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第三話 ~邂逅~

 第三話です。かなり遅い投稿となり申し訳ありません。納得のいく所まで書き切るのに時間が掛りました。ただそれでもまだ納得していないわけですが、人生妥協ですねww

 第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊が第二十九海域強襲制圧艦隊、ないしはその後ろ盾である東郷兵十狼率いる右派の力添えもあり補給と改修に目処がついてから二週間。艦隊は一度小笠原諸島から離れ、日本の排他的経済水域を出ないように注意しながら太平洋を航海していた。

 艦隊には東郷兵十狼海上自衛軍大将が力を貸したことはすでに周知の事実となっており、このいわれのない追撃も直ぐに終わるだろうという楽観と、休日の様なのんべんだらりとした雰囲気が渦巻いていた。

 ある少女は甲板にビーチチェアを出して休憩時間中に昼寝をしだしたり、またある者は自分の勤務時間を賞金に掛け花札に興じるなど、艦隊内の規律は乱れに乱れていた。


「艦長、今日も賭博の結果に納得がいかずに喧嘩になった案件が月島、霧島、明星あかぼしにて五件発生。何れも軽症者が三名から五名ほどと報告されています。他にはビーチチェアの場所取りでの喧嘩、賭け麻雀のレート、炊事班の当番決めのロシアンルーレットなどで問題が発生しているようです」

「問題を起こした者や刃傷沙汰を起こした士官には問題の大小にかかわらずに営巣に突っ込め。それとこれ以上問題が発生する場合は、各艦長の判断のもと規制や罰則を用意するなど、柔軟に対応するように伝えろ」


 呆れたように眉間をもむ明野の様子に、副官星崎由佳も、砲術長鉄装綴も、観測手矢島未来も、そして通信手であるあかざ朱音あかねも困ったように顔を見合わせていた。操舵手は巨大なヘッドフォンをしたまま海図とにらめっこしている。指令室にも風紀の緩みが如実に表れていた。

 一事が万事全てが水泡に帰すと防衛高等学校では散々に教えられてきたことだが、補給を定期的に受けられる状態になったとなるとその安心感は並大抵の物ではなかった。

 食うに困るわけでもなければ晴れて親もと、引いては母港に帰港することだって出来るかもしれないのだ。その一筋の希望は、けれど事実毒として艦隊に蔓延している。これを払うことは並大抵のことではないのは彼女らをしてよく理解していることだった。


「了解しました――なぜこのようなことになっているのでしょうか?」


 副官、星崎由佳が指示を出しながら窺うように聞いた。

 分からないわけではない。けれど認めたくない。どうか否定して欲しい。そう言う意味を込めての発言であった。

 ここまで団結してきたというのにこんなに簡単に崩れ去るなど、そんな物を認めるわけにはいかなかった。認めたが最後、それは組織そのものが瓦解してしまうと分かっていたからだ。

 それに対して明野はあっけらかんと、ともすれば苦虫を噛み潰したような顔で事も無げに言ってのけた。


「バウンティ号の反乱さ。それと似たことが起こっている。あちらは半年間タヒチに、こちらは定期的な物資の補給。反乱が起こらないのは我々の身の安全がまだ保障されていないからだが、いずれ起こるだろうな」

「何を悠長に――!」


 何故悠長に構えていられるのか、指揮官であるはずの人間がだ。それは指揮権を放棄したと言うことではないのか?何故そんな簡単に言ってのけられるのか、少なくとも艦橋にいた人間には分からなかった。

 明野としても考えなしに言った訳ではない。組織運営する立場としては至極当然のことを言ったつもりであったが、その回答の何が彼女たちの琴線に触れたのか分からなかった。


「組織である以上、不平不満を持つ人間は必ず現れる。孤立無援であった我々にとって補給がどういう意味を持つか、分からないわけではないだろう」

「それはそうですが――!」

「兄が言うには、帝國軍は直ぐに尻切れトンボになるそうだが、勢いが落ちない内にあちらはもう一度か二度ほど仕掛けてくるだろう。ここまで事を大きくしたのだ、中将の首一つで賄えるはずがない」


 それも今度は帝國軍の、ないしは中将麾下の艦隊がやってくると言う。ある意味では一番聞きたくなかった言葉であった。そしてそれがしばらく後に現実のものになるとは、誰も思っていなかった。




 指揮所の扉を勢いよく開け放ってやってきたのは水着姿の少女たちだった。スクール水着の種類は制定スクール水着と呼ばれる奴で、それの上に半袖セーラーを着ているとてもマニアックな格好をした少女たちだった。


「所属不明の超大型戦艦が本艦に近づいてきてます!」

「それはこちらでも確認しているが、レーダー監視を怠っていたな?それになんだその格好は。学校指定のブレザーかセーラー服を航海中は常に着ているようにと規定されているはずだが」


 星崎由佳の厳しい物言いはまさにその通りであった。職務をさぼって呑気に日向ぼっこに洒落込んでいたつけがこれだと、そう言外に言っていた。


 元々このイージス戦艦ヤマト改は戦闘指揮所と通常の操舵室兼用の指揮所とでの移動式となっており、現在彼女たちが居るのは薄暗い戦闘指揮所、その最奥に位置している。だが彼女たちの目の前の機器類と椅子には人の影が見当たらなかった。

 追撃の一時的停止と補給、このダブルパンチに戦闘指揮所に詰めていた少女たちも連日の激務に少し・・の気の緩みが出来てしまった

 気の緩み程度、などと言えない。それが今現在のこの艦隊の現状なのだから。


「休息は確かに重要ではあるがあまり羽目を外しすぎないように。席に付け――全艦に通達……ッ!」


 戦闘指揮所詰めの少女たちが全員入り切ったのを確認した直後、彼女は見てしまった。この距離で、この状態で、この瞬間に――最大級の射程を誇るヤマト改ですら届かないと匙を投げるそこから放たれようとする中間子メーザー砲の光。

 ぞわりと背筋が粟立つ、これは駄目だ、防ぎきれない。当たればその瞬間に終わりだ。止まることは許されない。避けたければ動き回るしかない。

 明野の判断は早かった。

 なり振りなど構っていられぬ。とにかく避けることを念頭に、とにかく早く――


「全艦両舷全速面舵!振り切れ!」

「えっ!?りょ、了解!」


 船体全体が軋むような音を上げながら艦隊は一斉に舵を切った。列など不要いらず、とにかく己の出せる最大でそこを避けろ、それしか生き残る道は無いのだからこそ。

 直後、艦隊が先程までいた場所を中間子メーザー砲の光が都合六条、海水を蒸発させながらその場所を穿ち爆発させた。

 揺れる船体、唸るようなアラート、床に打ちつけられて軋む身体。しかしそれが明野に、そして艦隊のほぼ全員に自身がまだ生きていることを実感させた。まだ死んではいないのだと言うことを。







 最初の一射目から十分が経つが未だに所属不明艦、いや敵艦に動きは無かった。それが不気味だと、操舵手の来摩くるまりんには恐ろしく感じられた。

 まるで喉元に拳銃を突きつけられているかのような圧迫感、いつまたあの長距離砲が発射されるかもわからない恐怖、ああ、三年前に相手したアメリカ海軍はこんな思いだったのかと思い知ったような気がした。

 先程避けられたのは運が良かったからだ。運よく艦長が攻撃に気が付き、運よく機関の始動が間に合い、運よく艦隊のほぼ全員がその射線から退避出来ただけだ。次は無い。


 だと言うのに何故だろうか、あれほどの攻撃を見せ付けられたにもかかわらず輪の中の闘士は少しもくすぶることは無く、幼い頃イメージしていたよりは幾分か小さいその舵輪を握る手に力が籠る。

 負けてたまるものか。艦長も言っていたではないか、全員生き残って母港に帰港すると。

 仕組まれていたにしろ行き違いであったにしろ、絶対に誰一人欠けることなく戦いぬくのだと。そう、ダインスレイブと交戦したあの日から――

 輪の中で艦長は最も尊敬に値する人間に代わった。尊敬がイコール崇拝には繋がらないが、けれど信用し信頼していた。服従でもなければ隷属でもなく、一人の操舵手として彼女を尊敬している。そこに他意は無い。

 たとえ荒唐無稽な作戦であろうと成功のために精一杯尽くそうではないか。そう言う気概が輪にはあった。いや、少なくとも他の人間もそうであると信じている。そうでなければここまでの即応など出来るはずがない。

 コミュニケーション能力は絶望的で計画も杜撰ずさんであるが、けれど信用に足る人間だと言うのはこの艦隊、士官一人一人の共通認識だった。


「どうしますか、艦長」

「――総員第一種戦闘配備……ここで奴を叩き潰す」


 その言葉を待っていた。機関なら既に温まっている、いつでも動かせる。輪が知らない内に口元が緩み綺麗な弧を描いていた。

 そうだとも。訳の分からない理屈ねて命を狙われるなんざまっぴらごめんだ。同じ『死ぬ』にしたってその死に方だけは自分の手で、そして自分の信じた艦長の手で死にたい。それ以外の死に方など認めるものか。そう言う意味で、輪はこの中で一番好戦的と言えた。

 要するに、輪もまた世の不条理が大嫌いな人間の一人だと言うことだ。そしてこの艦隊はそう言う人間の集まりであり、故に答えは決まり切っていた。


「たとえこの先が黄泉路であろうとも、お供しますよ艦長」


 副官、星崎由佳に美味しいところを取られたような気がしなくもなかったが、自分の仕事は操舵であり、艦長の補佐は副官の仕事だと割り切った。

 それよりも何よりも、この艦を十全に、要求通りに動かすことが自分の使命であり役割である。故にそれにのみ集中すればいい。


「……そうか――ヤマト改両舷微速。左舷側のレールマシンガンをFCSに繋げた後に補給物資にあった大容量コンデンサを直列でつなげ。EMP攻撃を行う」

「了解!」


 そう言う意味で、来摩輪は少なくとも今この瞬間を楽しいと思っていた。いや、負ける・・・気がしない・・・・・と言ったところか、彼女にも何だか分からない自信が、何処から湧いてくるのか腹の奥から力が湧いてくるような気さえした。

 快楽がために仕事を疎かにすると言った愚は犯さない。それこそ愚の骨頂であると彼女は理解しているがゆえに、その興奮すら己の制御化においてただ職務を全うする。


 して、彼女にとってこの艦隊とは何かと問われれば、居場所・・・としか答えられないだろう。

 彼女の中学生時代は悲惨であった。いや、明野に言わせればまだ生ぬるいのかもしれないが、けれど常人からしてみればどちらも地獄であることには変わりないだろう。

 彼女、来摩輪がまだ中学生だった頃――彼女には居場所がなかった。文字どおりの意味と、そして精神的な意味の両方で、だ。

 ことは単純明快。クラスの女子のグループに一人はいるだろうお局様のような女子、言ってしまえばそのグループのリーダー格の女子とそりが合わなかったこと、ただそれだけだった。

 それからは陰湿な虐めとも呼べないような虐めが何件か続き、日ごとにエスカレートして行き、やがてはクラス、学校中が彼女に牙をむいた。死人に鞭打つ様に、その行為を行うことで皆多かれ少なかれ欲望を満たして行ったのだ。そう言う意味で言えば、まだ性的な虐待に移らなかっただけましだったともいえた。身体に傷をつけられるのと己が純潔を失うのでは重みが違ったのだ。

 教師に相談しようとも既に根回しは徹底され、PTAも当てにはならず逆に訴えるとまで出てくる始末。教育委員会はお局の取り巻きの親が役員なためにブラックリストに載ってしまっていた。やがて彼女は大人を、周りを信用できなくなっていった。

 いや、ここまではまだ良かった方なのだろう。家族という絆が正常に稼働して、彼女の傷を塞ぎ穴を埋められるだけの愛情が注がれればそれだけで彼女には充分な救いだったのだろう。

 人の世とは不思議なもので、希望的観測という物は何ら意味を成さない。

 まるで運命の女神が好むような絶望を踊らされ、そして壊される。それともそれこそが試練なのかもしれない。どの道性格が良いとは言えないのは確かだった。

 そして彼女も、そんな運命という名の墓場カタコンベに絡め取られた。



『恥さらし』

『出来損ない』



 心ない言葉が胸を刺す。あるいは本当に刺されているのではと錯覚するほどに、他者ではなく肉親から投げられるその言葉は不思議な魔力を帯びていた。

 壊れるとはこういうことだろうか、部屋の隅で彼女は膝を抱え自問に自答を繰り返した。考えを止めればその瞬間に自身は生ける屍になってしまうと分かっていたからこそ、思考すると言う生者の特権を放棄できず、けれどそれなら情け容赦なく壊してもらいたかったと涙を流した。


 それから後は酷く客観的な人生であった。


 灰色の世界、灰色の人間。言葉は意味を成さずただ世界は灰色に塗りたくられていく。

 別段それがどうということもなかった。居場所がなくなろうともはや関係なかった。気にする必要もない。どうせ卒業するまでの付き合いだと思ったからこそ、そしてそんな人間と関わらないで済む逃げ場として選んだのが国防自衛軍国立防衛高等学校だった。

 別に逃げ場は何処でも良かったが、同年代で同じ場所に行こうとする人間は、少なくとも彼女の学校にはいなかった。だからこそ好都合で、だからこそどうでもいいと居直れた。


 同じ匂いのする人間、同じ匂いのする世界、同じ匂いのする空気。やがて彼女は一人の少女と出会った。濃い死の匂いを漂わせる、文字通り生ける屍の如き存在、渡辺明野と。

 目標が違った彼女らは廊下ですれ違う程度がその関係の最大だったが、以外にも早く渡辺明野との再びの邂逅の機会に恵まれた。


 トーマス・ウィルキンソン政権のアメリカの、突然の宣戦布告。対消滅炉やビーム兵器といった超技術を世界の警察足るアメリカに寄越さないその態度に業を煮やし強硬策に出たのだ。

 正規艦隊はアメリカの宣戦布告と同時期に差し向けられたロシアと中国の艦隊の相手にてんてこ舞いになり、結果的にアメリカの相手として差し向けられたのは国防自衛軍国立防衛高等学校の生徒たちだった。

 いくつかの艦隊が編成され、最後の艦隊である三十六艦隊は決戦艦隊と命名され、以降も第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊としてその名は引き継がれていくが、余談である。

 けれど今の三十六艦隊を創ったのは間違いなく明野だった。


 まだ明野が海曹長だったころ、彼女らは奴隷であった。

 当時上官であり現場の最高指揮官であった高亀こうがみ蛇目じゃのめ一等海尉とその取り巻きだった二等海尉と三等海尉は過激な女尊男卑思想者だった。故に臨時とはいえ艦隊を組むことになった男子クラスの艦隊を積極的に囮に使い、無用な被害を出し続けていた。

 勿論そんなことを続けて反対する人間がいないわけがなかったが、高亀蛇目は自分の思想に反する人間は男であろうと女であろうと迫害する人間だった。ある意味一点においては独裁者向きであったが、それ以外の面ではてんで無能な人間だった。

 戦術は無く基本は武装のその威力によるゴリ押しに頼り、ウェアラブルアーマーと呼ばれる発泡金属でできた鉄壁の防御に依存し、失敗は全て下士官の責任にされた。


 ある時、三十六艦隊を除いたほぼすべての艦艇が中破以上の被害を被り、アメリカ軍はその足を本土に向けようとしていたときだった。


 激しい砲声が艦橋を揺らし、着弾してウェアラブルアーマーの剥げ落ちる嫌な音が指揮所を揺らした。鉄と鉄が擦れ合っておこる女性の悲鳴のような甲高い音が、敵艦の砲撃が着弾したことを教えていた。

 指揮所には影が五つあるのが見える。年齢からして十五歳か十六歳の少女が二人と十八歳の女が三人いた。蛇の様な縦に割れたような瞳孔が特徴的な女が少女に聞いた。


「つまり私は指揮官足りえないと?どの口が言うのかしら精神障害者(社会の塵)


 蛇のように長い舌で唇を這わせながら器用に女は聞いた。

 あくまでも自分が上であると言いたげな視線。睨まれたが最後バジリスクの呪いの様に石化してしまうと思い込ませる、とても十代の少女が出しているとは思わせない殺気。明野はそうでもなかったが付き添いで来た来摩輪はその雰囲気を不気味だと評した。

 嘲笑、侮蔑、まるで家畜を見るような眼だ。来摩輪は思う。これ(・・)は人を人として見てはいない。自分以外の他人は皆塵屑か何かだと考えているのだ。そうでなくてはこれまでの蛮行、説明が付かない。

 何故こんな人間が、それが艦隊の総意であったしそんな人間に人を扱う資格などない。そんな人間に扱き使われるくらいなら自決した方が遥かにマシだった。


「私が壊れているのは私が一番よく知っている。それよりも貴様の無思慮な指揮のせいでいったいどれほどの被害が出ていると思っている。男子クラスだけでも負傷者は750人以上が確認されている。世論せろんが黙ってはいないぞ」

「男なんて邪魔なだけよ。今は女の時代、女の世界であり女の天下。だったら薄汚い猿には御退場願うのが普通でしょ。幾ら男が犠牲になろうと知ったこっちゃないわね」


 いやらしい笑みと共に細められた瞳、その蛇の様に縦に割れた瞳孔の奥、ドロドロと薄汚れたそれを明野は直視した。

 そんな物方便だ。明野も輪も直観した。そして理解した。最早話し合いでどうにかなる段階ではない。そうこの存在こそ、こいつこそがアメリカよりも何よりも優先して倒されるべき敵だ。

 人を人とも思わない人間が艦隊の指揮官であって堪るものか。そんな人間によって虐げられるのも、スケープゴートとして使われるのもあってはいけない。そんな物、認められるわけがない。

 違う、認めるわけにはいかないのだ。故に明野は懐に忍ばせていたノイエナンブ25自動拳銃を構え、高亀蛇目に向けた。

 少しでも動けば、撃つ。そんな空気が、殺気が漏れ出し高亀蛇目を射抜いていた。とても激昂しているようには見えないが、けれど高亀蛇目には分かっていた、本当に撃てるのだと、そう言う人間なのだと言うことがその眼を見ればありありと分かってしまえた。


「――ならば私は、ここで貴様を討つ」

「もう何もかもが手遅れよ。私を信じて着いてきた人間だけが救われる」

「米国の犬になり下がるなど、御免被る。死にたいなら貴様一人を抱いて死んで行け」


 パンという乾いた音が鳴り響き、そして直後に指揮所に砲弾が直撃した。


 赤色灯がうるさく回り警報が艦内を蹂躙して行く。その中で、明野も輪もそれをみた。砲弾によってあっけなく潰された高亀蛇目とその取り巻きの姿を。

 最後は案外呆気ないものだと輪は思った。たとえ幾ら足掻こうとも結局はこうも簡単に人は死んでしまうのかと、こうも簡単に時代の最先端を行く世界最大の戦艦に傷が付く物なのかと。そう思うと背筋が凍るような思いがした。

 あの幼い日より灰色に塗り潰された世界が初めて色付いた気がした。

 艶かしい血液と骨の欠片。身体はあらぬ方向に曲がり目玉は辛うじて顔と思しき所に繋がりプラプラと揺れている。少し前まで平和だった日本では見ることすら無かっただろう死の一つの形が、目の前に提示されていた。前時代的な砲弾一つで人間はここまで尊厳を奪われるのだと。

 そう、死はことこの場所においてはいつどんな場所にだって転がっているのだ。そしてその死は今我々が守るべき国土に、国民に向かって進撃してきている。ならば我々は何をするべきなのだろうか――


 職務を忘れた豚は消え去った、ならばどうするべきか、答えは明白だった。


「――全乗組員に通達。高亀蛇目一等海尉、子安二等海尉、浦安三等海尉その他艦橋要員は敵の砲弾の直撃を受け名誉の戦死を遂げた。軍務規定に倣い、これより本艦の指揮は私、渡辺明野海曹長が執る」


 後に、無補給無改修の手負いの状態で米海軍を一網打尽にした功績により明野は二階級特進、三尉からの任官となり、事実上36艦隊は明野の指揮下に置かれることとなった。

 出航直後の艦内放送、事実上の艦長職就任の挨拶から始まり、そして指揮官としての演説が始まった。今でも彼女はその光景を覚えている。無表情のその仮面の中に隠した、明野の優しさを。


「高亀一等海尉によって我々はこれまで幾度となく虐げられてきた。奴隷同然に扱き使われ、人権を否定するような非道を常に目にしてきた。寝台で夜を怯えて過ごした者も少なくないはずだ」


 もはやあの独裁者を気にする必要はなくなった。ならばここから、これから団結を深めていけばいい。幸いなことは乗組員全員が被害者だったことか、打ち解けるのは案外早かった。

 その後に続く言葉は輪が、そして艦隊の古参全員の心に今もなお響き渡っている。忘れることなど出来なかった。


「――故に私は宣言しよう。ここが、この艦隊こそがお前達の居場所だ」







 閃光が目を焼いた。

 帝國軍謹製のまだ艦籍登録すらされていない最新鋭イージス超戦艦、超大和型戦艦一番艦日本武尊やまとたけるに向けて何かが発射されたのだと気が付いたのは、光が収まってから数分後の事だった。

 ヘッドフォンを懸けていた男がヘッドフォンを投げ捨てて艦長と思しき中年の男に敬礼しながら報告した。襟の階級章から艦長の階級は一等海佐だと言うことがうかがえた。


「艦長、イージス戦艦ヤマト改より高濃度電磁パルスによるEMP攻撃が行われた模様です!対消滅機関以外のほぼ全ての電源が破壊されました!」

「真空管と銅の四重皮膜だぞ!?対電子戦防御のほかに中間子防御フィールドも張っていたと言うのに、何故だ!」


 一佐の男、田中徳太郎が一曹の男を怒鳴りつけた。ありえない、認めるわけにはいかない。最新鋭の超戦艦がたった一回のEMP攻撃で沈黙させられたなど、自身の崇拝する山本英機中将に何と伝えればよいのか。とにかく何か勲功を上げなければ申し訳が立たない。

 そう、こちらは最新鋭であちらは黴の生えた旧式だ、何を焦る必要があるか。こうやってEMP攻撃をしなければ手も足も立たないという証拠ではないか。ならばさっさと復旧させて馬鹿な女どもを懲らしめればいい。この世界の主が誰なのかを、立場の違いとやらを分からせねばならない。その大任を任されているのだ。


「ダメージコントロールだ!速くシステムを復旧させろ!」

「ハッ!」


 暗い戦闘指揮所を背の高い男が出て行くと同時、男は別の場所に指揮を飛ばした。

 高々システムを寸断されただけ。ならば手動で賄えばいい。どの道他に道はない、ならば一発でも多くのミサイルを叩きこんでやる。

 負けない、負ける筈が無い。男は只管に思いこんだ。そうでもしなければやっていられなかったのだ。


 田口徳太郎が成人して社会に出たとき、彼は世界に絶望した。せざるを得なかった。

 最初の職場で出来た彼女は新興宗教に溺れた暗愚だった。上司の女は自ら肉体関係を結んだ相手を痴漢として訴える悪女だった。次に出来た彼女は結婚詐欺師だった。後輩は金の為に嬉々としてヤクザに我が身を売った。果てには見も知らぬ女にインサイダー取引の責任を負わされるところだった。やがて彼には莫大な借金が出来上がり、寸でのところで牢屋に入るところだった。

 身も心も疲れ果て、そこで彼は出会った。


「この世界は間違っているとは思わんかね?女は“女性の権利を認めろ”だの口を開けば権利権利権利、自分達がいったいどれほど優遇されているかも知らずに声高々と馬鹿の一つ覚えの様に権利を欲する」


 その考えは彼が常に思っていたことだった。警察も男女仲での問題であれば女性の方を信じる。一切捜査などされずに何の証拠も無しに有罪判決を下されそうになった。一体どの口が、社会的に身分を保障されていないだのとほざくのか、そんな戯言聞き飽きた。

 そんな彼にとって、同じ思想の持ち主と思われるこの男の存在はまさしく神がかって見えた。いや、まさしく神だ。こうして代弁してくれるこの存在こそを待っていた。

 端的に言って彼はその一言でこの男を崇拝してしまっていた。

 無くならずに増え続ける社会に対するストレス、フラストレーション。すでに彼の心は限界だったのだ。


「平等だ不平等だ、女性に人権が無いだの何だのと煩く騒ぎ、その癖傲慢だ。一度権利を認めれば今度は男を下に見るような法律を作れと催促する始末。あんな物、人間ではない。正常な人間のする思考回路ではない。ラテン語にもある様に、女性のヒステリーは一種の精神疾患なのだよ」

「――あんたもあの塵屑どもに何かされたのかい?」


 喋り方からしてそこいらの平社員じゃなさそうだ、と言うのは彼の偏見とも言えたが、男の纏う覇気や雰囲気はただの男のそれではなかった。ヤクザの様な、そんな深い闇を知っている人間の雰囲気だった。知らずの内に、彼は男の雰囲気に呑まれていた。

 あぁ、同族の匂いがする。彼同様に女によって貶められた男の匂い、言葉どおりにまさしく同族であった。


「……その呼ばれ方も悪くはないな――あぁ、そうとも。私もあの社会の塵共のせいで職を追われようとしているのだ」

「何があったんだい?」


 彼は俄然男に興味が沸いた。自身と同じ結論に至り、自身と同じ境遇の人間、今何処の世の中どこにでもいるが、けれど此処まで考え方が合致する人間などいないが故に興味がそそられた。

 別に男色家とかそう言った物ではない。ただ、気になるのだ。どうしてそんな、言ってしまえば精神破綻者じみた結論に至れたのかを。


「――部下の女性が私の前を通りがかった時、ハンカチを落としたのだ。それを拾って落としたと声を掛けたその時、その女は私を指さして痴漢だと叫びおったのだ」

「なるほど。そりゃあ確かにダメージだわな」


 何かと女が優遇される世界、ある事無い事言われればそれだけで男は居場所がなくなる。その女もそれが分かっているのだろう。そう、今時どこでもそんな物だ。

 ――そうか、そういうことだったのか

 彼はこの男が何故同胞の様に感じられたのか、その意味が分かった。


 女が嫌いなのだ。いや、この世界その物が嫌いなのだ。

 なまじ女に権利という名の権力を渡したが故に今我々はここまで苦しんでいる。そんな世界を許容する世界が嫌いだ、認められない、認めたくない。そうやって男は苦しみ喘いでいるのだ。


「――何の仕事をしているのか、聞かないのか?」

「……気にはなるけど、それよりも何よりも俺はあんたと馬が合う様な気がするんだ」

「奇遇だな。私もだ――私は海上自衛軍一佐、山本英機だ良ければ私の下で世直しの手伝いをしてくれないか?」

「――喜んで」


 心の中で燻っていた炎の行方は何処にやれば良いのか、彼は男に希望を見出した。そう、彼こそ世界中の男の代弁者。彼こそこの嫌な風潮に止めを刺す救世主メシア

 見ていろ、世界よ。見ていろ、女よ。無思慮に人の人生を踏みにじった罪と罰を清算する時だ。このDies irae(怒りの日)を前に得意の泣きも喚きも通用はしない。男がこれまで味わってきた苦汁を、辛酸を、この憎しみと悔しみを、今度は女が味わう番だ。誰にもこの戦いを否定はさせない。




 田中は彼を呼ぶ声に意識を今に戻した。

 そうだ、計画はすでに始まり、今こそ憎き女達に鉄槌を下すときなのだ。それがこんなEMPなどという姑息な手によって邪魔されて堪る物か。

 既に昔の悔しみも憎しみも田中には関係なくなっていた。とにかく女に昔の苦汁を、辛酸をなめさせられればそれでよかった。

 手段など関係ない、とにかく世界に衝撃を与えるに足る一撃を――!それこそ今田中の中に渦巻いている感情だった。


「艦長、イージス戦艦ヤマト改がこちらに突っ込んできます!」


 けれどそれも、今現在文明の利器という利器が使えない状況においては無意味であった。

 四方よもを囲まれ今その牙が剥かれようとしている。機械仕掛けの神はその鼓動を止め、その巨体をただ海に浮かべて終焉を待つ身となっていた。


「中間子防御フィールドダメージ蓄積率50パーセント!危険域です!」

「敵艦隊40ノットを維持して左右から砲撃!一番主砲大破!二番副砲中破!」

「雷跡を目視で確認!魚雷30本!三重水素トリチウム魚雷も確認されました、数15!接触まであと2分!」

「巡航ミサイルの発射を確認、数50!そのうち20は光学ビーム散弾フレシェットミサイル、残り30は金属破片アルミニウム光学ビーム反射弾と推定、接触まであと2分!」


 時間がない、これらを退けるために必要なモノ、それすなわちこの艦に搭載されたあらゆる火器そのもの。けれどシステムや回路そのものを焼かれた戦艦になすすべはなく、中間子防御フィールドはあっけなく破られた。

 追撃の一撃が今まさに放たれようとしている。幾らシステムが復旧してもチャージの時間が足りない。手詰まりだった。

 これでは彼にとっての救い主である山本英機中将に申し訳が立たない。そうとも、この世界のこの世間の風潮に巨大な楔を、裏切ってきた世界その物に転嫁することは許されぬ巨大な逆十字を突き立てると誓ったのだ。それをこんなところで――


 絶望に染まりかけた男の許に、その報告は届いた。満足に抵抗すら出来ぬこの艦その物が始動する音と中間子メーザー砲の起動する音が、戦闘指揮所にいてもしっかりと聞くことが出来た。


「艦長、システム復旧しました!いつでも反撃できます!」

「VLS1番から4番に光学ビーム散弾フレシェットミサイルを装填、他の艦艇からのミサイルを撃ち落とせ!5番から8番に試作防御シールド被膜バリア弾を装填、ヤマト改の砲撃の盾にしろ!9番から10番には煙幕スモーク弾と赤外線式救難信号弾を装填、逃げることに専念しろ!」


 蘇った戦闘指揮所に命令が伝播し慌ただしい騒音が、まだ死なずに済むかもしれないという希望が、田中にはよく分かってしまえた。

 そう、戦争なのだ、これは。お互いがお互いを排するために行う男女間戦争。少なくとも田中はそうとらえていた。女がそう言う手で来るならば男も同じような手で迎え撃って何が悪いか。何も悪くはない。その憂き目に今も苦しめられている男がいったいこの世界に何百人いると思っているのか――開き直れば案外とこの戦いも馬鹿みたいな理由だと、田中は笑ってしまえた。

 そう、笑っていた。ようやく理解した。もはや自分に大義だなんだと言って良いほどの、そんな高尚な想いなど存在していないことを。

 ただ自身が私怨がために。その為にここまで突っ走ってこれたのはある意味で脱帽ものであったが、それに部下を付き合わせるのは何かが違うと、未だに正義とは何かを問い続ける、きっと誰の中にも存在する良心と呼べるものが訴えていた。


 そしてミサイルが発射されようとする瞬間、イージス戦艦ヤマト改の一番主砲と二番主砲が中間子メーザー砲によって焼き払われた。

 その巨大な艦砲を、中間子防御フィールドを抜いてあまりある一撃は海水を穿ち巨大な水柱のカーテンを作り上げ、その衝撃が日本武尊の艦体を大きく揺らした。


「イージス戦艦ヤマト改、一番主砲二番主砲蒸発!」

「艦長、左舷距離10キロより中間子メーザー砲の発射を確認!予測進路、本艦とヤマト改です!」

「型式照合――二番艦荒之皇すさのおと三番艦天之御中主あめのみなかぬしからです!」

「何だと!?まだ信号弾は撃っていない筈だろう!?」


 副官の怒鳴り声に田中はやれやれと言いたげな、そして裏切られたような気さえした。

 後をつけられていた。そう、他ならぬ田中が指揮を執るこの超戦艦日本武尊をだ。信用されていないか、それとも負け犬は後ろから撃ち殺す左翼(共産)主義に傾倒した日本国民にあるまじき骨の髄まで腐り切った主義主張に現を抜かすごみくずどもか、どちらでも構わなかったがただ分かるのは田中諸共機密を葬ろうとしていることだった。


 そうだ、通信だ。奴らの指揮官が誰かさえわかればあるいは――


 無暗にパンドラの箱を開けたくはなかったが、背に腹は代えられない。どの道その一撃のおかげで今助かっている。助かったことイコール味方とは言い切れないのが海上自衛軍女性参画反対右派、帝國軍の実情であるが、どの道通信を繋げねばいけないのは確かだった。

 けれどそれも、嫌な予感と共に相手の方から通信がかけられた。田中が最も信頼した、崇拝の対象と言っても良い男の影と共に。


「こちらは超大和型イージス戦艦一番艦日本武尊の艦長、田中徳太郎一等海佐だ。二番艦荒之皇、三番艦天之御中主、応答せよ」

『――どうしたのだね、田中艦長。君らしくもない』

「――その声は、山本英機中将閣下」

『今の君にそのような呼ばれかた、されたくはないな』


 よく聞き知り見知って来た声とは明らかに違う冷淡な声。まるで路端の石を見る様な、それか蟲の死骸を見るかのような、そんな冷たい声。

 興味が無いとも違う。本当に汚物を見る様な、そんな汚い物を見る様な声。

 違う、こんな物が自身の崇拝する中将の物であって堪る物か。そう否定することは出来ても頭では何故か判っていた。これは中将の声であり、使えない駒は捨てると、そう言外に伝えて来ていることを。

 用済み、使い捨て――そんな言葉が頭の中を駆け巡り、それを裏付ける言葉が中将の口から放たれたのを聞いた。


『たかが女程度、それの能力があればあっという間に殲滅出来ると吠えたのは誰だったかね?――そんな君が、討ち滅ぼすべきである女相手に大敗を喫しようとしている。そんな物は認められん』

「――何をいけしゃあしゃあと、後を追って来ていたんだろう山本英機!ダメージコントロールが追い付かないわけだ、最初から・・・・銅の四重皮膜も真空管処置も対電子戦防御も為されていなければな!それが出来るのは貴様だけだ!」


 そう、中国や朝鮮からの苛烈なサイバーテロの影響を受けぬ様に外界からほぼほぼ遮断された艦内で、その上EMP対策として堅牢な防備を誇っている超戦艦がたかが一回のEMPで沈黙することの方がおかしかったのだ。

 詰まる所、これは出来レースなのだ。


『ほぉぉう。己が至らなさを今度は敬うべき年長者に――いつから礼儀を忘れたのかね田中徳太郎一等海佐』

「最初から出来レースだったんだ!我々が彼奴らを壊滅させればそれで目的は達成され、我々が負ければ実害の報告として――貴様、出来レースで俺を嵌めた上に、裏切ると言うのか!」

『口を慎め、若造。君にも彼女らにも選択を与えた――その程度の実力で我々の理解者を語るなど、恥を知るべきだ。……君に分かりやすいように伝えるとすれば、君の負っていた役割はすでに終わったと言うことだ、道化師ピエロ君』

「貴様は人間の屑だ!人の苦悩を、人の悔しみを利用して、その上で尚人をモノの様に――」


 知りたくなかった、いや知るべきではなかった。こんな奴に尊敬の念を覚え、畏れ敬っていたことが馬鹿のようだ。これでは言葉通りに道化師だ。

 こんな奴が、こんな人間に、自身は当て馬に――端的に言って田中にとって、いやこの超戦艦日本武尊の乗組員全員にとって裏切られた気分だった。賭けのような物のための当て馬として、良いように利用されて殺されようとしている。

 認められない。そんな物を受容できるはずがない。ここでそれを認めることは自身の敗北を意味するがゆえに、故に艦長である田中徳太郎は毅然と言い放った。


「貴様らは軍人ではない!ただのテロリストだ!今日限りで貴様らとの付き合いも、貴様らの出来レースに付き合うのも終わりだ!」


 乱暴に通信を切る。

 最早未練など無い。そんな物を感じるほどの心の余裕も、そして忘れずにそんな物を持ち続けるほどの寛大さも無い。狭量と言われようと結構だ。結局のところそれは他人の評価に過ぎない。要するに自身を、そして同乗する乗組員の命を踏み躙った人間の命令を聞いてやれるほどお人よしではないと言うことだった。


「――総員第一種戦闘配備!二番から三番主砲51センチ三連装中間子メーザー砲、一番から四番副砲パルスレーザー砲起動、目標は荒之皇と天之御中主だ!左舷側に中間子防御フィールドと試作防御シールド被膜バリア弾を集中させろ!」


 既に引き下がれない。引き下がる必要もない。後ろを撃たれようと構わない。ならばせめて一矢報いてやろうではないか、人間を舐めてくれた腐れ外道に。


「荒之皇、天之御中主共に主砲旋回、ガイドレーザーの照射を確認、ロックオンされました!」

「主砲ロックオン完了、未発射の光学ビーム散弾フレシェットミサイル及び金属破片アルミニウム光学ビーム反射弾を装填、試作防御シールド皮膜バリア弾装填完了!いつでも撃てます!」

「第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊、重巡洋艦を中核とした三つの艦隊が転進、ロックオンが解除されました!」

「第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊所属の戦艦空母比叡およびイージスシステム搭載空母蒼龍から無人艦載機の発艦を確認、進路は荒之皇及び天之御中主です」


 寄せられる報告、何故先ほどまで敵対していたこちらに着いたのかは分からなかったが挟撃されないだけマシだと思い直した。

 すでに戦闘用意は整っている。それはあちらの少女達とて同じ。すでに臨戦態勢は整えられその艦砲も発射される時を今か今かと待ち侘びている。これを撃って、責任を取ってこの戦争が終わるならばどれほど良い事だろうか、田中はかぶりを振って戦闘艦橋に響き渡る声で命令した。


「ロックオンが完了したミサイルから順に発射しろ!主砲一斉射、奴らに目に物を見せてやれ!」


 お膳立ては揃った。なぜ第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊手を返して来たか、それは田中にも分からないことだったがこれを好機とみて攻撃を開始した。

 二番主砲と三番主砲から発射される白濁光、戦列に加わった第三十六女子前線艦艇科の艦砲とミサイルと魚雷による過剰弾幕。これを前に幾ら超戦艦といえども荒之皇も天之御中主も対処せぬわけにはいかなかった。

 レールマシンガンの電光が、主砲から発される白濁光が荒之皇と天之御中主に集中し、そして爆音が蒼海を覆い尽くし衝撃波が海を揺さぶった。

 艦隊戦と呼ぶのもおこがましい総力戦。けれど負けられない理由があった。男の矜持を、覚悟を踏み躙られた怒りを糧に、女性側も生き残るために必死で喰らいついた。この場において生を渇望しない者などどこにもいなかった。間近に迫った死の恐怖を、そして生きているという事実の何と甘美なことか。


「天之御中主沈黙!重要防御バイタル区画・パートよりの出火、後退を確認!」


 お互いにどれほどの戦力差が開いていようとも、この数でなら押せない筈が無かった。倒せずとも撤退させるに十分な手傷を負わせられる。この場を見た誰もが思ったことだろう。けれど結果は違った

 後退せずに、主砲以外に碌な損傷も見受けられない荒之皇が艦の横腹を見せながら主砲の仰角を調整していたのが観測手には見えていた。その先はイージス戦艦ヤマト改。


「超戦艦荒之皇、イージス戦艦ヤマト改をロックオン!主砲発射まであと5分!」


 攻撃を許せば殺られる。女を許したわけではないが、けれど彼女達は違うのだと、何となくだがわかった。少なくとも汚い政争や思惑が渦巻く大人の世界と違うと。

 ここでもしも彼女たちを失えばそれこそ一貫の終わりだ。今のこの嫌な世間の空気を変えられるのは同じ女の言葉だけなのだと、先ほどの中将との通信でいやというほどに分かった。ここで殺られればそれだけで全てが無駄になる。


 ならば、軍人として取る行動は……人として後代に見せるべき姿とは――


「日本武尊の中間子防御フィールドを左舷側に集中、ヤマト改の盾になるぞ!総員戦闘艦橋を放棄、艦橋要員及び機銃手は全員艦内に退避ののちに艦内艦橋から操舵する!」

「総員艦内艦橋に退避!」


 これしかないだろう。そもそもあちらもこちらも手負い、碌な戦闘にならないし両艦隊共に弾薬はすでに尽きている。尽きるまで打ち込んだ。それで駄目なのだから艦砲の打ち合いをした所で無駄だ。ならば逃げる時間稼ぎくらい――

 男ならばせめて一回くらいはやってみたいシチュエーションではあるが、いざやるとなるとかなり覚悟の必要な行為だと思い知らされる。

 先ほどまで好き勝手言っていた癖にまた何をと思うかもしれないが、どの道寄るべき大義はすでに失われている。世間に事実を知られれば社会的に死ぬことになる。そういう打算も無いとは言い切れないのが田中にとっても他の乗組員にとっても悲しい所だろう。


 赤色灯の灯る艦内艦橋、そこで田中は通信機を弄り、カメラの電源を入れマイク付きのインカムを耳に当てた。


「こちら海上自衛軍女性参画反対連盟“帝国軍”所属、超大和型イージス戦艦“日本武尊”艦長田中徳太郎一等海佐だ。第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊、応答せよ」

『こちら第三十六女子前線艦艇科決戦艦隊旗艦イージス戦艦ヤマト改艦長渡辺明野一等海尉です』


 数秒のコールも無しに繋がった回線。すぐに通信に出てくれたことに内心安堵するが、既に2分30秒が過ぎていた。あまり長い時間通信できないのは確かだった。


「二番艦の荒之皇にロックオンされているのは気が付いているだろう?お前達は逃げることに全神経を注げ、日本武尊が盾になる。我々が攻撃を受けていられるのは数秒だけだ。その間に電磁発煙弾発射機スモークディスチャージャー抗光学弾アンチビームミサイルを焚いて離脱しろ」

『――何の心変わりだ?貴様らが仲間割れをしだしたから、今回は多勢に無勢ということで手を貸したが、こちらは一佐殿を信用した覚えはない』

「――ただ単に、己の信じて来た主義思想に裏切られただけだ」


 男のその言葉にマイクとカメラ越しに女がたじろぐのが見えた。それほどまでの醜態を晒しているのかと思うと少々情けなく思えたが、醜態など晒し慣れたし不道徳な事も数多くやって来た。社会的地位もたった今失った。これ以上失う物は何も無い。

 達観していると言っては違う。諦めが着いたと言った方が正しいだろう。失う物は少なくとも自分には何も無い。いや、女に裏切られ女に傷つき女によって道を奪われた乗組員に残した家族も何も無い。あったとしてもそれら全てをなげうってここに参加している。悔いはなかった。

 故にこの独白も己の後悔をただ口にするだけの、少なくとも何かの影響は与えるだろうと信じたい、そういう抵抗があった。


「――いいか、我々は間違えた。手段も方法も目的も何もかもだ。だが君たちならば、裏側と清濁を知った君たちならば世界を変えることが出来る。だから君達は闘え、そして君たちを取り巻く世界を変えるんだ。そうすれば、きっと世の中うまく回る。

 此処にいるのはそのうまく回らなかった世の中によって排斥された余り者たちだ。きっとこれから先、女性が更に傲慢になっていけばゆくゆくは君達にまでその弊害が及ぶだろう。だから生きろ。生きて勝ち取るんだ。自分達の存在意義を――」

『――貴様らがどんな人生を歩んできたかなど知らん。だからそう言われた所でどうとも言えん。だが一つだけ、言ってやれることがある』


 間違えて欲しくはない。負けて欲しくはない。心変わりと言ってはなんだが、あの外道に負けたくはないのだ。

 とっくにプライドも自尊心も擦り減ってしまって薄っぺらくなってしまったが、それでもあの外道の様にはなりたくない。あの外道とのチキンレースに負けたくない。そうでなければ反抗した意味が無い。

 存在意義など求めていない。ただ一度も勝利のない人生、一度くらい花を咲かせたいじゃないか。そういう男の誰しもが持つ意地が、盾になる決断を、覚悟を持たせたと言うのはまた皮肉とも言える事だった。


『生きることを諦めるな。お前達がそれを罪だと思うなら、それは生きることが償いになる。

 私も子供の頃はいつだって死にたいと考えていた。いっそ自身が生きていた痕跡が、生まれて来たという証拠全てが、もっと言えば私を取り巻く世界という記録媒体から消えればいいと思っていた……誰も気にしないと思っていたからだ。だが違う――きっと、お前の傍にも、そっちの乗組員一人一人の傍にも、お前たちを想って涙する近しい人間がいる。

 その人間一人ひとりに対する責任と義務を放棄して死ぬこと、それこそが罪だ。

 何度でも言う。“生きることを諦めるな”』


 明野のその言葉に何を受けたのか、男の中で何かが変わる様な気がした。


 もっと早く、こういう純粋バカに会いたかった。そうすれば此処まで思い悩むことも、こんな馬鹿なことをやることも無かったのかもしれない。いや、今言ってもせんない事。すでに起こしてしまったことに責任を持たなくてはならない。

 田中は通信を切りながらモニターに映る外界と、地図のデータを見ながら指示を出した。





 イージス戦艦ヤマト改よりも一回り以上巨大なその巨体が、荒之皇とヤマト改の間に挟まる位置を取った。

 中間子防御フィールドがあまりの濃度に可視化されそれらが艦体の左舷側を覆い隠して防御の姿勢を魅せる。これで守りきれるなど思っていないが、自身を盾に逃げる時間稼ぎ程度なら、そしてそれを可能にするだけの装甲も防御フィールド、防御シールド皮膜バリア弾がある。ただで退くつもりはなかった。

 乾坤けんこん一擲いってきの一撃は与えられないが、ここには最強の盾がある。文字通りのAEGISアイギス、その名の通りこれだけは守り抜いて見せる。それが自身の通すべき維持である故に――


「此処は絶対に通さん!山本英機、人を裏切ると言う行為を、人の思いを踏み躙る大罪の意味をその胸に刻んで行け!」




 荒之皇の主砲、51センチ三連装中間子メーザー砲から白濁の光が同型艦である日本武尊に向けて放たれた――







 タイトル詐欺はしません。今回の損傷でお気づきの方もいるかもしれませんが、多分御想像の通りとだけ答えて置きます。

 設定資料集を一応書いていますが、実はこれ八話くらいに引き延ばそうかと思っています。本編で語り切れなかった所や主人公の一人称視点だけで進む主人公の気持ちとか、いろいろ姉に駄目だしされたので本編である四話(五話くらいになりそう)が終わった後は“現世”の方の更新を優先して行くスタンスで行こうと思いますがこれからもよろしくお願いします。

 ――てかこれってそんな面白いですかね?

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