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掌編小説集4 (151話~200話)

裂け目

作者: 蹴沢缶九郎

部屋の空間に縦5センチほどの裂け目が出来た。裂け目の向こうを覗くと、綺麗な花が咲き乱れ、時たまそこを美男美女が行き来している。以前何かの本で見た事がある、天国の風景を描いた絵、裂け目の向こうはまさにそれに似ていた。


裂け目から、俺は通りかかった美男子に声を掛けた。


「あの、すいません」


美男子は驚いた様子でこちらにやってきた。


「これはどういう訳だろう。裂け目から人が話し掛けてきた」


「どうもこんにちは。あなた方のいるそこは一体どこですか?」


「どこと聞かれても考えた事がない。気がついたらここにいたのです」


「そこは地球ですか?」


「地球? わからないけど、違うと思います」


美男子は地球を知らないらしかった。という事は、裂け目の向こうは地球以外のどこかという事になる。俺は続けて疑問をぶつける。


「見た所、そちらは美しい方々が多く、世界も素晴らしいようですが、どんな所なのですか?」


美男子は誇らしげに答えた。


「あなたが見たままですよ。争いがなく、住んでいる人間皆が優しい。自然も豊富で、病気や老いもない…。強いて挙げるなら、少々退屈は感じますが、そんな事は些細な問題だ。あ、すいません、約束があるので失礼します…」


美男子は去っていった。今度は、その美男子と入れ違う形でやってきた美女に声を掛けた。


「すいません、僕を見てどう思います?」


「突然変な質問をする人ね。…でも、魅力的な方なんじゃないかしら。正直お付き合いしたいとも思うわ。だけれど、こちらの世界にいらっしゃらないんじゃね…」


美女は残念そうに言うと、別れの言葉を告げて歩いていった。


美男子や美女の言葉、そして自分の目で見たあちらの世界に、俺は俄然と行きたくなった。とは言え、5センチほどの裂け目を通れるはずもなく、その日から、俺はインターネットや様々な書物で、空間の裂け目に関する研究を始めた。

だがこれといった成果は挙げられず、依然として大きさの変わらない裂け目はそこに存在するのだった。


こんなにも近くて遠い世界に馳せる俺の気持ちは日に日に増していく…。争いのない美しい世界、募る思い、5センチの裂け目…。


増大した思いに動かされた俺は、生まれ変わったらあちらの住人になれる事を祈って、高層ビルから飛び降りた…。



いつかの美男子と美女が大きな木の下で話していた。


「君も会ったっていう裂け目から声を掛けてきた男の人、覚えてる?」


「ええ、魅力的な人だったから覚えてるわ」


「地球って言ったかな? 研究が進んで、今度、僕らの世界と地球が繋がるらしいんだ」


「じゃあ自由に行き来が出来るようになるのね。あの男の人、最近見かけないけど、喜ぶでしょうね」

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