第113話 お約束! 力を合わせて威力10倍!
ユキトの見立てでは、アルマの変形した姿であるアルマイガーGは、物理法則に忠実に従う系のロボットではない。恐らくは、根性や激情によって物理法則を超えてしまう系のロボットだ。
このようなロボットは、故郷ではスーパーロボット系と分類される。ということは、熱い展開を用意すれば、アルマイガーGの攻撃力は天井知らずに跳ね上がるのではないか、とユキトは睨んでいた。なお、物理法則に従うリアリティ重視のロボットはリアルロボットと呼ばれる。
「よし、アルマ! まずはグリ・グラトを向こうにふっ飛ばしてくれ。 少し距離を取りたい」
ユキトは準備の時間を確保するため、アルマにグリ・グラトを移動させるように指示を出した。それに、エルフの里に近すぎると、これから行おうとしている攻撃によって、里に被害が生じる恐れがある。
「承知しました、マスター」
ユキトの指示を受けたアルマイガーGは、ジェット音を響かせて空高く上昇していった。やがて青空の中の小さなゴマ粒のようになると、くるりと宙返りを行い、そこから一気に急降下する。そのまま地上に近づくと、弧を描きつつ、地面と平行に進行方向を変え、急降下により加速した勢いそのままに、グリ・グリトへと迫っていく。
対するグリ・グラトは、迫ってくるロボに向かって、複数の頭部からブレスやら光弾を吐きかけて応戦する。だが、アルマイガーGはその手のハルバードを水車のように回転させることでブレスを弾き、その勢いは止まらない。
シュォッッッン!!!
「うおっ……」
巨大質量が高速で移動するときの、ビリビリとした空気の振動がユキトの肌にも伝わってきた。アルマイガーGが通過した背後の森の樹木が、突風で大きくしなる。
その間にも、アルマイガーGとグリ・グラトの距離はぐんぐん近づいていく。そして、アルマイガーGがグリ・グラトとすれ違う瞬間、アルマイガーGは両手に構えたハルバードを思い切りスウィングした。アルマイガーGの運動エネルギーを乗せたまま、斧の腹の部分でグリ・グラトの中心を強かに殴りつけたのだ。
ドォォォォォォン!!!!!
凄まじい運動量を乗せたハルバードの一撃により、周囲に爆音が轟き、グリ・グラトの重心が低いはずの巨体が放物線を描いて飛ばされていた。エルム山地に広がる森からは、音に驚いた鳥たちが一斉に飛び立った。
バキバキバキバキ!!!
土煙を上げ、森の木々をなぎ倒しながら、グリ・グラトの巨体が転がっていく。数百メタほど転がってからようやく止まったようだが、ハルバードで殴られた個所は大きく損壊し、生えていた頭部のうち、幾つかは完全に潰されていた。これは、ハルバードに付与した多頭殺しの加護の効果も大きいのだろう。
「ま、あんな傷はすぐに再生しちまうんだろうけどな」
ユキトはグリ・グラトが十分に離れたことに満足そうだ。ティターニアは、アルマイガーGの一撃のあまりの威力に茫然としている。
「……今の一撃は、驚きだな…………だが、アレでも死んでいないとは……」
「なあに、今のは準備だ。これからトドメを刺す。危ないから、女王様は防護魔法で身を守る準備をしていておいてくれ」
ユキトは、アウリティアにも聞こえる声でティターニアに指示を出すと、吹き飛ばされたグリ・グラトの方へと顔を向けた。両手で自身の頬をパシンと叩いて気合を入れる。
「ここからは複数の加護の連続使用だ……まずは、変身の加護を消して、と」
ユキトは自身に付与されている加護の中から、変身の加護を消去した。後で再付加が可能であることは確かめている。ユキトの加護のスロットにも4つまでという上限があるため、やむを得ないのだ。スロットの1つには、常にお守り代わりの加護を付与しているので、残りの3つをフルで使ってグリ・グラトを追い詰める手筈だ。
現在のユキトに付与されている加護は、お守り代わりの加護を除けば「超能力者の加護」と「忍術の加護」の2つだった。ここに加える加護は、もちろん、あの加護である。
「始めるぞ……巨人化の加護を俺に付与!」
ユキトは、自身に巨人化の加護を付与する。これで4つの加護スロットは埋まったことになる。だが、この巨人に変身できる加護の有効時間はたったの3分だ。変身後の時間ではなく、加護が付与されている時間なので、そこは原典とちょいとばかり異なるところでもある。
+巨人化の加護:一定時間(残り2分56秒)、巨人に「変身」できるようになる
「よし、巨人化の加護の付与完了。次は……分身の術ッ!!」
ユキトの言葉によって、ユキトの隣にボフッと白い煙が立ち、その中からユキトとまったく同じ姿が現れる。
自身に巨人化の加護を付与したユキトは、今度は忍術の加護による分身の術を用いて、2人に分身したのだ。この分身はユキトと同じ姿形をしているが、攻撃を受けると消えてしまう。逆に言えば、攻撃を受けるまでは、ユキトは2人で活動することが可能なのだ。
「ほぅ、写し身の魔法か……」
似たような魔法があるのか、ティターニアが興味深そうな表情でそう呟く。
「「では、ここで巨人化の加護だ。 ……変身!!」」
2人のユキトは、声を揃えつつ、その右腕を掲げた。眩い光が2人のユキトの身体を包み込むと、光が一気に膨張し、次の瞬間には銀色の皮膚をもった巨人が2体、その場に出現する。
「おおっ!」
その圧倒的な質量感に、ティターニアが思わず声を漏らした。アルマイガーGに匹敵する2体の巨人の姿は、当然、グリ・グラトからも見えているだろう。だが、まだブレスが飛んでくる気配はない。先ほどのアルマイガーGの一撃が効いているのだろう。
一方のアルマイガーGは、2体のユキトラマンの近くの空中に待機していた。2体のユキトラマンは、アルマイガーGに向かって顔を上げる。
「「アルマ!! このエネルギーをハルバードに纏わせろ!!」」
2人のユキトラマンはそう叫ぶと、両手を胸の前で交差させ、全身のエネルギーをそこに集中させる。白い光の粒子が手の交差部分に集まっていき、傍から見ても凄まじい密度のエネルギーの存在を知覚できる状態だ。この莫大なエネルギーを、そのまま相手に放てば光線技となるところだが、ユキトはアルマの武器との合わせ技にしようというのだ。
「なるほど……力を合わせる展開か。鉄板だな」
ユキトの意図を察したアウリティアが呟く。スーパーロボット系のアニメでは、仲間の力を掛け合わせると、単純に2倍ではなくて、4倍にも10倍にもなる熱い展開がお約束なのだ。
「承知しました。マスター」
アルマイガーGは、儀仗兵のように、手に持った巨大なハルバードを前方に掲げる。それを合図として2人のユキトラマンは、手に集めていたエネルギーを霧状にして、ハルバードへ向かって吹き付けた。
ヒュン ヒュン!
アルマイガーGはハルバードを器用に操り、まるで綿菓子でも巻き取るかのように、霧状のエネルギーを槍の先に纏わせる。ユキトラマンから受け渡されたエネルギーは、光る膜となってハルバードの先端を覆っていく。
だが、ここで様子を見ていたグリ・グラトの竜型の頭が光弾が射出した。この頭は、先ほどのアルマイガーGの一撃で潰されなかったらしい。当然、その狙いは新たに出現したユキトラマンだ。
「ちっ、だが仕事は終えたからな」
光弾を視認した片方のユキトラマンが、もう片方を庇うような形で前に出る。
ボンッ!!!
飛来した光弾は、そのユキトラマンが身体で受け止めることとなった。と、同時にそのユキトラマンの姿が煙のように消え去る。もちろん、こちらが分身体である。分身が本体を庇う形で、攻撃を受けたのだ。
「サンキュー分身。 よし、俺も変身解除だ」
ユキトは分身に感謝を捧げると、自身の巨人化を解除する。まだ3分には早いのだが、分身も発言したように、既にこの姿でやるべきことは完了している。ユキトの解除の意志によって、巨大な姿が再び白い光に包まれたかと思うと、そのまま光が小さくなっていき、光が消えるとユキトが元の姿を見せる。
「よし、ここまでは順調だな」
元の姿に戻ったユキトは、空中のアルマイガーGの方を見上げる。両手で抱える巨大なハルバードの先端は、白く輝く高密度のエネルギーで覆われていた。
「もう、グリ・グラトは倒せるエネルギーになっているとは思うけど、最後にダメ押しだ。アルマ! アルマイガーGにも操縦席はあるんだろ?」
「はい、マスター。胸の部分にあります」
アルマに付与された加護は、日本のロボットアニメを参考とした加護である。そんなロボットに操縦席がないはずがない。そして、ロボットアニメでは、主人公がロボを操縦してこそ、真価が発揮されるのである。これもお約束だ。
「よし、じゃあ最後の詰めだ! 瞬間移動!」
そう叫ぶと、ユキトはアルマイガーGの操縦席へとテレポートで移動した。瞬間移動のスキルは、超能力者の加護の賜物である。忍術、巨人化、超能力者と加護のバーゲンセールを経て、これで準備は整った。
ユキトが搭乗したアルマイガーGは、高密度のエネルギーを纏わせたハルバードを構え、グリ・グラトに向き直った。
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