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第117話 また次回! 撤退の黒幕

前回のお話

 ついにその正体を表したインウィデア。ユキトたちはインウィデアと対峙する。

 

 夕暮れ時。インウィデアとの戦闘が始まり、30分ほど経過した。


 アウリティア、イーラの連携攻撃に、インウィデアは劣勢を強いられている。インウィデアとしては、隙を見てユキトの命を奪いたいところだが、もはやユキトにも油断はない。


(……『まろうど』め!! 我の予見を尽く回避しおる。運命神(フェート)のヤツが力を貸しているのか? いや、神の介入はできぬはずだが)


 インウィデアは、時折ユキトへも視線を送りつつ、イーラたちの攻撃を辛うじてやり過ごしている。


「未来の話で命を狙われるなんて、たまったもんじゃないな……」


 命を狙われている当人のユキトは、積極的に戦闘に参加する気にもなれず、2人の補助に回っていた。インウィデアが一撃必殺の技を持っていないとは限らない。


 なお、ティターニアも、インウィデアとの戦闘については七極(セプテム)の2人に任せることにしたようだ。省魔力モードのアルマを連れて、離れた位置に避難している。




霜棺葬(フロストコフィン)!」


 イーラの言葉に従い、空中に青白く輝く氷の粒子が出現したかと思うと、瞬く間に竜巻のような渦を巻き、インウィデアを包み込む。魔力を含んだ冷凍波は、実体を持たない悪霊(ゴースト)をも凍らせる力を持つ。


 しかし、全てを凍らせる氷霜の棺が完成する前に、その氷渦の中から紫色の影が飛び出し、上空へと逃れた。濃紫色のローブをはためかせ、空へ飛び上がったインウィデアは「怒りの仮面」で地上に立つイーラを睨みつける。


「我に効果を示す氷結魔法とは……流石はイーラと言ったところか」


 インウィデアはそう述べると、イーラを攻撃するべく、掌を彼女へ向けて魔力を集中させた。黒い光と呼ぶべきか、そんな闇の閃光がインウィデアの手から滲み出る。


 だが、インウィデアが攻撃を仕掛ける前に、彼の背に人影が差した。


「上空へ逃れて安全だと思ったか? 喰らえ……法則破断(ロゥブレイク)!」


 アウリティアは敵が上空へ逃げることを予想し、先回りして魔法攻撃の準備を整えていたようだ。インウィデアへ向けた指先から、法則そのものにダメージを与える術式が解き放たれ、空間を伝搬していく。


 ブウゥゥゥン


 ユキトの目には、インウィデアのいる空間が一瞬震えたように見えただけだったが、その攻撃によってインウィデアの片腕と、頭部の仮面の1つである「泣き顔をした仮面」が砕け散る。


 パァァァッーーン!!!


「グォォ! おのれ……!!」


 自身の術がインウィデアに効果があったことを受けて、アウリティアが満足気な表情を浮かべる。


(アイツが人間に化けているときに語った内容……インウィデアが元々『管理者』であったのなら、俺達のような有機生命体ではなく、法則生命体に近いはずだ。

 そう考えて、法則を破壊する系統の魔法を使ったが、正解だったようだな……)


 法則生命体とは、法則の集合体が意思を持ち、生命となった存在だ。有機生命体が化学反応や電気的な反応で構成されているのに対して、法則生命体は数多の法則で構成されている。


 もし、インウィデアが法則生命体であったとしても、片腕を失う程のダメージは、決して小さいものではないはずだ。



「ほう、エルフの若造もなかなかやるではないか。 ならば(わらわ)も……凍結銀箭(フロスティックアロー)


 アウリティアの魔法で思わぬダメージを受けて、インウィデアが見せた隙。イーラはこれを見逃さなかった。間髪をいれず、魔法によって白銀の矢を多数出現させ、インウィデアに向かって撃ち込む。


「小癪な!」


 これが単なる氷の矢であれば、人間とはその存在を異にするインウィデアには、ほぼダメージが通らないはずなのだが、流石にイーラの魔力が練り込まれた矢を受ける気にはならなかったようだ。

 インウィデアは空中に浮かんだまま、素早い身のこなしで回避するーーいや、回避したはずだった。


「なっ!?」


 インウィデアも矢の軌道が魔力で操作されていないことくらいは確認している。だが、その矢が空中で急に軌道を変化させた。


 冷たく輝く矢は、そのままインウィデアの仮面の一つを射抜く。額に碧い宝石が埋め込まれた仮面だ。人間に変身していたインウィデアが、ユキトの加護を封印しようとした際に、使用した仮面でもある。


 パァァァーーーーン!!!


 碧い宝石が煌めきを放ちながら、埋め込まれていた仮面とともに派手に砕け散った。想定外の事態だったのか、インウィデアの動きが停止する。


「ほう、大当たりのようじゃな……貴様の加護を操作する力はあの宝石が媒体となっておったのじゃろう?」


「…………」


 イーラは口角を上げながらインウィデアに尋ねる。重要な宝石を失ったことがショックなのか、インウィデアは動きを止めたままだ。だが、それが逆にイーラの問いが事実であることを物語っていた。


 ちなみに、インウィデアの仮面を割った矢のトリックは、ユキトの超能力者(エスパー)の加護だ。

 矢の挙動を魔力でコントロールしていたのであれば、インウィデアも簡単に気づいただろう。

 それゆえにイーラは、魔力による矢の操作を一切行わずに射出したのだ。(シジョウ卿、射線を曲げよ!)という強く念じながら。


 一方、テレパシーによりイーラの意図を汲み取ったユキトは、念動力(サイコキネシス)によって射線を僅かに曲げ、見事にインウィデアに命中させた。結果として、敵の重要な仮面を割ることに成功したのである。


 砕け散った碧い宝石は、細かい塵となって風に舞い、空気に溶け込むように消えていった。

 ユキトには感じ取れなかったが、砕けた宝石に封じられていた莫大な魔力も雲散霧消したようだ。


(まさか操護石を失うとは……これ以上はやっても無駄か……)


 インウィデアは状況を整理すると、その頭部を回転させて「無表情の仮面」をユキトの方へと向ける。無表情なのは不気味でもあるが、案外この無表情の仮面こそが、インウィデアのデフォルトの表情なのかもしれない。


「まろうど、貴様は運命神の加護でも得ているのか? 貴様に関しては、我の予見が尽く覆されるぞ……」


「いや、そんなこと俺に言われてもな……」


 無表情な仮面の眼孔の奥に、強い怒りを含んだ赤い光が揺らめく。


「我が力が回復するまで、貴様の命は預けておく……」


 インウィデアの撤退宣言と思われるセリフを受けて、アウリティアとイーラが即座に動いた。


「逃がすか」

「逃がさん」


 両者とも両手で印を結び、逃亡封じの結界を展開する。アウリティアを中心として、赤いガラスの様なもので周囲が覆われたかと思うと、一方のイーラは青白い透明なドームを出現させて、インウィデアを包み込んだ。


 どちらも、なかなかの早業である。


 だが、インウィデアはその結界に動じる様子はない。無表情ゆえに何を考えているかは不明だが、少なくとも焦ってはいないようだ。


「ほぅ、なかなか見事な結界術だ。普通の手段なら逃げられそうにもない……が、我も元管理者なのでな」


 そう言ってインウィデアが左腕を掲げると、彼の背後の空間が大きく2つに裂けた。裂け目の内側からは白い光が漏れている。どうやら、別空間へのワームホールのようなものらしい。


「次回こそは殺してやる。覚えておくと良い」


 ユキトに対してそんなセリフを残し、インウィデアは空間の裂け目にその身を沈めた。インウィデアの姿が消えると、裂け目もすぐに閉じ、後には何も残っていなかった。


「ぬ、逃げられたか」


イーラの残念そうな声が辺りに響いた。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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