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第109話 遭遇! 2人の乙女の実力!

 前回のお話

  ファウナはフローラとセバスチャンを抱えて、皇国軍が迫る国境へと走った。

 アスファール王国とハルシオム皇国の国境付近にあるカルデサンタン城。この城を越えると、国境まで砂漠に近い乾燥地と岩山が続いており、無人の小屋等を除けば、村なども皆無だ。そのため、このカルデサンタン城が事実上の王国防衛線となっている。


 この城の指揮官はブレイブリー公爵家の長男、パーシヴァル・ブレイブリー。軍閥のトップとして名高いブレイブリー公爵家の長男というだけあって、パーシヴァルも武人としてその名を知られている。なお、貴族学校でユキトと同窓であるバト・ブレイブリーは、ブレイブリー家の次男であるので、パーシヴァルは彼の兄にあたる。


 指揮官たるパーシヴァルは、城から少し離れた広野に陣を構えていた。彼は籠城戦ではなく野戦を選択したようだ。もちろん、いざとなれば城へ退却して、籠城戦へと移行する準備も抜かりはない。


 その広野に布陣している王国軍の兵士達の間では、その日の朝に駆け付けたという3名の援軍の噂で持ちきりだった。


「例のシジョウ卿のパーティーメンバーらしいぞ」


「シジョウ卿と言ったら、ドラゴンスレイヤーである上に七極(セプテム)にも勝ったって噂の……」


「どこまでホントなんだかな」


「俺、ちらりと見たけど、すげぇ美人だったぜ!」


「王都から来たんだろ? 早すぎないか?」


 ファウナ達は一晩かけて、王都から国境付近のこの城まで、1000キロ程の距離を移動したことになる。ファウナの脚力のなせる技だ。


 パーシヴァルは3名の早すぎる到着に驚いていたが、指示命令書に記載されたサハルト王子のサインに加えて、魔法による真贋鑑定で命令書が本物であることも確認された。となると、あえて疑う要素はない。


「ハッハッハ! 王都から走ってきたのか! これは驚いた! 噂には聞いていたが、シジョウ卿の一行は実に常識外れのようだな」


 ファウナ達の移動方法を聞いたパーシヴァルは豪快に笑った。細かいことは気にしない性格のようだ。2メタ近いがっしりした体格で、30代半ばくらいに見える四角い顔の御仁である。


 もちろん、一晩かけて走ってきたとは言っても、ファウナ達は何度も休憩を挟んでいる。だがそれは、ファウナに対する休息ではなく、フローラとセバスチャンに対する休息であった。今回は、ファウナがフローラとセバスチャンを両肩に抱えて移動したわけであるが、何時間も抱えられたまま、高速で移送されるのは、体勢的にも体感温度的にもかなり辛いものだ。


 流石に1回目の休憩時に、フローラが風防の魔法を使うことを提案し、体感温度の問題はクリアされたが、体勢についてはどうにもならない。フローラとセバスチャンは、休憩の度に身体を伸ばし、「ふぁああああ」と情けない声を上げていた。


 そんなファウナ達の強行軍が認められたのか、パーシヴァルは3名を特に指揮下に組み込むことなく、1つの命令のみを下した。


「王都から一晩でここまで走ってくるような非常識な豪傑を扱えるものは俺の部下にはおらん。お三方には自由に動いてもらって構わんから、思いっきり敵を恐れさせてもらいたい。好き放題やってくれ」


「了解しました。どこまで力が及ぶか分かりませんが、できる限りのことをやってみます」


 3人を代表してフローラが力強い言葉を返すと、その言葉にパーシヴァルが嬉しそうに頷いた。どこまでとんでもないことをやってくれるかと期待するような表情だった。


 **************************


 その日の午後、ファウナとフローラにセバスチャンも加えた3人は、早速、国境付近で皇国軍と相対していた。


 物見の報告で、皇国軍が既に国境線を越え、乾燥地帯をこちらに進んでいると聞いて、これを迎え撃つべく、3名と僅かな兵士だけで国境方面へと移動したのである。強行軍の後で、満足に休息も取っていないが、敵は待ってくれないのだ。


「少し仮眠したけど……まだ眠いわね」


「私もですわ」


「フローラ様、ちょっと寝ぐせが……」


 敵の早急な動きに、女性陣は不満気である。


 3人の周囲には、砂と岩の乾燥地が広がっており、ところどころに赤茶けた岩山がある。地球で言えば、グレートキャニオンの風景に近い。その岩山の合間を縫って、様々な旗指物を掲げた敵軍が、王国側へ向かって進軍してくる姿が見える。先頭集団の距離は、既にファウナ達から100メタ程度まで迫っているが、その背後にも軍勢の列が長く伸びている。


「さて、どうしましょうか」


 そう尋ねるフローラは、既に魔法少女へ変身済みだ。敵や第3者に見られていると変身できないという弱点を回避するため、城を出る前に変身してきたのだ。


「まずは私達の実力を見せてやりましょ」


 ファウナはそう言うが早いか、近くの巨大な岩山の中腹まで駆け上がった。20メタ程の高さを軽々とジャンプする様を見て、3人について来たカルデサンタン城の兵士らは驚いた表情をしている。


 岩山の中腹からは皇国軍が良く見えた。逆に言えば、向こうからもファウナの姿を確認することができるだろう。ファウナは、大きく息を吸い込むと大声で皇国軍に呼びかけた。


「皇国の諸君に告ぐ! 私はアスファール王国のシジョウ冒険爵のパーティーメンバーである格闘家のファウナだ! S級の冒険者でもある! すぐさま退けば危害は加えない!」


 普通であれば、いくら大声であっても、行軍中の軍隊に聞き取れるほどの声は出せない。だが、事前にフローラが拡声魔法(スピーカー)を使っていたため、ファウナの声は容易にハルシオム皇国軍に届いたようだ。先頭集団の足が止まる。ファウナを見つけた彼らは、明らかにざわついており、何やら動揺しているのが分かる。


「S級だとよ……」


「本当ならやべぇんじゃ」


「だが、ありゃ女じゃねぇか?」


「バカバカしい。歩を止めるな。進むぞ」


 突然の呼びかけとS級という単語に驚いた様子もあったが、すぐに皇国軍は落ち着きを取り戻した。どうやら、ファウナの発言を信じていないようだ。


「うーん……仕方ない」


 ファウナとしても、これで敵軍が退くとも止まるとも考えていない。敵の呼びかけを信用して退く馬鹿はいないだろう。となると、何かパフォーマンスが必要であろう。敵軍に退くための材料を与えるのだ。


「じゃあ、手近なこの山にしようかしら」


 ファウナは振り返ると、自身が立つ赤茶けた岩山を見上げた。ファウナが立っている位置もそれなりの高さだが、さらに数十メタほど上まで聳え立っている。


「はっ!」


 ファウナが気合とともに拳をつく。闘気を展開し、衝撃の接地面を広くする事も忘れない。そうしないと、岩に綺麗な拳大の穴が貫通するだけで、それでは派手さが足りないのだ。


 ズゴォォォンン!!!


 轟音とともに、ファウナが立っている位置から先の岩山が吹き飛んだ。破壊された岩が轟音とともに、その先の荒野に降り注ぐ。皇国軍に被害が出る方向ではないが、ファウナが岩山を破壊したことは理解できるだろう。


「な!? なんだ、今のは!?」


「魔法か!?」


「魔法攻撃だ! 格闘家じゃねえぞ!」


 兵士達はファウナのパフォーマンスを、魔法と信じ込んだようだ。この世界の格闘家が素手で岩山を破壊したことは、歴史の上で1度もないだろうから無理もない。上級の術師が集まって展開する上位魔法で可能なレベルだろう。


 だが、格闘家じゃないと言われたファウナはムッとした表情を浮かべる。


「魔法じゃないっ! 私は格闘家だぞっ!」


 皇国軍の兵士達はそんな言葉には耳を貸さず、魔法だ魔法だと騒いでいる。


「もう! そんなに魔法がお望みなら、七極(セプテム)を退けた魔術の使い手、フローラもいるわよ!」


 随分と口調が崩れてきたファウナの言葉を受けて、今度はフローラがファウナが立つ岩とは別の岩の頂上に姿を現した。なお、ファウナと違って、岩に登るのには随分と苦労したようで、少し息が荒い。


「ふぅ……愚かな皇国の兵士どもよ! 大人しく退けば良し。さもなければ、我が灼熱の火球の餌食としてくれよう」


 明らかにいつもと違う口調で朗々と語るフローラ。どことなく楽しそうな表情をしている。意外と乗るタイプのようだ。


「また女が出てきたぞ!」


「火球だとよ。防火の術式を展開しろ!」


 兵士達は明らかに魔法使いらしきセリフのフローラに警戒を向けた。火球と言われれば、防火系の術で防ぐのは常識である。だが、そんな皇国軍の動きを無視し、フローラは皇国軍の後方にある岩山に向かって、ゆっくりと指を向けた。


至高火球陣(アルティマ・ファイアボール)


 フローラの言葉とともに、彼女の指先から白く輝く火球が生まれる。だが、その火球は半透明の球状の膜で包まれていた。中心部に野球ボールくらいの白い光球とそれを包む半径2メタほどの球。この二重の球がフローラから撃ち出され、皇国軍の頭上を越えて、その背後の岩山に向かう。


 フローラがユキトから付与された加護は、地球の特撮の怪獣を参考にしたもので、この世界では例を見ない「極高温」を火球に設定する加護である。だが、彼女がこの加護を得て使う火球(ファイアボール)はあまりにも高温過ぎるため、不用意に用いると友軍ごと周囲を焼け野原にしてしまう危険がある。いや、1兆度の火球であれば世界滅亡の危機と言ってもよい。


 もちろん、先のイーラ戦で見せたように、温度に変換される魔力を的確に制御することで、多少は対処できるのだが、それでも魔力の制御には高度な技術が必要である。途中で、くしゃみをしたために制御が乱れ、世界が滅んだとなっては目もあてられない。


 そこで、フローラがその欠点を補うべく、アウリティアや一兆度火球の被害者であるイーラにまで相談して完成させたのが、この至高火球陣(アルティマ・ファイアボール)という手法だった。強力な防熱陣の魔法で火球を包むことで、その常識外れの威力を防熱陣の中だけに留めようという魔法である。フローラも王都で無駄に過ごしていたわけではないのだ。ちなみに、この中二っぽさ溢れる魔法の名称はアウリティアが考えたものである。



 皇国軍の頭上を飛ぶ見慣れない魔法に、兵士達もざわついている。だが、狙いが自分達でないことが明白な軌道であるため、油断しているようだ。


「なんだ、ありゃ」


火球(ファイアボール)か?」


「どこ狙ってんだよ」


 兵士のヤジを無視し、フローラは目標とする岩山の手前に達したと見るや、周囲の防熱陣の直径を20メタほどまで拡大した。急に巨大化した魔法に、兵士達も何が起こるのかと注目しているようだ。


 やがて、防炎陣である外側の球が岩山に触れるが、当然ながら何も起こらない。……が、中心にあった白い火球が岩山に触れた途端に、そのエネルギーの一部が解き放たれ、防炎陣内に拡散した。20メタの球全体が白く輝く。


「うおっ!! な、なんだ」


「おいっ、お前ら油断するなっ」


 白く輝く光球は、そのまま岩などないかのように真っ直ぐに進み、岩山には20メタの巨大な穴がぽっかりと空いた。しかも、その穴の周囲の岩は溶岩と化し、陽炎が岩肌を揺らめかせている。


「ど、どうなってんだよ……」


 兵士の呟きを背に、光球は空の彼方へと飛び去っていった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマや評価も大変ありがたいです。

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