メリアの往診~パトリオープン準決勝 1
「2人とも、食事の話と病院の件よろしくね。今日はもう休むよ」
「眠りが浅いかもしれねえが辛抱しろよ、その痛みは無理すんなってサインだからな」
父親に礼を言い、2人におやすみのあいさつをして部屋に戻った。体の痛みを我慢して浅い眠りが続いている内に朝になってしまう。
「つらさはあまり変わらねえ感じか? それなら一緒に飯食って待つとしようや」
早朝、部屋から出て来たメリアに父親が声をかける。肉体労働で朝早い時が多いから休みの日も早い朝食(朝6時)な様だった。
「メリア、あまり眠れてなさそうだね。顔を洗って飯を食べれば診察してもらう元気出るだろ」
彼女は冷たい水で顔を洗い、母親が作ってくれた朝食をもらう事にした。BLTサンドやたまごサンドなどのサンドイッチ系やあり合わせで作った野菜スープ。ホットミルクを食卓に置いてもらう。
「ありがとうね。痛くても時間かけて食べさせてもらうよ」
普段なら約10分もあれば食べきれる食事、負傷のせいで約1時間程度かかり……。五体満足のありがたみがわかるというものだ。
「メリア、医者なら8時位に来てくれるってよ。身だしなみを整えたりしてるといい」
父の話を聞くと、本来医者は往診9時からなのに8時位から特別に診察してくれるとか。メリアもお年頃である。怪我していようとだらしない姿でいたくないので教えてもらって助かった。
そして往診に来てくれる時間になった。ドアを叩いて医者が名乗った所でメリア母がドアを開ける。
「いつもお世話になっております、外科医の接植(つぎうえ)と申します。本日は娘さんが脱臼したとか?」
「お世話様です、本日は無茶なお願いを聞いて頂きまして助かりますよ」
「お得意様というのも何ですが、あなた方の会社専属の医師にしてもらってますしね。患者がいないと成り立たない医者としてはこれ位のサービスしますって」
お医者さんがメリア父と話した後に彼女の方に向き直った。
「出来れば格闘大会出場停止を言い渡したいけど、あの大会が格闘家最大の目標だとわかっているしね。痛み止めとサポーターでどうにか出来るかな」
あまり良くない対処だと前置きはした。だけど患者の願いは可能な限り叶えてあげたいと言ってもらい。しかし手術に支障が出そうなら大会責任者に連絡してドクターストップだと脅しを受ける。
「はい、そうなったらギブアップします。しばらくの間よろしくお願いします」
「先に教えておくと君に必要な手術は肩関節鏡手術で費用は保険適用で25万位と覚えておいて」
結構大きな怪我だったんだなと実感する事になる。確か格闘スクールに保険があったはずなのでリオ先生に確認しようと決めた。
「娘さんの希望を尊重させて頂く形で。お父様もそう望んでいると聞きましたしね。お母様は?」
「本心では反対したいです。だけどメリアが不完全燃焼で悲しむ姿を見たくないですから涙を飲んで我慢
ですわ」
父親がメリアの診察代を払ったので医者は病院に戻っていった。しばらくしてメリアが今回の治療費について両親に話し始める。
「うちの家計を教えてもらっているから治療費を負担してもらっているのは心苦しいな。スクール保険で
戻ってくると思うけど」
「かわいい一人娘にはしっかり完治してもらいてえからな、気にすんな。保険もある事だし問題ねえ」
格闘スクールの保険は学校外の格闘大会でも適用される様になっている。実習名目の労働災害とほぼ同じ
保障があったはずだとスクール保険の書類を確認した。
「今日はあんたの好きなおかずを作ってやるよ。明日のためにもね」
「ありがとう。厚切りベーコン丼でも作って欲しいな」
メリア家の厚切りベーコン丼はベーコン塊ではなく、ベーコンを数枚重ねて焼いたもので厚みを出している。そこにアメ色玉ねぎとめだま焼きをのせつというシンプル丼だ。痛み止めが効いているのでがっつり食べられそう。試合前日にしっかり食べ、朝の試合当日メニューは和食で十分だと思っていた。
そして準決勝の日。
「メリア、調子はどうだい? 負傷の具合次第で今大会はギブアップしな」
「心配かけてるね。わかった、未来の為にもドクターストップが必要な状況にしないつもり」
昨日両親とお医者さんが話して来た事と似た内容を母娘で言っていた。ただ母親は理解していた、娘は
きっとドクターストップがかかる位の全力を尽くすだろうと。
◇ ◇ ◇
準決勝は1回戦がリオ対ファーディ。2回戦目がユウト対メリアである。1回戦目から観客の応援は最高
潮、それはそうだろう。実力が知れ渡っている2人なので期待値が高いからだ。
リオとファーディがBコートへ向かう時にメリアが彼らとすれ違う。
「メリア、準決勝も勝ち残れよ。そして決勝戦で先生生徒の関係を超えた勝負をしよう」
リオだけでなく学園長にも鼓舞してもらう。そういえば今がちょうどいいと彼女は格闘
スクール保険について説明してもらった。
「2日前に負傷してもらったという所か。それなら大会終了後にスクール再開したら手続書類を渡せる。
言ってくれ」
「はい。その時に書かせて頂きます」
Bコート入り口で待機するリオとファーディ。出入り口中央からコート内に出た上で左右にわかれて見つめ合った。どんなステージが選択されるかとフラナがシミュレーション装置を起動。
ステージ変更
場所 トラップ部屋 変更箇所 Bコート全体
彼らはすぐに剣を交えない形でスタートの様である。リオが出現した部屋はドアも何もない小部屋。いかにもなボタン1つあるだけだ。普通に考えて押すとトラップ発動としか思えない。そのため、リオはボタン以外の仕掛けで脱出方法があるはずだと探していた。
一方のファーディは迷路の様な道からスタートさせられ苦戦中。脳内でマップを作りつつ歩いて目的地らしい景色|(格闘コートが見える)に向かおうとするのだが、とにかくトラップが多くて進みづらい。直進だけでBコートに戻れるみたいだがそんなはずもなく。床が緑に点滅しているのが罠っぽい。緑の時に足を少しつけてみた所、落とし穴になったので危ないと思った。そこを抜けても振り子に鉄球がついた危険極まりない罠がある。法則性はあるとわかるがこれは神経を使いそうだ。
「両者ともにどうにかコートにたどりつけないといけません。観戦している皆様は応援している方の選手を注目して下さいね」
再びリオがいる部屋の中継。ボタンの妖しさからそれは押そうと思っていないらしい。一歩一歩進むごとに壁を調べるという地道作業。見ている方は飽きてくる状況だが、意外に早く隠しドアの存在を発見した。リオの表情が明るくなったのでわかりやすい。正解はここだろうとドアノブに手をやって回す。
「!」




