第114話 決着! ユキト死亡!?
前回のお話
ユキトは分身×巨人化により、2人分のエネルギーをハルバードに集中させた。
スーパーロボットものでは、こういう熱い展開が重要なのだ。
「おお……いかにもロボの操縦席って感じだな……でも、2、3本程度の操縦桿でどうやって人間型のロボを操縦するんだ?」
アルマイガーGの操縦席に座ったユキトは、目の前の操縦桿らしきものを握ってみたが、特にやれることがあるわけではない。ノリと勢いで乗り込んでみたものの、操縦の方法は知らないわけで、アルマイガーGの制御はアルマ当人に任せておいた方が良いに決まっている。
ユキト自身も、先ほどからの変身や術、スキルの連続使用で、魔力も体力もほぼ残っていない状態だ。
では、なぜ乗り込んだのかと問われれば、その方が熱い展開だからと答えるしかない。それによって、アルマイガーGの攻撃力は段違いに上昇する公算が大きい。スーパーロボットアニメの常識だ。
「誰も乗ってないロボじゃ、熱い展開にならないもんな」
ユキトはそんなふうに呟くと、目の前のモニタに映っているグリ・グラトの姿へと目を向けた。
先ほどのアルマイガーGの一撃を受けて、大きくひしゃげた肉塊は、あちこちから穢れた体液を噴出させていた。その表面のあちらこちらで、人間の体の様々なパーツが生成され、しばらく蠢いたと思えば、再び肉の中に吸収されていく。例えば、表面に何本もヒトの指が生えて、わさわさと蠢いている。その横では、肉を割って眼球が出現すると、キョロキョロと辺りを伺う動きをしてから、再び肉の中に埋もれて消えた。
どうやら、度重なるダメージにより、グリ・グラトの再生機構にも異常が生じつつあるようだ。3つほど残っている巨大な魔物の頭部も、よく見ると眼孔から人間の腕が突き出していたり、口内にある舌が何本もの触手に変化していたりする。
「気色悪い姿もこれで見納めだ! アルマ、全力でいけ!」
ユキトは気合を入れると、攻撃の指示をアルマに出す。ユキトも操縦桿を握っているのだが、これは気分の問題であり、ロボの制御に関わる気はない。
「承知しました、マスター」
アルマの抑揚のない声と同時に、ユキトの体にガクンと大きな加速度がかかった。アルマイガーGは高速で飛翔すると、一気にグリ・グラトへと突っ込む。巨大なハルバードが両腕で固定され、その先端はしっかりとグリ・グラトへ向けられていた。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
ユキトは、無意味に操縦席で叫ぶ。その声に応えるかのように、ハルバードの先端は空気を切り裂き、その槍身に纏わせた高密度エネルギーからは、白い火花が生じている。
だが、標的たる肉塊が黙って敵の接近を許すはずもない。その表面にいまだにへばりついている魔物の頭部が、グワァパと口を開き、迫るアルマイガーGへ向かって、ボゥボゥボゥと続けざまに炎弾を放つ。
その炎弾に対し、アルマイガーGは避けようともせずに真っ直ぐに突っ込んでいく。やがて、炎弾がアルマイガーGへと到達するが、前方に突き出したハルバードの先端に触れた炎は一瞬で掻き消された。エネルギーの量が段違いなのだ。
「おお! すげぇ!」
その様子を地上で見ている、アウリティアもテンションがMAXまで上がっている。そして、その上がったテンションのままで、古いアニメのノリそのままに適当な解説を加え始めた。
「説明しよう!! アルマイガーGのハルバードに伝説の巨人2人のエネルギーが合わさった時、その攻撃力は10倍以上に跳ね上がるのだ!!」
本当に攻撃力が10倍になるのかは不明だが、こういうのはノリと勢いが大切だとアウリティアは信じている。
そして――
ズババババババババッ!!!!!
遂にハルバードの穂先がグリ・グラトに到達した。先端を覆う高密度のエネルギーが肉に触れることで、激しくスパークし、グリ・グラトの身体を分子レベルで分解していく。
その間も、アルマイガーGは突撃のスピードを緩めることはない。ハルバードの槍部はグリ・グラトの肉中に深々と突き刺さり、先端は貫通し、その背面へと突き出ていた。しかも、ハルバードには巨大な斧が備わっており、その部分がグリ・グラトの体内にしっかりと喰い込んでいるため、ハルバードから逃れることはできない。
ベキベキベキベキベキ!!!
森の樹木をなぎ倒し、大地を抉り、空気を引き裂き、アルマイガーGは半ば引きずるかのようにグリ・グラトをエルム山地の奥地へと押し込んでいく。轟音が森に響き渡る。
「そろそろ頃合いか。トドメだ!」
ユキトは、十分にグリ・グラトを押し込んだと判断し、アルマに指示を出す。その指示を受けたアルマイガーGは、激しいスパークを生じているハルバードをグイッと捻り、斧の刃を真上に向けると、全力で切り上げた。
ブバッ!!!!!
斬り裂かれたグリ・グラトからは、大量の血液が噴出する。一方のアルマイガーGは、斧を振り抜いた勢いのまま、急上昇して、グリ・グラトとの距離を取る。
先ほどまでハルバードを覆っていた高密度のエネルギーは、全てグリ・グラトの体内に残してきたようだ。そのエネルギーがハルバードを抜いて、一気に膨れ上がる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
巨大な白い光球がグリ・グラトを包み込み、そのまま直径数百メタのドーム状へと成長していく。その圧倒的なエネルギーは、グリ・グラトの細胞を原子の塵へと変えていく。グリ・グラトの身体はボロボロと崩れてゆき、肉が裂けて出現した醜悪な口から「グボァァァ」と断末魔の声が上がった。
さらにドーム状の光は、空高くへと吹きあがり、光の柱となった。内部は激しい光に満たされ、様子を伺うことができないが、生物が生存できる環境でないことは確かだ。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
光の柱から生じる空気の振動が、その内部で荒れ狂う膨大なエネルギーをユキトに伝えてくる。この威力なら、グリ・グラトの細胞の最後の1つまで完全に消滅させるだろう。
「……終わったな」
アルマイガーGの操縦室から光の柱を眺めるユキトは、感慨深げに呟いた。
(……すまん……恩に着る……)
その時、どこからともなく、ユキトの脳裏に野太い声が響いた気がした。
(ん? 今、何か……気のせいか?)
それは、怪物に変えられて、自身の集落をも壊滅させてしまった自身を終わらせてくれたユキトへの、グリ・グラトの感謝の言葉だったのかもしれない。
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「討伐成功だ!!」
ユキト、アウリティア、ティターニア、アルマの4人は、直径数百メタはあろうかというクレーターの縁で勝利を喜んでいた。
クレーターの内側には、動くものは何一つ残っていない。巻き添えになった木々には悪いが、完全にグリ・グラトは滅び去ったようだ。
それにしても、数々の加護で底上げしたとはいえ、とんでもない威力である。エルフの里の近くでぶっ放していたら、里ごと消滅していただろう。
「はぁ、もう動けねー。直接、魔力を向けられない相手ってのはキツイな」
アウリティアは大の字に寝転がっている。魔力を相当に消費したらしい。魔力を吸収する特性を持った敵であったため、魔力で引き起こした「現象」でダメージを与えるしかなかったことが原因のようだ。
「現象」でダメージを与えようとすると、魔力の無駄が大きくなるのは、この世界では常識だ。魔力で岩を操作して投げつけてダメージを与えるよりも、その魔力を相手に直接作用させた方が圧倒的に効率が良いとされている。
尤も、これは魔力に限った話ではなく、化学エネルギーや熱エネルギーを電力へ変換する場合にも変換効率があるのと似たようなものだ。
「アルマ、省魔力モードへ切り替わります」
一番の功労者であるアルマも、消耗は激しかったようだ。彼女は元の姿へと戻った上で、省魔力モードへとシフトしていた。
この省魔力モードになると、徒歩での移動は行えるが、戦闘や高度な判断ができなくなるらしい。人間で言えば、寝ぼけている状態に近い。その代わりに、徐々に魔力が回復するとのことだ。しばらくは仕方ないだろう。
ユキトも同様に、変身や術、スキルの連続使用によって魔力はほぼ尽きていたし、体力も限界だ。さっきまではテンションが高く、脳も疲れを忘れていたようだが、テンションが普通に戻ると急激に疲れが襲ってきた。
「神の豆がまだあったはずだけど……」
ユキトが管理者からもらった、魔力回復の効果がある神々の食べ物=アンブロシア。残り少なくなってきたため、無駄に消費しないようにしていたが、こういう時に食するべきものだろう。
そう考えて、ユキトは腰の袋を探る。
だが、この時、ユキトは完全に油断していた。凶悪な魔物を倒したばかりで、消耗していたのだから、無理もない。
「…この隙を待っていた」
不意にユキトの背後に気配が生じ、聞きなれない声がした。
「シジョウ殿!!」
ティターニアの叫びに、ユキトが振り返ろうとした瞬間。その謎の影が振り抜いた剣が、ユキトの首を刎ね飛ばした。
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