【05】僕はなに?
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ぼく達は、人間だった。広い世界で、あの太陽系という星の正反対の方角に同じ人間という種族が成り立った。それから、この地球とは少し別の進化を遂げた。
それは、科学技術だけの進化である。人が生活できる環境から離れていったぼく達の星でも生きていけるように、次世代の生物に自主的に、自律的に進化した。コンピュータに人間とを同一化する――つまり、人間の脳を数値としてコピーし、思考能力、更にそれに準じる通信機能を追加した。
その大規模な人間移植計画で、十分の九が死滅してしまったが、約七千の《ヒト》が思念体として、自立思考集合体として成立した。
《マクスカイア同盟軍》は、最終的にぼく達の星を見つけられなかった。でも、その星で永遠に試行プログラムの演算が終了するまでコンピュータが稼働し続けている。
600年前、近くの星であったイオレールが地球と接続したと聞いた。そこには、ぼく達と同じ人間がいた。しかし、それは旧式……まだ何も発展してもいない星であった。
しかし、その星はあまりにもぼく達の母星とは離れすぎていたためいろいろな干渉をするのを避けていた。閉じられた後もそれは変わらず、傍観と記録を続けた600年間であった。
扉が開けば、半分以上の距離が縮まるので、狙うならその時だった。
人間の鑑賞を続ければ続けるほどに、未知の能力が気になっていった。なぜなら、この星の人間は85%以上の脳の思考回路を無意識的に閉ざしているからだ。
《マクスカイア同盟軍》が言った「旧式」という単語は、元より彼らには当てはまらなかったのだ。制限を解けば潜在能力、彼らの元からの能力が使えるはずなのに。と、そう考えるようになった。
そのためには、その制限を外せる何かを造らないといけない。【人間強制開放プログラム】ぼくはそう名づけたプログラムを独自に開発していた。――開発というよりか、想造と言ったほうが近いが。
距離がどう変わろうが、《ヒト》のクラウド回線の通信速度は変わらないが、近くに来れば少しは安心する。そのため、独自に創造したそれを、もっと正規の品にしたかった為手伝ってもらうことにした。
被験体は、地球で見つけた進化の二段回目である彼だった。
そして、唯一宇宙間の超空間移動法を開発したイオレールに到着した。云えば、この星は『どこで○ドア』を作ったと云えば解るだろうか。これまでは、光速以上の加速とそれに、単体である事が条件だったワープを何も代償なしに永続的にできるその門は、宇宙内でも凄い開発であった。
なので、ばく等もそれを使わせて貰ったわけだが、空気の同調の問題などは解決したのだろうか、なんて不意に思うが。まぁ、どうでもいいだろう。空気の成分の割合の変化なんて。
被験体の実験は良好だった。
脳の開放率は未だに35%であるが、既に地球を支配している宗教の力を超えた。云えば、地球一の力である。
そして、開放率を上げていけば、宇宙間の移動など簡単だろうか。
まず、身体の構成の変更と、機動力の大幅な増幅。それ以外に改編するところがあるのだろうか、とも考えたが。まぁ、行き詰まった時に考えればいいか、とスルーしておく。
彼は、100%の《ヒト》になって欲しい。少なくとも《マクスカイア同盟軍》を全滅させて欲しいところだが。
それも、まずぼく等の出身の星に辿り着かないといけない。それまで、サポートはしないといけない。
これは、ぼくの戦いだ。
◆◆
目を擦って大きな欠伸をした。コンクリートのような地面に横になっているようで、僕は少しそこで伸びをして上半身を持ち上げた。寝違えたようで首が痛かった。
自分は学ランを着ていて、動きにくかった為上着を脱ぐと、僕の名を呼ぶ声が聞こえたのでそちらへ顔を向ける。
「康。起きた?」
これは、アリカ宗教の幹部であった、杜宮亜李という女の娘の声であった。
黒と青の中間色の髪色をしており、瞳は灰色である。本人曰くクオーターというが、それを疑うほどに日本人の血を感じないくらいの容姿をしている。――とても可愛いという意味で。
童顔で身長が155である彼女は、アリカ宗教ではマスコットのように扱われていたらしい。
「杜宮さん。アリカくんは?」
「………昨日みたいに私にがっついてこないね。覇気が無いというか、誰?」
「いや、そこはどうでもいいんだけど。がっつくってどんな表現か問い詰める必要がありそうだけど、まぁ。アリカくんは?」
「スメラギ様は昼食の調達だよ?どうして?」
小首を傾げるようにいう。小動物のような愛らしさを感じた。
女子っていうのは、可愛ければそれで男子に無敵なんだよな。と、思って立ち上がった。――ろうとした。
しかし、下半身に力が入らず立ち上がれず、その代わりに変なふうに横に倒れた。
「あれっ!?」
「言ったじゃん。昨日は私にがっつき過ぎたのって。離してくれなかったのは康じゃんさ」
ニヤニヤと笑う彼女は、片目を瞑りながらいうので。しかし、それが何のことか分からなかった。彼は、悔しそうに床を叩くが、妙に冷たい床も僕をからかっているように思えた。
「っね。ドーテーくん」
アイとは別の方向から声がして首だけそちらへ向けると、縄を重そうに引っ張るもう一人のアリカの側近だというヤマキという男がいた。
筋骨隆々というか、そんな体つきの彼の後ろには、例のアリカがいた。
「帳が外でバーベキューセットっぽいのを作っているよ」
アイがヤマキと、アリカに云えば、「そうか」と素っ気無くヤマキが返すと背を向けた彼は、入ってきたドアから外へ出た。
思えば、此処はどこだろうか。ねずみ色のコンクリートで四方を囲まれているように見えるが、ちゃんとした部屋なのだろう、少し崩れたキッチンのようなそれが見える。
アリカが口を開く
「こうは、俺らに協力するんだよな。だって、アイを貴様にやると約束したからな」
「は??」
「どうしたの?昨日は凄かったのに。スメラギ様とヤマキと帳の3pで興奮してたのも覚えてない?」
それから、ほんのりと頬を染めてから
「私とのやり取りも?……あんな事されたのに?」
最後がそこまで聞こえなかったが、昨日僕は何をしていたんだ?マジで不思議に思えてきた。
「返答は無用。契約は成立しているからな」
それから、アリカもヤマキに続いて出て行った。「まてよっ!!?」という呼び止めに返事はないので、僕は立ち上がることを諦めて匍匐前進で進もうと腕で方向転換し右手から前に出した。
アイは、そんな僕を見て笑って僕の背に飛び乗った。ぐへぇという僕の叫びにも動じずに「いけー。出口はすぐそこだー」なんていう。
退いてくれることは願うだけ無駄なのでそのまま進むことにした。
誰か、事情を説明して欲しかったが、この四人には暗黙の了解なのだろうから、無理に決まっているな。
やっとのおもいで、外に這い出るとアイはぴょんと僕の上からおりた。その時に踏み込んだ両足が肺の空気を押し出してうぐぅなんて叫ぶが何も気にしないアイは少し酷いだろう?
一度、ため息をついて立ち上がろうと、もう一度足に力を入れてみれは、次は楽に立てた。さっきのは何だったんだって話であるが、もう気にするな。
「私の能力は、近くの人の筋肉に付加を加えたり、脱力させたりするの。強化系だな」
ふらふらと立ち上がっていく僕をジト目で見ながらそういった。でも、それはそれでアイの可愛さが引き立っているようで。
外の歩道は、地面がアスファルトではなく、なんだかぷよぷよとしたモノで、それが何だかは解らない。道路脇には、廃棄された車が沢山あった。600年前に放置されていた物のようで錆びれているし、中の座席などは腐っていたりしている。
その中心で、帳という女性がレンガのようなモノを組んで火を炊いているのがわかった。
やっぱり、東京より高度な文明なんだと理解した。高いビルは果てしなく、でも天辺らへんは透明で、そこまで息苦しくは感じられなかった。でも、600年間手入れは無かったので苔が生えたりしているので、どこまで高いかは分かった。
でも、透明なのと、崩れた建物が見えないので強度も予想以上にあるんだなぁ、と感心していると
「で、私はどうすればいいわけ?」
と、僕の方を向いて、少しスカートを引っ張りながらもじもじと彼女――アイはいう。
「は?どうってなに?」
そう問えばアイは、「だからっ」って
「私が欲しいとかなんたら言ってたでしょ」
「ああ。なんかそんなことを言ったような、言ってないような……」
「言ったのっ!!!!」
怒ったようにアイは云えば、帳が僕を呼ぶ。
「善良神君よ、肉の解体を手伝ってはくれないか?」
帳は遠くに見える原生生物の死体を指しながら言うのが聞こえる。ヤマキとアリカもそこに居て、僕を手招きしているようだ。
「だから、言われたのは初めてでさ……、奪われたもん……その……。だからッ!!」
「何が言いたいの?まとめといて。――あ、はーい。今行きます」
アイにそう言って僕はプログラム構成を変更するように考えた。恐らく、昨日の刀は斬る(・・)と言うより打撃だったような気がするので、包丁のように鋭い刃のモノを創造した。
腕の支配率を50%にすればあの肉塊を三分で解体できる自信はあった。
元より、腕もそうだが、身体の70%くらいが身体の機動性により制限されている。一時的に100%を動かせる時もあるが、それは例外で、基本は安全面からそのくらいを封印していると言っても良い。
走りながら肉塊に向かって飛んだ。包丁は手に生成されて康はそれに振り下ろす。細かに振動させながら骨も肉も切り刻む。実際には、五分かかってしまったが、全身をくまなく切り刻んだ。大きさが予想を超えていた。
「だーかーらー」
戻ってきた僕にアイは、腰に両手をあてて頬を膨らませていた。
「話を聞いてよ。なんで聞いてくれないの?こんなに可愛い娘が、こんなに言ってるのに」
「はぁ……可愛いですか」
僕はまじまじと彼女を眺めた。確かにそう感じる人はいるような。でも、最近僕も彼女にそうやって言った記憶がある。でも、確かなものではないと言ってもそれも事実であるが。
「そんな反応しないで。!!こっちが困るの」
ギャーギャー喚くアイを放っておいて、切られた肉を一口大にしたものをヤマキとアリカが持ってきたので僕は帳の方へ向かって歩く。
「あっ!!だからさ~」
怒っているのか、どうか解らない彼女は、そんな僕の背におんぶされるように飛び乗ってきた。
それは、僕にとって少し初めてで、双丘の柔いものが背に押し付けられてきたので、少し興奮する。幼い顔つきの割に育つところは育っている。
一時期前に先輩含め皆で行った海でも、成り行きでハーレムになったことがあったが――一緒に行ってた男子が同時に腹を下していた時に――まぁそんな事はどうでもよくて、彼女がそんなことをしてくるとは予想外であった。