第10話 強すぎ!異世界の加護!
8/27 文字数調整のためにいくつかの話を分割したので、話数がずれました。(ストーリーには影響ありません)
ユキトとファウナが冒険者ギルドを出るところまでは何事も起きなかった。だが、冒険者ギルドを出た直後、ユキトがホッとしながら、食事の相談のためにファウナに話しかけようとしたとき、2人は背後からの大声に呼び止められた。
「おい! そこの嬢ちゃんと坊主!」
「私のこと?」
ファウナが険しい顔で振り向く。ユキトも慌ててその声の主を見る。声をかけてきたのは、いかにも冒険者然としたひげをたくわえた男だった。いや、その左右にも柄の悪そうな男が2名いる。先ほど冒険者ギルドの出口付近にいた3人組の男達だ。
「さっき坊主が初登録してたみてぇだから、俺たちが先輩として冒険する上で色々と教えてやろうと思ってな。格安にしとくぜ?」
(うわぁ、いかにもなセリフだ)
異世界生活の短いユキトであっても、善意から出たセリフでないことは男達の表情をみれば一目瞭然であった。男の顔にはニヤニヤした下卑た表情がはりついている。
「必要ないわ。お断り」
ファウナがはっきりと拒絶の意志を示す。
「おいおい、断るこたぁねぇだろう。これでも戦闘力ならCランク程度はあるんだぜ? まずは剣の使い方から教えてやろうか? あん?」
ひげ面の右にいた細身の男が腰にさした剣の柄を叩きながらファウナに脅しをかける。ユキトとしては、街中で剣なんて抜いても大丈夫なのだろうかと心配になるが、それよりも今はこの場をどう潜り抜けるかが重要だ。
ユキトは変身できるとは言え、ファウナは生身だ。殺されることはないと思うが、相手の柄が悪いこととファウナがそれなりに美女であることを考えるとあまり良くない結末が想像できる。
「行くわよ」
ファウナも3人を相手にするのは面倒と思ったのか、ユキトの手を取り、その場を離れようとする。
「「待てや!」」
だが、当然ながら男達もユキト達を黙って行かせるつもりはないようで、ユキト達の後を追いかけてきた。
ファウナとユキトはそのまま走りだし、ギルドのすぐ横の狭い路地に飛び込む。路地は網目状に走っており、何度か曲がれば撒くのも簡単だろうという判断である。だが、この判断は失敗だった。
「!!」
すぐにファウナが足をとめ、すぐ後ろを走っていたユキトがその背にぶつかる。慌てて前方を確認すると、革鎧をまとった大柄の男が路地に立ちふさがっていた。雰囲気からしてヤツらの仲間なのは間違いない。
恐らくはユキト達がこの路地に逃げ込むことを予想していたのだ。ギルド内でユキト達に目をつけた時点で1名が先に路地に回っていたのだろう。逃げ道を断つ周到さは、こいつらが常習犯ということを示している。
「路地に入れば撒けると思ったか?」
行く手を塞いでいる大柄の男が下卑た笑みを浮かべながら声をかけてくる。
「確かにあの場所から逃げる時はこの路地に入る確率は高いわね……」
動きを読まれた事に対し、ファウナは悔しそうにつぶやく。だが、ファウナは再び走り出すと一気に加速して男に向かっていく。先に殴り倒すつもりのようだ。思い切りが良いなとユキトは感心しながら後に続く。
「うおっと!」
大柄の男は両手でガードを固めてファウナの最初の一撃を籠手で防ぐと、片手でガードを続けながら、腰のショートソードを抜き放った。そのままショートソードを振りまわし、無手のファウナを牽制する。
少なくともこの男は、そのままファウナに殴り倒されるほど弱くはないようだ。
ここで時間さえあれば、ファウナが勝ったのかもしれない。だが、この男は2人を少しの間だけ足止めさえすれば良い役目なのだ。すぐにユキト達の背後から足音が聞こえてきた。
「自分から人気のないところに逃げ込んでくれたなぁ」
追いついてきた3人の男が背後から声をかけてくる。正面の男を含めると相手は4人。これは絶対絶命のピンチだ。ファウナがユキトに目で合図を送る。変身しろということだろう。
(俺が変身しても1人を相手にするのがやっとだろうな……)
ユキトとしては、自身が変身しても戦えるとは思えない。どうにか1人くらいは変身後の防御力頼みで引きつけておけると思うが、そうするとファウナは3対1となる。ファウナがどの程度強いのかは分からないが、戦闘力はCランクと自称していたヤツら3名を相手にするとなると勝ち目は薄いのではないだろうか。
(ファウナにも何か加護を付与するか……俺の能力がバレるだろうけど、背に腹はかえられないわな)
ファウナが仮に『まろうど』であるユキトを利用しようと企んでいたとすれば、ここでユキトの能力のことをバラしてしまうのは悪手である。
だが、ユキトにはここでファウナを見捨てるという選択肢はなかった。もちろん、この男達とファウナがグルという可能性だってなくはない。その辺りを全て天秤にかけた上で、ユキトはファウナを信じることに決めた。
決めたとなると、時間的余裕はない。すぐに能力の対象をファウナと定め、加護の付与を実行する。
(えーと、ファウナは格闘家だから……えーと格闘モノの加護っていけるのか?)
ユキトは元の世界の様々な格闘系の漫画やアニメを片っ端から思い浮かべる。非常に有名な龍の玉が出てくる作品を代表として、ユキトの国には多くの格闘キャラが登場する漫画やアニメが存在している。
ユキトが色々な格闘系の作品を思い出していると、モチーフの参照が通ったらしく、ファウナに何らかの力が注ぎ込まれたのが感覚的に分かる。そのままファウナに意識を向けると、自身が付与した加護の詳細が頭の中に浮かび上がった。
『武術の加護:異世界の武術家の力を得ることができる』
一方のファウナも自身に急激に流れ込んできた力の奔流に驚いていた。慌ててユキトの方を見ると、ユキトが静かに頷く。どうやらユキトが何かをしたようだ。流れ込んできたものが悪いものではないことは、ファウナの全身にみなぎる力からも分かった。詳細は後で問い詰めねばならないだろうが、まずは目の前の男達を退けるには大いに役立つはずだ。
実際、ファウナの戦闘能力はCランクの上位相当である。男達が本当にCランク相当の実力があるとすれば、ファウナが1人で勝つのは難しい。ユキトの強さは未知数だが、討伐系のクエストを避けていたことを考えれば、さほど期待しない方が良いのだろう。そう判断したファウナは男達に向かって拳を構える。
(さて、どこまでやれるか)
ファウナが構えると同時に、追いついた3人のうち1人がファウナに掴みかかってきた。ファウナは男の手を簡単に捌くと、そのまま懐に飛び込み、男の腹に拳を打ち込んだ。ファウナとしては、多少の手加減を入れた一撃だった。だが……男は見事に空を飛んだ。飛んで行った。
ディオネイアでの格闘家とは、素手やそれに準ずる状態での戦闘に特化した者を指す。伝説の中では、素手で岩を砕き、魔熊をも倒した存在が語られている。
一方、ユキトの世界の漫画やアニメに登場する格闘家や武術家は、素手で岩を割るのは当たり前で、強者ともなると空を自在に飛び、生体エネルギーから生成した光弾を撃ち、終いには星を壊したりするのだ。あろうことか、ユキトはこういったイメージから加護を生成したのである。
ファウナに掴みかかろうとした不運な男は、要所が鉄板で補強された革鎧を着ており、ファウナの拳程度では、自身にダメージはほぼ通らないと考えていた。もちろん腹部にもしっかりと鉄板が仕込まれていたゆえの考えである。
だが、ファウナの一撃は鉄板をへし曲げ、男を斜め30度に打ち上げた。ファウナが腹に仕込まれていた鉄板のことを知らずに、少し手加減したのは男にとって幸いだったといえよう。身体をくの字に曲げたまま空を飛んだ男は、低空飛行で路地を飛び出し、やがて高度を下げて地面に接触すると、そのまま表通りを半ばまで転がって停止した。
「あ……」
ユキトが間抜けな声を上げる。この場合の法律的な解釈がどうなるのかは知らないが、助けるつもりの加護のせいでファウナが殺人犯などになっては目も当てられない。
幸い、通りの真ん中に転がっている男は、うめきながら腕を動かしているようなので死んではいないようだ。尤も、手や足が変な方向に曲がっているような気もするが。
「な、なんなんこれ!?」
ファウナも混乱しているようで、軽く方言が出ている。軽く殴りつけたら男が飛んでいったのだから、慌てるのも無理はない。
「「て、てめぇ!!」」
仲間をふっ飛ばされて、激昂した男達が一斉に剣を抜く。男を空に舞わせた当のファウナも、すぐに気持ちを切り替えて残りの男達に視線を走らせた。男達としては、ファウナの強さを目の当たりにして、集団で仕留めようとしたのだろう。ファウナを狙って一斉に飛びかかる。
だが、ファウナは一瞬で男達の剣を回避した。男達の誰もがファウナの動きを捉えきれていない。
その直後、連続で2名の男が路地から通りに向かって射出され、先ほどと同様に通りの真ん中まで転がって停止するという怪奇現象が発生した。もう1人は通りとは逆方向となる路地の奥に30メートルほど進んだ位置まで転がっていった。
いずれも命は落としていないが、軽傷とは言い難い様子だ。そんな現象を引き起こしたファウナがユキトの方に向き直る。
「ユキト……まずは礼を言うね。助かったわ。 で、それとは別に説明をしてもらいたいんだけど」
男達を射出したファウナがユキトに詰め寄る。顔は笑顔だが、目が笑っていない。
結局ユキトは変身することないまま、事態は解決した。解決はしたが、解決の功労者たるファウナが怖い顔をしているので、正直に説明することにする。
「ええと、ファウナに加護を付与してみた」
「……加護を?」
「ああ」
「ユキトは加護を付与できるの?」
「そうだ」
「さっきの私の力は加護のおかげ?」
「ああ、ファウナには『武術の加護』が付与された」
「ユキトのあの甲冑の加護は?」
「あれも俺が自分に付与した加護だ」
「……そう。確かにむやみに人に伝えるべき力ではないけど……それにしても」
「うん、俺もここまでとは思わなかった」
通りと路地の奥に転がってうめいている4人を交互に見ながら、ユキトは肩をすくめるのだった。
閲覧ありがとうございます。
気をエネルギー弾にして敵を攻撃する描写はDBが最初なんでしょうかね。初出が何の漫画なのか気になります。武術の技として、遠当があるので、考え方自体は古来よりあるのだと思うのですが。
8/27 文字数調整のためにいくつかの話を分割したので、話数がずれました。(ストーリーには影響ありません)