨大ロボに視線を送る。この鋼の巨人に襲い掛かろうとする魔物は流石にいないようだった。木々の間から恐れるように、こちらを観察しているのみだ。


「ユキトくぅん、これからどうするのよぅ。森の中を歩いて探すのかしら? 私に付与(エンチャント)してくれた加護はスロウの場所を探すのには使えないでしょう?」


 ストレィがユキトに尋ねる。この広大な森をしらみ潰しに探すとなると、膨大な時間を要するだろう。だが、アルマイガーGで森の上空を飛び回って探す場合、急に全員が意識不明ともなれば墜落死の危険もある。


 しかし、ユキトは焦るそぶりもなく、アルマイガーGの方を振り向くと自信たっぷりに指示を出した。


「アルマ。爆薬を抜いたミサイルを広範囲に撃ってくれ」


「マスターの意図を把握。承知しました」


 ユキトはミサイルを使ってスロウの居場所を探るつもりである。スロウの能力は万物を眠らせるのであるから、ミサイルも例外ではないだろう。つまり、森に広くミサイルを乱射すれば、スロウが潜んでいる周辺に向かったミサイルは動作を停止するはずだ。


 シュボン!シュボボボボン!シュボボボボン!


 ユキトの命を受け、アルマイガーGの肩の装甲が外れ、その中から無数のミサイルが森へと向かって撃ち出されていく。ミサイルと言っても、1本1本は1.5リットルのペットボトル程度の大きさだ。それが梢をかすめる程度の低空を四方八方に飛んでいく。もちろん、爆発させてしまうと自然破壊もいいところなので、一定距離を飛んだ後は、爆薬の入っていない鉄の塊が落下する仕様だ。


(それにしても、このミサイルってどこから生まれてるんだろうな……)


 アルマイガーGから連射されるミサイルを見て、ユキトにそんな疑問が浮かぶ。以前にアウリティアに聞いた話では、加護の実現に必要なエネルギーや物質等は、この世界の管理システムが自動的に補充しているらしい。ということは、このたくさんのミサイルも世界の管理システムが何処からか産み出していることになるのだろう。


 ユキトがそんなとりとめのないことを考えていると、頭上に聳え立つアルマイガーGから報告が入った。


「マスター。真正面から右に30度、距離3里の地点にミサイル反応が消失する領域があります」


「よし。ビンゴだ。一つ目の森で当たりが引けるとは運がいいな」


 ユキトはニヤリと笑みを浮かべ、そう呟いた。遂にスロウの神域を突き止めたのである。





 だが、本番はここからだ。スロウの居場所が分かっても、近づけば眠らされてしまうのは間違いない。スロウにインウィデアの情報を尋ねるには、この能力をどうにか突破しなければならない。


 ユキト達は再びアルマイガーGに乗って、報告にあったミサイル消失地点へと移動した。いや、正確には消失地点のその少し手前だ。森の木々には悪いと思ったが、何本かの樹木を吹き飛ばして、アルマイガーの着陸スペースを確保する。


「マスター、この先が対象領域です」


 アルマの向く方向も一面の森。見た目ではどこが神域か区別などできない……ユキトもそう考えていた。だが、その場所が『神域』であることを嫌でも意識させられる。圧倒的な違和感。


「これは……確かに不気味な感じがするな」


「ここに入っていくのぉ……なんだか怖いわぁ」


 目の前の森は異様な雰囲気に包まれていた。理由は明確だ。その森からは一切の音が発されていなかったのである。鳥の鳴き声、虫の音、獣の声、枝葉の音に至るまで、音が聞こえてこないことがこれ程に不気味なものだとはユキトは思いもしなかった。


「確かに不気味だな……」


 ユキトの呟きも、その静まりかえった森に吸い込まれていくようだ。完全に森が眠っている。


「よし、俺とストレィで神域の中心部に向かう。アルマはここで待機だ。もし、作戦が失敗したらファウナ達に知らせろ」


「承知しました、マスター」


 万が一の保険をアルマに託し、ユキトとストレィは慎重に眠りの森へと足を踏み入れた。パキリと足元で小枝が折れ、掻き分けられた木々がガサガサと音を立てる。2人の周囲だけ時が動いているようだ。


 シンと静まり返った森の中。領域のラインを踏み超えた瞬間に意識を失うと思っていたユキトだったが、今のところは問題ないようだ。ユキトは茂みの中を進みながら、ストレィの方を振り返る。


「ストレィ、俺が眠ったら頼むぞ……っていうか、お前の悪ふざけのおかげで、昨日の夜は大変だったんだからな」


 昨夜は、ストレィに付与(エンチャント)した加護のせいで、ファウナとフローラにあらぬ疑念を抱かせてしまった。おかげでユキトは大変な目に遭ったわけである。そのような犠牲を払ったのだから、ここはストレィに活躍してもらわないと割に合わない。


「折角の加護ですものぉ。ちゃんと本番で使えるように練習しただけよぉ」


 ユキトの抗議に対して、ストレィは色っぽい笑顔で返す。


「だからと言って――」


 反省していないストレィに対して、言い返そうとしたその瞬間、ユキトの意識はそこで途切れた。



 *********************


 東京の街並みの中、ユキトは駅に向かって歩いていた。深夜とはいえ、駅の周辺の歓楽街は騒音とネオンの光で彩られている。すれ違う人々もどこか気もそぞろで、街全体が浮かれているようだ。前を歩く2人はアンドウと紺スケ。先ほどまで3人で飲んでいた帰りである。


「ええと……俺、何してたんだっけ? 何か大切な用事の途中だったような気がするんだけど」


「ユキト、何言ってるのよ。急がないと終電無くなっちゃうわよ」


 イマイチ意識がはっきりしないユキト。前を歩いていたアンドウが、振り返りながらユキトに声をかけた。この終電を逃がすと、高額なタクシーか、漫画喫茶で始発まで過ごすかを選択するハメになる。


「やべっ、終電には乗りたい」


 ユキトは慌てて、早足で駅を目指そうとして……


 ガシッ


「お兄さん、どこ行くのよぉ?」


 突然、道路脇に立っていた露出過多のお姉さんに、ユキトは腕を組まれてしまった。胸元から肩まで大きく開いた服を着ていて、大変に存在感のある胸をお持ちの肉感的な美女だ。


「あ、いや。嬉しいんだけど、終電があるから」


 酔っ払い特有の呂律の回らない口調で、ユキトは残念そうにお姉さんに断りを入れる。恐らくは、ガールズバーとかキャバクラの呼び込みだろう。いや、風俗店かもしれない。


「終電って何なのぉ? っていうか、ここがユキトくんの世界の風景かぁ……」


「……あれ? 俺は……」


 ここでユキトの意識がだんだんとはっきりしてきた。目の前のお姉さんのことも、知っているような気がする。目の前のネオンに輝く歓楽街がグニャリと歪んでいく。


「もうちょっとくっついていたいけどぉ、そろそろ起きる時間よ」




「……!!」


 ユキトが目を覚ますと、そこは森の中だった。ユキトはスロウを探しにきて、森の中で意識を失ったのだ。とすると、今見ていたのは夢なのだろう。

 ユキトのすぐ近くにはストレィも倒れていた。彼女もスゥスゥと寝息を立てているところを見ると、スロウの能力が働いているのだろう。


「無事に目を覚ますことはできたな」


 ユキトは離れた位置のアルマイガーGに無事を知らせようと視線を送る。

 だが、数十メタ離れた位置のアルマイガーGもその動きを止めていた。神域への侵入者に気づいたスロウが、その能力の範囲を一時的に拡大させたのだろう。


 立っているのはユキトのみ……であるのだが――


「アルマも寝ちゃったみたいねぇ」


 ユキトの脳内に声が響き、目の前にふわりと先ほどの夢の中のお姉さんが姿を現した。淡く幽霊のようにぼんやりしているが、間違いなく夢の中でユキトと腕を組んで、胸を押し付けていた女性だ。だが、その顔は足元で寝入っているはずの人物のものである。


「俺を起こすのに胸を押し付ける必要はないだろ、ストレィ……」


「あらぁ、夢魔(サキュバス)ってそういうものなんでしょう?」


 +夢魔の加護:異世界の18禁の力である。精神体の夢魔(サキュバス)になることが可能となる。


 この加護を持つ者は、眠った相手の夢の中に自分の意識を飛ばして、干渉することができる。つまり、相手の夢に入って覚醒させることも可能だ。更には、現実に精神体を出現させることで、本体は眠ったまま、夢魔として活動することができるのである。


 昨夜のストレィは練習のため、自分の部屋で寝ながらにしてユキトの夢に干渉していた。もちろん、若干エッチぃ感じでだ。要は加護の確認という名目で、ユキトをからかって悪ふざけをしていたのである。


「間違いなくこの加護の適任者だと思うんだが、だからこそ不安だったんだよなぁ……」


 露出過多な服装をしている夢魔(ストレィ)の身体から目を逸らしながら、ユキトは溜息をつく。一方のストレィは、この加護を非常に気に入っている様子だ。


「私は気に入ったわよぅ、この加護。夜這いもやり放題だしぃ」


(後でこの加護は封印する必要があるな……)


 ユキトはストレィに夢魔の加護を持たせっぱなしにするのは危険だと判断する。ストレィには教えていないが、サキュバスである以上は、異性から精気を吸い取ることも可能に違いない。これは18禁の恐れがある。


 ユキトがそんなことを考えていると、森の奥に緑色の燐光が灯った。蛍の光のような色だが、ずっと大きい。そんな光が暗い森の奥で揺らめいている。


「おっと、来たみたいだぞ……」


眠神(ねむりがみ)スロウのお出ましね」


 森の奥に出現した緑の淡光は、やがてその中に人の影を宿し、ゆっくりと近づいてくる。燐光に包まれた幽霊……そんな表現がぴったりの不気味な姿だが、ユキト達に近づくにつれ、その姿がだんだんと明らかになっていく。


 ()()はボロボロの法衣のようなものを纏い、白髪が顔を覆いつくしていた。その白髪のせいで、俯き気味の顔の表情を見ることはできない。ボロ布の隙間から見える細腕の皮膚には深い皺が刻まれており、老人のようであった。


「やぁ、ココに立ち入って意識がある者は久しぶりだネ。ボクは眠りを司る者、スロウだ」


 ユキトの間近まで迫った()()は、そう言葉を発した。老人のようなしわがれた声だが、その口調はまるで子供のようでも、ロボットのようでもある。


「無断で立ち入って済まない。俺はシジョウ・ユキトという。アナタに聞きたいことがあって来たんだ」


 ユキトとしては、スロウと敵対したいわけではない。あくまでもインウィデアの情報を教えてもらいたいだけだ。


「ふむ……興味深いネ」


 スロウはそう言葉を紡ぐと、ゆっくりと顔を上げた。白髪がさらりと動き、スロウの顔面が露わになる。


「ひぃ」


 その顔を目にして、ストレィは小さな悲鳴を上げた。

 スロウの顔には鼻の盛り上がりがなく、鼻代わりの二つの穴、そして口と目だけが存在していた。しかも、その瞼はしっかりと糸で縫い付けられている。夜中に出会いたくない、なかなか刺激的なデザインだ。


「フーン、シジョウ君は『まろうど』だネ? 道理でボクの力が完全には届かないわけダ。以前にボクと話した奴モ『まろうど』だったっケ。彼は異世界の『不眠のスキル』とかいう力を持っていたケド、君はその娘の加護で目を覚ましたってわけカ」


 スロウは縫われた目がまるで見えているかのように、ユキトの背後で眠っているストレィへとその顔を向けた。いや、スロウは神の類であるわけで、外見上の目が縫われているからと言って、見えていないとは限らない。


「ああ、不眠のスキルなんて持ってない俺じゃ、最初の眠りは回避できないみたいだったからな。眠りを回避するのではなくて、眠った後に何かできないかという方向で考えた結果だ」


「わざわざ、そこまでしてボクに聞きたい事ってナニ?」


そう言うと、眠神(ねむりがみ)は楽しそうに口を三日月型に歪めた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブクマや評価も大変感謝です。励みとなります。


サキュバスの力をストレィさんに。

ですが、18禁描写の予定はありません。運営様に怒られるので。

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