【01】神と能力と僕とぼく
【01】神と能力と僕とぼく
自分が変わっているとは思わない。
僕の歳になれば、【超能力者】と非能力者の比率は4:1位で、まだ非能力者のほうが多い現状である。
僕も、その非能力者の一人で、今日はいつにもまして面倒な一日である。
今も、学校で押し付けられた生徒会長の業務をこなしていると云う現状だ。
北王子私立学園合同五連結高等学校の今年の文化祭では、開校二年目の五連結した高校全てを舞台に文化祭を企画していた。もともと、近かった高校でそれを、僕を生徒会長に指名したナリヤンが買収した、と、云うことで。
デスクに座り僕はてきぱきと手を動かしていた。
頼まれた仕事を絶対に断らず、自分がどんな状態でも引き受けるためについたアダ名は『善良神こー』であった。
アダ名と言うより、二つ名と言おうか。最終的には『しん』って言われてたから。
まぁ、それは置いといて。今は本当に危険な状態であった。初めて頼まれた仕事を終わらせられない状況に陥ったのだ。
そんな事は、初めてで焦っていた。
「会長、次の合同文化祭のプログラムの編集終わったので見本を置いときますね」
「部活の経費の計算が終わりましたっす。確認お願いしまっす。会長」
と、云う風に紙がどんどんデスクに増える一方でほんとにやばかった。
全てに目を通しておかないとこの学校を運営できないのは解っていることで、手を抜くことはできなかった。
不思議なことに、この学校の教師は生徒たちの行動などに一切干渉しない。それは、理事長側の方針らしいのだが、それは生徒会に死刑執行をしているようなものである。
生徒総会では、回答を職員会議で審議することなく生徒だけで考える。
この学校に生徒を送っている親側はさぞかし心配だろう。
しかし、そんな電話はほとんど掛かってこない。この時代、学校に通うこと自体が恵まれているからだ。
一部の資産家は、この学校のように買収した高校を格安の学費で通わせることをしているのだが、それすら払えない人たちも少なくはなかった。
この学園の生徒会長は――僕だけど――他の四校の高校の会長とも掛け持ちをしている。だから、二年連続で僕に押し付けられているのだが、それが結構人気なイベントをすると云って来年も僕が生徒会長になることが決定している。
別に、いいのだが、少しだけ残念に思っていた。
ずっと人の言いなりでいいのか、と言う事である。今まで、僕は親の言うことを忠実に守り、先生の言うことを守り、何もかもを人から決められて生きてきた。
それは、自分が何も決めきれないような人間であることが原因のようだが、それを不思議に思えてきたのだ。何ひとつ自分の意志がない、と。
しかし、それを思う前に、今は自分の使える時間を確保するのが優先だった。
現在午後6時50分を回っており、案外薄暗くなっている。
そんな時間なので、僕は「もう、帰ってていいよ。また明日やろう!」なんて云って皆を帰らせようとした。
いつもどおり、彼女らも望んでいるだろう。めんどくさい仕事はやりたくない。なんて。だから、せめての親切のつもりだった。
「いや、会長。まだ仕事が……終わるまで居ますよ」
と、僕を気遣っているようだが。「いやいや、今日はどうせ終わるまで帰れないし、此処に泊まるよ」笑って返すと、少し表情を歪めて
「一緒にいるのはダメですか?」
と、云う。
でも、女の子が一泊するのはいささか危険と判断したので「どういう意味かは分かりかねるけど、女の子が一緒に泊まるのは、ね。危険じゃない?」って言った。
「別に、会長ならそうも思いませんけど……。判りました。日を改めます」
って彼女が笑うから、僕もニコってはにかんだ。
――結構この娘可愛いに、大胆だなぁ。と、考える始末で。
「では、会長。私達は帰りますね。資料はわたしの机に置いといてください」
「お疲れっす、会長。また明日っす」
扉を出て行くのを見送ってから、僕はまたデスクに座り直す。尻が先程から蒸れていて少し気持ちが悪かった。
「はぁ。女性の対応は疲れる」
つぶやいて、貰った文化祭のプログラムに手を伸ばして取ってみる。ピンクが基調となった色紙で出来ていた。
――あ、僕の名前。
会長兼全責任者;鴇朱康
そう書かれていた。驚いた。去年は名前は書かれていなかったのに。
――まぁ、今年からの五連結祭だもんね
と思って、引き出しの中にそれをしまう。祭は丁度一ヶ月後である。
そして、ふと思い出した。五日後が開放式ではなかったか。と。
開放式とは、600年前の扉の構造を解析していた科学者たちが発表した《鍵》でその扉を開けようとしている式のことである。
僕は、異世界に行ってみたいと思っていた。僕を必要としてくれない世界。そんな所を知ればこの世界で、この現状で嬉しいとさえ思えるのではないか?なんて密かに思っていたりするのだ。
静かな生徒会室で、僕は山積みの資料に目を通しながら考えていた。
扉の向こうは“イオレール星”という星に続いているそうで、しかし、それが《マクスカイア同盟軍》が600年、前に言っていたことなので信じてはいない。
僕は、《マクスカイア同盟軍》をよく思っていない。すべての情報が伝説や語言であり、存在を証明するのはこの門だけなのだから。過去の《マクスカイア同盟軍》の動画を見た時も音声は入っていなかったし、変な能力を使っていた。
気持ち悪い以外はなかった。
それと、どうでもいいことに今月に入って一週間だが、泊まり込みは今回で4回目だった。
「はぁ――。」なんとなくため息を付いてみた。そのほうが、人間っぽいからという理由でやってみているが、なんだか自分が惨めに見えて来るので、もうやめておこう。
「ため息なんてついて、どうしたんだい?」
聞いたこともない声だったので資料から顔を上げて、声の方向を向いてみた。
扉を開く音もなかったので、さっきの彼女らの帰り際扉が閉まる前に入って身を隠していたのか、それとも最初からか。
そいつは、少し身長の高い女性であった。歳は多分二十代の中頃に見えた。
「誰です?関係者以外立ち入り禁止なんですよ」
微妙に驚いたので、でも注意をする。大人なんて僕に対しては唯の細胞分裂の残りが少ない人としか見ていない。つまり、歳の差なんてどうでもいいんだ、ということで。
「なんで、君はそんなに力を抑えてるんだい?頑張れば、あの式に代表として出られるのに」
無反応の僕を見て、女性は「あっ、こっちの方がいいのか?」なんて手を叩いて、中指と親指で指を鳴らした。
一瞬光が覆って僕が目をとじる。再び開けた時にはそこに先ほどの女性はいなくて、黒髪ロングの鼻筋の通った美少女がそこにいた。
歳は、僕と同じか少し幼いくらい。そして、北王子高校の制服を着ていた。
「誰?マジで。能力者?なおさらお帰りください」
そう言うと、
「だから、ぼくはぼくだから。誰とか言われても知らないよ」
「意味が解らないから」
髪をかき上げながら彼女は、座っている僕に近づいてきた。デスクをまわって僕の横に。
彼女は中腰になって僕の顔を眺める。鼻と鼻が触れ合いそうなほど近くで。吐息が僕の唇にかかる。彼女の瞳は紫色に潤んでいた。
「ぼくは、僕なんだって」
彼女が、右手で僕の左頬に触れて、その彼女のつやつやとしている唇を僕のそれと重ねた。
「!?」
その時、僕は理解できた。
僕の正体と――――。






