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第123話 お出迎え! 皇国の君主!

前回のお話

 王様と一緒に獣車に乗って、ガタゴトとユキト達はハルシオム皇国を目指す。

 

「ようこそ我が皇国へ。アスファール陛下、遠路はるばるお越し頂きありがとうございます」


 驚いたことにアスファール王を含むユキト達を出迎えたのは、ハルシオム皇国のツァーリであるハルシオム4世であった。皇国では君主をツァーリと称する。即ち、彼が皇国のトップだ。


 そのトップである彼は、ユキトの目には40代後半くらいの男性に見えた。カイゼル髭がよく似合う、背の高いイケメンおじさんとでも呼ぶべき風貌だ。


「これはこれは、ツァーリ・ハルシオムが直々に御出迎えとは痛み入りますな」


 ハルシオムの君主の登場に、アスファール王が歩み出て、笑顔で応える。流石に大事をとって双方が握手を交わすことはなかったが、その光景は交戦していた国のトップ同士とは思えないほどに、友好的な関係に見えた。


「……元々、ハルシオム皇国とは定期的な小競り合いはしていても、大規模な戦争は長いこと起こっていませんでしたからな」


 表情からユキトの考えていたことを読み取ったのか、横に立っていたハンドラ伯爵が小声でユキトに教えてくれる。


「トップが平和を望んでいたとしても、交戦派の貴族もいる手前、互いに歩み寄るのは難しいものなのですよ、シジョウ卿」


 ハンドラ伯爵の言葉には、国王の傍で調整に奔走する者の実感がこもっていた。恐らくは交戦派を宥めるために多くの苦労をしてきたのだろう。


(なるほど……自国の方から仲良くしたいと言い出せば、相手国に侮られると。戦争によって利益を得たり、存在意義を確保している貴族だっていることを考えると難しいか)


 逆に言えば、今回の戦争とその結末は、お互いの関係を改善するための良い機会になっているということである。もしも、戦争の趨勢が異なっていたならば、話は違っていたはずだ。


 例えば、仮に今回の戦争においてファウナ達が参戦せず、王国軍が奮戦することで、皇国軍を撃退するのに成功したとする。だが、その場合は引き換えに大きな人的損害を出したことだろう。

 そうなると、皇国にその賠償を要求せよという声が生じたであろうし、皇国との交渉においても、勝利に貢献した貴族達の声を無視することはできない。

 一方の皇国側も撃退されたとは言え、王国に大きな損害を与えることができたとなれば、できるだけ引き分けに近い形へと終戦交渉をもっていこうとするはずだ。


 その点、今回は王国側の勝利は明確であって、皇国もその点に文句はつけられない。さらに、王国側の功労者がユキト達のみなので、終戦の交渉に対して、交戦派の貴族たちが口を挟みにくいという状況である。さらには両軍に被害がほぼ出ていないので、感情的な対立も起きにくい。まさに奇跡のような状況なのである。


 ハルシオム4世としても、アスファール王国への侵攻を強く主張しており、多くの交戦派貴族を従えて手に負えなくなりつつあったケロン公爵を処断する良い口実ができたことになる。しかも、彼を背後から操っていた七極(セプテム)のインウィデアを除いてくれたとなれば、ユキトに対して、むしろ感謝したくなるレベルだ。


 ハルシオム4世は微笑みを携えたまま、アスファール王の背後へと視線を送る。


「そちらにおられるのが、噂に名高いシジョウ冒険爵ですな?」


 ハルシオム4世の言葉を受けて、アスファール王はユキトの全身が見えるように横に一歩だけ移動すると、ユキトの紹介を開始した。


「ええ。ここに控えているのが、シジョウ冒険爵です。陛下もご存知かとは思いますが、我が国の英雄でしてな。事前にお伝えした通り、今回は私の警護を任せています」


 突然にツァーリに対して紹介され、慌ててユキトは膝をついた。一応、相手は国のトップである。敬意を示すのが礼儀だろう。もちろん、そんな姿勢をとらなくとも、敗戦国であるハルシオムのツァーリが怒り出したりはしないだろうが、アスファール王の立場もある。

 ユキトの隣では、ファウナ達も同様に膝をついて頭を下げた姿勢を取っている。


「………」


(……ん? これは自己紹介が必要な流れか)


 アスファール王に紹介を受けた後、僅かに間が空いたことで、ユキトは自身の挨拶が求められている場面であることを察した。胃が痛くなる展開であるが、これも貴族としての務めだと割り切るしかない。


「初めまして、陛下。ユキト シジョウでございます。アスファール王国にて冒険爵の爵位を賜っております。お見知りおきを頂けますと、光栄でございます」


 ユキトは頭を下げたまま、挨拶を述べた、急に挨拶を振られたにしては、まぁ及第点だろうと自己評価を下している。実際、そう非礼なものではないだろう。


「いやいや、シジョウ卿。私はツァーリとは言っても、今回は敗戦した側だ。勝利国の英雄である貴殿らにそのような姿勢を取られると、こちらも膝をつかねばならなくなる。楽にされよ」


 ハルシオム4世が慌てて声をかけるので、ユキト達も「では、失礼します……」と立ち上がる。勝利国の英雄に頭を下げられているという状況が、ツァーリにとって気まずい状況であるというのは分からなくもない。


「で、シジョウ卿の隣に並ぶのが、卿の配下であるファウナ、フローラ・ウィンザーネ、そしてセバスチャンですな」


 ちょうど、ユキトの真横にファウナ達が並んでいたので、王は順番に名前を上げていき、名を呼ばれたメンバーは軽く目礼する。


(ん!? なんだ……何に反応した?)


 だが、ここでユキトはハルシオム4世が何かに動揺したことに気がついた。見た目ではほぼ変化はない。ユキトのテレパシー能力に反応があったのだ。これは、超能力者(エスパー)の加護により得られている能力である。この能力により、ユキトは周辺の人間の感情や心の動きを知ることができる。


 相手が意図的に意識を向けてくれれば、通信すらも可能なのだが、そうでない相手の場合には、詳細な思考までは読み取ることはできない。せいぜいが、殺気や悪意を見抜く程度だ。この能力はサブシアに潜入してくる間諜や暗殺者を見抜くのに役立っている。


 ユキトがその能力で捕捉したところによると、それまで落ち着いていたハルシオム4世の感情が、フローラを紹介されたところで軽く戸惑い、セバスチャンの紹介時に大きく動揺した。表情にほとんど表さなかったのは、流石は国のトップであると言えよう。


「ファウナ嬢、フローラ嬢、セバスチャン殿の先のご活躍は、敵ながら驚嘆に値しますな。全く、ケロン公爵も欲をかくから貴殿らのような英雄を相手にする羽目になる……。いや、王国には立派な人材が揃っていて羨ましいですな。

 ……もっとも、立派すぎると今回のように手綱握っていることを内外に示す手間が増えてしまうのが、政治の面倒なところですな」


 ハルシオム4世は、内心の動揺をおくびにも出すことなく、3人の活躍を褒めたたえる。さらには、アスファール王がユキト達を帯同させた真意にも触れる余裕っぷりだ。


(このオッサンの動揺に何か心当たりがないか、後でセバスチャンに確認するか……)


 ユキトがそう考えたとき、ハルシオム4世が自らユキト達に近寄ってきた。そして、握手を求めるべく手を差し出してくる。


「先日の戦争ではしてやられたが、貴殿らのような英雄とは友誼を深めたいものだ」


 慌てて皇国側の護衛官が不用心な行動に出たツァーリを止めようとする。


「ツァーリ、危険でございます。和平交渉もまだ途中です」


 だが、ハルシオム4世は護衛官に向かって軽く笑いかけるとこう言った。


「お前たちの練度の高さは余も重々承知している。決して実力を侮っているわけではないが、相手が悪い。このシジョウ卿らがその気になれば、私を害することなど容易いはずだ。今更、距離などとっても無意味であろう」


 護衛官の男は、巷に流れているユキト達の噂を思い出し、ウムム……と唸った。確かに、噂が本当であれば、この敵国の英雄達はターゲットが近づこうと近づくまいと護衛ごと消し飛ばすことができるだけの力があるはずだった。ツァーリが彼らに近づくことを妨げても何にもならないだろう。


「しかし、噂通りの力があるとは限りません」


 だが、護衛する方は様々なケースを想定するものだ。仮に噂が真実でなく、何らかの手段で強いと誤解させている可能性もある。その場合は、距離を保っておいた方が安全である。


「シジョウ卿に噂通りの力がなければ、アスファールの王ともあろう方が、この程度の手勢で皇国を訪れようとはせぬだろう。お前たちの職務も分かるが、まぁ見逃してくれ」


 ハルシオム4世はそう述べると、ユキト達と握手を交わしていく。意外なことに、その手は王族としては、思ったよりもゴツゴツと固く、それなりの苦労を感じさせるものだった。


(このオッサン、思っていた以上にまともそうだな……)


 ユキトはハルシオム4世の評価を引き上げる。テレパシー越しには悪意や敵意は伝わってこない。


 ケロン公爵などは捕らえられた後も「ワシは公爵だぞ」という態度を崩さなかったと聞く。そんなバカよりも、はるかに判断能力は高いだろう。


(逆に言えば、皇国はインウィデアに相当やられていたんだな)


 こんな有能そうなトップがいるにも関わらず、無能を絵に描いたようなケロン公爵が皇国で幅を利かせていたということは、インウィデアが相当にハルシオム皇国を上手く操っていたのだろう。


 自身の危険を顧みず、もしくは危険がないことを見抜いて、あっさりとユキト達と握手していくハルシオム4世の姿に、アスファール王も眼を見開いている。


「ふぅむ……となると、私も歩み寄るべきであろうな」


 アスファール王はそう言うと、ハルシオム4世に向かって手を差し出す。ハルシオム4世もニッと笑いその手を握り返した。ユキトのテレパシーにも敵意や悪意の反応はない。


「過去にはいろいろありましたが、アスファール王国とは友好的な関係を築きたいものですな」


「まずは今回の終戦交渉をまとめてしまわねばなりませんぞ」


 2人のトップの姿は、今後の2国の良好な関係を予想させるものだった。


(どの世界もこんな風に平和になれればいいんだけどなぁ)


 遠い故郷を思いつつ、ユキトはそのように考えるのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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