第104話 超合金! アルマイガーG!
ユキトがこの世界に迷い込んだ際に、管理者から与えられた能力。それは、故郷で流布されている架空の話に出てくるイメージを、この世界の加護として付与できるという能力である。
管理者の想定する架空の話というのは、神話や英雄譚を意図したものだったのだが、その定義が曖昧であり、かつこの世界にはラノベやアニメ、漫画といった概念がなかったため、それらも架空の話として対象に含まれてしまった。そのような経緯が、目の前の巨大ロボットVS異形の怪獣という構図を誕生させていた。
+巨大機械兵の加護:異世界の巨大機械兵へと姿を変える力を得る。
その能力を受けて、人造生命のアルマには、そのままの名称の加護が付与されていた。彼女が変形した……というよりも、もはや変身の類だと思われるが、そのアルマロボは、ロボットもののアニメに出てくる戦闘用ロボそのものの姿をしている。僅かに青みがかった黒く光沢のある金属ボディに、いかつい顔パーツ、背中にも羽のような装備を備えている。元のアルマの面影はほぼ皆無だ。ユキト達に迫っていた触手も、突然出現した巨大なロボットに注意が移ったのか、その動きを止めていた。
あらゆる生物を吸収・同化し、魔力をも喰らってしまうというグリ・グラトに対しては、金属で構成され、魔力を使用しない物理攻撃を行う巨大ロボは、有効な攻撃手段になると思われる。
「おおぅ、これは紛うことなきロボット」
「……鋼の大巨人だね」
アウリティアとティターニアの感想の差異は、巨大ロボットモノのアニメを見たことがあるか否かに起因するものだろう。一応、ティターニアにも事前に説明はしてあったのだが、話に聞くのと、現物を見るのとでは違うようで、彼女は呆れた表情のまま、アルマを見上げていた。
一方、元グリ・グラトである怪物も、突如として森中に出現した、自身を超える背丈の存在を認識したようだ。高さではアルマロボが勝っているが、体積的には怪物の方が上だろう。それ故か、もしくは恐れるような感情を持っていないためか、怪物はその巨体をゆっくりとロボへ向かわせる。
「よし! 頼むぞ、アルマイガー」
「待て、ユキト。最後にGをつけろ」
「ん、アルマイガーG……悪くないな!」
「だろ?」
完全に中学生男子の会話で盛り上がるユキトとアウリティア。その2人をティターニアは若干冷めた目で眺めている。2人のロマンはエルフの女王には理解されないようだ。
「マスター、敵が近づいてきます。迎撃指示を」
のたりのたりと緩慢な動きだが、グリ・グラトがアルマに近づいてくるため、アルマはユキトに指示を請う。動きを止めていた触手も再びウネウネと伸び出して、ロボの足元に近づきつつある。
「よし、アルマイガーG! ロケットパンチだ!」
「マスター、ロケットパンチとは何でしょうか?」
ノリノリで叫んだユキトに、冷めた口調でアルマが尋ね返す。ロケットパンチと言われても、この世界の存在には知る由もないのだ。
「……えーと、手が飛ばせたりしないか?」
ユキトは、恐らくその機能はあるはずだと見当をつけ、アルマに確認してみる。ロボのデザイン的にも、ロケットパンチを撃つタイプのロボに見える。いや、これは確実にいけるはずだ。
「確認します…………それらしき機構を確認しました。ロケットパンチ実行します」
「だよな。巨大化した俺が光線を撃てるんだから、ロボがロケットパンチを撃てないはずがないよな」
巨大ロボットの搭載兵器として、ロケットパンチは基本である。アルマも例外ではないようで、ロケットパンチを撃つことは可能らしい。アルマは拳を握った腕を迫ってくる肉塊へと向ける。
「発射します」
シュバッ!
アルマがバスの運転手のような事務的な声を出すと同時に、アルマの腕の先が切り離され、ロケット噴射によって飛翔する。高速で飛ぶ鋼の剛拳が、轟音を響かせながらグリ・グラトに命中した。
ボガァッ!! ミチミチミチ……
かなりの勢いで肉塊に突っ込んだ金属の拳は、グリ・グラトに相当の衝撃を与えたようで、大きく後ろによろめかせた。さらには、その勢いによって肉の一部をも抉り取っている。
「流石に質量攻撃は効果があるみたいだ」
ロケットパンチの威力にティターニアが感心の声を上げる。その隣で、アウリティアも目を輝かせて眺めていた。目の前で巨大ロボが戦っていれば、男子は皆こうなるのかもしれない。
飛んで行ったロケットパンチは、弧を描くように上方へと方向転換し、一旦上空へ向かって飛ぶ。やがてアルマの真上に来ると、今度はロケットの噴射を弱め、ゆっくりと降りてくる。アルマは拳のない腕を天に向け、月面に着陸するかのように降りてきた自身の拳を迎え入れた。
ガシャン……
アルマは再装着した拳をワキワキと動かし、動作を確認している。
(そうか。前方への推進力しかないから、逆方向に飛んで再装着ってわけにはいかないのか……)
ユキトは、子供の頃には気にしていなかったロケットパンチの再装着の様子を見て、勝手に納得する。基本中の基本だと思って、ロケットパンチを指示したが、仮に再装着ができないタイプであれば、片方の拳を失っていたことになる。危ないところだった。
「ちょっとテンションが上がり過ぎていたか」
ユキトは少し冷静さを欠いていたかと反映する。そこにアウリティアから警戒の声が上がった。
「触手、近いぞ!」
アルマを警戒するようにゆっくりと伸びていたグリ・グラトの触手だったが、アルマがロケットパンチを再装着している隙に、彼女の足元にまで達していた。
だが、既に把握していたのか、アルマは冷静に片足を上げると、触手の先端を思い切り踏みつける。
ズズン……
やはり、かなりの質量である。小さな地響きが森に発生した。この世界では、質量保存の法則はどうなっているのか。
ブシュ!
踏み潰された触手からは、何やら怪しげな液体が撒き散らされている。薄緑色をしており、粘度もあるようで、間違っても触れたいものではない。さらに、触手がのたうつ動きによって、その液体が周囲の地面や樹木に飛び散っているが、触れたところからは薄く白煙が上がっている。
シュゥシュゥ……
「酸の類のようだな。ヤツの消化液だろう」
アウリティアがこちらに液体が飛んでこないように、魔法でバリアを貼りながら、意見を述べる。かなりの腐食力を持つ液体のようだ。
「以前に我々が攻撃した際には、鋼の剣も腐らされてしまったぞ」
そう述べるティターニアは、心配そうにアルマの脚部に目を向けた。鋼ですら腐らせる液体なのだから、金属製の脚部が腐食していないか心配なのだろう。なにしろ触手を踏みつぶしたのだから、かなりの量の液体がアルマの脚部には付着したはずである。
「多分、大丈夫だと思うがな」
ユキトの予想では、アルマイガーGのボディは良く分からない超合金でできているはずだった。なぜなら、それがお約束だからである。ユキトの加護は、こういうお約束にはかなり忠実なのだ。
「マスター、この程度の液体であれば、ほぼ影響はありません」
案の定、アルマからは問題なしとの報告がなされた。やはり、グリ・グラト戦にアルマを連れてきたのは大成功であったようだ。
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