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第120話 判定! 皆の強さはどのくらい?

 

「ふぅ……このくらいかしら?」


 上空を飛び回っていたファウナが軽く息を吐きながら、ストッと地上へと降り立つ。闘気の弾は全て上空へ向けて撃ち出していたので、市街地や領主の館には被害は出ていない。


「人間離れ……いや、エルフ離れしたなぁ」


「えー、その表現やめてよー」


 ユキトは素直な感想を口にするが、ファウナに睨まれて慌てて口をつぐむ。(スーパー)エルフに小突かれたら、宇宙警察に変身していないノーマル状態のユキトなど、簡単に骨折するかもしれない。


「とにかく、お疲れ様」


 若干不満そうなファウナを迎えつつ、ユキトは2人の顧問、すなわちアウリティアとイーラの方を振り返る。


「えーと、ウチの顧問2人の判定を聞こうか」


 ユキトの問いかけに対し、2人は少しだけ考えるような素振りを見せたが、すぐにスッと片手の木札を上げた。その札にはこう記載されている。


[七極(セプテム)並み]

[七極(セプテム)並み]


「お、2人の評価が揃ったな。というわけでファウナは七極(セプテム)並み、と」


 どうやら、顧問の2人がファウナの実力を判定した結果らしい。そんな謎演出を見たファウナが困惑しながら、ユキトに尋ねる。


「ちょっと、ユキト。これは何なのよ」


「いや、七極(セプテム)の2人なら強さをある程度正確に把握できるかなと思ってな。ちなみに『七極(セプテム)並み』って木札と『七極(セプテム)とまでは言えない』って木札がある」


 まるで日本(もとのせかい)のバラエティー番組のような演出である。そんなユキトの説明に対して、彼の背後からイーラが付け加える。


「札が『七極(セプテム)並み』しかないから、これを上げたがの。もはや、この娘は下手な七極(セプテム)より戦闘力は上じゃぞ? 以前よりはるかに強くなっておるわ。(わらわ)も正面から再戦したくはないのぅ。命などいくつあっても足りぬわ」


「俺も正面から戦ったら即死だろうな。幻惑魔法とか催眠魔法が上手く決まらないとアウトだけど、あのスピードだと詠唱の時間を与えてくれそうにないからなぁ。不意打ちあるのみだな」


 アウリティアも同じような意見らしい。空中でも高速移動できる上に、遠距離攻撃も可能であり、その一撃が即死級の威力という化け物が相手となると、七極(セプテム)であっても、搦め手が必要なようである。


「パーティーメンバーが強いってことは、喜ぶべきなんだろうなぁ」


 顧問の2人の言葉を受けて、ユキトは複雑そうな表情を浮かべた。加護を付与(エンチャント)しておいてなんだが、ファウナの実力は、この世界にはオーバースペックとなりつつある気がする。端的に言えば、やりすぎだ。


「じゃあ、次はフローラな」


 ユキトは気持ちを切り替えると、フローラの方へ向き直る。さらさらした美しい銀色の長い髪が風になびいている。ファウナの短めの金髪も美しいが、フローラの長い銀髪も見応えがあるものだ。


「はい。 ええと……ちょっと変身してきますね」


 そう言うと、フローラは小走りでその場を離れていく。


 フローラには魔法処女をモチーフにした加護が付与(エンチャント)されている。そのため、変身することで魔法に関連する能力が上昇するのだが、これにはお約束の制限があった。倒すべき敵と味方以外である第三者に見られている間は変身できないのだ。


 敵と味方をどのような基準で判定しているのかは不明であるが、敵陣営に所属する者であっても、直接戦う相手ではない場合などは第三者認定されるようであった。加護システムの謎の一つであるが、システムの詳細を知る術はない。


 とはいえ、この場にはパーティーメンバーしかいないので、変身には何の問題もないはずだ。それでもフローラがこの場で変身しないのは、変身の際に必要となる掛け声やポージングが恥ずかしいのだろう。フローラは少し離れた場所にある倉庫のような建物まで走っていき、その裏手に回って変身を行ったようだ。


 建物の影からカラフルな光が漏れ出たことで、ユキト達にもフローラが変身したことが分かる。その光景を見て、アウリティアが感慨深げに呟いた。


「やっぱり変身時は光るんだな」


「そういうもんだろ」


 元日本人の2人は納得しているが、現地組からすれば謎な仕様だ。だが、周囲のメンバーは特に何も言わない。今更ユキトの加護にツッコミを入れても仕方ないと思っているのかも知れない。ユキトの加護が異世界の文化を背景にしていることは皆も承知しているのである。


「皆様、お待たせ致しました」


 やがて、変身によって衣装まで変わったフローラが建物の影から戻ってくる。しかし、これまでと異なる点として、なんとフローラも空中を飛んでいた。ファウナほどの高速ではないが、人が軽く走る程度の速度で、地上から1メタくらい浮かんだまま移動している。これにはユキトも驚きを隠せない。


「うおっ、フローラまで飛んでる!?」


「ファウナさんが飛べるようになったと聞いて、魔法でも飛べるはずだと飛翔魔法の練習をしまして……」


 フローラが照れながら説明するように、この世界には飛翔魔法というものがある。だが、多くの魔法使いはその場で少し浮く程度の水準でしか行使できないのが実情だ。魔法少女の加護の力が、フローラに空中を移動できるレベルでの使用を可能とせしめているようだった。


「まぁ、魔法少女としては当然だわな」


「むしろ、(わらわ)氷結竜(フリーズドラゴン)を一撃で滅ぼす火球(ファイアボール)を撃てる者が、飛べないという方がおかしな話じゃ」


 ユキトと異なり、顧問の2人はあまり動じていないようである。


 パーティーメンバーに飛翔行為が流行っている状況を受けて、ユキトは苦笑いしつつ、セバスチャンに尋ねる。


「まさかセバスさんまで、飛べたりしないよな?」


「はい、飛べますが」


「ええっ!?」


「冗談です。流石に剣士の加護では飛ぶことは難しいようですな」


 ユキトはセバスチャンの冗談にホッとしながらも、空を飛ぶ剣士は日本でもそんなに一般的じゃなかったよなと自問する。セバスチャンの加護がモチーフにしているのが、様々な創作物に登場する剣士のイメージを混ぜたものなので、そうそう飛ぶことはないだろう。


(宮元武蔵は飛ばない……あの人斬りも飛ばない……コンニャクが斬れない男も飛ばない……)


「あの、ユキト様……」


 ユキトが有名どころの剣士が飛べないことを確認していると、不安げにフローラが声をかけてきた。そういえば、各メンバーの力量の確認の最中だったな、とユキトは思考を元に戻す。


「おっと、悪い。じゃあ、フローラはどんなことができるのか見せてくれ」


「まずは例の火球(ファイアボール)ですね」


 フローラがアウリティアとイーラに相談して完成させたという火球攻撃は、至高火球陣(アルティマ・ファイアボール)と名付けられている。この技は、一兆度の力を秘めた火球を、熱を遮断する防熱陣で包むことで、周囲を焼き尽くす危険を減らし、防熱陣の中でだけその猛威を振るうように工夫したものだ。


 一兆度の力が不用意に解放されるとこの異世界全体(ディオネイア)が消し飛ぶ可能性がある。その意味では大変に危険な術である。


「そもそも防熱陣であの火球(ファイアボール)が防げるものなのか?」


 ユキトは頭に浮かんだ疑問をアウリティアに尋ねた。防熱陣で一兆度の火球が周囲に被害を出すことを防げるのであれば、敵も防熱陣を張っていた場合には、この火球攻撃は効かないことになるのではないか、と思ったのだ。


 ユキトに質問を向けられたアウリティアは深く頷くと、説明を始める。


「お、なかなか良い質問だ。確かに防熱陣で火球の威力を封じ込めることができるなら、敵の防熱陣で防がれると考えるのも無理はない。

 だが、自身の魔力のコントロール下にある炎を自身の魔法で遮断するのと、敵のコントロール下にある炎を遮断するのは、全く異なるんだわ。敵側が防熱陣で防ぐのは難しいだろう」


 アウリティアの言葉に、ユキトもなるほどと納得する。


「自軍の兵士の動きを制限するのは簡単だけど、敵軍の兵士の動きを制限するのは困難なのと同じだな」


 ユキトの挙げた例えは間違っていなかったようで、アウリティアも頷いて肯定を示した。そこにイーラが口を挟む。


「そもそも、防熱陣程度で防げるのならば、(わらわ)が負けはせぬわ」


「まぁ、そういうことだ。あの温度の火球(ファイアボール)を防ぐ防熱陣なんて、極魔道士たる俺でも無理だから」


 イーラとアウリティアから見ても、フローラの一兆度の火球は無茶苦茶な代物のようである。何しろ、一兆度だ。異世界(ディオネイア)の炎術はせいぜいが数千度のオーダーなのだ。日本(もとのせかい)でも、高温で知られる酸素アセチレン炎が3000~4000℃である。


「あの……進めてよろしいでしょうか?」


 ユキト達が防熱陣の話題に逸れたため、様子を見ていたフローラがおずおずと声をかける。


「おっと、悪い。進めてくれ」


 ユキトは軽く謝ると、フローラに続きを促した。

 フローラは目を瞑ると、息をゆっくり吐き、その精神を集中させる。ほどなくして彼女の広げた両手の内に、白く輝く光球とその周囲を包み込む半透明の膜が出現した。直径1メタ程の半透明の球体、その中心に白く輝くピンポン玉程度の光球が浮かんでいる。


至高火球陣(アルティマ・ファイアボール)!」


 フローラの言葉で、その半透明の球状の弾が彼女の手から解き放たれ、斜め上空に向けて撃ち出される。


「……あれに当たると即死決定だな」


 あの中心部の光球に触れると、即座に魔力が一兆度の温度へと変換され、瞬時に触れた者を焼き尽くすことになるだろう。だが、周囲を囲む防熱陣のおかげで、その外への被害は抑えられる仕組みである。


 だが、ユキトが空に飛び去ろうとする火球を眺めていると、その火球がクイッと軌道を変化させ、上空をグルリと回りはじめた。風に流されたという動きではない。


「え? 操作可能なの?」


 ユキトは思わず、フローラの方を向く。


「ええ、直線状に飛ぶだけでは芸がありませんので、操作できるように練習しました」


 フローラが笑顔で答えるが、敵から見れば悪夢だろう。当たれば即死する球体が操作可能なのだ。アウリティアも苦笑いしながら、火球が上空を飛び回る様子を眺めている。


「あれが一兆度だからなぁ……ユキトも無茶な加護を付与(エンチャント)したよなぁ」


 ユキトは半ば諦めた表情で顧問の2人に声をかける。


「あー、じゃあ判定を……」


[七極(セプテム)並み]

[七極(セプテム)並み]


 ここでもアウリティアとイーラ、2人の札が揃ったのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。ブクマ、評価も嬉しい限りです。


多くの方にブクマして頂けると、「この小説を読んだ方はこんな小説も読んでいます」を経由して新規の読者様が来てくれる率が増えますので、ありがたいところです。


先週~今週が少し忙しくて更新が開き気味でしたので、今週末にもう1回は更新予定です。

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