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第121話 王命! 次の旅行は皇国へ?

 

 戦力の棚卸とでも呼ぶべきメンバーの実力の確認作業。この確認が、ファウナとフローラに引き続き、セバスチャンやストレィ、そしてアルマに対しても行われていく。


 先ほど飛べないと申告したセバスチャンであったが、10メタくらいは垂直にジャンプすることが可能であると判明した。確かに、ユキトが読んでいた様々な漫画に出てきていた剣士達は、そのくらいは平気で跳んでいたように思う。


「えーと、斬撃を飛ばせるってのは、俺も知ってる技だな。え? 直接斬って良ければ、あの建築物くらいなら切断できるようになったと……斬鉄剣かよ」


 顧問の2人の判定は、惜しくも『七極(セプテム)とまでは言えない』となったが、セバスチャンも十分に普通の人間を凌駕しているようだった。


 なお、ファウナとフローラに加えて、セバスチャンまでも10メタは跳べることを知ったユキトは、念力(サイコキネシス)で自身を空中に浮かばせる訓練をすることを心に誓ったという。



 さて、ユキトがさらに驚かされたのは、ストレィである。


 彼女が電子辞書に備わっている学習モードを用いて日本語を学習していたのはユキトも知っていた。だが、日本語以外にも数学や物理、化学についても学習を進めていたようだ。分野によっては既にユキトよりも詳しい程である。


「化学っていぅ学問とぉ魔法との相性は抜群なのよぉ」


 地球の化学が錬金術の研究から発展したことを考えると、ストレィのセリフにも頷けるところがある。


 そんなストレィは元々魔道具を作る技術を有していたが、ユキトの与えた加護の効果によって、更に技術力が向上している。そんな彼女が異世界の知識を持ったことで、この世界では考えられなかった魔道具をも自作することが可能となったようだ。


「で、それが……」


「魔道具の仕組みとぉ、異世界の技術を組み合わせて、作ったのよぉ。魔術銃(ソーサリック・ガン)とでも呼ぶといいかしらぁ」


 ストレィの手には、銃身が長めの拳銃のようなものが握られていた。拳銃と異なる点として、その表面にびっしりと謎の文様が刻まれている。アウリティアによれば、魔法紋の一種らしい。

 ユキトに向かって、自慢の魔術銃(ソーサリック・ガン)を見せたストレィは、その銃を人のいない方向へ向けると、軽く引き金を引く。


 タン!タン!タン!タン!タン!


 小気味良い音が響き、連続して地面に小さい土煙が上がる。


「完全に銃の音だな……って俺も本物は聞いたことなかったか。 しかも、連射できるのか」


 マシンガン程ではないが、引き金を引いている間は連続して弾が発射されている様子である。火縄銃のレベルより随分と高い性能を持っているようだ。


「再装填なしで10発までは撃てるわよぉ。鉄の軽鎧くらいなら、貫通できるわぁ」


 ストレィの説明を聞く限り、この異世界(ディオネイア)では相当に強力な兵器と言って良いだろう。この魔術銃(ソーサリック・ガン)はストレィの護身用であって、量産するつもりはないらしい。確かに迂闊に広めるべき知識ではないだろう。


(ストレィをあまり自由にさせると、そのうち核兵器とかに着手しそうで怖いな)


 ユキトはストレィの手綱をもう少ししっかり握っておこうと決意したのだった。特に兵器の類はあまり勝手に開発させるのは良くないだろう。



「で、最後にアルマなんだが……」


 ユキトは、目の前でアルマイガーGへの変形を完了させたアルマを見上げる。巨大な鋼のボディが陽光を反射しながら、重々しくそびえ立っていた。だが、グリ・グラト戦で見せたような戦闘能力をここで披露されると、サブシアの街がなくなる可能性がある。


「えーと……アルマの能力は前の戦闘で良く分かったから、今回はいいや。アウリティアとイーラも見てたはずだしな」


「……承知しました。マスター」


 不本意なのかもしれないが、特にそれを感じさせない口調で返答したアルマは、そのまま元の可愛らしいメイド姿へと戻る。どのような仕組みで変形しているのか、質量はどうなっているのかと疑問は残るが、魔法がある世界でそれを問うても仕方ないことだろう。そもそも、元ネタからして物理法則を無視しているのだから。


 そんなアルマを眺めつつ、アウリティアが肩をすくめながら、その評価を述べる。


「まぁ、アルマ……というかアルマイガーGは七極(セプテム)並みだろうな。戦闘力についてはグラト戦で見せてもらったけど、登場する世界を間違えている感もあるし」


「グラトのやつを倒しておるしのぅ。十分じゃ」


 そんなわけで、ユキトのパーティーメンバーの戦力は、顧問として七極(セプテム)が2名、七極(セプテム)並み、もしくはそれ以上の実力があると評された者が3名、3階建ての建築物をも両断できる剣士が1名、異世界の知識を元に危険な兵器を作る者1名ということになった。


(この戦力だと王国を敵に回しても勝てるんだろうなぁ……)


 ユキトは、改めて自身のパーティーメンバーの非常識っぷりを確認したのだった。



 ****************************



 ユキトが確認した正確な戦力はともかく、先の戦争の活躍もあり、ファウナやフローラ、セバスチャンの名は王国にも広く知られるようになった。


 そのおかげもあって、サブシアに直接的に何か仕掛けてこようという勢力はない。サブシアの急速な発展に伴い、行商人らの主要ルートが変更されたことで、経済的な損失を受けた近隣の貴族たちも、せいぜいが「配慮を願いたい」と述べてくるに留まっている。


 そんな中でユキトが気をつけているのが、毒殺である。


 軍事的な圧力や普通の暗殺であれば、対処は簡単だ。近隣の貴族が持っている軍事力程度はファウナ1人で沈黙させることが可能だろうし、ユキトに暗殺者が近づいても、超能力者(エスパー)の加護を持つユキトは殺気をテレパシーで感知できる。


 だが、食べ物に毒を混入されてしまい、かつ下手人がその場にいないような状態では、テレパシーで感知することもできない。


「以前なら『不死の加護』があったから、あれが保険代わりになってたんだがなぁ」


 ユキトが自身に付与(エンチャント)していた、ギャグマンガ特有の「人が死なない」という特徴をモチーフにした『不死の加護』は、命を失うような事態になっても死なずに済むという効果があった。だが、加護を操るインウィデアによって、この加護は封じられてしまったようで、付与(エンチャント)できなくなっている。


 毒殺防止のため、領主館で雇っている調理人は、全員が古参である。仮に新しい調理人を雇う場合は、ユキトが直々に面接予定だ。悪意があればテレパシーで見抜けるだろう。さらにはアルマの分析能力で、毒物の検知が可能だ。


「それにしても、目立ち過ぎると面倒なことが増えるなぁ」


 ユキトはそんなぼやきを口にするが、既に手遅れである。サブシアの発展度合いとその速度は王国内でも突出したものであるし、パーティーメンバーの圧倒的な戦力も広く知られている。生産される作物は最高級品として知られ、次々と開発される料理はどれも美味。高度な技術開発が進められており、街中で売られている武具の質にしても、王国内の平均に比べて1ランクも2ランクも高い。


「だから、こういう指令が来るんだろうな」


 ユキトはそう呟いて、先ほど届いた手紙にもう一度目を向ける。手紙には、アスファール王の直筆サインが記されており、手紙の入っていた筒にしても、金の装飾が施された高価そうな代物だ。


「王様が何か言ってきたの?」


 ちょうど、執務室にいたファウナが興味深そうに手紙を覗きこむ。長い耳がピコピコと動くのは好奇心が刺激されている時だ。


「王様が皇国を訪問するから、そのお伴をしろってさ」


 ユキトは手紙に書いてあった内容を要約してファウナに伝えた。実際の本文には、時候の挨拶やら貴族言葉特有の回りくどい言いまわしがふんだんに含まれていたのだが、端的に言えば、そういうことになる。


「皇国へのお伴? 私達が?」


「ああ、理由は想像がつくけどな」


「ああ、なるほどね」


 貴族としては初心者であるユキトだが、これが何を意味するかは分かっているつもりだ。


 まず、アスファール王が皇国へ出向くという。これは先の戦争の終結手続きの一環だろう。本来であれば皇国側のトップが王国へ出向き、頭を下げて、降伏文書に調印するのが流れだ。


 だが、今回は逆だ。こちらから皇国へ足を運ぶなど、相手に足元を見られる行為のように思うが、必ずしもそうではない。

 例えば、A国とB国が戦争し、B国が降伏したとする。そこでA国のトップが大軍を率いて、B国の首都へ乗り込み、降伏文書に調印させたのであれば、誰の目に見てもA国の勝利は明確だ。


 今回の戦争では、ファウナとフローラ、セバスチャンが活躍している。大軍の代わりに、その3名を皇国の首都へと連れていくことで、王国の優位性を内外に示すことができるだろう。


「それに、俺達が強すぎることを心配する勢力があるってことだろうな」


 ユキトとしては、王国に反旗を翻すつもりなどない。そんな面倒なことを自分からする利点は何もないのだ。だが、貴族の中には権力はあればあるほど良いと考えている者も多い。そう言った人種からすれば、王国を凌ぐ軍事力を持つユキトが、大人しく王国に従っているのが不思議に思えるらしい。


 そこで、アスファール王としては、皇国へのお伴としてユキト達を同伴させることで、ユキト達が自分の配下であり、自身に従う存在であることを示すパフォーマンスが必要となるのだ。


「俺の想像だけど、大きくはずれてはいないと思うんだよな」


「私もそんなところだと思うわ。で、どうするの?」


「どうするって、俺は王国の忠実な一貴族だぞ。従うに決まってるだろ?」


 サブシアを治めることですら、自身の器ではないと思っているユキトである。国の支配権などという面倒なものを、自分から奪取するつもりは毛頭なかった。ここは、アスファール王からの指令を淡々とこなすのみである。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

週末中の更新予定でしたが、私用で少しずれこんでしまいました。申し訳ないです。


皆様、大雨の被害は大丈夫でしたか?少しでも被害が少なく済むよう祈っています。


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