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第103話 接触! 異形の怪物!

 

「は!?」


 アウリティアの発言に対して、ユキトは思わず声を上げる。無理もない。突然、異形の怪物が向かおうとしているのは、自身の治領であるサブシアであると宣告されたのだから。


「与えられている座標指示(ターゲッティング)は魔力によるものじゃないな。魔力は全て喰われるはずだ。どうやら、加護によく似た手法でサブシアの座標を与えているみたいだが……」


 アウリティアが説明を続けるが、ユキトとしては仕組みよりも目的が気になるところだ。


「なんでサブシアが目的地なんだ!?」


「それは俺には分からない……が、これまでの経緯を聞く限りでは、インウィデアが関わっている可能性は高いだろうな」


 ユキトは再び出てきた名前に苦い顔をする。まだ出会ったことすらないと思われる七極(セプテム)の1柱であるが、なぜそんな存在がユキトを目の敵にするのか分からない。誰かよく似た他人と間違えていたりするのだろうか。それとも『まろうど』が嫌いなのか。いずれにしても迷惑極まりない。


 インウィデアの名を聞いたティターニアも難しそうな顔をする。


「私がインウィデアを見たことは数度しかないけど、アイツは加護の取扱いに長けていた。座標指示(ターゲッティング)に魔法ではなく、加護に似た手法を用いているという点も、ヤツの仕業という説を補強するね」


 彼女は夫の言葉に自身の説明を追加して、さらにこう付け加える。


「古の大戦においても、複数の加護を与えられた者が、加護の暴走により、異形と化した例があったね。インウィデアが意図的に引き起こしたという話もある」


「ティアは大戦を経験したんだったな」


『大戦』。ユキトは王都の貴族学校で、その単語を聞いたことがある。なんでも1000年も昔に発生した国同士、種族同士、神同士が複雑に入り組んだ世界規模の戦争だったらしい。多くの命、記録、技術が失われたと伝わっている。


(紺スケってこの世界では600歳って言ってたっけか? 大戦って1000年前の話だった気がするから、少なくともティターニアは……)


「ん、何か失礼なことを考えていないかい?」


 ティターニアの横顔を眺めながら、彼女の年齢について考えていたユキトは、いきなりの指摘を受けて「うぉ、バレた!」と内心で慌てる。流石、女性は年齢ネタには鋭い。幸い、ティターニアからはそれ以上の追及はなく、彼女は怪物対策へと話を戻した。


「インウィデアの意図がなんであれ、あの肉の化け物は周囲を滅ぼしながら進むんだ。ここでどうにか処分する必要があるのは間違いないね」


 ティターニアの言葉にアウリティアが力強く頷き、ユキトの方に顔を向けた。


「もちろん、そのためにこいつらに来てもらったんだからな」


「目的地が俺の街となると、紺スケのためだけって話でもないしな。インウィデアとかいう七極(セプテム)の意図は不明だけど、まずはあの化け物を倒すことが先決ってことで」


「マスターの御指示通りに」


 こうして3人と1体は戦闘準備を整える。なお、ティターニアから「『紺スケ』とは何だい?」と尋ねられたユキトが正直に説明すると、女王様にたいそうウケたことを記しておく。


 *********************


 東の地平線付近が薄く朱鷺色に染まり始め、天頂はまだ瑠璃のような深い蒼を示している。ゆっくりと明るくなりつつある森の中には、不気味なシルエットが浮かび上がり、粘着質な音と低い脈動音が響いていた。


「まずは俺から」


 森の中に身を潜めていたアウリティアは、そう呟くと何やら詠唱を始めた。グリ・グラトがどうにか視認できる程度に離れた位置であり、百メタ以上は距離があるはずだ。


「還れ……軽粒子(レプトン)の塵へ、()せ……素粒子(クォーク)の灰へ……」


(おおっ、中二力高い詠唱だな!)


 アウリティアの詠唱の中二っぽさ全開の単語に、ユキトも思わずワクワクしてしまう。ユキトもこういうノリは嫌いではない。


「フェルミオンの名の元に……物質極崩陣(ディストルクティオ)!」


 極魔道士(アウリティア)の詠唱を受け、様々な色の光を放つ無数の粒子が、グリ・グラトの周囲に霧のように発生した。周囲の変化を受けて、グリ・グラトの無数の目がキョロキョロと動き、脈動が早まる。


 だが、グリ・グラトが動き始める前に、虚空から出現した粒子は一気にグリ・グラトに向かって収斂した。そして……


 カッ!!!!!


 真っ白な閃光が周囲を染め上げる。そのあまりの光量に、森が一瞬だけ白と黒のモノトーンと化した。


 ドォォォーーーーーン!!!


 光の後、すぐに轟音が響き渡る。もちろんグリ・グラトに収斂した粒子が爆発したのだ。


「魔力を込められないから威力は随分と落ちるが、物質の存在そのものを攻撃する魔法だ。少しは効いて欲しいところだが……」


「やったか!? ……なんて言ったら、無傷なのがお約束だろうけどな」


 爆発と言っても、炎を出すような魔法ではなかったようで、魔法攻撃を受けたグリ・グラトの姿は煙に包まれることもなく、容易に観察できた。魔法を受けた箇所は、大きく抉れており、そこから大量の赤黒い液体を吹き出している。


「流石にダメージが入ったようだな。我が夫ながら頼もしい限りだ」


「極魔道士って言うだけあるな」


 ティターニアとユキトは、アウリティアを持ちあげる言葉をかける。もちろん、2人ともこれで終わるとは考えていないが、戦いにおいては、テンションを上げていくことは重要であり、初撃の成果を皆で褒めるのは一種のテクニックである。もちろん、それで油断しては元も子もないが、歴戦の女王にはその心配もなさそうだ。だが……


「マスター。ターゲット、再生しているようです」


 冷静にターゲットを観察していたアルマがユキト達に報告する。どうやらアルマは視力においても普通の人間よりはるかに優れているらしい。彼女の目には、肉が抉れた部分が泡立つように膨れあがり、傷を埋め始めている光景が映っていた。


「ま、そうなるわな」


「ヤツの触手が一斉に周囲に伸び始めたようだ。攻撃を仕掛けた者を探しているんだろう。捕まらぬように気をつけな」


 ティターニアが注意を促す。遠距離からの魔法攻撃は、敵にこちらの位置を掴ませないという点で有利である。もちろん軌跡を残して撃ち出されるような魔法ではダメだが、今回の魔法はターゲットの周囲で発動するタイプだ。まだ、ユキト達の場所はバレていないはずである。


「だが、時間の問題だな」


 アウリティアの呟きを証明するかのように、無数の触手が森の木々の間を縫って、こちらに迫ってくるのが見えた。触手の1本1本はかなり太く、人間の腕くらいの直径だ。ユキト達が発見されたわけではないようで、その動きは手探りのような挙動ではあるが、中央の肉の柱から広がり、確実にこちらに近づいている。1分程度でこの場所にも到達するだろう。


「触手に目はついてないみたいだけど、近づくと発見されるんだろうな」


「地球でも視力がない生物は振動や匂いに敏感だったろ」


 ユキト達は触手から距離を取るべく、茂みをゆっくりと移動する。もちろん、触手の動きには細心の注意を払いつつだ。


「マスター。あの触手は樹木をも取り込んでいるようです」


 アルマが指差した方向では、触手の側面から菌糸のようなものが樹木に伸びていた。どうやら木々をも溶かして、同化してしまうようだ。


「ヤツは生物ならば何でも吸収してしまうぞ」


 ユキトの背後からティターニアが話しかけてくる。なんでも、森の獣や魔物、樹木から召喚獣に至るまで、グリ・グラトの肉や触手は生物ならば何でも喰らうらしい。


「ゴーレムはどうだ?」


 アウリティアが尋ねるが、ティターニアは首を横に振る。


「岩や土は吸収できんようだが、ゴーレムに流れる魔力を喰われてしまう」


 なるほど、魔力を奪われたゴーレムはただの土の塊である。逆に言えば、岩を投げつけて攻撃するなどは有効なのだろう。尤も、すぐに再生してしまう程度の傷しか与えられないだろうが。


「って、どうやら気づかれたっぽいぞ!」


 ユキトが注意を払っていた触手の動きが、探るような動きから、真っ直ぐこちらに向かってくる動きへと変化した。それに気づいたユキトが、慌てて皆に警告を発する。


「もう1発くらい魔法を撃ち込みだかったが……じゃあ、そろそろ本番と行くか」


 アウリティアがニヤリと笑いながら、威勢の良い言葉を吐いた。ここからが本当の戦いだ。


「よし、アルマ。頼む!」


「了解しました、マスター。 ……モードチェンジ!!!」


 その日、エルム山地に全長30メタほどの金属製の巨大ロボットが出現した。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

ブクマ、感想も有難い限りです。励みになります。


ここ数話のティターニアの口調を僅かに修正しました。

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