決勝T1回戦 第7試合~決勝T1回戦 第8試合直前
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6試合目が終了し、1回戦は残り2試合である。7試合目が開始されるとのアナウンスを受けて、不穏分子を炙り出せるかもという可能性を捨てきれないと心に秘めてレーザー銃を背中に担いだクール系の女性がCコートに立った。出番まで他試合中の重要場面以外は瞑想していた拳法師範な外見の武闘家もコートで試合開始を待つ位置までやってきた。
「残り2試合である。今回のお2人は無駄口を好まなそうだな、お互いの出方をすでにうかがっているのか」
7戦目のあすかと空拳、あすかが最小限の言葉で誘導尋問を開始する。
「あんたのその力、薬か?」
訊かれた空拳はどうしてそんな話をするのかと疑問に思う。選手によっては怒りの感情を表に出す者もいるだろうが空拳は違った。進行役からの「試合を始める」という声が発せられるまで意識を集中しているようなのであすかの質問を雑音としか思っていない可能性も高そうではある。立っている時の戦闘態勢から、座ってあぐらをかき、瞑想のような体勢に変わる。それから結局は質問の答えを返していた。
「鍛錬を積まずに肉体強化可能なくだらん代物が出回っているという噂を耳にはした。私には必要のないものなので詳しくは知らん」
あすかは目の前にいる人物が薬物などを使用した際の中毒症状はなさそうだし、一般人のようだと判断。しかし、上層部からの任務解除連絡がない以上はこの場にふさわしい行動をしなくてはという選択をする。
「戦闘前に気にかかる話を終わらせて試合に集中したいといった感じのやりとりであったな。それではステージの用意をしよう」
ステージ変更
場所 光がランダムで明滅 条件 Cコート内全体
ステージ上に立ってしっかり装置は働いているようだなと確認するセグ。戦闘中の2人に目を移した。どういう戦いが繰り広げられるのか楽しみなところだ。
(セオリーとして私の武器は距離が必要)
先に動いたのはレーザー銃の選手、あすか。彼女は考え通りに中距離くらいからすぐにレーザー銃で倒すまでを想定していたが、相手はそれを許すのが愚策だと理解しているのか接近戦で勝敗をつけようと考えている節がある。
「我が拳法にて倒すのみ。私が打ち込むタイミングを狙いすませた瞬間があなたの最後です」
あすかの相手、空拳が無駄な動きを省いているのは格闘家なら誰にでも分かる。一般観客達でも空拳が何かをしてくれそうな雰囲気を感じ取らせる動きをしていた。
しかし、それよりもあすかの方がすごかった。空手チャンピオンとかそういう肉体と精神を鍛えてきた拳法家でさえ反撃の糸口を見つけづらそうな一撃。回避が困難に思われるスピードに乗った正拳突き、その有効打の前では防御すら難しそうだというのに――――――――。
彼女の反射神経が異常なくらい発達しているのが見て取れるバク宙や、色んな角度へのステップで一度も回避をミスしていない。その時、ステージから光が消える。距離を取る好機と動いたあすかだが、空拳は気配を察知しているかのように付かず離れずを保っていた。
(これだけ時間のかかる標的は久しぶり。でも焦らなくていい、特殊状況下での戦闘と想定して対策を多く用意する)
ステージの光が戻ってきたと思ったら、またすぐに暗闇になる。それの順応が早かったあすがが空拳の視界に強烈なレーザー光を当てた。
「う……。ぐ……っ。しまった、これでは視力の回復が追いつかん」
暗闇から一転、とても明るい光を目で見てしまうと、どれだけ修行している人物であろうが視界を戻すのに時間がかかってしまう。それは確定した。
つまり、あすかにレーザー銃発射のベスト位置をキープされてしまう事実があって回避不能を意味するものとなった。
(照準確実、シュート)
一瞬でレーザーが空拳を貫く様な痛みと衝撃を覚えて、あすかの勝利は明確になるはずだった。しかし、まさかの回避。空拳自身も驚きの表情をしている所から無意識の行動だったとわかる。
「むっ……、んん? 私は一体何をした」
彼の修行の賜物なんだろうが、これが限界だったようである。ヒザをついてしまった以上、今度は避けられないだろう。
(わたしのプライドを刺激されたけど、偶然とみなす。発射!!)
光線が一直線に空拳へ。まるで利き腕《右腕》に穴を開けられたかの様な感覚に支配され、意識が離れていった。
「勝負ついた! 勝者はあすか殿。飛び道具の様に遠距離武器使いの戦闘は、格闘を極めし俺らでも参考に出来るものを感じるのだ。次も魅せてくれ」
勝って当然とばかりに表情の変化を見せないあすか。彼女がマフィア潜伏の退治屋的な事をしようとしているなんて誰も予想出来ないと思われる。
あすかの戦いっぷりを選手入場口で待機しながら見ていた眼帯少女ルーコとメリアは相反する気持ちを抱いていた。メリアの考えは――仮にこの試合を突破出来れば次に戦うのは自分だ。あんな武器にどうやって対抗すれば良いのかとすぐ思い付かないのが不安。一方のルーコは、対戦相手うんぬんなんかよりレーザー銃の見た目のカッコ良さにテンションが上がっている様子。不安な気持ちで先を見据えるという前向きなメリアより、今はモチベーション上昇中のルーコの方が精神的優位に立っているのかもしれない。
◇ ◇ ◇
そろそろ試合だという訳で、不安の気持ちを軽減したいとメリアが深呼吸して心を落ち着かせようとしている。本日の最終試合、心なしか観客達がトリの格闘少女達はどんな勝負を見せてくれるかと思っていそうなのがわかった。
「興奮冷めやらぬ内に今日の最終戦を始めようか? こちらの準備があるので5分程お時間を頂く事になるが了承頼む」
試合開始前にメリアは防具のレザーアーマーを確認。中二病な相手、ルーコは改造ドレスといったいでたちである。
「お前の教え子だろ、メリアって娘。リオ、今からの試合をどう見る」
格闘大会王者で、格闘総合審査会で先輩なファーディの問いかけにリオが応答した。
「そうですね。格闘スクール内でベスト3という感じじゃなくて、期待株な女生徒ってイメージかな」
「それで、どちらが勝つと思う?」
リオが考える素振りを見せ、結構早く結論を出す。
「相手の娘、変わった喋り方をするし、情報も足りないなと思ったものですよ。でも、実績で考えればメリア一択じゃないだろうか。しかし、ルーコという娘に覚えがある気がするって気のせいか?」
ファーディがうなずきで返した。
コラボ協力どうもありがとうございます。
あすかさん
http://ncode.syosetu.com/n0872bi/ レーザー銃を持つ少女




