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第125話 和平成立! 平和が一番

 

「ふむ。指南役であるお主なら誰も異論はないであろうが……」


「感謝致します、ツァーリ。私は格闘家ですので、ファウナ殿にお相手頂きたく」


 アスファール王国の英雄との試合に立候補してきたバイオム。彼は自身の相手として何とこともあろうにファウナを指名した。ケロン公爵のような男がファウナを指名したとなると、下心を疑うところだが、凛とした雰囲気を纏うバイオムからはそのような気配は微塵も感じられない。


 だが、ユキトとしては先ほどファウナが呟いた内容の方が気になる。


(お養父(とう)さんって言ってたな……あのデカいおっさんが?)


 確かにファウナは戦争で孤児となっているところを、養父に拾われて育てられたと言っていた。ユキトとしては、この場でファウナに確認したかったところだが、トップが会談している背後でヒソヒソと私語をするのも憚られる。

 テレパシーでやり取りしてもいいのだが、殺意などの感情と違って、明瞭な言葉をやり取りする際には強く脳内でイメージする必要があり、込み入った事情を説明させるのには向かないのだ。それにテレパシーで聞くような内容ではない気がする。


(後で確認するか……)


 ユキトはそう考えて、再びバイオムなる男に目を向けた。


 ******************


 結論から言えば、アスファール王国の英雄が持っている圧倒的な力のお披露目は成功した。


 バイオムの相手をすることになったファウナは、開始の合図と同時に放たれたバイオムの一撃を容易に受け止めて見せた。

 ファウナの養父という話だったので、多少の手加減があるかのではないかと思っていたユキトは、バイオムが放った拳が生んだ衝撃波に驚いた。かなりの全力っぷりだ。

 さらに、それを平然と片手で止めたファウナの圧倒的な力。ユキトとしては頼もしい限りであるが、あまり怒らせないようにしようと決意するに十分な働きである。


(まぁ、元にした漫画の格闘レベルがとんでもないからなぁ)


 最終的には徒手空拳で地球くらいは簡単に破壊する戦士たちが活躍していた漫画を思い浮かべ、ユキトは苦笑いする。

 改めて考えると、ファンタジー世界に持ち込んで良いものではない気がするが、今更である。


 ともかく、その異世界の力を得ている格闘家ファウナは、バイオムを張り手のような攻撃で吹き飛ばした。闘気を面状に広げて相手に叩きつけることで、ダメージよりも吹き飛ばす作用を重視した攻撃である。


 バイオムはこの攻撃に対して、腕を交差して防御の体勢をとったが、その体勢のままで背後の壁に向かってかなりのスピードで吹き飛ばされ……先回りしたファウナに受け止められることになった。そのまま壁にぶつかっていたら、流石に重傷だっただろう。これで勝負ありということになった。


 その攻防で発生した床の亀裂や衝撃波、突風などは観客であった皇国の貴族達に、ファウナのパワーを伝えるに十分であったようだ。


 なお、ファウナに受け止められたバイオムは「ハッハッハッハ、これは見事!」と上機嫌であった。試合後にバイオムが「実はファウナは私の養子でしてな」と明かしたが、養子だからと言ってバイオムが手を抜いたと考えた者はいないようであった。

 それほどまでに目の前の試合には説得力があったし、どうやらバイオム自身の信頼度が高いようだ。嘘をついたり、このような場面で手抜きをする人物とは思われていない様子である。





「いや、ファウナ。冒険者として旅立ってそんなに経過しておらぬはずだが、少しの間に随分と立派になっりおったな! ま、気にしていた胸のサイズはそんなに変わっていないようじゃが」


「ちょ、ちょっと師匠! な、なに言いようとよ!」


「人並みにあるから気にせんでいいのに」


「もう! そ、そんなんじゃなか!!」


「ハッハッハ、冗談じゃ」


 ファウナとバイオムはホールの隅で養親子(おやこ)の会話だかなんだかよく分からない会話をしている。だが、怒ったり恥ずかしがったりしつつも、ファウナは楽しそうだ。

 ファウナからすれば、バイオムは養父であると同時に師匠でもあるらしい。冒険者として旅立つ前は、それなりに鍛えられたとのことだ。


「もっとも、私は師匠に1度も勝てなかったけどね」


 ファウナはそう言っていたが、今回師匠であるバイオムから一本取れたのは、加護のおかげであることは間違いない。だが、その加護の力を身につけるべく、鍛錬を重ねていたファウナの努力があってこそである。


 ************************


「ではアスファール陛下、こちらに署名を……」


「うむ。これでハルシオム陛下とは敵同士でなくなりますな」


「ええ、全く喜ばしい限りです」


 ファウナの力を目の当たりにして、貴族達から発せられていた敵意はほぼ雲散霧消した。皇国内では十分に化け物として捉えられていたバイオム師を簡単に吹き飛ばす化け物を見た後では、抗っても無駄だと認識したのだろう。その雰囲気の中、ハルシオム4世とアスファール王の交渉は、簡単に進んでいく。


 もちろん、それは皇都に到着するまでの間に獣車内で2人のトップが先行して調節していたためである。このテーブルの場で行っているのは、確認作業と臣下へのお披露目のようなものだ。


(ま、俺の世界でも政治は事前に調整されていたしな)


 ユキトも政治に詳しいわけではないが、日本においても国家間の交渉事について、首相と他国の大統領が会ったその場で決めるような事例はあまりなかったと記憶している。事前に事務方同士が何度も交渉し、トップが会う時には詳細までほぼ決定しているのが通例のはずだ。


(さて、あの貴族はどうするつもりかな……と)


 王国と皇国の和平は無事に成立した。とはいえ、成立すれば安心というわけでもない。特に恨みや怒りという感情は、理屈とは相性が悪い。時に予測できないようなことを引き起こすものだ。ユキトはそんな心配をしながら、例の何かを企んでいた貴族の様子を伺う。


 先ほどまでアスファール王に対して、強い害意を向けていた男だが、ファウナとバイオムの戦いを見たこともあり、随分と迷いが生じている様子だった。


(んー、流石に迷いが出てるな。あとは誰かを意識してるような……えーと、あのメイドさんか?)


 ユキトがテレパシー能力によって貴族の男から感じ取ったのは、相変わらずのアスファール王への敵意と迷いの感情、さらに特定の人物へと向けた意識であった。その対象となっている人物は、テーブルから離れた位置でズラリと並んで微動だにしないメイドさん達の中の1人だ。


(んーと、つまりあのメイドさんがウチの王様をどうこうする刺客ってことかな。で、何かしら合図を出せば実行する手筈になっている。けれど、ファウナの力を見て実行を迷っている……て感じか)


 ユキトはだいたいの事情を推測する。試しに、その男が気にしているメイドさんの意識も探ってみることにする。10代後半から20代前半くらいのスラッとした美人だ。


(んー、こいつはプロだな。害意なども抑えていて、こうやって直接探らないと分からないくらいだな。でも、やっぱり例の貴族に対して意識を向けているか)


 対象の刺客メイドは、ユキトが具体的に意識を向けて、はじめて分かる程度に害意を抑えていた。だが、やはり例の貴族に対しては注意を向けているようだ。雇い主なのか直接の上司なのかは不明だが、決行の合図を見逃すわけにはいかないので、これは仕方ないだろう。


「ちょっと脅しておくか」


 この貴族がコトを起こしたところで、今のアスファール王の護衛の布陣を突破できるとは思えないのだが、ユキトとしても、これ以上2国の関係がゴタゴタするのは面倒だ。

 このまま何もないのが一番ということで、ユキトはこの不埒者に対して軽く牽制をかけておくにした。ユキトはテレパシーでアルマに指示を出す。


 指示を受けたアルマは、スッと王の背後に並んでいる列から離れると、スタスタと歩き、その刺客と思しきメイドの目前へと移動した。

 外見だけで言えば、アルマは王国側の召使いだ。つまり、傍から見れば、王国側のメイドが、皇国のメイドに何かを依頼するために近寄ったように見える。


 もちろん、少々無作法ではあるのだが、例えば主君が筆記用具などを求めており、かつ手元にその準備がなければ、先方に借りるしかない。アルマの動きは、そういった類の行動に見えているらしかった。


 そんなアルマの動きに対して、何かしらの注意を向けた貴族もいたのだが、その場のトップのハルシオム4世が気にしていないので、貴族たちも黙っているしかない。

 ただ、当の何かを企んでいた貴族だけは激しく動揺していた。チラチラとアルマの方へ視線を向けている。こともあろうに自分が潜ませていた刺客のところに王国側の人物が移動したのであるから、それも当然だろう。


「あの……何か?」


 いきなり王国側の召使いの1人に目の前に立たれて、そのメイドも当惑していた。だが、表情は困惑していても、その目は冷静にアルマを観察している。


「いえ、少々スカートが重たそうでしたので」


 そんなメイドさんに対して、アルマは周囲に聞こえない程度の小声でそう告げる。


「!!」


 そのアルマの言葉を聞き、彼女は一瞬だけクッと目を見開いてアルマを睨みつけた。が、すぐに元の表情へと戻る。スカートの中に暗器を仕込んでいるとは思えない、柔らかな笑顔だ。


「何のことでしょうか?」


「いえ、失礼しました」


 とぼける刺客メイドに対して、軽く頭を下げると、アルマは元の位置へと戻っていく。戻る最中に、何かを企んでいた貴族へと視線を向けることも忘れない。アルマを注視していた貴族は、当然アルマと目が合うことになる。


 ニコリと笑うアルマ。


(な、俺のこともバレているだと!?)


 貴族からすれば、紛れ込ませていた刺客をピンポイントで発見された上に、その背後関係まで見透かされたことになる。


(シジョウ卿の部下は腕っぷし担当だけではないということか……)


 ユキトは、その貴族の内心の動揺が諦めの感情へと変化したのを確認すると、アルマに向かって軽く頷いたのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。ブクマや評価なども是非お願い致します。


今週も平日があまり更新に割けなかったので、2~3日後には次の更新をしたいところ。

どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

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