黒夢
暗闇の夢を見た。
光など存在せず、見渡す限り、黒、黒、黒。全てが等しく黒で塗りつぶされた空間では、どこに何があるのか、それどころか、私がどのような体勢でいるのか――立っているのか座っているのかすら、よく分からなかった。
急に心細くなった。暗闇が私を飲み込んでくるように感じたからだ。私は一人でいることに、耐え切れなくなってきた。
――否。
私以外にも一人、この暗闇の中に居た。闇の中で唯一、その少女だけは、たしか見ることができた。周囲の黒と対になる、純白の服をきた彼女は、確固たる意志を持って、闇に対峙しているようだった。
「何を支払う?」
唐突に、闇の中から声がした――いや、闇そのものが話していたのかもしれない。
「私の命じゃダメ?」
少女は答えた。その声は、彼女の服の色のように、闇の中でも輝いていた。だが闇は、彼女の答えを鼻で笑った。
「貴様の命に価値など無い。理由は貴様が一番よく分かっているはずだ。」
私は怒りを感じた。この声が誰のものかなど、分からないが。彼女がそのように、蔑まれるべきではないと思った。しかし、当の本人は心あたりがあるのか、毅然とした顔を少し寂しげに伏せるだけだった。
「……それなら、私は――。」
彼女は顔を伏せたまま、絞りだすように声を出した。再び顔を上げた時は、僅かな寂しさを残したまま、また毅然とした表情に戻っていた。
私は彼女が、この後何を言うつもりか理解した。だからこそ、彼女を止めなくてわならない、そう思った。このままでは、彼女は後悔することになる――と。
そして私は、こうも思った。彼女を止めることは出来無い――と。彼女の顔には、それを思わせるだけの覚悟があった。私は夢のなかでは、無力だった。無力な自分が嫌だった。
こんな夢を私は見た。悲しい夢だった。