第四話 ~寄港~
メガフロートの入港に時間が掛り過ぎたのと書きたいことを書き切るためにも全六話構成に変更します。度々構成話数の変更をして申し訳ありません。ですがもう少しでこの話も終わりますのでこれからもよろしくお願いします。
追記:誤字脱字・人名間違えに関して(2017・08:08)
・田中徳太郎さんが田口さんの家に婿入りしていたのを修正。
・一部文章の『てにをは』の破綻を修正。
・一部文章の乱れを修正。
厳粛な空気の流れる指令室、艦長のシートとは別に用意されたシートに腰を下ろした壮齢の翁は、目の前のそれを睨むように見据えていた。
自身が育て自身の思想に染め上げた愛しくそして愚かしい信徒が艦上構造物のほとんどを失い推進力が半分になっても逃げるその姿はある種雄々しくもあったが、けれどそんな物を感じる感性など既に翁には無かった。
「それが君の選択か、田中徳太郎一佐。それもまた善哉」
「中将!早く攻撃のご指示を!」
「必要無いだろう。それに有効射程から離脱されている。それでどうやって当てると言うのだね?」
「ご安心ください、我が国の機械技術は世界一です!女の軍門に下った愚か者に必ずや正義の鉄槌を落として見せます!」
希望的観測だ。いや、やろうと思えばやれないことは無い。それだけの力がこの艦のその巨体に秘められている。主砲を撃てば何発かに一回は当てることも出来るだろうが、そんなことをするよりも横須賀の秘密工廠で中破相当、悪ければ大破相当の天之御中主の改修に専念した方が良かった。
荒之皇も主砲の損傷ばかりが目立つが魚雷発射管や30連VLSも損傷し速力も三分の二まで落ちている。下手に追撃すれば数の有利で轟沈は免れないと分かっていた。
「希望的観測で勝利した軍隊など存在せんよ。アドルフ・ヒトラーの国家社会主義ドイツ労働者党や大日本帝国にソヴィエト連邦共和国、戦争慣れした末に初めてアメリカが大敗を喫したヴェトナム戦争に目先のたんこぶを拵えることになったキューバ危機、有耶無耶のうちに終わった新冷戦。どれをとっても希望的観測と現実逃避の賜物だ。ご安心くださいでは些か誠意に掛けるとは思わないかね?」
「――――――ッ!」
艦長の口から歯を食いしばり怒りを抑える音が聞こえる。
失言だ。これでは自分の地位が落ちてしまう。せっかく媚を売って言いなりとなってきたというのに、それが水の泡と化す。何か先の失言を取り戻せるような言葉は、そんな取りとめもない考えが渦巻いてとぐろを巻く。その間にも翁、山本英機の言葉は続く。
この説教口調が嫌いだ。如何にも自分は高位の存在であると疑わない上から見下ろされる視線と口調。こんな奴を好いていられる人間なぞそれこそろくでなしだ。
「勝つに足る明確な根拠を示して見せたまえ、そうでなければ軽々しく気休めを言うモノではない」
「も、申し訳ございません!」
「君には私が謝罪を求めているように聞こえたのかね?そうだとしたら失望ものだ。私が女性の排斥よりも君の謝罪に重きを置いているとでも?」
どうせそれすらも犬猿の仲である東郷兵十狼大将閣下を蹴落とす為の物でしかないだろうに、それすらも男にはお為ごかしにしか見えなかった。
世の中には女に恨みを持つ人間なんざごまんといる。だがそれと同時に男に恨みを抱く女も同数いる。世界の半分が男なら世界のもう半分もまた女だ。ならば双方が双方に抱く嫌悪感もまたイコールとしてほぼ同数になるだろう。
結局のところ人種差別や職業差別、色別差別や学歴差別が無くならないのと同様に、性別による差別もまた、なくなることは無い。男も悪ければ女も悪い。妥協できる点を見つけてそこに腰を落ち着ける、それもまた戦争の一つの終わらせ方なのではないかと艦長である男は思っていた。
そう言う意味で、目の前の男は小物だ。いつまでも数年前の事を引きづり、そして世論を味方に付けていい気になってこんな物までこさえてしまった。いち早く抜け出した田中艦長らが羨ましく思えたのは男だけではなかった。
「私は女性の自衛軍からの排斥を、君たちは女性に対する積年の恨みを晴らしたい、単純で明快な利害関係だな。理解出来たかね?――ならば取り舵180、反転して横須賀秘密工廠へ進路を取りたまえ」
「ハッ!反転180度、取り舵!横須賀秘密工廠へ進路を取れ!」
□
帝國軍の製造したイージス戦艦ヤマト改を超える巨艦、超大和型イージス戦艦日本武尊の強襲、そこから続いた怒涛の展開から三日が経った。
艦上構造物のほとんどを失い推進力の半分を奪われた日本武尊と、主砲をなくし機関出力が三分の一にまで落ち込んだイージス戦艦ヤマト改、それらを守る様に配された駆逐艦と巡洋艦によって構成された艦隊は、一路佐世保沖に浮かぶ海上自衛軍所有の巨大な人工島、佐世保メガフロートに向けて舵を切っていた。
この時代、旧帝海時代において工廠や鎮守府のあった場所の沖合には数十キロにわたる整備施設や娯楽施設、訓練施設を内包した巨大な円形を描くメガフロートが鎮座し、昨今の領海侵犯や領空を通過する戦闘機に対しての自衛のために一つ分の艦隊なら余裕で面倒が見切れる程に機密性の高い軍港や高い整備能力を持った士官が常駐している。
その特性上、地元の小学校から中学校に、果ては高校や防衛高等学校の生徒が課外授業や修学旅行の一環で訪れることもあり、内部も一部区画以外は広報センターとしての役割も担っており、スクランブルでもない限り暇している前線勤務者も受付や案内の業務に携わっている。
そんな最前線に最も近いと言えるメガフロートだが、今日ばかりは少しばかりその空気も張りつめた物となっていた。
壇上に立つ一等海佐の階級を持つ男、加藤三郎がメガフロートの職員であり自衛官でもある彼らを見まわし、そしてマイクの電源を入れた。
『まず諸君らもメールを見て知っていると思うが、今現在我らが祖国である日本国を裏切ったというありもしない罪で追いかけ回されている第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊が、ここ佐世保海上基地にやってくることが今朝決まった。諸君らに注意してもらいたいのは来週の午後にやってくる地元小学校の子供たちや引率の教師、ひいては一般客の目に着かないように警備を徹底すること。他の艦艇の修理は後回しで、とにかく第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊の修理を急ぐことだ!頼めるね?』
人徳なのか、それともお役所仕事なのか、前者と思いたいところではあるが男の言葉に返事を返す自衛官一人一人の目には緊張の色が窺えた。それも解散の指示が出ると同時に各人は己の仕事に取り掛かりはじめて霧散したが。
その中で一人が残り、加藤三郎に向かって手元の紙を見ながら報告した。それはイージス戦艦ヤマトとイージス超戦艦日本武尊の損傷率と、予想される改修期間が書かれた紙の束だった。
「改修の件でお話があるのですが」
「なんだい?もしかして資材が不足しているとかか?」
「それもあるのですが、イージス戦艦大和改は以前の米軍の進行を食い止めた際に一度改修を行っております。二度目の改修となるのと対消滅機関の不調が訴えられています。このまま改修しても以前の様な能力は取り戻せないかと」
報告される事実。想定はしていたが、けれど実際突き付けられると痛い物がある。寿命なのだろう。十分に戦い十分に戦果を上げ、十分に御国を守った。もしかしたら我々は大和の武威に頼り過ぎていたのではないだろうか。象徴として、そして最強の矛であり盾として、その世界最強という名に依存していたのかもしれない。
加藤三郎はいつの日か佐世保メガフロートから出港した大和改の、そのまるで山の如き威容を覚えている。巨大な上背が、世界最先端の電子機器を備えたその鉄の城が海をゆくさまに感動の念を覚えたのを、今も尚鮮明に思い出される。
その巨大さを見れば、自分が世界でどれほどの物か考えさせられる。別に戦争を終わらせたいとか、そんな高尚な思いを抱いて自衛軍に入ったわけではないが、それでもその威容を前にすれば誰もが同じことを想うだろう。
『あぁ、自分はなんてちっぽけなのだろう』と。それが分からない者がこんなイカレたことを起こせるのだ。
少なくとも男にとって、大和はそういう意味で象徴でありまさしく最強という存在の代名詞だった。
そう、最強だからこそ悲しくも寂しいのだ。
最後まで年端もいかない少女らをその堅牢な装甲で守って仕事を果たした。なればそれをこそ祝うべきなのだが、だからこそ哀しい。己の中にある最強のその後ろ姿が――
「試作中の重力子機関を用意してくれ。重力鏡収束機と耐重力波装甲砲もだ」
「了解しました!――けれどよろしいので?」
「――どの道こうなることを見越しての大将閣下からの贈り物だ。有効活用しなければ面目が立たん」
後ろに下がっていく部下の気配を背中に感じながら、モニターのはるか向こう、陽炎にその姿を揺らめかせながらそびえる巨艦を出迎えた。
□
艦橋内には第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊の旗艦、イージス戦艦ヤマト改の艦長である渡辺明野と艦橋に詰めている少女達、そして二人の男がいた。
ピリピリと張り詰めているわけではないが、全員が普段は携帯しないノイエナンブ9mm自動拳銃を腰に吊り下げ職務に当たっていた。
人質というわけではない。そもそも人質にしてもその命を惜しむ人間がいない以上人質としての前提が意味を為さない。ただ無闇に信用するわけにもいかなかったからこそ、これだけ警戒して男たちを自分達の艦に招いた、そういうことだ。
「――これが俺から話せる知る限りの真実だ」
大きなため息とともに背負ってきた己が不実をぶちまけた。その為に呼ばれたのでありその為に生き残った。故に己が至らなさを、己が心の弱さを、そして良い様に利用されてあまつさえ捨てられてしまった。生き恥と罪咎を背負い生き続けるのだと、そう誓ったのだ。
此処に着て、田中の価値観にも少しばかりの変動がみられた。ここで艦隊の女子生徒と触れあう内、こういう未だに純な娘たちも世の中にはいるのだと気が付かされたのだ。逆にもっと若いうち、あるいは世の中の女性がこうも清廉であったならばと思わずにいられない。そういう甲斐もない人生だった。
「――渡辺一等海尉、俺にとってこの国は守るに値しないと思っていた。我々軍人を犯罪者の様に扱い、その上女性は我々のことを馬鹿にした目と態度で不実を働いている。そんな国を守りたくないわけではない。不純な理由で任官した身であれど、愛国心だけはある」
「…………至誠に悖るなかりしか、か……どこで違えてしまったのだろうな。守りたいと言う志は違わないと言うのに」
大日本帝国、その後の海上自衛隊などで受け継がれた五省の教え。
誠に反することを行ってはいないか、言動に矛盾はないか、精神力は十分な状態であったか、十分な努力を怠ってはいないか、最後まで全力で取り組めたか。
主義主張が違う、彼らには彼らの大義名分が、かつて日々の行動に対して自省を促し人として自衛軍士官として恥ずべきでない守護神としての姿を、健全な肉体に健全な魂を――いつの間にかその思いは形骸化され都合よく人それぞれが己の至誠に従って戦っている。
分からない。明野には分からなかった。必死で守った国の行きつく先はこんな世界だっただろうか。
別に理想や思想を持って戦っていたわけではない。けれど士官一人一人が平和を願って戦っていた筈だ。それがなぜこのように。
「――考えると良い。そして答えを出すといい。佐世保につけば少なくとも一カ月、長くとも二カ月ほど改修にかかるだろう。その間、君の自慢の副官殿や民間人と関われば、分かる様になるだろうとも」
「……そうだろうか?」
考えがまとまらない。散文的に言葉が浮かび上がり遠い昔、あの座敷牢で一人きりで出した結論が、明野の根底に巣食う歪みが悲鳴の様な軋む音を立てて頭の中を反響している。
人を信じられない。信じた者に裏切られた傷跡は何より深く、故に尚更他者との共感を得られなくなってしまった。自閉症というのともまた違う。ただ他者と関わらなさすぎた弊害が、いまここで彼女の道を邪魔していたのだ。
何事も一人でやりきらねばならない、やれるようにならなければならない。そうやって育ってきたからこそ、仲の良い同性の輪に入ることは憚られた。まるで自分とは違うと言われているようで、恐れていたのだ。
誰よりも他人を見る力に長けた高亀蛇目の言った精神障害者、そんな物自分が一番よく理解している。誰に言われずとも理解している――つもりだった。
そんな中、田中の言葉は心のどこかを抉った。彼女の寂しい決意が揺らいで傷跡を晒しかける。そんなことが許される様な立場ではない。だと言うのに何故か、彼女は無性に泣きたくなってしまった。
何故こうも寂しい人生しか送れなかったのか、なぜ兄を許せてしまったのか、いっそ恨み憎み、己の内に秘めた怨嗟を吐きだしてしまっても良かった筈なのに――抱きしめてくれる誰か他人を自分から遠ざけた癖に、今この時、確かに彼女は誰かを求めていた。
この事件の最初、最も怯えていた彼女もこの瞬間鋼の精神でその怯えを押さえつけていた鎖が千切れ飛びそうだった。人を率いることには長けていても、その精神はすでに限界だった。
佐世保メガフロートを目前に控えながらも、明野は己の弱さに舌打ちした。
「君の事はすでに調べさせてもらっている。5歳から13歳を迎えるまでの十年弱の事も、もちろん承知している――俺が言えた義理ではないが、自分から踏み出さん限りには誰も自分のことを理解はしてくれない。俺は早々にそれを諦めたが、君はまだ若い。取り戻しなさい、君の人生を」
「――――頭の隅にでも留めておこう」
超戦艦日本武尊を超える海上自衛軍が誇る超大型拠点、佐世保メガフロートの入港口が迫っていた。
その巨大な穴の先には工廠設備が充実し、最前線であり要衝の一つでもある佐世保のそれは横浜や横須賀のメガフロートの数十倍規模であり、その機密性と相反する民間への広報活動、隠れるにはうってつけだった。
ガイドビーコンによる出迎えは無かったが、自分達の今回の密入航から必然的に生じる機密性を考えれば仕方のないことだった。
明野は通信手である藜朱音に目配せを送り、佐世保メガフロートの司令官に通信を繋げた。
「こちら第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊旗艦、イージス戦艦大和改艦長渡辺明野一等海尉であります。今回の突然の寄港・上陸を許可して下さり誠にありがとうございます」
『いや構わない。渡辺一佐から話は聞いている。貴官らの寄港・上陸に留まらず全艦艇の修理・補給に協力しよう』
色良い返事と確認が取れ、迷うことなく各艦艇はそれぞれの入港口にその全身を滑り込ませる。
早朝故に誰に見咎められることもなく入港出来たが、もしもこれを見ている者がいたらと考えると薄ら寒い物があった。それを頭を振ることで忘れると、接舷した工廠にタラップが下ろされたのを確認してから明野、星崎由佳、田中とその副官の四人は案内に従って執務室に通された。
執務室の内部は質素の一言に尽きた。
ソファや机、基地司令である加藤三郎一佐が政務に励む執務机などの調度品は二●リで売ってそうな比較的安い物で構成され、そのどれもが使い古され一種の貫録があった。
他のメガフロートのどの執務室も見栄を張って調度品はいっそ悪趣味なほどに高級な物だと言うのに、此処だけはいつ見ても明野にとっても星崎由佳にとって見ても目に優しいと言えた。
初老に見える男、加藤三郎が執務机からソファの方を指しゆったりとほほ笑んだ。
「待っていたよ。さぁさ、お座りなさい。こんな老人の執務室故面白い物など無いが、茶と菓子程度なら出せる」
「――それでは、お言葉に甘えて」
座るのは確定事項のようだ。明野は思った。
通常ならば直立で報告などを行うのが暗黙のルールと言えなくもない自衛軍の、と言うよりは社会一般におけるルールだが、『茶と菓子を用意している』といわれれば、それは遠回しに座れと言われているようなものだ。招かれた側に拒否権などない。
しばらくして言われたとおりに全員が座ると、加藤三郎は背筋を伸ばしながら“所沢の月”と書かれた袋から緑茶の茶葉を取り出し、茶匙から急須に振りいれ適温のお湯を注いだ。
「若いお嬢さん方には紅茶の方が良いかもしれんが、緑茶もいい物だ。特に埼玉県所沢産の茶葉は特別香りも味も良い」
「いえ、お気遣い感謝いたします。私はあまり舌が繊細な方ではないので、実家では好んで緑茶を飲んでいました」
「おぉ、そうか……!いやなに、最近の若い連中はイギリス被れなのかええかっこしいなのかは分からんが緑茶を厭う者が多くてな――そうか、君は緑茶が好きか」
嘘だ。大雑把なんて生易しい物ではない。彼女は幼少期のストレスから辛いもの以外の味覚をほとんど感じられない。故に紅茶だろうと緑茶だろうと然したる違いはなかったが、相手の趣味に合わせるのも円滑なコミュニケーションの手段であることを兄から聞いて知っていた。
座敷牢から救い出されてから、対人コミュニケーションに問題があることから兄や夜長契司に教えられたことだった――他人の気持ちに共感することが出来ないなら、せめて上っ面だけでも整えておこうと言うことだ。
「それでは、本題に入ろうか――まず君達には客分としてここでの生活と各艦艇の補修と武器弾薬の供与、それと衣食住を確約する。とは言っても人手不足なのはどこでも変わらないから偶に買い物を頼むことはあるかもしれないが、基本は此処の施設を自由に使ってくれて構わない」
「御好意、痛み入ります。改修や補修に当たって参考程度ですがこちらの戦闘記録と損傷状況を記した文書を先んじて転送させていただきました」
「すでに目を通してある。いま艦の実際の損傷状況を確認している所だ。全艦艇の補修を行うに当たり、物資の供給などから恐らく二カ月ほどは掛るだろうが、大和改以外の艦艇は二カ月以内に改修が終わるだろう」
大和改以外は、誰が聞いても引っかかっただろう。何故大和改だけは例外なのかと。
損傷状況は明野はもちろん星崎由佳の頭の中にも入っていた。主機関以外の損傷は通常の補修で十分なのも確認していた――とは言っても、同航戦には耐えられないと言う但し書きが着くが――ため、明野は眉を顰めて加藤一佐の目を直視した。
まさか物資が足りないだけというわけではあるまい。となれば補修できないだけの何かがある筈だった。
「――?……何か問題があるのですか?」
「……うちの整備主任が言うには、このまま通常の補修だけで済ませた場合戦闘能力、航行能力共に以前の能力を取り戻せないらしい。それと牽引してきた艦――日本武尊と言ったか、その艦は未だに艦籍未登録艦でね、昨日見た艦籍登録艦には一番艦に荒之皇、二番艦に天之御中主が登録されていた。つまり――」
「このまま改修することは出来ないと言うことだ」
歯切れの悪いメガフロートの指揮官、加藤三郎の言葉に被せるように田中一佐が口を開いた。
しょうがない、最重要機密として作戦開始より以前から建造されていた。そしていざ作戦開始という時にようやっと完成した艦なのだ。その上誰にも見つからずに彼女らを殲滅するために艦籍登録せずに使用していたのだ。その付けが回って来たということだろう。
「その通り。だから日本武尊も大和改もこのままでは補修も改修も出来ない」
損傷度は明らかに日本武尊が大きいが、大和改もこれ以上の戦闘は、出来ないことはないが次もまた日本武尊の同型艦に襲撃されればひとたまりもない事は想像に難くなかった。
だが明野としてもそのままで終わらせたくはなかった。大和改は日本の象徴であり第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊の要であり、そして艦隊の構成員の居場所である。それをみすみす無くしてしまうなどということだけはしたくなかった。
その時彼女は閃いた。このままでは我々が不法に手を染めたと後ろ指を指されるなら、その計画その物を利用してしまえばいいのだと。
「――田中艦長、日本武尊の開発計画書はあるか?」
「あるにしてはあるが、どうする気だ?」
「――帝國軍に目に物を見せてやるのさ」
そうして渡辺明野発案のイージス戦艦大和改改修計画『伊吹計画』が動き出した。それが空前絶後の化物になるなどとは、加藤三郎一佐を除いたこの場にいる全員が予想しないことだった。
皆さんの応援によって2カ月で此処まで何とか漕ぎ着けることが出来ました。次回は日常回と陰謀でやって行こうかと思っています。大丈夫です、タイトル詐欺はしませんから。しっかりと空想科学で武装した戦艦が出来上がりますから。
何となく予想できた方もいらっしゃるでしょうが、一応そうですと言っておきます。多分御想像通りになると思います。
行き当たりばったり感が強いですが、一応全部作者の中でプロットが出来ており、それの表現で詰まったりして更新に遅れが出ている現状です。楽しみにして拙作を読んで下さっている方には大変申し訳ありませんが、これからも当作品完結までお付き合いください。それと御意見御感想をお待ちしております。