第115話 判明! 黒幕の正体!
前回のお話
合体攻撃でグリ・グラトを倒したユキト達。
だが、撃破後の油断した隙をつかれ、ユキトは首を刎ねられた。
ドサッ…… ゴロ……
胴から離れたユキトの首が転がり、その身体は大地へと倒れこむ。地面には大量の血が広がっていく。
「やっと片付いたな、シジョウさんよ。てめぇは、鋼の騎士になっている間は攻撃がほぼ効かねぇし、周囲の心を読むわ、瞬間移動もするわ、規格外過ぎて困ってたんだぜ」
その手に握った剣を鮮血で濡らし、自身が刎ねた首に向かって男は語りかけた。彼の名はベズガウド。ハルシオム皇国において、ケロン公爵の下で密偵、工作員、暗殺者として働いてきた男である。
「き、貴様っ!」
ユキトから比較的近い距離にいたティターニアが、剣を抜き、ベズガウドの首元にチャキリと突きつけた。
「ユキト!」
先ほどまで大の字に寝転んでいたアウリティアも、この事態に慌てて起き上がり、ユキトに駆けよろうとする。多少の傷なら魔法で回復が可能だが、それは生きていればの話だ。首を刎ねられれば、即死は免れないはずであった。
だが、そこでとんでもないことが起こった。
倒れた首なしユキトがムクリと起き上がると、手探りで首を探し出したのだ。
「は?」
その光景に、ベズガウドも思わず間の抜けた声を漏らす。ベズガウドに剣を向けていたティターニアも唖然として、その異様な姿を眺めていた。
やがて首なしユキトは、自身の頭部を発見すると、その髪を掴み、自身の首の上へと据えつける。ギュッギュッと押さえつけ、切断面をくっつけようとしているようだ。
「痛っててて、死ぬかと思った!」
首が繋がったユキトは、そこで初めて大声を上げた。死ぬかと思ったなどと叫んでいるが、普通なら死んでいるところだ。
ベズガウドも、ティターニアも、ポカンとした表情でユキトを見ている。少なくともゾンビやレブナントの類には見えない。
アウリティアだけが、何かに気づいたようだ。
「なるほど、例の加護の効果か」
ユキトがその身に付与していた加護「不死の加護」。万が一の時のため、お守り代わりとして、常に身につけていた加護である。これは、ユキトが色々な加護を試していたときに、ギャグマンガを元に生成された加護であった。
この加護を付与した者は、まるでギャグマンガの登場人物のように、普通なら致命傷となる傷を負っても、命を長らえることができるとされていた。尤も、全くの無傷というわけにはいかないようで、現にユキトは大量の血液を失った影響でその場に座り込んでいる。
しかも効果は一度のみ。再び付与するためには、1ヶ月は待たねばならない。もし今再び首を刎ねられれば、間違いなく死ぬ。
「はっ……こいつは、油断したな。笑いの要素で作られた加護だったから、大した加護じゃねぇと思ってたんだが」
ベズガウドはユキトを殺し損なったことを認め、苦笑いを浮かべる。
「貴様は何者だ!!」
ベズガウドの喉元に突きつけた剣を僅かに押し込み、ティターニアが問う。彼がユキト達の敵であることは明白だ。
「ふむ……」
ベズガウドは、自分の足元へと視線を落とし、一歩だけ左に足を踏み出した。
「動くな! 次に動けば、この ……!?」
ティターニアが警告を発するが、その直後に彼女の様子が変わった。話している途中の姿勢で、口を閉じることもできないでいる。それを見て、ベズガウドはニヤッと笑う。
「動くな……か。 姉ちゃんの方が動けないんじゃないか?」
そういうと、彼は一歩下がって喉元の剣から距離を取った。だが、ティターニアは剣を突き付けた体勢のまま動けないでいる。
「ほら、見な。お前さんの影を踏ませてもらった。影踏みの加護というんだがね。これで相手の動きを封じることができるんだぜ」
ベズガウドはそう言うと、自身の足を指差して、ティターニアの影を踏んでいることを示した。そして、すぐにアウリティアの方へ振り向く。
「おっと! 無詠唱で魔灯の魔法なんて使わないことだ。この状況下なら、即座にシジョウさんと女王様を殺すこともできるからな! アウリティアさんは、その場で大人しくしてな」
「ちっ」
行動を読まれてアウリティアが苦々しい表情を作る。まさに、魔灯の魔法を使えば、影の位置が変わり、ティターニアが行動可能になると踏んだわけだが、ベズガウドにはお見通しだったようだ。
(俺がアウリティアだと知っているのは良いとして、無詠唱についても知っている……)
アウリティアはベズガウドが自身のことを良く知っていることが気になった。
アウリティアの顔を知る者は多くないとはいえ、隠しているわけではないから、ベズガウドが知っている可能性はある。一方、無詠唱による魔法の発動も秘術というわけではないが、エルフでもない人間……しかも魔法使いに見えないベズガウドが知っているのには違和感があった。
だが、今はそこに拘泥する場合ではない。アウリティアの位置はユキトとティターニアから5メタほど離れている。手練れと思わしきベズガウドがユキトを殺す前に、ベズガウドを倒すのは難しいだろう。
「くそっ……ハァハァ……血を流し過ぎた」
一方のユキトは座り込んで、立ちあがることもできない。首を刎ねられたことで、大量に血を失ったためだ。
(せめて魔力だけでも回復すれば……)
そう考えて、ユキトは腰の袋のアンブロシアを取ろうとする。だが……
「おいおい、シジョウさんよ。動くんじゃねえ。もう一度その首を飛ばすこともできるんだぜ?」
ユキトの動きに感づいたベズガウドに釘を刺されてしまう。
「だが、また首を刎ねる前に、もう生き返らないように、お前の加護を消しとかねぇとな」
ベズガウドはそう言うと、自身の懐に手を入れ、謎の仮面を取り出した。白いのっぺりとした仮面で、額に碧い宝石のようなものがはめ込まれている。
ベズガウドがその仮面をユキトへ向けると、額の宝石が青白く輝き始めた。その輝きとともに、黒い粒子が幾つか飛びだして、ユキトの身体を透過していく。
(なんだ……これは……?)
ベズガウドの行動にユキトは不安を隠せない。明らかに何か良くない効果がありそうだ。
「……ちっ、やはり異世界由来の加護か。となると、ケロンの方は敗北するな」
宝石の輝きが止まるとともに、ベズガウドはそう吐き捨てた。異世界由来の加護。確かにベズガウドはそう述べたのだ。
「こっち由来の加護なら簡単に全ての加護を消せたところなんだが、仕方ねぇな。まぁ、さっきのふざけた加護を、もう使えないようにはできたぜ。殺すにはそれで十分だ」
ベズガウドのセリフからすれば、どうやら彼はユキトの加護を消しにかかったようだ。これは驚くべきことだ。幸い、ユキトに付与されている加護を消すことには失敗し、先ほどユキトの命を救った「不死の加護」を再び使えないようにしたのみに終わったようだ。
(……確かに不死の加護はもう付与できないみたいだな。能力を使おうとしても、不死の加護が対象にできない)
ユキトはベズガウドの言葉を確かめるべく、不死の加護に意識を向けてみた。本来ならば、残りチャージ時間のようなものが脳裏に浮かぶのだが、何の反応も返ってこない。
「ハァハァ……加護を消すのが、お前の能力か? なぜ、俺を殺す?」
ユキトは青息吐息という状態で、ベズガウドにそう尋ねた。だが、ベズガウドはその問いに対して、目を細めると、こんな話を始めた。
「……やっぱり、自身が死なねばならない理由くらいは知りたいか。まぁ、無理もねぇか。
じゃあ、少し昔話をしてやる。神の代行として、この世界の法則を管理する者を管理者と呼ぶのは知っているな?
遥か昔、この管理者の中に神位体が生じた。と言っても、元々管理者ってのは神に近い存在だ。神位体と言っても、他の管理者よりも少し能力が高い程度だったが、特筆すべきことにそいつには自由意志が芽生えたそうだ。
ああ、普通の管理者にも意志はあるんだが、普段の業務には自身の意志が反映できないようになっている。だが、そいつはそれができた」
突然に始まったベズガウドの昔話。どうやら、何かとても重要な事を話しているようだ。
「その時代、既に創造神は姿を隠していた。例の深い眠りってヤツだ。残っていた古い神々には真面目なやつもいたが、総じて神達による世界の統治は杜撰になりつつあった。そこで、その管理者は神の代行として杜撰な管理を実行するよりも、自身が管理した方が良いと考えたんだわ」
ベズガウドは遠くを見つめながら、言葉を紡いでいく。
「そいつは、神々から世界の支配権を奪い取るための準備を進めていた。そいつの仕事は加護の管理だったから、それも幸いして、強力な加護を自身のために確保した。さらに何人かの神を仲間に引き込み、支配権を握るまであと少しだった。
だが、準備の途中で他の神々に露見してな。そのため、神々を巻き込んだ大戦争になった……って話だ」
「ハァハァ……それが……お前とどういう関係が? 俺の……ハァハァ……命を奪うこととも関係なさそうだが?」
ユキトは息も絶え絶えに、ベズガウドの話を急かす。あまりに長々と喋られると自身が死にかねない。
「まぁ、結論を急ぐなよ。 結局、その管理者は神々に敗れて、地上へと逃げた。だが、最後に神の世界と地上世界をつなぐ門の管理権を奪い、その門を閉じることに成功したのだ」
「神の世界への門?」
どうやら神の世界は、この地上とは異なる場所にあるらしい。
「ああ、その門が閉じると、神はこちらに顕現することも、直接的な関与もできなくなる。そこで、地上へと追われた元管理者は、地上で力を蓄え、やがては神に復讐することを誓ったわけだ」
「……この世界に神様はいなくなっているのか」
「そうだ。正確には自分たちの世界からこちらに出てこられなくなっているのだがな。管理者を通して関与したり、わずかな力を送る程度はできるようだが、ほぼ無力だ」
ユキトとして、まさかこんなところで、神様が出てこない理由を知るとは思わなかった。ベズガウドの話しが本当だとすれば……だが。
「その元管理者は未来視も可能でな。常にというわけではないんだが、時々未来を予知できるんだ。まぁ、そういう加護を付与しているんだがな」
「未来を予知?」
予言というヤツだろう。ノストラダムスの大予言が外れた世界からやってきたユキトは、正直予言など信じないタイプなのだが、この世界ではそれなりに当たるのかもしれない。何しろ、神様がいて、魔法もある世界なのだ。
「そうだ。その予知の中にな……加護を操る『まろうど』が自身を滅ぼすというのがあったわけだ」
「……俺のことだと?」
「まぁ、他にもいくつかの情報がお前を指し示していた。何らかの対策をしなければ、予知は実現するんでな。悪いが、死んでもらう必要がある」
「お前もその元管理者の部下ってわけか……」
ユキトとしては、その元管理者こそがインウィデアであろうと推測していた。だとすれば、会ったこともないインウィデアが執拗にユキトを狙ってきた理由も分かる。
「分かったなら、そろそろ死んでもらえるか」
ベズガウドが剣を振り上げる。一か八かでアウリティアがその手をベズガウドに向け、魔法を発動させようとするが、間に合いそうにはない。
だが、そこで突然、巨大な氷柱が背後からベズガウドの胸を貫いた。
ドスッ!!
「がっ!!!! な、なにっ!?」
ベズガウドは口から鮮血を吐きながら、背後を振り返る。
いつの間にか、そこには氷結の魔女であるイーラの姿があった。そして彼女は静かに言い放つ。
「死ぬのはお主じゃ、インウィデアよ」
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