パトリオープンベスト8 第1試合 3
弾き飛ばしたはずの槍が戻って来て、フリッツに刺さりそうになる。それは躱した。それから何度も何度も弾き返しているのに槍が地面に落ちない。その理由を弾き返しながら探して、フリッツは気付いた。
「どうなっているのかと思ったけどその槍に何か細工があるみたいですね」
必殺技なだけあって、詳しくはわからず。それはフリッツの能力が上昇中という証拠と言えなくもない。リオに攻撃をされ続けている今、この防御方法を続けていられるのかこのままではジリ貧だ。
「そういう事さ。名づけて追限無槍! どういう技なのかは呼んで字のごとくだね」
そう聞いてフリッツは思案をめぐらせる。相手は最小の力で必殺の一撃を当てれば良いだけ。フリッツに攻守交代の目は小さい。それでもどうにかしたいと火口近くの煙でわずかの可能性でも見失ってくれないかと考えながら勝利への道を模索していた。
(相手もさる者、とにかく意識を集中して)
フリッツは神経を張り詰める。どこから攻撃が来ようと迎撃または回避が出来るように。槍が向かって来ている様な空気の流れを察知した。正しい身の守り方は回避と信じたフリッツだが、今までの疲労と精神的ゆとりの減退で目測を見誤る。
「あっ……」
フリッツもルーウィン達も(観客達もそうだと思われる)思わず声を発する。まさかの火口方面へダイブしてしまいそうな状態になったので。
当然生存本能が働き、壁面にありったけの力を込めて剣を突き立てる。火口の溶岩が足首を焼く恐れが有るかもしれない。幻でもどれだけ火傷した様な思いをするのか? 本当に身体的ダメージを食らう訳じゃないというのが心の救いといえなくもなかった。
(ど……どうなってる!? 何か肉が焼ける様な不快な臭いがする)
心の拠り所を失った瞬間。それでもフリッツはまだ仮想空間の中の出来事だと思っているはず。溶岩を気にさせすぎてはいけない、溶岩は粘性が高いので強く踏みつけてしまわない限り、高熱の火が出ないはずだ。装置に不具合がありそうだと悟ったフラナが即、修理に向かう。
(あの苦しみ様はおかしい。ゴーグルの機能をオフにしても彼の足が爛れているように見えた。これは私の責任、でも今はそんな事より)
フラナが修理しないといけないと全力疾走する時までにルーウィンも異変に気付いていた。弓をいつでも打てる体勢にし、矢を預かっているチーフ係員から『矢』を奪い取り、装置に向かって放った。
「あっ、お客様!? 何を――」
「こうしないとあの仮想空間転移装置(?)の暴走が止まらないでしょ」
試合映像をゴーグル越しで目にした大会チーフは可能性があると思い、黙認。ルーウィンが弓をしならせて矢を放つと、ピンポイントで装置に突き刺さる。装置はかなり硬いようだっ
たが、最終的に火花を出して停止した。
コロシアムの研究室でそれを目にしたフラナが放送マイクでお詫びとお礼をする。
「こちら側の不手際、誠に申し訳なく頭を下げる程度では許されないと認識している。しばらくお時間をちょうだいして確実な修理をします。フリッツ少年には手当てを施してあげて」
30分で修理、再起動、入念なチェック、ステージ変更を完了。フリッツも火傷を冷却など(どうやら、どうにか水ぶくれまでで済んだらしい。水ぶくれはつぶさないように注意)適切な処置を受けてから試合に戻った。
「まさかの事態だったね。だけど、手を抜くのは失礼というもの。勝たせてもらう」
「ありがとうございます。僕もベストを尽くしますよ」
試合再開時に話す2人。一変した頃の感じが消えたフリッツ。セグの合図に合わせて再戦が始まった。だがフリッツの火傷が治りきっている訳ではないようである。
攻撃はいともたやすく防がれる、攻撃された際の防御や回避が遅れがちでダメージに。結局、必殺技を食らう流れになってしまった。
「最期の最期まで諦める気はありませんでした。ですが、こうなった以上はどこから攻撃が来るかという気配を察する事にします。この先、あなた以外で追跡攻撃をする奴の対策に切り替えますね」
「理由はどんなものでも良いよ。とにかくやれるだけの事をやり、納得出来る試合結果になるようにな。追限無槍!!」
リオの必殺技。初速は落ち着いて対処すれば回避出来る感じだけど、この先の追尾槍は目で追うのすらやっとになっていく。攻撃を受けたくない場所だと何度か当てて守ったのはたまたまなのかどうか。ラストは火山の噴石を躱した隙を狙われ、手痛い技を受けて気を失った。
「試合結果が判明したな。勝者はリオだ。そこの相手《フリッツ君》は救護室に連れて行ってやってくれ」
一応試合は終わったが、観客席からフリッツの仲間、ルーウィンが抗議した。
「待ちなさいよ。あんな欠陥があったんだから勝負は無効。あんたらが責任持ってフリッツを全快させた上で明日に再試合とかにすべきでしょ!?」
彼女の気持ちもわかるが、一旦落ち着く様に諭すラクトスとティアラ。
「おめえの言いてえ事も予想出来るつもりだったが、今は大会側からどういう対応してもらうかで判断しようぜ」
「そうですよルーウィンさん。まずはお話をうかがわせて頂きましょう」
大会主催者側も今回の事態を重く捉えていたのか、フリッツと仲間の方々には誠心誠意お詫びさせて欲しいという申し出を大会スタッフから伝言を受けた。フリッツの治療が終わってからという条件付きで。
「観客の皆様にお知らせします。最新シミュレーション装置の再チェックを行うので1時間程度お待ち下さい。お昼時間も遅らす事になるので軽食を摂るのも良いかもしれませんね」
――ベスト8の第一試合終了から45分。フリッツが救護室のベッドから体を起こした。
「今は手が届かない強さの人と戦えて糧になったかな? あっ、ルーウィン。みんなもおはよう」
フリッツが目を覚ましたのにルーウィンは特に喜びや安心の表情を浮かべなかった。それより主催者側にさっさと納得のいく説明を求めたかったのだろう。
「あの~、ルーウィン?」
声をかけてみたが返事はない。安堵の表情のラクトスとティアラが訳を語った。
「ルーウィンのやつ、お前の勝敗に納得いってない訳だ。今はコールで主催者を呼んで話を聞かせろ的な考えが最優先なんだろうよ」
「フリッツさん、大きな怪我もなく何よりでした。傷の治療技術もここはしっかりしている様で」
コラボ協力に感謝^^
不揃いな勇者たち としよしさん
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