第1話 出会い!エルフと宇宙警察!
閲覧、ありがとうございます。たくさんの異世界モノ小説を読んで楽しませてもらっているうちに、自分でも書いて皆様に楽しんでもらえたらと思うようになりました。どうぞ、宜しくお願いします。
その日、私は宇宙警察を名乗る異世界の変態に出会った―― (あるエルフの回想)
「こんなところで夜になっちゃうなんて……」
その旅人が口に出した通り、太陽は既に半分ばかり地平線に隠れており、辺りにはゆっくりと暗闇が滲み出していた。
街道を行く旅人の名はファウナ。
先月に旅立ったばかりのE級冒険者の女性であり、格闘家でもある。
夕刻の風に揺らめくのは彼女の金色のショートの髪。その金髪の間からエルフ族の特徴である先の尖った耳がのぞいている。エルフ特有の切れ長の目は、沈みゆく太陽に視線を送っていた。
(予定では街に着いていたはずだったのに……)
彼女の当初の予定では、この時刻には、平原を抜けて街に到着していたはずであった。遅延の原因は、途中の川にかかっていた橋が壊れており、大幅な迂回を余儀なくされたためだ。何が棲んでいるかも分からない川を、泳いで渡るのは流石にためらわれた。
(危険を承知で夜通し歩くか、もしくはこの辺りで休息をとるか……ね)
この世界では、野生動物の他に魔物が生息している。特に夜間は、魔物の活動が活発になる時間帯だ。
だが、この平原においては、出現する魔物といってもカゲビトが1体のみというケースがほとんどだ。群れていても、せいぜい3体程度である。
カゲビト。
身長1メートル程度の魔物で、子どものシルエットのような真っ黒な姿をしており、その手には武器として石や棍棒を持っている。
カゲという名なだけあって身体は厚みがほとんどなく、薄っぺらな存在だ。顔の部分に赤く光る2つの目を持つ。見た目だけで言えば、かなり不気味な存在と言えよう。
だが、ディオネイアに生息する魔物の中でも、戦闘能力を全く持たない一部の魔物を除けば、カゲビトの強さは最弱とされている。ひいてはこの平原も危険性が低いことで知られていた。
武器を持った普通の冒険者であれば、カゲビト相手にまず不覚は取らない。
ただし、それは眠っているところに棍棒を振り下ろされるようなことがなければの話だ。
ファウナは一人なので、見張りを立てて野営というわけにもいかない。考えられる方法は、背の高い樹木を見つけ、自身が登った上で下枝を切り払い、カゲビトが登れないようにしてから、樹上で身を固定して眠るくらいだろうか。カゲビトは背丈も低く、高いところに登るのを苦手としているのだ。
もちろん、このように樹上で夜をやり過ごす方法が使えるのは、木に登れない魔物のみが生息する地域に限られるわけだが。
「でも、どの木も登るには低いのよね」
地平線の向こう側に姿を隠した太陽であったが、空にはまだわずかばかりの明るさが残っており、平原の木々のシルエットを浮かび上がらせている。だが、どれも樹上で眠るには低すぎる木ばかりだ。
身長が1メートル程度のカゲビトとはいえ、流石に2メートル程度の樹上では、ファウナが安全に眠ることは叶わないだろう。
(本来なら夜に旅を続けるなんて自殺行為なんだけど、この辺りはカゲビトしか出没しないし、問題ないかな)
安全に眠れないのであれば、少し危険ではあるが進むしかない。月も出ているし、4時間もあれば街に着く。油断は禁物だが、夜風は心地よいし、ちょっと長めの散歩という気持ちで進むのも悪くないだろう。
だが、彼女が月明かりだけの平原を街まで歩こうと決心したとき、どこからか人の声が聞こえた。悲鳴のような叫び声である。
誰かがカゲビトに襲われているのだろうか。あの最弱のカゲビトに。
ファウナは助けに向かうべきか迷う。
「師匠はあんなことを言ってたけど……。助けないわけにはいかないわよね」
ファウナを育ててくれた養父の名はバイオム。彼は、格闘術の達人でもあり、近辺でも名の知れた道場を構えている。
彼は、戦争で親を亡くしたり、親とはぐれたりした孤児を引き取り、道場に住まわせ、さらには冒険者として独り立ちできるように、弟子として鍛え上げるという、この世界でも珍しい程の人格者として知られていた。
もちろん、引き取れる孤児の人数には、経済的に可能な範囲という制限はあったが、多くの孤児が彼に救われてきたのだ。
ファウナも例に漏れず、親とはぐれていたところをバイオムに引き取られた一人だ。
裏の市場ではエルフの子どもは高値で取引される。バイオムに引き取られていなければ、彼女には絵に描いたような不幸が待っていたことだろう。その点ではファウナは幸運であった。
ただし、まだ小さかったため、養父と巡り合った際の記憶は彼女には残っていない。そんな小さな頃合いから格闘術を習ってきたファウナは、ここ数年でぐんぐんと腕を上げていた。
彼女の腕前ならば、そのまま道場に残って指南役を務めるという道もあったが、やはり孤児であった兄弟子にその立場を譲り、冒険者として道場を出ることにしたのだ。
ファウナが道場から旅立つときに師匠はこう言った。
「教えた技を他人の命を守るために使うなとは言わん。だが、まずは自分の身の安全を優先しろ。確実に自分が勝てる相手のみと戦え。それ以外は逃げることを考えろ」
魔物は強い。今のファウナの技量ではC級上位の魔物と1対1でやり合うのが限度だ。
だが、カゲビト3体程度が相手ならば確実に勝てる。そう考えた彼女は、声が聞こえたと思しき方向に向かった。
――ファウナが声が聞こえてきた方向へと、茂みをかきわけつつ、低い丘を登ると、暗闇の中にぼんやりと揺らめく明りが目に入った。誰かが火を焚いているらしい。
この暗闇で火を焚けば、カゲビトはともかく盗賊の危険は増える。それを承知で火を焚いているならば、盗賊を恐れない程度の冒険者だということになる。そんな実力者がカゲビト相手に悲鳴を上げるとは思えない。相手は盗賊の可能性もある。
火は静かに揺らめいていて、もう声は聞こえてこない。
カゲビトを撃退したのか、それとも……確かめるために彼女はゆっくりと火に近づいていく。
焚き火の周囲が目視できる距離まで近づいた時、ファウナの全身に緊張が走った。白銀の甲冑を着た異様な存在が焚き火のそばに座っているのが目に入ったのだ。
ファウナの位置からは後ろ姿しか見えないが、頭まで覆われた俗に言うフルプレートアーマーだ。しかも、右手には剣らしきものを握っている。
冒険者としては言うに及ばず、盗賊としても異様な武装だ。こんなところに重装備の騎士が1人でいるとは考えにくいが、何か公務の途中で野宿中だろうか。
いや、リビングアーマーの類ということもあり得る。後ろ姿ではあるが、甲冑はどことなく特殊なデザインで、この近辺では見かけない形だ。だが、ファウナがもっと観察しようと前に乗り出したとき、足元の小枝が折れて、ポキリと音を立ててしまった。
(しまった!)
フルプレートの白銀甲冑は、その音に反応して、慌てて立ちあがった。
それを見た彼女は、逃げるのではなく、白銀甲冑との距離を詰めるべく、潜んでいた草むらから飛び出し、拳を構えながら一気に走り寄る。とっさの判断ではあったが、先手必勝だ。
だが、白銀甲冑は彼女を制止しようと、広げた左手を彼女に向けつつ、焦った声をあげた。
「ま、待て!」
人語を操るところをみると、どうやらリビングアーマーではないらしい。ならば、とファウナは白銀甲冑に問う。
「何者か!」
「お、俺は怪しい者じゃない!! こ、これは宇宙警察のメタルスーツで……」
と、ここで白銀甲冑が自身について説明を始めた。
しかし、ファウナがその姿をよくよく見てみると、装着している白銀甲冑は上半身と頭部のみだ。では下半身はというと、男性向けとおぼしき下着のみをまとった姿である。
つまり、上半身はプレートアーマー、下半身はまさかのパンツ一丁。
おまけに手には剣を持ち、その先には血がついている様子だ。
そんな存在が自分は怪しいものではないと自称している。
「めっちゃ怪しかけんね!?」
心からの叫びとともに思わず繰り出した彼女のローキックが、この変態甲冑のむき出しの太ももにクリーンヒットしたのは仕方のないことだった。
これがファウナと異世界人ユキトとの最初の出会いであった。
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先にストーリー構成と章立てなどは済ませてあるので、執筆中に大きなストーリー変更はしないつもりですが、簡単な修正は適宜入れていくつもりです。どうぞ、宜しくお願いします。
8/23 前書きと後書きを修正
8/26 本文の一部に対して簡単な修正(ストーリーに影響なし)
8/27 文字数の調整のため、1~2話を3つに分割(ストーリーに影響なし)
8/31 文章で無駄な部分などを手直し