7/13 時雨受難の日
残念男の病院に行く。
病院通いが多いのが家猫になったデメリットかも知れない。
どうしても自由な散歩時間が減ったからなー。
下手に動くと状況によってはお嬢が熱を出すし。
祭りの後も熱出して寝込んでたからな。
「なー」
今日は先客がいた。
鬼小梅って呼ばれてるお姉さん。いろんなおやつをくれるいいお姉さんだ。
あとで撫でていいぞー。
たぬきがショルダーバックから出してもらったとたん、飛びついて行く。
「にーーー」
梅雨ちゃーーーん 遊ぶーーーー
ぇ
ちっこい灰色のチビにたぬきが飛びかかった。
まぁ、ボスいるし大丈夫だろ。
残念男が色々しながらボヤいている。
「リア充……もげろ」
手つきはいつもと変わらない分恐怖を煽る。
「先生。妙なこと口走らないでください」
「くっ。どーして彼女ができないんだろう」
煮干しねーちゃんが微妙な表情をしている。
「昔はお嫁にくるって言ってくれる子もいたのになー」
「先生。ろ、ロリコンですか?」
「まさか! 対象年齢は前後7歳までだよ。それ以上の年の差はちょっと厳しいかなー」
照れたように笑う残念男。
煮干しねーちゃん自爆?
一瞬俯いてこぶしを握ったあと、上げた顔は笑顔だった。
こぇえええ
「はい。時雨君げんきー」
「じゃあ次はたぬきちゃんですねー。連れてきます」
「よろしくー」
煮干ねーちゃんが抱き上げてくれたが微かにその手は震えていた。
ほんとに残念な男だなっ!
「さなえさーん、時雨ちゃん、パス。次はたぬきちゃんもらっていきますね」
待合室に下ろされる。
居心地のいいところを求めてうろうろ。
「宇美さん、今日はお休みでは?」
ボスが世間話をしながらたぬきを引き渡す。
もっと遊びたいのか珍しく抵抗気味だ。
「この後、タマ や椋原さんちのにくきゅーも来るらしいので、臨時で来ましたー。休日の曜日変えてもらおうかなぁ」
「お疲れ様です。猫さん大盛況ですね。戸津先生にお礼として何かおねだりされたらいかがですか?」
「ノブ兄、そういう所全然気が利かないからなー。考えときまーす」
そう言ってたぬきを診察室に連れ去ってゆく。
その様子を見送って、毛づくろいでもしようと視線を動かすと。
「う、うな?」
きょどってるチビがいた。
さっきまでたぬきと遊んでたチビのはずだな。
「なーー」
どうしたー
声かけすると、
「うななーー」
きゃーーー
ビビッて逃げた。
まぁ、いいけど。
「時雨さん、梅雨ちゃん、いじめちゃダメですよ」
ボスが言った。
ちょ!
いじめてない。誤解だよ。ボス!
鬼小梅のお姉さんが撫でながらとりなしてくれる。
その中でゆきちゃんのことが話題に上がった。
「なーー」
うん。差し入れしたのー
鬼小梅のお姉さんの後ろからこちらを伺うチビ。
「うな?」
だいじょうぶ?
なにがかはわからん。
「なーー」
梅雨だな。時雨だぞ。
名乗っておく。
「うなー」
梅雨なのー。
ぺろりと舐められる。
ビビリの子供の精一杯のがんばりだろう。
「なーー」
がんばったな。
べろりと顔を舐めてやる。
しばらく固まっていたが落ち着いたのか動き出した。
「うなー♪」
しぐれー♪
尻尾を動かして遊んでやる。
面倒だが大人だからな。チビの面倒ぐらい見るさ。
「にゃー」
時雨さーん。村雨になりたかったにゃー。
いきなりタマが突進してくる。
いいじゃねぇか。いまどきタマって名前の方が希少だし、人間に「うちのこと同じ名前を付けて叱るだなんて!」とか言うわけのわからないクレーム付けられることもないいい名前じゃないか!
「うにゃー」
あっそぼー
なぜかにくきゅーまで飛びついてくる。
弱冷房の待合室でこの密着は暑いぞーーー
「にーーーーー」
おじちゃーーん、ぼくも混ざるーーー
上からたぬきが降ってきた。
「ぶなぁああああ」
なんの拷問だぁああああ
周りの人間たちは微笑ましげに見守るのみで誰も助けてくれなかった。
唯一待合室にいた人間の雄のまなざしがちょっと同情が篭っていたくらいだった。
ぎんに泣きついてやるっ
梅原先生、清水先生 梅雨ちゃんお借りしました。
にくきゅー、ぎんお借りしてます。
タマお借りしました
教育を考える会「7月13日 身に余る幸せと猫合わせ」の時雨視点です




