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第119話 確認! 冒険爵のサブシア領

前回のお話

 インウィデアを倒したユキト達は、それぞれの街や里へと戻り、再会と無事を喜び合った。

 だが、その頃 グリ・グラトを倒した跡地では(いとま)が復活していた。

 

 アスファール王国とハルシオム皇国との戦争が終結して数カ月が過ぎた。


 正確には、終戦についてはいまだ交渉中である。戦争は始めるより終わらせる方が難しいとは良く言ったものだ。とはいえ、終戦交渉も大詰めらしく、皇国からの謝罪と賠償金にてカタがつきそうだとのことだ。


 なお、皇国軍の指揮官であったケロン公爵の身代金については、どうやら皇国内でもその増長っぷりが目立っていたらしく、あまりふっかけることはできなかったと、ラング公爵がぼやいていた。


「ケロン公爵が皇国内で勢力を伸ばしたのは、切り札と恐れられていたベズガウドという男のおかげらしいんだよね。情報の奪取や暗殺に長けていたという噂だけど、正体が七極(セプテム)のインウィデアだったなら当然だねぇ」


 皇国内の貴族達は、ケロンがベズガウドという駒を失ったと知ると、掌を返すようにケロンの責任を糾弾し始めたらしい。その反面、捕えた3人の師団長についてはケロン以上の身代金が準備されたというのだから、驚きだ。


「ケロン公爵よりも、その師団長達の方が人望があったってことだねぇ」


 ユキトに説明してくれたラング公爵は、肩をすくめながらそんなセリフを吐いていた。


 立場が高いことが必ずしも価値が高いと等しいわけではない。得難い人材というのはいるものだ。皇国にとってはケロン公爵よりも、師団長らの方が価値が高かったということだろう。人材というのは、国や領土の宝でもあるのだ。



  さて、その領土についてだ。


 ユキトは改めて、サブシアの現状を整理することにした。ユキトの領都であるサブシアは、ユキトの加護を付与(エンチャント)する能力と電子辞書より与えられる異世界の知見によって、大きな発展を遂げつつある。


 まず、街並みについてだが、鉄筋コンクリートの実用化により、所々に高層建築物を見ることができる。端的に言えば、サブシアのコンクリートは水硬性石灰に水、砂、砂利等を混ぜたものだ。このうち、水硬性石灰は消石灰に火山灰を混ぜて作っており、水と反応して硬化する性質がある。消石灰は漆喰の材料でもあり、この世界でも普通に流通している物質だ。


「なるほど、この『こんくりいと』という建材は押す力には強いが引く力には脆い……これを鉄筋で補おうということじゃな」


 鉄筋コンクリートによる建築現場を見学していたイーラは、その光景を見て何やら頷いている。この世界(ディオネイア)に長く生きている彼女であるが、まだ見ぬ新しい技術には興味があるようだ。


 幸いにして、サブシアはどこかの島国のように地震が頻発する土地ではないので、耐震設計にする必要はない。


 そんなわけで、4階建て程度の建物であれば、サブシアのあちこちに見受けられる状態だ。さらには水道管や下水管などの整備も進めている。工事は大変だが、ファウナの協力があれば地面も豆腐のようなものだ。



 次に、農作物についてだ。ユキトがフローラに与えた『オオゲツヒメをモチーフとした加護』は、日本の神話に登場するオオゲツヒメのように作物や食物を産み出す能力を得られる加護である。


 この加護の力は凄まじい。既にフローラは、この世界では発見されていないジャガイモを始めとして、各種スパイスや小麦、さらには米、野菜、果実等を産み出していた。


 この米や野菜、果実等は、日本で栽培されているものが基準になっており、つまるところ品種改良された農作物が手に入るのである。この世界(ディオネイア)では、元の世界と違って種苗法などの規制もないので、この農作物を自由に作付けすることができる。


 このサブシア産の作物は圧倒的な高値で取引されている。これは、事前にユキトが王や公爵らに作物をお裾分けしておいたことで、その味が噂となっていたことも影響しているようだ。


 さらに、サブシアにおいては料理の水準も非常に高い。これはサブシア産の野菜等の味が非常に優れている事に加えて、ユキトが広める様々なレシピや調理法が広く受け入れられているためだ。


「普通はレシピってのは有料なのよ? 特に人気のある料理はとてつもなく高いんだから」


 ファウナはそう言いながら、マカロニグラタンを食べて幸せそうだ。これも、ユキトが領民に無料で様々な料理を広めた恩恵である。

 王国中を旅して回る行商人などは、多少の遠回りをしてでも行商ルートにサブシアを加えるのが定番となっているらしい。普通の宿場町で見かける料理は、せいぜいが野菜を煮たスープと肉を焼いたもの程度だ。サブシアでは豚カツやらハンバーグやら、調理法すら想像できない料理が食べられるのである。


 なお、各種スパイスと米が収穫できたことで、ユキトは苦労の末にカレーを完成させた。完成したカレーを食べた領主が、涙を流したという噂があるが真偽は不明である。この料理は、材料となるスパイスの供給が十分ではないということで、まだ一般公開はされていないようだ。



 その他の産業としては、織り機を使った織物産業や活版印刷機を使った印刷産業が立ちあがっている。特に印刷については、これまで高級品であった書籍が安価で生産できるようになり、知識や技術を伝えるための大きな力となるだろう。


「領内に学校も考えたいところだな。日本のように義務教育をする……には、教師となる人材が不足してるか」


 領主によっては、領民が無駄に賢くなることを嫌う者もいるが、日本から来たユキトにとってみれば、領民の教育レベルは高い方が安心できる。これからも様々な新技術を実用化していく予定なのだ。


 これらの新技術の出所は、当然ながら電子辞書である。だが、技術担当であるストレィの頑張りも大きい。

 尤も、ストレィにとって、異世界の新技術を再現することは楽しい作業であり、苦にはなっていないようだ。ユキトが注意しないと、何日も徹夜で試作品を作っていたりする。今も彼女は電気について勉強中であるので、サブシアに電灯の光を見る日も近いかもしれない。


 ***********************


「さて、我が領の人材の確認を始めるか」


 この日、ユキトはパーティーメンバーと呼ぶべき身近な人材を、領主の館の裏手の広場に集めていた。ファウナ、フローラ、セバスチャン、ストレィ、アルマに加えて、アウリティアとイーラまで揃っている。


 インウィデア戦の後、アウリティアは自身の治めている里「リティス」に戻っていたのだが、ユキトが手紙に「遂にカレーが完成したぞ」と書いてしまったところ、カレーを食う為に再びサブシアにまでやってきたのだ。


「カレーだ! カレーだ! こっちじゃ食えないと思っていた!」


 涙を流しつつカレーを掻きこんでいる姿はとても高名なエルフには見えなかったが、領地経営についてはユキトの先輩である。里と街の差はあっても、共通するノウハウも多いことだろう。ユキトはそう考え、彼がサブシアに滞在している間は行政顧問をやってもらうことにした。カレー代のようなものである。


 一方のイーラは、復活当初は小学生女児だった外見も、いつの間にか20歳のお姉さん程度にまで成長していた。数日前までは、その姿で「また旅に出るとするかのぅ」と言っていたのだが、ユキトがパーティー全体を対象に付与した「ある加護」の話を聞くと、自分もパーティーの一員にしろと頼み込んできたのである。そのため、彼女はサブシアの軍事顧問という役職に就いている。


 なお、ユキトがパーティーに付与(エンチャント)した加護は『不老の加護』という。この加護は文字通り、ユキトを含むパーティー全員が老化しなくなるという効果がある。某海産物家族を始めとした、ご長寿アニメのお約束をモチーフにした加護だ。


「外見って魔法でコントロールできないのか? 俺がイーラと初めて会ったときも、若々しく見えていたけどな」


イーラは魔法で年齢くらい操作できるだろうと考えていたユキトは、『不老の加護』に強い興味を示したイーラに尋ねてみた。


「うむ、ある程度は可能じゃ。お主と会った際も、魔法で若々しい姿を持続させておったからのぅ。だが、魔法も完全ではないのじゃ。数百年もすると流石に老いる。その点『不老の加護』とは素晴らしい」


「アウリティアのヤツが、せっかくこっちで会えたのに100年も経たずにお前は死んじゃうんだよなって寂しそうだったんでな」


「普通の人間はその点が不便よのぅ」



 そんな流れがあって、七極(セプテム)の2人も、現状はパーティーの一員としてカウントされるようになっている。今日は、そんな各メンバーの能力を再確認する予定であった。というのも、ユキトもパーティーメンバーの実力を正確に把握していないのだ。


 ユキトが付与(エンチャント)した加護は、対象とした者が成長することで、より大きな力を与えるようになる。例えば、ファウナに付与(エンチャント)している『武術の加護』は、異世界の武術家の力を得ることができる加護だが、付与(エンチャント)した当初は、力が強くなり、走る速度が向上する程度の効果であった。


 だが、度重なる戦闘を経て、ファウナ自身も成長した結果として、かなりのパワーアップを果たしているはずだ。それがどの程度なのかをパーティーのリーダー役としては、しっかり把握しておく必要があるだろう。


「早速だが、ファウナはどんなことまで出来るんだ?」


 ユキトは最初にファウナに問いかけた。彼女の能力はパワー型なので分かりやすい。


「えーとね、空を飛べるのと、山くらいなら闘気を放って吹き飛ばせる……くらいかな?」


「……かなって可愛く言ってもダメだ。人間の域を超えてるだろ」


「えー! そんなことないわよ!」


「わかった、怒るなよ。 じゃあ、ちょっと空を飛んでみてもらえるか?」


「いいわよ」


 ユキトが促すと、ファウナはトッとつま先で軽く飛び上がった。そして、そのまま空中にゆっくりと浮かんで行く。


「おおっ、浮いた」


 やがて、ファウナは黄色いオーラのようなものを薄っすらと身体の表面に纏わせると、かなりの速度で縦横無尽に空中を飛び回り始めた。


「あ、俺このシーン、アニメで見たことあるわ」


 アウリティアがその非現実的な光景を見て感想を述べる。やがて、ただ飛ぶことに飽きたのか、ファウナは空中を高速で移動しながら、空に向かって何発も闘気弾を撃ち出し始めた。彼女に言わせれば、その1つ1つが山を破壊する威力らしい。


「そのうち、カメなんとか波とか撃って、星の1個や2個はふっ飛ばせるようになるんじゃないか?」


 ユキトは、半ば呆れたように呟くのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

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