第99話 瞬間移動!同行者は誰?
「俺もエルフの里に?」
ユキトはアウリティアの発した言葉をそのまま口に出す。部屋の窓からは夕日が差し込み、床板を紅く染め上げていた。
「ああ、頼めないか?」
アウリティアは深く頷きながら、そう聞き返す。いつになく真剣な表情だ。
アスファール王国への口利きやサンタ役など、ユキトとしてもアウリティアには随分と世話になっている。それを抜きにしても、元の世界からの貴重な友人だ。その友人の祖国が危機となれば、それを救うのに手を貸すことも吝かではない。だが、その前に2点ほど確認しておくべきことがあった。
「もちろん行くことはできるが、俺だけなのか? ファウナやフローラも戦力としては期待できるぞ」
何しろ、元の世界における星をも破壊するような戦闘漫画のイメージやら一兆度の火球を吐くような怪獣のイメージやらが投影されている2人である。戦力としては申し分ないと思われた。
だが、アウリティアは首を軽く横に振る。
「もちろん戦力としての不安はないが、同行は難しい。今は何よりも急ぐ必要がある。エルム山地のエルフの里へは長距離瞬間移動で移動するつもりだ」
長距離瞬間移動。恐らく、その名の通りの移動手段であることは、ユキトにも想像が付く。七極であるアウリティアならば、そのような術を使えても不思議ではない。
「でも、その術には人数制限があるってことか……」
アウリティアの説明を受けたユキトはそう呟いた。人数制限がないのであれば、全員で向かえば良いだけだ。だが、アウリティアが同行者としてユキトを指名するということは、瞬間移動できる人数に制限があるということだろう。さらに、ここまでの説明を受けて、ユキトにはもう一つ疑念が浮かんでいた。
「その術、何か代償かリスクが必要なんじゃないか?」
ユキトの問いを受けて、アウリティアの眉間に皺がよる。
「代償…? 何の話だか?」
どうやら、アウリティアは一旦とぼけることにしたようだ。その証拠に、その視線は斜め上を向いている。分かりやすい反応だ。
「そんな便利な術があるのなら、わざわざお前は馬車でサブシアまで来る必要はなかったはずだろ?」
ユキトは当然の疑問を投げかける。そう、遠距離の瞬間移動が使い放題であれば、大手の面倒臭がり屋であるアウリティアが、馬車などを使って移動するはずもないのだ。
だが、アウリティアは、ユキトの追求は想定内とでもいうような表情で言葉を返す。
「1度行ったことがある場所にしか行けないという制限があってな。仕方なく馬車を使ったんだ」
「それは、ありそうな制限だな」
RPGでもおなじみの設定だな……とユキトは心の中で呟いた。だが、アウリティアの答えは、不十分だ。
「でも、前に聞いたけど、アウリティアがアスファールの王都に来たのは初めてじゃないんだろ? それに世界中を回っていたと言ってたし、サブシアの近辺にも来たことはあるんじゃないか?」
アウリティア自身が言っていたことだが、彼はかつてアスファールの王都に訪れたことがあるはずだ。であれば、まずは王都まで瞬間移動し、そこからユキトのいるサブシアへ向かえば良いのだ。長距離瞬間移動の人数制限のせいで、同行できる従者は1人になるかも知れないが、距離も時間も断然に節約できるのだから、お釣りがくるというものだ。だが、それをしていないのだから、何らかの制限があると見るべきだ。少なくともユキトはそう考えた。
「……むぅ、なかなか鋭いな」
「便利すぎる能力が濫用されていない時点で想像がつくってもんだ」
あっさりと降参したアウリティアに、ユキトは意識的に軽い口調で返す。
「御想像の通り、長距離瞬間移動は寿命が縮む術だ。エルフの寿命は長いから少しくらい減っても大丈夫なんだがな」
観念したアウリティアは、長距離瞬間移動のリスクについて説明する。なるほど、寿命が代償となるとむやみに使えるものではなさそうだ。
「同行者1名までで、代償が寿命……なるほど使い勝手が良いとは言えないな」
ユキトの感想は至極当然のものだ。だが、今回はそれを使おうというくらいには、アウリティアも切羽詰まっているらしい。
「それに、最初に代償について言わなかったということは、同行者がいるとその分の代償が増えるってことだな?」
ユキトはアウリティアに確認する。恐らくは、ユキトを連れていくことで払う代償が増えることをユキトが気にすると考えて伏せたのだろう。
「まぁ、そういうことだ。流石に代償が2倍にはならないが、1.5倍程度か。今回は少しくらい寿命が減っても、お前を連れていく方が良いと判断したまでだ」
アウリティアはあっさりと白状した。ユキトとしても、自分を連れていくことで寿命の減りが大きくなるという点が気にならないと言えば嘘になる。だが、アウリティアがそこまで覚悟を決めているのであれば、気にしても仕方ないと判断した。
「了解した。だが、本当にお前だけじゃ無理なのか?」
アウリティアも七極の一として、相当な実力があるはずだ。そのアウリティアが1人では危険と判断したということは、かなりヤバイ話かもしれない。
「ああ、里からの通信では、化け物はグリ・グラト……七極の1人が暴走した成れの果ての姿かもしれないとのことだ」
「グリ・グラト……でかいカステラでも焼きそうな名前だな」
深刻な空気に耐えかねるかのようにユキトは軽いボケを飛ばす。2匹のねずみが大きな卵でカステラを作る絵本のことだ。そんなユキトの言葉にアウリティアは軽く肩をすくめる。
「カステラ程度なら問題なかったんだがな。グリ・グラトは様々な魔物を喰らってきた男だ。そしてその力を体内に貯蔵してきた。それが一気に解放されているとなると、とてつもないエネルギーだろう」
どうやら、グリ・グラトはパワー貯蔵型の七極らしい。それが一気にエネルギーを開放しているとなると、同じ七極のアウリティアであっても手に余るのだろう。
「状況は理解した。いつ出発する?」
アウリティアの様子からしても、どうやら猶予はなさそうだ。そもそも猶予があるならば、寿命が削れる術を使おうとはしないはずだ。
「すぐに出たいが、皆にも説明がいるだろう」
説明もなく瞬間移動するわけにもいくまいと、アウリティアがそう告げたとき、ユキトの部屋の扉がノックされた。
「マスター、アルマです」
ノックの主はストレィ作のメイドロボのようだ。部屋の掃除にでも来たのだろうか。
「ん? どうした? こっちは重要な会議中だ」
ユキトはアルマに向かって取り込み中であることを伝えた。だが、扉の向こうから返ってきた答えは意外なものだった。
「すみません、お二人のお話は聞こえておりました。アウリティア様、長距離瞬間移動は、持っていく『モノ』にも制限がありますでしょうか?」
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年度末の繁忙期を乗り越えられたので、4月は更新頻度を増やしたいところです。