第8話『成長する能力と頼りないオジサン』
中学の夏休みも終わり、学校が始った。
なに?水着回とか期待していたわけ?
もちろん海外の海で遊んできたわ。芽愛も疾斗も一緒にね。
私の際どい水着に二人共釘付け。
豚?あいつは一日足りとも休まず、自分改造に励む以外の選択肢はないわ。
彼については、一応何回か様子を見に行ったけど、豚は豚なりに頑張っているようね。
心配しなくて大丈夫よ。
なに?豚に興味は無い?
そんな事を言っていられるのも今のうちね。
豚との戦いが終わってから、暇な時は芽愛と出かけて能力者探しをしていたわ。
今私が一番危惧しているのは、能力者同士、それも多人数での戦いに発展した場合ね。
こうなると私一人が強くても駄目だし、仲間のバランスも重要になってくるわ。
まだ私達は寄せ集めの状態だしね。早急に連携も含めた、総合的な戦力アップを図らないといけないわね。
それともう一つ心配事があるの。
それは、この能力というものが、どこまで知れ渡っているかってことね。
ネットを漁っても情報は出て来ない。
でも、私達が能力者として目覚めた第一人者とも思えないのよね。
最悪のケースとして考えているのは、国単位で把握していて隠蔽工作が行われている場合。
これは最悪だわ。敵は国、もしかしたら世界という途方もない相手になるもの。
当然私一人の力ではどうしようもなくなる。
そう言った意味でも仲間は重要よ。
え?国や世界と戦うのかって?
当たり前じゃない。私を誰だと思っているの?
皇帝は世界で一番なんだから。
でも、もしも戦う場合は、最低でも能力者としての人権は確保するつもりよ。
だってそうでしょ。
隠蔽しているということは、国や世界規模での能力者の立ち位置は抹殺対象だということになるわよね。
つまり世界のバランサーだと認識している事になるわ。
まぁ、その意見には賛成だけどね。
例えば私が外国に出向いて、大統領や首相演説中に能力発動。そして殺害したとする。
どう?こんなこと簡単に出来てしまうのよ?
あっという間に世界は混沌と化すわね。
つまり、軍事力も資金力も資源も技術も科学も全て関係のない、強い能力者が居るかどうかで世界のバランスが動いてしまう事になるわ。
地球に取って運が良かったのは、孤独な皇帝を持ったのが私だってこと。
だって私は混沌の世界が恐ろしいと思っているもの。
望んではいないわ。
これは恐らく日本や世界にとっても望んでいないはず。
だからこそ私達の人権も主張出来る。
だって考えてごらんなさい?
そういった野心を持った能力者を倒せるのは誰になるかしら?
勿論、私達能力者でしょ。
だから私は協力者確保に焦っているわ。
この国を舐めてはいけない。平和ボケした国だと思ったら大間違いだわ。
時時雨財閥の一人娘として得た情報を軽々しくあなた達下民共に言うことはないけれど、これだけは言っておくわ。
いつでも世界の覇権を握れる状況だとね。
とにかく。
先ずは自軍を強化すること。
他の能力者グループが居ると仮定し、そいつらよりも先に主導権を握る必要があるわ。
何の主導権かって?もちろん能力者としてのよ。
出来れば日本で一番の組織になるのが理想ね。
トップグループに入っていれば、後は何とかなるわ。
どうしてかって?まったく質問ばかりね。少しは考えなさい。
だってそうでしょう。私は日本どころか世界をリードする時時雨財閥の一人娘よ。
私の背後には財閥がある。能力の有無に関わらずね。
そうなると私を無碍に出来ないわね。
それに、パパは私に利用価値があると判断している。
利用価値がある限り、私を見放すこともないでしょう。
寂しい親子関係だって?
本当に馬鹿ばっかり。世の中そんなもんよ。
芽愛による能力者探しは大変だったわ。
実は意外といるのよ、能力者が。
とは言っても、その力は微々たる者がほとんどね。
後は役に立ちそうにない能力とか。
例えば少しだけ空を飛べる能力。これは流石に惹かれたわね。
だけどよく考えてみなさい。飛べるだけじゃ駄目なのよ。
銃をぶっ放す訳にはいかないんだから。
飛んで尚且つ、それに見合った攻撃手段があって初めて脅威となるの。
しかも発動条件が最悪。目を瞑ることだって。
目をつぶって空を飛べたからと言って、いったい何が出来るというの?
まぁ、そいつは能力に目覚めることもなく死んでいくと思うわ。
目をつぶって自分は空を飛べるって願うって、相当逝ってると思わない?
だったら知らないまま往生すると良いわ。
微妙な能力としては、絶対音感系や、見た映像を忘れないという瞬間記憶系。
これらも役に立つことがあるかもしれないけれど、文字通り微妙ね。
特技と錯覚しながら天寿をまっとうするといいわ。
でもね、どうやら能力は成長するらしいの。
それに気が付いたのは芽愛の透視能力からだね。
最初は5ミリ程度しか透視出来なかったのが、今では1センチ近く透視出来るようになっているわ。
今じゃスカートの上から下着の中が見えているらしいわね。
どうやら豚への精神攻撃の話をした時に、下の毛が生えていない部分まで馬鹿正直に話してしまったのだけれど、このことを確かめようとしたらしいのよね。
一緒にお風呂も入っているし、見たことある仲なのだけれど、常時生えてないのか気になったらしいわ。本当に馬鹿ね。
だけど私は透視出来てもスカート1枚分ぐらいだと認識していたから慌てなかった。
ところが突然悶絶したから驚いたの。まぁ、すかさず引っ叩いたけどね。
一応言っておくけど、全身脱毛だからね。
け、決して生えてきてない、わ…、わけじゃないから!
話が逸れたわ。
こんなことがあってから、疾斗にも訓練を怠らないように注意させているの。
一般人相手なら十分な速さでも、相手の能力によっては足りない場合もあるかもね。
準備はしておいて損はないわ。
努力をしないで一生を一瞬で棒に振るよりは良いでしょ。
こうやって見ると、私の孤独な皇帝はチート級の能力ね。
手に入れたのが私のような常識人で良かったわ。
本当に世界を手中に収めてしまえるもの。
豚を仲間にした時に思ったけれど、やはり防御系がいるといいわね。
透視を含めた芽愛の索敵能力、疾斗の移動力や撹乱能力、豚の物理的な力の能力、これに防御力が加われが隙が無くなると思うの。
さらに私のチート級である時間を止める能力がある。
どう?無敵と言っても過言じゃないと思うわ。
探し始めて2ヶ月。
「ご主人様!い…、いました!防御系です!」
ついに見つけたわ、防御系の能力者。
そいつを見た瞬間、今回は慎重に話をすすめる事を決意したわ。
だって、どう見ても社会人ですもの。
ダサくてひょろ長くて不潔そうで、見るからに頼りになさそうなおじさん。
まぁ、おじさんと呼ぶには、まだ早いかしら。
無精髭に髪の毛もボサボサ。顔は可もなく不可もなく。まぁ、敢えて褒めるとすれば渋い系って感じ。
見た目からは30前後かしら。
異能バトル系によくある設定に、能力は子供のうちだけなんてのもあるけど、どうやら現実はそうではないことは分かってきているわ。
だから年が倍ぐらいのおじさんでも慌てることはないけれど、社会人となると何かと制約が出てくるわよね。
まぁ、時時雨財閥の一人娘に、現実的なことで不可能なことなんてないけどね。
という訳で金に物を言わせて、お抱えの探偵に調査させて色々と調べさせたわ。
名前は佐藤 護、32歳。180cm、60kg。ちょっと痩せているわね。健康的な体重を維持するよう指導しないと。血液型はO型。
あ、ちなみに血液型で性格を測ろうとは思わないわ。
だって、どう考えても4種類しかない血液型で性格やら運命やらが分かる訳がないじゃない。
世の中には、過去に流行った病気で血液型がかなり偏っている国もある。
例えばブラジルを中心とした南米がそうね。
純血のブラジル人は全員がO型と言われているわ。これでも占うのかしら?
逆に1種類だけ占えばいいから楽かもね。
まぁ、迷信深い日本人だからこそ流行った占いだと思っているわ。
また話が逸れたわね。
この佐藤とかいうオッサンに接触する必要があるわね。
休日を調べあげて、一人暮らしをしているアパートへ押し入り直談判することに決めたわ。
随分行動が荒っぽいって?
そうね、今回ばかりは駄目元で出向くからよ。
理由は2つ。
先に言った通り社会人ということ。
まぁ、これは向こう次第でどいうにかなると思っているわ。
もう一つの理由は、残念ながら能力がかなり弱いの。
芽愛の調査では、恐らく手の平サイズ程度の防御壁がせいぜいみたいね。
でも、能力は成長する。これに賭けているの。
ただし、本人のやる気次第ね。
何せ、一体何と戦っているのか、私達ですら全容を把握していないのが事実だから。
そんな話を、いい年した社会人のオッサンに話すのだから、最悪断られることも考えているの。
そういう訳で、他の候補者を探す事も考えているわ。
ピンポーン
安っぽい音ね。
「はい。」
扉の向こうからは気だるそうな成人男性の声が聞こえた。
「佐藤 護さんね。あなたに話があるの。」
私は掛け引き抜きで、正面から攻略するつもりよ。
「あんた誰?」
まぁ、いくらこんなに可愛い少女が名前を知りつつ訪ねてきたとしても、突然過ぎて嬉しいってより警戒するわよね。
「怪しい者じゃないわ。少しだけお話しいいかしら?」
「訪問販売とか断ってるから…。」
「待って。あなたの力を貸して欲しいの。少しで良いわ、時間を頂戴。」
「………。」
彼はかなり警戒しているようね。無理も無いわ。
だけど、まどろっこしい事は逆に不向きだと考えたの。
相手も大人だしね。
「で?何を売りにきたんだ?」
まだ訪問販売だと思っているようね。
「逆よ。買いにきたの。」
「はぁ?」
なかなか警戒を解いてくれないわね。
少しカマをかけてみようかしら。カマと言ってもオネエの事じゃないわ。
「あなた、拳に秘密があるよね?」
「………。どこで聞いた?」
当たりね。まぁ、発動条件が拳を握るだから、絶対に経験しているわよね。
「私達にも秘密があるの。どう聞きたい?」
敢えて複数人を連想出来るように伝えたわ。
つまり私以外にも能力者が居るということを暗示させたつもりよ。
子供の私が使いだと思ってくれた方が話が早いわ。そう思ったの。
「わかった。話だけは聞こう。」
案の定、私の背後に何かあると思ったようね。
まぁ、いいわ。
ガチャリ。
鍵を解除する音が聞こえると、警戒しているのか、ゆっくりと扉が開く。
佐藤 護はTシャツに短パンと、いかにも部屋着という姿で登場した。
一人分の隙間が出来た時点で孤独な皇帝を発動。中に入らせてもらったわ。
「あっ…?」
背後から間抜け声が聞こえた。
「お前…、いつの間に…。」
「言ったでしょ。私達にも秘密があるって。」
「あぁ…、そうだけれど…。」
「良いから話を聞きなさい。」
「お、おう…。」
部屋は思ったよりも小奇麗だけど、我が家のトイレより狭いわね。
「単刀直入に聞くわ。私達の仲間に入って欲しいの。さっき言った通り、あなたの力を買いにきたわ。」
一応お金をちらつかせておく。
どちらにせよ、手元に置くにはうちの系列企業に転職してもらうからね。
「待ってくれ。俺は自分のこの変な現象を理解していない。どうして良いかもわからないのが正直なところだ。」
「あぁ、なるほどね。」
つまり彼は、自分の能力の価値を知りたいというわけね。
「俺はこの変な力のせいで、友人を傷付けたこともある。それ以降封印し続けてきた。だから、場合によっては協力しない選択肢もある。」
「そうね。使い方の分からない刃物みたいなものね。」
「そんなに危ないものなのか?」
私は能力を発動させ、彼の背後に回る。
そして耳元で小声で伝えた。
「そうね、とっても。」
「!?」
彼は酷く驚きながら振り返った。
「今私があなたをナイフで刺していたら?」
ゴクリ…
彼の生唾を飲む音が聞こえた。
「私達は犯罪者になるつもりはまったくないわ。安心しなさい。」
「じゃぁ、目的はなんだ?」
「今はそれを探しているの。」
「………?」
不思議がってるわね。無理もないわ。
「私達はこの力を仮に『能力』と呼んで、使う人を『能力者』と呼んでいるわ。」
元の席に戻りながら説明を続ける。
「能力には発動条件があって、なかなか気付かないで普通の生活をしてきた私達能力者だけれど、不意にその能力に気が付いてしまった。」
ちょこんと座る。
「そして今、色々な疑問にぶち当たっているわ。あなたにはその疑問や謎を解く協力をして欲しいの。」
彼は私の言葉にリアリティを感じ取っていたみたい。
「なるほど。漫画みてーにはいかないわな。」
「そういう事。」
佐藤 護は自分の力の謎が解明されると思っていたのか、短いため息をついたけれど、真剣な表情を私に見せた。
交渉は長くなりそうね。
まぁ、いいわ。とことんやりましょ。