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第132話 夜這い!? ユキトの部屋の謎!

前回のお話

 総教会でスロウの情報を調べたユキト達は帰りに大聖堂に立ち寄った。

 美しい大聖堂で、ユキト達は創造の女神クレアールへと祈りを捧げる。

 

「だから私も行きたかったのにぃ……」


 ユキト達がハルシオム総教会へ出かけた日の夜。ユキト組は、宿泊棟内の大きめの部屋に集合して、報告会を行っていた。

 本拠地であるサブシアではともかく、旅先でパーティメンバーが別行動をした際には、情報共有が必須である。ハルシオム皇国への遠征中も、その方針を徹底しているというわけだ。


 問題は、その報告中に「大聖堂が非常に綺麗だった」とファウナが口にしたところ、珍しくフローラが拗ねてしまったことだ。口を尖がらせて、ユキトを半目で睨んでいる。


「陛下には調査のためにあと数日は逗留する許可をもらったから、明日にでも行ってくれば……」


「ユキト様と一緒じゃなきゃ意味ないです!」


 ユキトの言葉に頬を膨らませてしまうフローラ。それを見るストレィはニヤニヤしている。一方、ストレィの隣に立つアルマは不思議そうな顔を見せた。


「ストレィ様、フローラ様は何をお怒りなのでしょうか」


「あれはねぇ、自分がユキトくんと一緒に行けなくて拗ねてるのよぉ」


 アルマの造物主たるストレィは、アルマにそんな返答をした。だが、さほど大きくないその声がフローラの耳に入ってしまったようだ。


「ストレィさん! 私は拗ねてなんかいませんっ!」


 フローラはムキになってストレィの言葉を否定した。どう見ても拗ねている。


「拗ねる……データ不足、理解不能です」


「アルマさんも! 私は拗ねていませんからね!」


 ユキトは黙って嵐が通り過ぎるのを待つだけだ。ここは余計なことを言うべきではないと本能が告げていた。「明日はフローラを連れていこう」と言うことができれば一番なのだが、明日は重要な予定があるのだ。


 数分後――


「……さて、話を変えるが、俺は明日スロウを探しに行くつもりだ」


 ある程度フローラが落ち着いたタイミングを見計らって、ユキトは本題を切り出した。

 調査で得られた情報を踏まえて、眠神(ねむりがみ)スロウを見つけ出し、インウィデアの居場所についての情報を持っていないか尋ねるつもりだ。


 かつては神の代行者的な存在であり、加護の管理を行っていたというインウィデア。現在はユキト達との戦いで負った傷を癒しているところだろう。だが、インウィデアが回復すれば、再びユキトの命を狙ってくるのは確実だ。

 インウィデアを討伐しておかねば、ユキトは安心してこの世界で暮らせない。そのためにも、インウィデアが潜んでいる場所を突き止めることは、重要なミッションであった。


「で、そのスロウ探しには、ストレィとアルマに同行して欲しいんだ。あと、ストレィには対スロウ用の加護を1つ付加(エンチャント)させてくれるか?」


 ユキトは部屋の壁際に立っているストレィとアルマに声をかける。アルマは素直に「承知しました」と返事をしたが、ストレィは自分が指名されたことに驚いているようだ。


「私を連れて行ってくれるのは嬉しいけどぉ、ファウナみたいな活躍はできないわよぉ? 付与(エンチャント)してくれるっていう加護が切り札になるのかしらぁ?」


 ストレィが不思議そうな表情でユキトに問い返す。何か加護が1つ増えたくらいで、チート紛いの眠神(ねむりがみ)の能力に対抗できるものだろうか。


「対スロウ用の切り札になる加護は、どう考えてもストレィが適任なんだよ。正直、ストレィにハマり過ぎないかが心配ではあるんだけど……」


「仕方ないわねぇ」


 ユキトの言葉を受けたストレィは、肩をすくめつつも了承したのだった。



 *********************


 時刻は深夜――


「ファウナさん……ファウナさん……」


 その夜、ファウナは部屋の外から自分の名を呼ぶ声で目を覚ました。この透き通るような声はフローラだろう。


「……むにゃ?」


 パジャマを着た金髪エルフは、寝ぼけた表情でベッドを降りると、目をこすりながらトテトテとドアの前まで歩いていき、その鍵を開ける。


「夜分にすみません……」


 ドアの隙間から姿を見せたフローラ。彼女も同じくパジャマ姿であったが、眉尻を下げ、泣き出しそうな表情だ。さらには、何かが気になっているのか、ユキトの部屋の方に視線をチラチラと向け、気もそぞろな様子である。


「ふああぁ……どうしたの、フローラ……こんな真夜中に?」


「ユキト様の部屋から……声がするんです……」


「え……声って?」


 フローラの部屋はユキトの部屋の隣だ。とはいえ、余程の大声でなければ、隣の部屋の声は聞こえない。国賓を宿泊させるための施設なので、壁もしっかりした造りである。


「いえ、眠れなくてちょっと廊下に出たのですが、ユキト様の部屋の前を通った時に中から何か聞こえたような気がして……その……少し気になったので、ドアに耳をつけたら……」


 どうやら、廊下からユキトの部屋の様子を窺った結果、何かを聞いてしまったらしい。だが、何を聞いたというのか。世の中の男性には色々と都合というものがあると聞く。ファウナも好奇心を刺激されて、フローラに続きを促す。


「耳をつけたら?」


「……ユキト様が『ちょっと、ストレィ、胸が!』とか『ストレィ、くっつくな!』とか言う声が聞こえて」


 フローラが全てを言い終わらないうちに、ファウナはフローラの手をむんずと掴むと、ユキトの部屋に向かって歩き出した。


 報告会の後、ストレィに何らかの加護を付与(エンチャント)するため、彼女とユキトがそのまま報告会の部屋に残ったのはファウナも知っている。だが、その後はストレィも自分の宿泊部屋に戻ったはずだった。

 それなのに、彼女がユキトの部屋にいるということは……


 カツカツカツ!

 テテテテテ……


 怒りを感じさせる力強い足音と、戸惑いを感じさせる小さな足音、2つの足音が廊下に響き、ユキトの部屋の前で止まる。


(まさか……いや、フローラの聞き間違えってこともあるわよね……)


 ファウナがそう考えた瞬間、部屋の中から微かにユキトのものと思しき声が聞こえた。


「……ょっと、ストレィ。そんなことまで……」


 その言葉を耳にした瞬間、ファウナの中の何かがキレたようだ。彼女はユキトの部屋の扉を素手で叩き飛ばしながら、部屋に押し入った。


 バゴォォォォン!!!


「御用改めである!!!」


 いや、別に御用改めではない。ファウナが叫んだこのセリフは、以前にサブシア領内の盗賊を取り締まるため、彼らのアジトに押し入った際に、ユキトが戯れで口にしていたものだ。それを思い出しただけである。新撰組とは無関係だ。


「ふえ!?」


 ファウナの宣言を受けて、ベッドの中でユキトが間抜けそうな声を上げた。


 そのユキトの声に反応するかのように、ファウナから黄金色の闘気がユラリと立ち昇っていく。そのまま、彼女はつかつかとユキトのベッドに近づいていき、その布団をガバッとはぎ取った。


「2人で何を…………あれ?」


 だが、ファウナが布団をはぎ取ったベッドの上には、怯えた表情のユキトがいるだけだった。


「ファ、ファウナ……な、なにか用か?」


 闘気をだだ漏れにしているせいで、暗闇の中で輝いているファウナに対して、ユキトは恐る恐るといった感じで声をかける。この金髪のスーパーエルフ人は、ドラゴンよりも高い戦闘力を持っているのだ。


「……ストレィはどこ」


「彼女なら自分の部屋で寝ているんじゃないか……?」


 ユキトの前で腕を組んでいるファウナにはドラゴンですら逃げ出す程の迫力があった。ユキトには「ゴゴゴゴゴ」と効果音すらも聞こえるような気がする。


「あの……ユキト様はストレィさんの名前を呼んでいたはずですが? もしかして、寝言ですか?」


「あ、フローラもいたのか」


 ファウナの迫力に気を取られ、彼女の背後のフローラに気づいていなかったユキトだが、質問を投げかけられたことで彼女の存在を認識した。鬼神のようなファウナに比べると、今のフローラの姿はユキトにとって女神にも見えた。


「そう、寝言。寝言だよ! ストレィはここにはいないって」


 ユキトの弁明を聞き、ファウナとフローラは改めて部屋を見渡した。ファウナの闘気でぼんやりと照らされた室内。人が潜んでいる気配はない。

 念のためと、ファウナとフローラはカーテンの裏やベッドの下、クローゼットの中をチェックするが、誰も潜んでいなかった。


「確かにいないみたいだけど……」


「そうですわね……」


 2人の丹念な捜索の結果、ストレィは室内に確認できなかった。だが、それでもファウナとフローラの目は疑惑に溢れている。寝言だったとして、なぜストレィの名前をあんなに発することになるのか。何かやましいことがあるのではないのか。2人のユキトへの視線がそんなことを語りかけている。


「でも、何か怪しいわね」

「怪しいですわね」


「……嘘はついていないけど、後日、きちんと説明する」


 ユキトはそう約束をすることで、ようやく解放されたのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

ブクマや評価も大変感謝です。励みとなります。


今回はストレィの加護の謎編。次回、ネタばらし編です。

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