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第126話 こんにちは バイオムさん!

 

「マスター、報告します。あのメイドは衣服の内側に複数の刃物を隠し持っていました。ただし、どの武器からも毒や呪いは検知されませんでした」


「そうか、ありがとう」


 ここは、皇城内にある訪問客用の宿泊棟の一室。この宿泊棟、外見上は皇城と一体化しているが、間取りとしては皇城から独立した別棟になっている。そのため、皇城に入るためには一度外に出る必要があった。警備と機密の関係で、このような間取りなのだろう。


 和平交渉もまとまり、一行は宿泊棟にある部屋に案内されたわけだが、ユキトのパーティーメンバー達は情報共有を兼ねて会議室に集まっていた。


「毒や呪いの類が検出されなかったとなると、ウチの王様を人質にとって皇国に有利な条約を結ばせるとか、そんな企みだったんだろうな」


 アルマの報告を受けたユキトはそのように推理する。

 例の貴族の計画が王の暗殺を目的としていたならば、使用する武器には、傷をつけるだけで殺害を可能にするための毒、もしくは呪いが付与されていたはずである。特に護衛が強力という状況下であれば、なおさらだ。護衛されているターゲットに致命傷を負わせるのと、かすり傷を負わせるのとでは難易度が大きく異なる。


 であるにも関わらず、そのような工夫がなかったとなると、恐らくはアスファール王を人質にするのが目的だったのだろう。人質をとる場合に毒のついた武器を用いると、誤ってターゲットを殺してしまう可能性があり、むしろ危険である。


「その程度の企みなら、後はあのツァーリのおっさんが上手く捌いてくれるだろ」


 ユキトとしては、ハルシオム4世とアスファール王に報告は上げるつもりだ。さほど根深い計画ではなさそうなので、ハルシオム4世が上手くやってくれるだろうと楽観している。


「マスター。あの貴族は素直に諦めるでしょうか」


 一方のアルマは懸念を示す。貴族の中には執念深い者も多い。あの貴族がそういう面倒なタイプであれば、安心するのは禁物である。


「う~ん、大丈夫だと思うけどな。人質ってことは、この国……もしくは自分の利益を狙っての計画だろう。となると、利益がないと思えばもう動かないはずだ」


 人質を取るという作戦は、相手に何か要求を飲ませたい場合の行動だ。それは十中八九、自分達の利益に直結した要求となる。もちろん愚行には違いないわけだが、利益が動機となっている場合の行動は、制御するのも簡単だ。行動を起こさないことで得られる利益の方が勝っている、もしくは行動を起こすことで生じる損失の大きさを示してやれば良いのだ。


 やり手と思われるハルシオム4世がそれを分からないはずがない。ユキト達の戦闘力の高さに加えて、既に和平も成立している状態を考えれば、今後アスファール王に危害を加えようとする行動は、あの貴族にとって、もはやリスクしかない。


 むしろ制御が難しいのは、その行動の動機が深い恨みなどにある場合だ。この場合は、利益どころか自身の命すら度外視する暴挙に出るケースがあり、外から制御することは困難だ。今回の計画はこのケースではなさそうなので、ユキトとしてはホッとしている。


「さて、この話はこのくらいにして……」


 ユキトは部屋の隅で談笑しているバイオムとファウナの方へと視線を送る。


「もぅ! 養父(とう)さん!」


「ハハハハ」


 ファウナが何やらバイオムに文句を言っているが、その表情は嬉しそうだ。その証拠に耳がピコピコと動いている。

 楽しそうな2人の様子を見て、邪魔するのも悪いかなと考えたユキトだったが、バイオムがユキトの視線に気がついた。


「お、そちらの話は終わったようだの」


 バイオムは、ノシノシと効果音が聞こえるような大股でユキトの前まで歩み寄ってきた。ユキトより一回り、いや二回りほどの巨体である。その背後にいるファウナがいつもより小さく見えた。


「改めてご挨拶を申し上げます、シジョウ冒険爵。バイオム・グルーナンドと申します。ハルシオム皇国では軍の指南役を仰せつかっております」


 バイオムはそう言って頭を下げる。見かけに反して、とても丁寧な挨拶にユキトは驚いた。単にこういった扱いに慣れていないとも言える。


「ご丁寧にありがとうございます。ユキト・シジョウです。アスファール王国で冒険爵の爵位を賜っています。 ええと、ファウナのお養父さんなんですよね。口調はいつも通りでお願いします」


 ユキトは慌てて、気楽に接してもらうように述べる。

 すると、その言葉にバイオムは破顔した。


「ハハハハハ。そいつは助かるわい。正直、堅苦しいのは嫌いなんじゃよ」


「俺も肩が凝りますね」


「ユキト殿も敬語でなくて構わんぞ」


「じゃあ、こちらもそうさせてもらうよ、バイオムさん」


 ユキトとしては、これだけ歳が離れた年長者にいきなりタメ口というのもそれはそれでやりにくい。だが、敬語でなくて構わないと言われたのに、それを拒否するのも良くないだろう。せめて「さん」付けは許してもらいたいところである。


「改めて我が娘ファウナのこと、礼を言う。冒険者になって旅立ってから、それほど経っていないというのに、もう貴族様のお抱えになっているとはな。

 貴族のお抱えなんて、冒険者にとっては人気の落ち着きどころの1つじゃぞ。しかも、これほどまでに腕を上げているとは驚きだわい」


「いや、こちらもファウナには世話になってるからな。礼を言いたいのはこっちの方だ」


 ユキトからすれば、この世界に来てからというもの、ファウナには助けてもらってばかりだ。そんなファウナのことで礼を言われると面映ゆい。


「で、2人は結婚するのか?」


「!?」

「ちょ!!ちょっと、なんば言いよっと!!!」


 突然、爆弾発言を投げ込んできたバイオムにファウナが耳まで赤くしながら抗議する。


「ん? 違うのか? どうしたファウナ、顔が赤いぞ」


 バイオムはニヤニヤしながらファウナをからかう。


「もう! 知らん!」


 ファウナは頬をぷくっと膨らまして、横を向いてしまう。これはこれで可愛い。


「け、結婚……」


 少し離れた位置では、フローラが何か呟きながらジトーとユキト達を見ているようだったが、ユキトはあえて目を合わせないようにする。目を合わせると良くないことが起きる予感しかない。



 *********************

 

 バイオムは戦争などで親を失った孤児を引き取って育てている。そんな男なので当然であるが、厳つい見た目に反して人柄も良く、ユキト達ともすぐに馴染んだ。


 そんなバイオムと談笑して大いに盛り上がった後、各メンバーは割り当てられた部屋へと戻っていった。いや、正確にはユキトが会議用の部屋に残っている状態だ。ユキトは椅子に深々と座り、天井を見上げていた。誰かを待っているようだ。

 ユキトが天井の石材に埋もれている化石の6個目を見つけたところで、ドアが小さくノックされた。


 コンコン


「失礼します」


 扉を開けて入ってきたのはセバスチャンだ。


「やっぱり来たか、待ってた……ってバイオムさんもか」


 その背後からバイオムも姿を見せる。


「ユキト様には、お話しておかねばと思いまして」


 セバスチャンが改まった口調で言葉を吐く。


「皇国のツァーリとセバスさんは顔見知りみたいだったな。過去に何かあったってこと?」


「そうなります……少し場所を変えて説明したいので、明日の午前中にお時間を頂けますかな」


 セバスチャンがユキトを外出に誘うとは珍しい事態である。今、この場では話しにくい内容のだろう。


「明日の王様の警備のシフトは午前中はファウナとアルマか……時間は空いているけど、勝手によその国で動き回るわけにもいかないんじゃないか?」


「大丈夫だ、ユキト殿。皇都内での観光許可は既にツァーリから頂いている。問題はないぞ」


 バイオムからそう説明されれば、ユキトとしても断る理由はない。ユキトは肩をすくめながら、セバスチャンに返答する。


「了解。じゃあ、明日の午前中に出かけるか。おっさん2人と観光ってのは気が進まないけど」


 それを聞いてバイオムが「違いない」と笑うのだった。


 **************************


 翌朝、乗り合い馬車を利用して、ユキト、セバスチャン、バイオムの3人は皇都を囲む壁の外にまで移動していた。防壁の外にも、畑や小さな家などは点在しており、人間の活動がないわけではない。


 太陽はまだ高くなく、小鳥の声が空に響いている。薄い雲が空の高い位置に広がっていた。


 そんな中、3人は壁のすぐ近くに位置する丘を登り、その頂上にある小さな墓地に到着した。墓地と言っても、緑の木々に囲まれ、さわやかな風が吹き抜け、陰鬱な感じはない。夜に来たのであれば、雰囲気も違ったのだろうが、空には明るい太陽が輝いている。


 その太陽を浴びながら、セバスチャンとバイオムはある1つの墓石の周りの草を抜き、途中で買い求めた花を供え始めた。どう見ても、関係者だった者の墓だろう。


「その墓は?」


 セバスチャンとバイオムの動きを見て、ユキトとしてはそう尋ねる他はない。どんな漫画でも、このシーンではこのセリフしかないだろう。(いとま)あたりなら、全く関係ないセリフを吐くのだろうが。

 ユキトの問いに対して、セバスがゆっくりと語り始める。


「以前、私はこの国で冒険者をしておりました。メンバー4人のパーティです。剣士だった私、格闘家のバイオム、勇者であったランカール、魔法師のクローリア。皇国内ではそれなりに有名なパーティだったのです。メンバーの多くがA級以上の力を有しており、実力派として持て囃されておりました」


 その言葉にバイオムが軽く頷く。セバスチャンは遠くに広がる麦畑へと視線を向けた。


「私が、ランカールを殺すまでは」


ここまで読んで頂きありがとうございます。ブクマや評価などを頂けますと幸甚です。

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