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第122話 進め! 平和の旅路!

前回のお話

 ユキトのパーティーには人外の戦闘力が揃っていることが分かった。

 

 ここは、王国からハルシオム皇国へとつながる街道沿いの水場。


 冒険爵であるユキトは王命に従って、アスファール王がハルシオム皇国へと向かう際の護衛として同行していた。一行は全部で10台ほどの馬車もしくは獣車の隊列。現在は昼の休息時間である。


「それにしてもサブシア産の作物は美味いな。各地の貴族が高値で買い付けているのもよく分かる」


 休息時に準備された昼食が、サブシア産の野菜や小麦を使った軽食だったこともあり、アスファール王はユキトの治領の作物を褒めたたえた。


「その売上で、たくさんの食糧が手に入るので助かってます。ウチの作物を1売れば、5から10倍の食糧が買えます」


 実際はさらに値段が高騰しつつあるのだが、ユキトは控え目に答える。


「はっはっは、随分と潤っているようだな。それだけの権勢ゆえに、色々と疑う者も出るのだろうな」


「そういう声があることは承知してますが。陛下、別にウチは国家転覆を企てたりしませんよ」


「余もそう信じておるのだがな。残念ながら、一部にはそう思っていない者もおるのだ。それゆえ、今回はシジョウ卿が同行してくれて助かったわい」


 アスファール王としては、皇国の首都にユキト達を連れて乗り込むことで、皇国に対する示威行為として国内外に示すことができるとともに、シジョウ冒険爵がアスファール王に恭順していることを広くアピールする狙いがあるのだろう。


「まぁ、シジョウ卿ほどの力があれば、国権を奪うことも簡単かも知れんがな」


「いえいえいえいえ!! 陛下、そんな面倒なことは御免被りたく存じます」


「本当に嫌そうじゃのう」


 ユキトとしては、自分が国を手に入れても持てあますだけという自覚がある。国を手に入れると、もれなく国民がついてくるのだ。その場合は、当然ながら彼らに対する責任を負うことになる。


(領主でも大変なのに、国王だとか考えただけでも胃が痛くなるわ……。それに偉い人と話していると精神力がドンドン削られていく気がするんだよなぁ。異世界に来てもこういう性格までは直らないってことだな)


 ユキトは青い空を見上げ、そんな取り留めのないことを考えた。シャラシャラと近くを流れる川の音が聞こえてくる。そこを涼しげな風が吹き抜けた。


 5メタ程の幅を持つ浅い川の近くには、王の乗る豪華な獣車が止まっており、この休憩時間中に御者が車輪の状態などを確認していた。やはり、国王が乗るものなので、メンテナンスも気を使うのだろう。


 そんなアスファール王が乗る車を引いているのは、獅子の姿をした2体の獣である。ユキトの知っているライオンと異なっている点は、こちらの方が2回り程大きいことと、脚が6本あること、さらに尾の先が球形になっており、たくさんの鋭い棘が生えていることだ。


 その獅子もどき達も休憩中ということで、現在は川原にてネコ科特有の柔らかい身体を伸ばしている。艶のある毛並みがビロードのように光を反射していた。


「あやつはメメコレオウスという。それなりに強力な魔獣なのじゃが……」


 アスファール王が自慢げに魔獣を紹介してくれたのだが、ファウナが魔獣を撫でまわしているのが目に入り、途中から苦笑いへと変わった。


「ねぇ、ユキト、見て見て! このコ、可愛い!」


「ガウ……ガゥ……」


 メメコレオウスも本能で逆らってはいけない相手であることが分かっているのか、従順に撫でまわされている。なにしろ、目の前のエルフは上位竜よりも危険な存在であるのだ。


「ファウナ、そいつが車を引いてくれてるんだから、あんまりいじめるんじゃないぞ」


「いじめてないよ!」


 ユキトの冗談に対して、ファウナが頬を膨らませつつ、反論する。


 そんな2人を見て、アスファール王の傍に控えていたハンドラ伯爵が眉をひそめる。


「シジョウ卿、ファウナ殿……陛下の御前ですぞ」


 いつものノリで会話する2人を嗜めるハンドラ伯爵。だが、アスファール王は笑いながらそれを止めた。


「良い良い。今は口うるさい連中もおらぬことだ。一切構わぬ。このくらい緩い方が、余も旅を楽しめるというものじゃわい」


「陛下がそう仰るのであれば仕方ありませぬな」


 ハンドラ伯爵も、どうやら建前として注意しただけのようで、あっさり引き下がる。


「ただし、シジョウ卿。陛下に危険が及ぶことがないよう護衛だけはしっかり頼みますぞ」


 流石に王の側近として仕える文官だけあって、重要事項の釘を刺すことを忘れない。ユキト達の任務はアスファール王の護衛であるのだ。


 もちろん、ハンドラ伯爵に念を押されるまでもなく、ユキト達もその前提で、アスファール王の周囲を固めている。王の乗る獣車は、御者席も広く作られているので、ファウナは御者席の隣に席を確保している。ストレィとアルマはすぐ後ろの馬車に乗っており、セバスチャンとフローラは、馬に乗って王の獣車と並走していた。


 ユキトはアスファール王と同じ車だ。同じと言っても、大きめの車室内は区切られているので、王様と同じ空間にいるというわけではない。

 偉い人とずっと一緒だと、ユキトの心労がひどいことになるので、ユキトにとってはありがたい限りだ。


「ハンドラ伯爵。この道中でハルシオム皇国側が仕掛けてくる可能性は?」


 ユキトとしても、皇国が何か仕掛けてくる可能性は低いとは思いつつ、念のため伯爵に尋ねてみた。そもそもそんな可能性を王国側が把握しているようであれば、アスファール王が皇国を訪問するはずもないだろう。


「事前の調べでは、皇国側が王国と友好的な関係を結びたいのは事実のようです。今までの敵対路線はケロン公爵……ひいては七極(セプテム)のインウィデアがコントロールしていたところが大きいようですな」


 インウィデアとしては、王国と皇国が友好的な関係であるよりも、敵対していた方が付け入る隙が大きいという判断だったのだろう。その考えはユキトとしても理解はできる。


「そもそも、皇国側はファウナ殿、フローラ殿、セバスチャン殿の3人に敗北しておりますからな。その3人に加えて、シジョウ卿までいる状態の我々に何か仕掛けてくるほど、皇国の君主(ツァーリ)は愚かではありますまい」


 ハンドラ伯爵の言う通り、先の戦争においてファウナ達が無双したという話は、ハルシオム皇国にも広く流布されている。しかも、彼女らの首魁でもあるシジョウ冒険爵に至っては、彼女ら以上に人外の存在であると噂されていた。


(いや、俺はメンバーの中だと弱い方だと思うんだけどな……)


 ユキトとしては、ファウナとフローラは言うに及ばず、アルマイガーGにも勝てる気はしない。例の巨人=ユキトラマンに変身すればマシな勝負もできるだろうが、あの姿は3分の制限付きである。


 とはいえ、相手が勝手に恐れてくれるのならば、あえて訂正する必要もない。ユキトとしてはそのような判断を下していた。


(もはや魔王か何かになった気分だな)


 ユキトはそんなことを考えつつ、魔獣と戯れる魔王の手下1を眺める。ファウナとメメコレオウスの姿は美女と魔獣と呼ぶにぴったりだ。美女の方が強いことさえ除けばだが。


 ちなみに、サブシア顧問の2人はサブシアにお留守番である。アウリティアはカレーをさらに改良するのに意欲を燃やしていたので、戻る頃には美味いカレーの作り方が確立されているだろう。


 **************************************


 それから数日。


 旅は順調であった。王直属の有能な文官達が、綿密な調査を行った上で旅の手配をしているのだから、当然と言えよう。この世界に放り込まれてからトラブル続きユキトとはえらい違いである。


 ガタゴトと進む獣車。間もなく皇国と王国との国境だ。先の戦争で両軍が対峙した国境とはまた異なるルートである。


 ハンドラ伯爵によれば、国境まで辿り着けば、皇国からの出迎えも来ているはずだという。ハルシオム皇国が降伏する側であるという点を置いておいても、国家間の対応(プロトコール)として、訪問してくる他国の国家元首を出迎えるのは当然である。ましてや今回のアスファール王の訪問は、終戦交渉の一環なのである。


「それにしても、ここまで何事もないと拍子抜けするなぁ」


 いつもとは異なる平和な旅程に、ユキトが贅沢なセリフを口にする。


 今回は王を擁する旅路であるため、街道沿いの町や村に対しても事前の周知がしっかりなされており、盗賊などに襲撃されることはなかった。地方の弱小貴族ならまだしも、王族の護衛を相手に仕事をして、無事に済むとは盗賊達も微塵も思っていない。


 リスクを考えられない盗賊が生き残れるほど、盗賊稼業も甘くはないのだ。国王が通るという情報を得たならば、その街道からはしばらく距離を置くくらいの知恵は必要である。


 唯一のトラブルとして、幾度か魔物が隊列に近づいたことはあった。大型の蜥蜴や、ユキトも名を知っている人狼のような魔物ロートゥだ。だが、メメコレオウスが唸りを上げると、これらの魔物は逃げ去っていった。要はその程度の魔物である。


「メメちゃんもなかなかやるわね!」


 メメコレオウスの活躍に、メメコファンであるファウナはご機嫌の様子だ。御者席の隣に座って、金色の髪を風になびかせながら、締まりのない笑顔で車を引くメメコレオウスを眺めている。


「もうすぐ国境だから油断するなよ」


 車内から身体を乗り出し、ユキトがファウナに話しかけた。とは言っても、いまさら何かあるとは思えないので、念のためというやつだ。


「了解~」


 ファウナからは軽い返事が返ってくる。それと同時に、馬で獣車と並走しているフローラが近づいて来た。彼女がユキトの耳に顔を近づける。


「ユキト様。 ハルシオム側の出迎えが見えてきましたわ」


 ユキトが街道の先へと目を向けると、なるほど確かに武装した一団が待ち構えているようである。敵意はないところをみると、あれがハルシオム皇国の出迎えなのであろう。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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