【08】状況を考えて
でも、当のアイは別に気にした様子はなくて外を見ながら「すごっ、何あれ」なんて、何もないところを指しながら言っているので、僕はそこまで興味ないんだと自嘲気味に笑った。少し複雑に思った。
僕は、アイの本当の姿を見られてないのだと思う。別に、出会って二週間も経っていないから解るはずは無いのだが。しかし、アリカが言うように彼女は別の顔を持っている、というか裏があるというか。うまく言葉に出来ないけど。
――自分を偽ってる感じがする。
だからって、そう思っても僕がどうこう言う立場でもない。彼女が心を開いてくれるのを待つか、それとも悩みを聞くぐらいしてみるか?厚かましいかな?
「ヤマキさん。後どれくらいなんでしょう」
気分を変えるように僕はそう問う。その問題については、本当に関係ない。僕は無関係、というか彼女自体僕をどう思っているか判らないのに一方的に突っ込めないだろう。
「残りは、8kmと思うが、帳――――分かった。それくらいだってさ。といえば、この車は凄いな。何をエネルギーにして動いているのか」
「水素……ですか?それは補給が必要だから、空気でしょうか、ハハハ」
ちなみに、本当にヤマキと帳は苦手である。なぜなら、なんとなくやりにくいからであるが、昔「大人なんて関係ない」とか言ってた気がするのは……気のせいでいいだろう。
まだ、二十代の前半らしい。つまり、この集団で一番年寄りはアリカだということで、まぁ年寄りには親切にしないとな。と思った。
「ねぇ、こうくん」
アイが僕を読んだ。なんだろうと、僕は「なに?」と返すと、少し間が空いて彼女は
「君はさ、自律してると思う?」
外を見つめながら言う彼女は、何だか寂しそうでしょんぼりしているように見える。僕は、少し慰める言葉を探したが、見つからなかったので「どうだろう」って言った。
「私はさ、自分っていうのが無いんだ。君は、どう?そう感じる?」
「突然何言ってるのさ。――でも、アイはアイじゃん」
それでも、足りない。というか、全く少ないがこんな感じでいいだろうか。アイはどう感じたのだろうか。
「………そう……だね。ごめん。忘れて」
「忘……れないけど、なんでそんなことを聞くの?今の自分は嫌い?」
聞いてみた。別に、考えて発した訳じゃない。身体が、本能的にそう問わさざるを得なかった。彼女の気分を害しただろうか。忘れてと言ったのに、突っ込んでしまってどう感じたろうか。
「うん。凄く、……嫌い」
「どうして」今度は、本気で「なんで、そう思うの?ここまで聞いたら、話してもらわないと」
もういい。全部聞かないと僕の本能が許さなさそうで。でも、と自分も思う。何か、自分の中に二つの人格があるような感じがしていた。今は、新しいほうが僕のような。そこまで自己解析が進んでいた。
だから、彼女もそんな気分であったら共有して、少しでも楽になればなって思った。
「自分を守るために、生きていくためにその場のノリで、雰囲気で、友達との関係で、偉い人の前で、自分を変えてきた。だから」少し潤んだ瞳で振り返り僕の目を見て「自分が解らないの」
その儚い彼女は、潰れそうな笑顔で微笑んだ。それはもう、反応が分からなかった。どうすればいいか、昔の僕は判ったろうか、僕は心理学者じゃない。解るはずもなかった。
「今のアイが、アイなんじゃないかな。それがアイじゃん。少なくとも、僕と会ってからのアイは、そうだった」
「それが……それが嫌いなんだよ。でも、そしたら今の私でも、こうくんは見ててくれるの?」
上目遣いで彼女は僕に問うので「そうだ」と僕は答えた。
この時、僕は彼女を守らないといけないんだな、と思った。もう、彼女は凄くか弱くて、自分でも自分を攻め続けている。もう、どうなるかなんて、見ていられないだろう。
「ありがとう。でも、別にこうくんに特別な感情は持ってないからね。割りと本気で」
じゃあ、この頃感じていたのは僕の勘違いであったのだろうか。まぁ、そこはどうでもいいか。アイがいいなら良い。
「そりゃそうだ。僕のことをそこまで知らないもんな」
いうと、彼女は少し困ったように眉を潜めて、
「じゃぁ、教えて。全部、全部を。生徒会長の時とか、それ以前も」
「時間があったらね。でも、僕も凄くあやふやだからはっきりとした時にね」
「それは、話したくないから引き伸ばす人の言い分だぁー。勉強したくないから明日しよ~、なんて言ってるガキと一緒の言い分だ」
ニヒヒと笑う彼女は、すこし戻ったように言う。目尻の涙を人差し指で拭ってから、僕の肩に頭をコトンと落とした。
これじゃぁ、なんか、僕の彼女のようだな。と、彼女いない歴=年齢の彼は思う。どんなに完璧だった(・・)としても、女性の扱いが酷い昔の誰かのようだった。それが、自分だとはもう思わなかった。
その状態で少し考えた。例の彼女との出会いで僕は変わってしまったというか、アイと同じように自分が違うように思っていた。
キスが原因だろうとは思っていた。でも、それだけでは転機にはならなかったと思ったが、それ以外、変わるといえば何も思いつかないのが現状で。
それを思えば、彼女は、――アイは、自分の意志がある。何を思ってこんなことを言うのか。それがわかれば、アイとはもう少し心の距離が縮まるだろう。
◆◆◆◇◆
彼女は、宙に浮いたタッチパネルを何十個も開いて操作しながら独り言を呟いていた。
周りは、円を描いたタッチパネルしか見えず、それより外は多分『無』なのだろうと感じさせるように黒かった。黒いと言うより、色が分からなかった。
自分のメモリーの中の情報は、別に忘れはしないが、このように操作感覚では引き出せなかった。この状態になれば、クラウドからの情報管理が何十倍にも楽になり、それに、昔からの情報を見なおせたり、整理しやすい。
でも、彼女は自分でどこにいるのかそこまではっきりとは解っていなかった。
恐らく、彼――鴇朱康の医師データの中に居るのだろうとは予想はできていたが、それを証明はできないでいたからだ。
真っ暗な世界で尚、彼女は一つのことに集中していた。
それは、地球人の《ヒト》化。監視しているのは鴇朱康。この黒の世界は、康のデータ、開放率やそれ以外の観測にはもってこいであった。それは、康の中であるのと彼女には考えさせるを得ないが、どうでもいい、と言うのが第一に考えなかった。
「《テラ移民》は縄張りの3kmに入れば、問答無用で攻撃、ね。なんて野蛮なんだ。康は知ってるかな?教えとこう」
康達の状況はリアルタイムでも解っていた。ついさっきまで杜宮亜李と言うめんどくさい女と話していたことくらい知ってるさ。全く。
クライドとの通信で、半年前は《カムオル》を中心としているのは分かった。だから、康には言わなければならない。しょうがないが、彼は実験台。不意打ちで壊れるのは論外だ。
「開放率はそこまで高くなってないはずなのに、なんであんなに筋力が高くなるのかしら。支配率が増えてるのね――――――どこまで《ヒト》に近づけるんだろう。楽しみ」
フフフと笑って、パネルに手を伸ばす。最新情報は読んだので、通信をしていなかった600年間の情報に目を通しておかないといけない。
彼とは『夢』という形でしか会話ができなかった。一度だけ、ぼくの《ブラッドデータ》を書き込んだ時に暴走した時に実証済みで。
しかし、最近はしりとりで忙しかった様で、ちゃんと寝ていなかった。会話できず、ぼくの存在を認識していないのはしょうがない。
それを、自分の二十人格の二つ目だと思い込んでいるようなようで、自己崩壊をしてしまう事は、少なからずも考えられた。でも、さすがのぼくでも、強制的に寢らせることは得策とは思えなかった。インストール時に凄く拒絶されたのでそこは、自重させていただく。
「嘘ッ!?《マキア》が銀河の40%を抑えた?三ヶ月前って……地球に来たことが二回なのに?」
マキアとは《マクスカイア同盟軍》の略称であり、自己で総称する時がある。ぼくらはそうやって呼んでいる。
《マクスカイア》は、デロスと言う恒星を中心に、銀河系の中心に近い星である。極端に科学が発展しており、『宇宙の平和を守る』を建前に活動している。
恒星の大きさは、太陽の二倍に近いが、五億倍の質量を持っている。
マクスカイアは星そのものを機械化要塞としており、許可がなければ近づくどころか視界に入れることもままならない。大きさで言うと、木星の倍だが科学こそ、どこも敵わないまさしく銀河一であった。
しかし、ぼくらの母星のように人間のデータ化は行われていない。恐らく、ぼくらの母星が生きていれば、もしだが《マクスカイア同盟軍》よりも上だったかもしれない。
【超能力者】と《マクスカイア同盟軍》は因縁があるそうで、相互に干渉していないようだ。軍の人間は『機械化』の手術を受けているようで、ロボットスーツのような人間戦闘機というか、砲台が付いていたりするロボットを着て戦う。その外にも戦闘機を人型ロボに変形させて戦うようだ。
地球に派遣されてきたのや、パトロールをしたりしているのは、下っ端の、そのまた下っ端で、手術に失敗した不適合者ならしい。
大量に居るようだが、それでも一人で大半の戦力を上回るであろう。それは【超能力者】がいない時だが。
恐らく、スメラギ・アリカと鴇朱康、杜宮亜李しか地球で戦力にならないと思っている。その前に、杜宮亜李と言う彼女は誰なのだろう。ぼくでも全く解らない。
まぁ、アリカでも、《マクスカイア同盟軍》の少将二位くらいの力量だと思う。康は、今の戦闘力で中将一位ぐらいと思う。大将や、それ以上になると、もう敵わないだろう。それも、現在の話で、開放率が上がればそんな問題は解決される。
開放率は、例えば50%開放されていたとして100%になれば二倍強くなるわけではない。
1%で、1.5倍くらい戦闘力が上がると思えばいい。それなら、約80%を超えれば大将を皆殺しだろうと思った。
「150年前に戦争?――は?《マクスカイア同盟軍》が40%の損害!?どこ?プルーティア軍艦隊?どこよ」
記事を読みながら二度目に驚いたのは、それは。プルーティア軍艦隊は太陽系の惑星の軍艦であったことだ。しかし、プルーティア軍艦隊は65%蒸発し逃げたという。
600年地球とその周りを見ていたが、そんな星があったというのか。
イオレールを離れた時、プルーティア軍艦隊とは出会えるかもしれない。そんな期待をしておく。
彼は、ぼくと同体していっているはずだ。ちゃんとした人格を保っているのは、ぼくの方だけで、彼にはぼくの一部の人格が混じっている気がする。
多分、彼には自分ではないと思い込んでいるかもしれない。
性格すら同一化されているようで、そろそろ、おかしいと思っていると思う。いつ、彼が壊れるかも心配だった。
まるで、自分が自分でないような。自分が誰かが分からなくなってしまっていたり。
実験台が壊れるのは、色々と困るのでぼくはさすがに彼から出ないといけないと思う。まぁ、どこに居るか知らないが。
勉強します