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第100話 駆け落ち? 2人と1体!

「すみません、お二人のお話は聞こえておりました。アウリティア様、長距離瞬間移動(ロングワープ)は、持ってゆく『モノ』にも制限がありますでしょうか?」


 ユキトの部屋の外から、アルマが尋ねた。どうやら、ユキトとアウリティアとの会話が聞こえていたようだ。


 アルマはユキトの部屋の前に控えていることが多いのだが、アウリティアの声が特別に大きかったということもない。すなわち、彼女の聴覚は人間のそれよりも随分と優秀のようである。流石はロボットというべきだろうか。


 一方で、アルマの言葉を聞いたアウリティアは、一瞬怪訝な表情を浮かべたがすぐに得心がいったようで、感心したように頷いた。


「なるほど、悪くない手だな」


「何が悪くないんだ? とにかく、アルマも入ってこい。扉の外と内で会話続けるわけにもいかないだろ」


 ユキトはアルマに入室の許可を出す。メイドロボというだけあって、勝手に入室はできない仕様だ。いや、その気になればできるのかも知れない。この世界でロボット三原則が守られているのかは怪しい。


「失礼致します」


 ガチャ


 扉を開けたアルマはそのままユキトの部屋へと入ってきた。床板を軋ませることもなく、ストストと静かな足取りは、とてもロボットやらゴーレムの類であるとは思えない。


「えーと、アルマ。さっきの質問だけど」


 部屋の中ほどまで進んで立ち止まったアルマに、アウリティアが先ほどの続きとばかりに話しかけた。


「はい」


 話しかけられたアルマはアウリティアに向き直る。相変わらずの無表情である。そんなアルマに対して、アウリティアは確認するかのように問いかける。


「つまり、キミもユキトに同行することは可能かという意味の質問だね」


「はい。私は人間としてはカウントされないのではないかと思いました。マスターが危険な場所へ赴かれるのであれば、同行したいと考えます」


 確かにアルマは、人工生命である。モノと言ってしまって良いのかは疑問であるが、長距離瞬間移動(ロングワープ)の制限である同行者1名にカウントされない可能性がある。流石に瞬間移動をすると全裸になるということはないだろう。服などが一緒に転移するのだろうから、モノとして扱われるのであれば、アルマも連れていけることになる。


「ふむ……結論から言えば、アルマを連れていくことは問題ないな」


 アウリティアはそう明言した。


「実際、この術を開発した際にゴーレムを同行させたことがあるんだが、人工生命は純粋な生命とは生命場のあり方が違って、魔力の折り畳みパターンが簡易的だから、その圧縮転移に必要となるのは物体としての体積や質量分の……」


「待て待て。もっと簡潔に頼む」


 アウリティアの解説が専門的になってきたので、慌ててユキトが話の腰を叩き折る。


(そう言えば、紺スケは専門的な話になると暴走することがあったな)


 かつて、紺スケと飲んだエピソードを思い出し、ユキトは苦笑する。好きな分野の話をしているとテンションが上がって、相手の理解度を無視してしまうという失敗は、多くの若者が通ってきた道だろうが、紺スケにもそういうところがあった。


「おっと……話が難しくなっていたか。悪い悪い」


 ユキトに咎められ、アウリティアは軽く頭を下げる。


「とにかくアルマを追加することは、問題ない。今回は大きな荷物を持って転移するつもりはないから、アルマ分くらいの余裕はある。馬車はサジンとウヒトに陸路で戻してもらうつもりだしな」


 どうやら、同行者以外の「モノ」については、別途体積や質量に上限があるようだが、今回はアルマも瞬間移動に含める余裕があるらしい。


「では、私も同行させて頂けますか?」


 アルマはユキトの方に向きなおり、同行を願い出た。その感情が読みとりにくい表情は、窓から差し込んだ夕日でオレンジ色に染まっている。


「でも、アルマを連れて行っても……」


 そこまで発言してから、ユキトは考える。


(ロボットか……俺が加護を付与(エンチャント)できそうだな)


 故郷(にほん)には、ロボットに関連する設定なら、加護に応用できそうなものがたくさんある。ロボットに関する加護をアルマに付与(エンチャント)すれば、彼女も戦力として期待できそうだな、とユキトは考え直した。とはいえ、連れて行って、やっぱり付与(エンチャント)できませんでしたとなっても困る。


「行く前に試しておくか……」


 久々に、ユキトは加護を付与(エンチャント)する能力を発動したのだった。



 *******************



 アルマに加護が付与(エンチャント)できることを確認した2人は、早速パーティのメンバーに事情を説明することにする。急いでいると言っても、何も言わずにいなくなるわけにはいかない。


「サガサナイデクダサイ、とか書き残すか」


「それじゃ駆け落ちしたみたいじゃねーか」


 アウリティアと軽口を叩きながら、メンバーに「1階に集合」と声をかけて回る。ユキトなりにアウリティアの焦りを緩和しようとしているのだろう。


 時間的にはちょうど夕食前で、姿を見せないイーラ以外のメンバーは宿の部屋に戻っていたため、メンバーの集合もスムーズに完了した。イーラには誰かから伝えてもらえば十分だろうし、姿が見えないだけで聞いている可能性もある。


 宿の1階スペースに皆を集めたユキトは開口一番、宣言する。


「急な話で悪いが、俺とアウリティアと2人でエルフの里へ行くことにした」


 ユキトがそう述べると、何故かファウナが錯乱した。早速、何か誤解したようだ。


「な!? ま、まだそういうのは早かろうもん!? もっと時間をかけて相手を知った上で……」


「……? ファウナは何を言ってるんだ?」


 ユキトがストレィに尋ねると、彼女は笑いをこらえながら、首を横に振る。


「何か勘違いでもしてるんじゃないかしらぁ……でも、エルフの里に飛ぶってのはどういうことぉ? ファウナのためにも説明して欲しいわぁ」


「ああ、もちろん説明はするよ。実は――



 駆け落ちではないとファウナが納得するのには、十分な説明を要したのであった。


ここまで読んで頂きありがとうございます。ブクマなどもありがとうございます。


少し書き貯めをしました。今週は何度か更新予定です。

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