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第111話 炸裂!ケロン公爵の奥の手!

 前回のお話

  皇国軍の傭兵2人組を一蹴したファウナ。だが、彼女の前にアケローンと名乗る自信たっぷりの男が姿を現した。

 

「ケロン様!」


 皇国軍の指揮官であるケロンの天幕に、再び焦った様子の伝令兵が駆けこんできた。


「軍団長と呼べと言っとるだろうが!  ……で、ファウナとか言う女を捕えたのか?」


 軍団長という呼称に拘泥しているのか、一瞬不機嫌そうな表情を見せたケロン公爵であったが、すぐにニヤリと品のない笑みを浮かべて、兵士に問う。


 だが、青い顔した兵士は、報告を躊躇する素振りを見せた。どうやら、良くない報せらしい。


「そ……それが……ア、アケローン師団長は敗北し、カウェイ師団長も投降されました。残るパストア師団長が黒竜を召喚されましたが……」


「な!?」


 ケロンが信じられないという表情のまま絶句する。カラマー兄弟という傭兵らしき2人組を瞬時に倒したところまでは、まだあり得る話だろう。だが、皇国の誇る強力な加護持ちの3人の師団長のうち2人が既に敵に屈したというのだ。


 さらにそのタイミングで、天幕の外から轟音が響いた。


 ドゴォォォン!!!!


 何か重量物が付近に撃ち込まれたかのようで、大地が大きく揺れた。


「な、何事だ! 敵の攻撃か!?」


「こ、黒竜の死体が空より降って参りました!!」


「な、なんだと!?」


 ケロンが慌てて天幕の外へと出て見ると、数十メタほど離れた大地に黒竜の身体が横たわっていた。いや、正確には落ちてきたのは黒竜の下半身だけだ。上半身は完全に失われており、その切断面は炭化したようにまっ黒である。主翼も丸く円を描いたように切り取られていた。どのような攻撃によるものかケロンには見当もつかなかったが、確実に言えることは黒竜が死んだということだけだ。


「ば、ばかな……!!」


 ケロンは何が起こっているのか分からずに混乱している。パストア師団長の奥の手である黒竜が倒されたということは、軍の有していた強力な攻撃手段は全て失われたということだ。


「アケローンのヤツの加護は相手と同等の身体能力を得る加護ではなかったのか!? そのエルフが如何に強かろうと、力は対等になるはずだぞ!!」



 ――ケロンが混乱する僅か半時程前


 ケロンが述べたように、アケローン師団長の加護は、一時的に相手と同等の身体能力を得るという加護であった。その上で、装備している魔剣や魔道鎧の効果で相手を圧倒するのが、アケローンの戦闘スタイルなのである。


 だが、ファウナレベルの身体能力の前には、魔剣によるアドバンテージなど誤差のようなものだ。となると、その異常な身体能力に慣れているファウナの方が圧倒的に有利である。


「なんだ……この力は……ぬぅ、強すぎる!?」


 事実、ファウナの力をコピーしたアケローンは、あまりにも身体能力が向上したゆえに「走る」や「飛ぶ」といった基本動作すら制御困難になっていた。これでは勝負になろうはずもない。


 更に言えば、闘気のコントロールもしっかり修行を積んでこそのものだ。身体能力のみをファウナと同等にしたところで、アケローンには勝ち目はない。防御力が向上していたおかげで、ファウナのパンチ一発で沈むことはなかったアケローンだが、ファウナから回し蹴りと闘気弾を撃ち込まれ、追いうちの正拳突きで意識を手放すことになったのだ。


「自信たっぷりだったし、確かにタフだったけど……あっけなかったわね」


 アケローンとファウナがそんな一方的な戦闘を行っていた隙に、皇国軍の切り札の1人であるカウェイ師団長は単身フローラを狙っていた。彼の加護は弓にまつわるものであり、その射術は人外、化け物、神の域と噂されるほどだ。彼はアケローンのように前面に出ていくこともなく、兵士達の中に紛れ、フローラにその狙いを定めていた。


「岩の上とは狙いやすい……」


 カウェイ師団長は、弦を引き絞ると、自身で『疾風』と名付けている射技にて矢を放った。加護の力もあり、『疾風』は音速に匹敵する速さの矢を射ることが可能だ。


(殺った)


 狙いを外すことはあり得ない。だが、カウェイがフローラの命を奪ったと確信したところで、音速に近いはずの矢が空中で斬り裂かれた。


「な、なにっ!」


 彼が常人離れした視力で、フローラの周囲を観察すると、岩の下に剣士と思われる人影がある。それなりの年歳の男のようだが、手に剣を持っているところを見ると、彼がカウェイの矢を斬り裂いたと判断するしかない。


「小癪な!」


 カウェイは勝負と言わんばかりに、己の持つ様々な技を披露した。一度に3本をつがえて同時に射る『連ね星』、瞬きをする間もないほどに連続で矢を放ち、その矢がまるで1本に繋がって見える高速射術『白糸』、射線を自在に曲げる『舞風』、上空に打ち上げた矢を相手の頭上から降らせる『時雨』


 カウェイな様々な射技を繰り出すが、剣士は地面に居ながらにして全ての矢を斬り落としていく。既に狙われていることに気づいているであろうフローラも、その剣士を信頼しているのか、姿を隠そうとはしない。


「……これは敵わんな」


 やがて、手持ちの矢を全て射ち果たし、相手の技量に心底感心したカウェイは、兵士達の中から進み出ると、そのまま両手を上げて降参の意を示した。


「まさか、全部の矢が落とされるとはなぁ……俺の完敗だ」


 カウェイの降伏を受けて、剣士も剣を鞘に納め、カウェイの方へと歩み寄ってくる。皇国軍の兵士達はどよめくが、空中の矢を斬るような達人に何か仕掛けようというほど愚かな者はいないようだった。


「私はフローラ様の護衛のセバスチャン。降伏した者の命までは奪うつもりはありませんが、大人しく願いますよ」


 丁寧な口調でセバスチャンと名乗った男は、カウェイにその場に座るように促した。特にカウェイを拘束しようともしないのは、それだけ自信があるということだろう。確かにあの技量ならば、逃げようとした相手を離れた位置から相手を斬り捨てることも容易いはずだ。


(ん? このセバスチャンという老剣士……かつての勇者のパーティーにいた剣士セバールに似ているな)


 セバスチャンを間近で見たカウェイが、そんな疑問を抱いたとき、皇国軍の後方から大きな咆哮が響いてきた。その低い重低音が、声の主の巨大さを物語っている。


 グオオオオオオオン!!!


(ちっ、パストアが黒竜を召喚したか……ここにいると巻き添えを喰らいかねんぞ)


 カウェイは僅かに顔をゆがめる。皇国軍の3人の師団長はいずれも戦闘に特化した強力な加護を持っており、パストア師団長は最後の1人だ。彼は魔物を召喚して、従わせることができる。


 カウェイが振り返ると、後方の皇国軍の陣上に、黒く巨大な竜がホバリングしている。黒光りする鱗に鋭い牙、背中から広がる主翼は巨大で、大地に大きな影を落としている。


 パストアが召喚することが多い白竜は、彼の所属する白竜兵団の名前の由来になっている。だが、彼が奥の手として召喚する黒竜の戦闘力は、白竜のそれを大きく凌ぐものだ。何の加護もない兵士であれば、何人いても敵うものではない。多少の加護があっても逃げるべき相手だ。


 だが、事態を把握しているのか、岩の上のフローラが透き通るような声でこう告げた。


「アレは私がやります」


 フローラの言葉に、セバスチャンの隣で座り込んでいるカウェイ師団長は難しい顔をした。


(確かに岩山に丸く穴を開けた魔法は強力だが、果たして黒竜に通じるかな)


 だが、彼はすぐに自身の考えが完全に誤っていたことを知ることになる。一兆度という馬鹿げた温度の前には黒竜など取るに足りない存在なのである。



*********************



「ふん、好き勝手にやってくれたようだな」


 ファウナ達の前に偉そうな男が姿を見せたのは黒竜を屠ってからさらに半時後だ。恐らくはこの態度が大きい男が皇国軍の指揮官だろう。そのふてぶてしい表情を見る限り、指揮官様には降伏の意志はなさそうである。


「貴様らが揃いも揃って敗北とはな……役立たずめ」


 ファウナ、フローラ、セバスチャンの前には、アケローンとカウェイの2人が捕えられていた。捕えられていると言っても、拘束されているわけではない。アケローンはまだ気絶しているし、カウェイは地面に座りこんでいる。


「お言葉ですが、軍団長。もはや我らの軍は勝てませんぞ。殲滅される前に降伏するべきです」


 ファウナ達の前に座っているカウェイが、ケロン公爵に対して意見を述べる。すると、その言葉に同調するように頷きながら、ケロンの背後から立派な装備を纏った男が歩み出てきた。


「我が黒竜を一撃で屠るような奴らです。黒竜の耐魔能力をも貫通したあの魔法を陣に直接撃ち込まれれば、多くの兵が犠牲になります。降伏せねば、全滅もあり得ます」


 恐らくはこの男がパストアなのであろう。降伏しかないとケロンを説得にかかる。いずれも正論だ。目の前の3人はどう考えてもこの世界の常識を超えている。この3人は戦ってはいけない存在であることを、実際に戦った彼らは痛感していた。


 だが、ケロンはニタリと口を歪ませると、自信あり気に笑った。


「くくくく……確かに強力な加護だ。だが、加護がなくなったらどうかな?」


 そう言うと、ケロンは懐から何かのガラス球のようなものを取り出した。片手で持てるようなサイズだが、ガラスの中には黒い粒子が渦巻いている。一見して魔道具の一種であることが見て取れる。


「軍団長……そ、それは?」


 パストアが問いかけるということは、彼もその正体を知らないということだ。ケロンの奥の手なのだろう。


「これは、こうするためのものだっ!!!」


 ケロンはそう叫ぶが早いか、足元にそのガラス球を叩きつける。


 パァーーーーン!!


 鋭い音が響くとともに、ガラス球は塵のように細かく割れ、勢い良く飛散した。と、同時にガラスに封じられていた黒い粒子が一陣の風と化し、あたりに舞い散る。


 そして、醜い笑顔を浮かべたケロンがこう宣言した。


「くくく……これで貴様らの加護は失われたっ!!」


ここまで読んでいただきありがとうございます。次話は明日、明後日あたりに投降できそうです。

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