決勝T1回戦 第8試合 2~その後
(この攻撃方法は対戦相手の持つ布全般で一番恐れていた事。首を絞められなかった分マシ!? ここは気絶したフリで騙そう。上手くいかなかったら負けるけど、運任せにするしかなさそうだし)
メリアをギブアップさせられそうだとルーコは戦法がハマった事で高揚感を覚える。一方のメリア、息が出来ないから酸素が体内に回らないと倒れそうだキツイ。今にも気絶しそうな演技ルーコが顔から濡れタオルを放すのが先か、窒息の感覚でメリアの意識が飛ぶのが先かになった。
「ふんわりとした綿の集合体によって至福の忘却時間を与えられそうだろう。栄光を私の手に」
眼帯少女はもうメリアが起き上がらないだろうと確かな感触を得た気がした。それを信じて審判からの勝利宣言を待っていたのに来ない。
「どうした? まだ相手の戦意はくじけていないようだが。予想が甘かったかそれとも」
ゆっくりと体を起こして立ち上がるメリアを目撃するルーコ。メリアは酸素を欲している全身に荒く息を吸ったり吐いたりして供給。やっと息が整ってきたという所で深呼吸して新鮮な空気を体いっぱいにめぐらせた。
「危ない所だった。あなたを騙せなかったら試合終了に持ち込まれるところだったよ」
演技だったのかとルーコがつぶやく。警戒してしまっているので同じ手は通用しなさそうだ。次なる策をどうするか考え始めた。そこでメリアが動く。
彼女が急にレザーブーツを脱ぎ始める。どういうつもりなのかと眼帯少女が不穏に思っている間に靴下まで脱ぎ――――
その《靴下の》中に鎧の隙間から取り出した硬貨入れの硬貨を入れ込む。銅で出来た硬貨なので武器になり得る。メリアは気付かれないよう願っていたが、眼帯少女はその行動を読んでいるようだった。
「それは! 最初の一撃を小ネズミの様に避けるのは無理か。覚悟を決めてダメージ軽減につとめる」
メリアが自作した即席ブラックジャックがルーコに襲いかかった。行動予測は出来たが回避は間に合わず防御に徹したルーコ。絹のローブもあまり役に立たず、想定外のダメージ量の様である。
(下手な鈍器より強固な武器。靴下は布から作られているけどゴムを入れてあるから反則を訴えられる訳ないか)
水を多量に含んだタオルだが攻勢を続けているメリアのブラックジャック(サップともいう)の重さにかなう様子はない。重い一撃を側頭部に食らってしまう事になったルーコはくらくらする感覚に襲われた。そのチャンスをものにしたメリアが眼帯少女の頭を守る武器、クッションハットの衝撃性能を上回る大きな振りから追撃成功。ダメージの大きさから倒れる。
「視界に青と白の空が見えるなんて不合理を認めたくない。タオルを氷狼の息吹とかで凍らせる方法でもあれば違ったの……に」
ルーコは気絶したのかそれとも!? 微妙なラインなのでセグが10カウント以内に起き上がらないと敗北ルールを使った。3カウントではまだ起き上がる状態に見えない。5カウントで手足を動かし始める。9カウント、10カ……と数えそうな時にルーコが立とうとしているのでセグは様子見に入る。結局は立つ事も出来ず、フラフラとまた倒れてしまった。
「どうやら気を失ってしまったようだ。勝者、メリア!! 次戦も頑張って欲しい!!」
とっさに勝つための現代武器を思いついて良かったと胸をなでおろした。気持ちに余裕が出来た所で言いたい事があるとセグに気付けを頼む。
「対戦相手のルーコさんに聞きたい事があるんです。一時的にでも構いませんから気付けをしてもらえませんか?」
「わかった、やってみよう」
審判のセグは選手の要望なら無茶な事じゃない限り、叶えようと思っていた。早速行動に移る。
「ふんっ!!」
達人にしかわからない体内のツボか何かを刺激してルーコの意識を回復させた。
「やわらかく温かい木漏れ日で休息していた気がする。女格闘家と遊戯していた時間も終了か」
その眼帯少女の前にメリアは立つ。
「聞かせて下さい。どうしてあなたは私を嫌悪する素振りを見せたのですか!?」
その応えにルーコが中二病的な回りくどい言い方をせず、ストレートは言葉を返した。
「あんた、まだ気づかないの……。まだふらつきが残っている感覚があるし、救護室で休むわ」
最後までメリアはわからなかった。だけど、きっと一回戦終了格闘家パーティには来るだろうからそこで聞き出そうと決める。
「本人もまだ休息が必要だと判断したのだろう。救護室に運んでやってくれ」
セグの言葉を受けて、専門スタッフ達が救護室に連れて行く。格闘大会1回戦、1日目の全日程を消化した。この街では格闘大会一回戦終了後にささやかなパーティを開くお店も多い。今回は主催者側でセッティングしたホテルでの祝賀会も開催される事になっているとか(自由参加)
一度家に戻る者、街を見学に行く者、宿屋に帰る者などにわかれた。
さて、どういう組み合わせになっただろうか。
・祝賀会 参加(予定)者 リオ、ブレイン、謎の人物、ファーディ、眼帯少女ルーコ、メリア
街見学者 フリッツ(達)、睦月、ユウト、あすか
宿屋へ戻る者 暗記使いハイド、デカックの息子、ブーメイ、空拳
負傷者 忍者剣菱、ゼロライフ
「一応このパトリオープン出場者達に招待状は渡しておく。出入り自由だから時間内に来れたら来てくれ」
格闘大会一回戦全日程が終わった事で、各々《おのおの》が自由な行動を始めた。まずは祝賀会の様子から。
「しかし、急にこの世界に飛ばされてきたとかそういう感じの数名の誰かは説明を求めるのも含めて祝賀会に参加しに来ると思っていたのにな」
「わからんが、この街の盛り上がりの方に行ったのかもしれんぞ。物珍しさでな。まっ、祝賀会お開きまで数時間あるんだ。途中参加の可能性だってあるだろ」
リオとファーディが祝賀会にいない者の理由を予想したりして話がもりあがっていた。
彼らだけがホテルに直行したかの様に早いだけなのだ。そういえば祝賀会が開かれているホテルについて紹介していなかったから今から。リーズナブルなホテルなのに、高級ホテル顔負けの内装(シャンデリアとか料理用デスクチェアなど)だけど、服装に厳しくない宿泊休憩施設といった所だろうか。今の時期に限り、遠方のお客様のためといったカジュアル服レンタルをしている。もちろんこの国在住の者達も利用可。
◇ ◇
「私が若い頃に着用した事のあるオレンジ色のドレス、メリアにあげるわ。着る事少なかったけど、お手入れしていたからほぼキレイな状態でしょ?」
場所変わってここはメリアの家。彼女は母親から高価なプレゼントをもらっていた。
「そんな、悪いよ。これってお母さんの思い出の品なんじゃないの?」
小さい頃に母親からこのドレスはあの人にプレゼントしてもらったドレスだと聞いた様な覚えがある。そんな思いのこもったドレスをドレスなので遠慮していると――
「気にしないの。私は昔っからあんたの晴れ舞台時期にあげる気だったんだから。デザインが古いとか気にすんな、伝統のドレスだって言ってやりゃいいのさ。祝賀会、行ってらっしゃい」
「おっ、メリア。よそ行きのドレスだけじゃなく、奮発した特別なドレスもプレゼントされたか。母ちゃんより似合うぜ」
「何か言ったかい? 父ちゃん。余計な一言が聞こえた気がすんだけど!?」
メリアの父親が口を滑らせて失言してしまったせいで一触即発になりかけている。せっかくこれから祝賀会に行くんだからとメリアが仲裁に入った。
「悪かったね、アホ父ちゃんのせいで。大したケンカにもならないから行っといで」
「仲良くしてよ? 行って来るねー」
変わった対戦はいかがでしたか?
キリが良さ気な所で止めると文字数少なめかなと思うし。
難しいところだなぁ。




